満月の日に
祭りのためだろうか、獣人たちは皆ソワソワとしていた。
私のことはだれも碌にみていない。
私の世話をしている侍女たちもこの一年で徐々に何もしなくなっている。
たまのシーツ交換と服の洗濯、それから毎日二度粗末な食事を運んでくる以外は、竜王様の渡りがあるとき以外部屋の掃除すらされなくなっていた。
ただ私の監視をしているだけの人たちだ。
それが祭りの雰囲気で気もそぞろになっている。
それ見て少し愉快な気分になれるのは目的があるからでしょう。
その日はとてもきれいな満月の日だった。
外が少し明るいと思えるくらいの明るい満月の日。
「今日は早く休むわ」
私が侍女に声をかけると「ええ、そうでしょう、何も持たないあなたは誰にも贈り物を贈れないですしこんな日だからこそ暇でしょうから」と嫌味を交えて侍女は言葉を返した。
この城に来たばかりのころは、それにいちいち傷ついていたけれどもうこの人たちには期待しないと決めていた。
侍女が部屋を出る。しばらく気配を窺った後、静かに静かにベッドから降りて窓を少しだけ開けた。
目印になる私の髪の毛で作った目印は酷く不恰好だった。
それをそっと窓の外側の桟の上側に木が古くなってささくれの様に割れたところがあったのでそこにかけた。
明日の朝まで何も無ければ侍女に気が付かれる前にこれは片付ける。
そして少しだけ泣くことにしています。
部屋で飾りを見つけられたら哀れっぽく私も祭りに参加したかったという事にするでしょう。
今日は眠れそうにありません。
夢物語の様な事に時間をかけてただそんなものに希望を懸ける私は、もう多分少しおかしくなってしまっている。
じわじわと時間が過ぎていく。
城のはずれにある私の部屋まで祭りの喧噪は聞こえてきていたのに、少しずつ、静かになる。
やはり御伽噺は御伽噺なのでしょうか。
月影が少し陰った気がする。
音は何も聞こえない。
ああ、もう泣いてしまいそうだ。
そう思った時だった。
静かに部屋の窓が開いたのは。
部屋の外には聞こえない程度のキイという音をたてて窓は開いた。
そこに入ってきたのは3つの人影だった。
私は御伽噺をちゃんと信じ切れていなかったのでしょう。最初に感じたのは恐怖でした。
けれど音もなく私の元へと近づいてきた影が「アイリス様、お迎えに上がりました」そう言った瞬間それは喜びに変わった。
この城に来てはじめて私の名前を呼ばれた瞬間でもありました。
ポロリと一筋涙がこぼれる。
そしてその私に声をかけてくださった人影に手を伸ばしました。
この人たちが誰だかは知らないですがきっと名前を呼ばれた分は私は幸せになれる気がしました。