バルコニー
合図は祭りの満月の日、外に飾りをつるしておくことと書いてありました。
それが本物かおとぎ話なのかは私にも分かりません。
けれどそれに賭けてみたい気持ちになりました。
番の中には酷い執着を持って暴力をふるう者もいるらしい。
だから体の一部であれば鱗や歯や獣毛でなくてもいい。
私は自分の髪の毛で作ることにしました。
まとめるための紐はお仕着せのほつれた部分を引き裂いて紐を作る。
どうせ交換もされずボロボロになってきているものだ。少し裂けてもそれは仕方がない事だと思われるでしょう。
後は外、バルコニーに出る方法を考える。
窓には鎖がかけられてそこに南京錠が下がっている。
鍵はもっていません。
恐らく侍女も持っていません。
悩んだ挙句、少しの嘘を混ぜた大げさなことを言ってみることにしました。
『知っていますか?人族は日光浴をしないと死んでしまう生き物なんですよ?
でもこの部屋の外だとカトリーヌ様と鉢合わせるかもしれません。
バルコニーで日光浴さえできればいいのですが』
実際1年以上もほぼ軟禁状態の私の肌は艶も無く、青白くなっています。
ここへ来たときより明らかに健康状態は悪くなっています。
それにほとんどの人間にはある程度の日光浴が必要なのは本当です。
医師が人族の医学書などを調べてもきっと日光浴の効能が出てきてしまうでしょう。
私は死ぬことだけはあってはならない。
それ以外はきっとどうでもいいと思われているけれど、私は『番様』です。
死ぬことだけは許されない筈です。
これでまた他の要求の様に我が儘扱いをされて酷い目にあわされるのならそれはそれでいいと思いました。
どちらにせよ難癖をつけられるのはわかっていました。
静かに息を殺すように生きていてもここの人たちは私のことが許せないのです。
あの真実の愛が番様ではないことが認められないのです。
そうして、私の願いは思ったよりもあっさり通りました。
勿論様々な人に嫌味のオンパレードを言われましたがバルコニーには雑に施工したのが分かる鉄条網が付けられ私は外に出ることが出来ました。
祭りの準備で獣人は皆そちらに気持ちが持っていかれていたというのも大きいのかもしれません。
私が何かをするかもしれないという面倒なことを考えるよりも自分たちの楽しみを優先したかったのでしょう。
それに1年近く私が何もできなかったことをこの城の人たちは皆知っています。
どうせ今回も何もできないと思っているのでしょう。
事実何もできないかもしれない。
何もおきないかもしれない。
けれど私はそれでもよかった。
小さな小さなことでも自分でここを出るために何かをしたという証が欲しかったのです。