絵本
* * *
この生活は私の身も心も削られる様なものでした。
何もしていなければこのままおかしくなってしまうと思いました。
それと同時にもうそれでいいじゃないかと思う私もおりました。
そういった日々の中でした。
「本が読みたいの」
私は言いました。
どうせ叶えられないと思いました。
それかゆがんだ我が儘として竜王様に伝えられて手ひどく折檻されるかのどちらか。
そういうことはこの生活の中で何度かありました。
侍女が持ってきたのは嫌がらせでしょうか十冊ほどある本のうち7,8冊は子供向けの絵本の様なものでした。
2冊大人向けのものが入っているのは私が抗議したときに私を嘘つきにさせるためのものでしょう。
手違いで子供向けの本も混ざったのに騒ぎ立てる困り果てた番様という噂を作りたいのだと気が付きました。
この一年で私のそう言った“噂”は数限りなく話されています。
だからという訳ではないのですが私は「ありがとう」と口にしただけにしました。
けれどきっと、絵本しか理解できない馬鹿な番様だという噂が広がるんだろうなという事も私は知っています。
もう評判はこれ以上落ちようが無いのでどうでもよかったのです。
何冊かある絵本を順番に読んでいきます。
その中にこの国の建国神話の様なお話もありました。
金の角をもつ白竜の話でした。
それではじめて竜王様が白竜の獣人なのだと私は知りました。
竜は深く伴侶を愛すると書いてあって笑いそうになりました。
本当にそうであれば私は忘れられる筈ですし、伴侶が番という意味であればもっと意味がわからなくなってしまいます。
そのおかしさに誰も気が付いていないことが信じられませんでした。
そして代々この王家は白竜の子が継いでいることも分かりました。
竜人は長命です。
国を安定して繋げていくために王には常に妃がいてそしてその二人が愛し合う様にとなっている様でした。
だから王には見つかるかも分からない番は不要という考えになったのでしょう。
それであれば放っておいてほしかった。
絵本を読んでいるとそう言った昔のこの国をモチーフにしたおとぎ話に度々出てくるキーワードがあることに気が付きました。
それは邪龍という存在です。
人でいう悪魔の様な存在かと思いましたがそうではなさそうです。
正しき行いをしない竜が邪龍になるという道徳的な意味のある話かというとそういう訳ではありません。
そうではないのにお話には度々、邪龍が出てきます。
邪龍は獣人皆が嫌っており、追放されて不毛の土地に住んでいるらしいという事がお話だと分かりました。
架空の生き物なのか。それは人の中でだけ生きてきた私には分かりませんでした。
侍女が持ってきた本を全て読んで、それを返すと猫の獣人であろう侍女は「何かお気に召すものはありましたか?」と聞いてきた。
何を答えても不正解になる質問だろうなと思いました。
なので考えるのをやめて「邪龍のお話が気になりました」とお答えしました。
侍女は馬鹿にするように笑って「番様とそっくりですものね」と言いました。