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癒される日々と事の顛末

私は検査中に眠ってしまってそれから翌朝まで起きなかったらしい。


私は周りの見立て通り毒に侵されていたらしい。それも複数の。


解毒処置は私の眠っている間から始まっているそうだ。


私の赤ちゃんは毒で死んでしまった可能性が高い。

望んだ妊娠ではなかった。けれど、だけど……。

ポロポロと涙がこぼれ落ち、そっと自分のお腹に触れる。

この悲しみを共有できる人は世界中に誰もいない。


解毒の処置を受けながら軽いものから食事をとる。

味なんてほとんどわからなかった獣人の国での食事と違って美味しかった。

それだけで涙が出る。

いつも家族の誰かが付き添っていてくれた。


3日後姉夫婦が訪ねてきた。

姉夫婦は今、獣人と人族が共存する国で商いをしている。

この私が今いる町、黒竜の谷もその国の自治領の1つだそうです。


姉に抱きしめられ、「よく耐えた」と褒められた。

誰も私を責めなかった。


家族が人の国を捨てたと聞いたのはその日のことだった。


「何故……」


私は思わず聞きました。


「当たり前だろう。娘を生贄に差し出す様な国に忠誠は誓えん!!」


父ははっきりとそう言いました。

どちらかというと、父は温和なタイプです。

その父がここまではっきり言うのに驚きました。


「こちらのことは大丈夫だ。根回しは順調に進んでいるし商いは娘婿達にまかせている」


だから今はゆっくり休んで。そう父は言った。

私はこれからどうしたらいいのかも分からず、父の言葉にうなずいた。


* * *


ここは黒竜の治める町であること。

黒竜は番を持たぬことを決めた獣人であること。

それが恐らく獣人の国では邪龍として扱われている原因なこと。


けれど、あの日私を助けてくれたのは外のおまじないが効いたからとは少し違う事。

元々番という強い影響を持つ事象による悲劇は沢山起きている。

それに巻き込まれた人々を黒竜たちは保護し続けている。


当然、竜王の番として連れ去られた私のことはすぐに情報を得ていたらしい。

そして、父と接触した。

連絡も取れず、どう考えても幸せにやっていると思えない状況。けれど、監視が厳しすぎて私と接触することはできなかった。

私の侍女は皆本当はカトリーヌ様の侍女だったらしい。

彼女に忠誠を誓っているからこそ私に冷たくあたり、毒を見逃した。


けれどチャンスが訪れた。

あの祭りの日、獣人たちは皆祭りの方に意識がいっていた。

けれど入口にいる侍女をどうにかして扉をけ破るか、窓を破壊しなければならない。


ルーチェ様達はそう考えていたそうだ。


けれどあの日、私は目印を飾るためにそっと窓を開けた。

監視が薄くなっていたあの日、私は窓の鍵を開けて、そこが開いていることを示した。


それがチャンスだったらしい。


御伽噺は御伽噺でしかなかったけれど、ちゃんと役には立ったのです。



私は毎日ぽつぽつと家族と今までのことを話しました。そして家族もこれまでのことを話しました。

それに、ルーチェ様は数日に一度お見舞いと称して私のところに来てくださって話をしてくれました。


その中で聞いた事実を重ね合わせるとあの日の顛末はそういう事でした。


「ありがとうございます」


何の縁も無いのにも関わらず私を助けてくれたルーチェ様達に私はお礼を言いました。


「困っている婦女子を助けるのは紳士のたしなみですから」


そうルーチェ様は言いました。


ルーチェ様は今日はおいしそうに焼けたジャム乗せのクッキーをお土産と言って持ってきてくれました。

私はあれから治療が功をそうしたのか外を普通に歩けるようになってきていました。


夏の暑い日でした。

お父様が借りている屋敷のガゼボでルーチェ様とお茶をします。

アイスティにルーチェ様が持ってきてくださったクッキー、それから私が少しでも栄養が取れるようにと準備された焼き菓子たち。

ルーチェ様はこんな日でもきっちりと手首まで隠れるシャツを着こんでいました。


「暑くないのですか?」


私は聞きました。

ルーチェ様は、少し困った顔をした後

「私は黒竜の獣人です。

腕を出すと黒いウロコが少しだけあるんですよ」

と言った。


彼がこの町である程度の有力者だという事はわかっていましたが彼自身が黒竜だったことには少し驚きました。

空が飛べたのも彼が竜だったからなのかもしれません。


「自分の体がお嫌いなんですか?」


番を否定している一族だと聞きました。

そのために竜王様の様に角を折るのだと。

成人する前、番が分からなくなるように念入りに両方の角を切り取ってしまうのだとこの町へ来てから知りました。

だから彼の頭の形はぱっと見ると人族のそれと変わらない。


「いや、そうじゃなく……」


彼は言葉を濁しました。

それから「あなたには大変失礼な話かもしれませんが」と前置きしてから長いシャツを着続ける理由を話してくれました。


「私は竜王と同じ竜族です。

鱗も色が違えどよく似ています。

あなたが私の鱗を見て辛いことを思い出すのではないかもしれないと思いまして……」


それが私への優しい気遣いなのだと知りました。


けれど、どう説明したらいいでしょう。

私は竜王様の鱗を見たことは無いのです。

房時に服を脱ぐ様な事は無かった。

もっと雑な作業の様な時間だった。


だからつらかった。

けれどそれを赤裸々に話す程目の前の人とは仲良くはない。


けれど、私を気遣ってくれたやさしさに応えたい。


「私はあの人の鱗は見たことが無いんです」


だからトラウマにもならないです。

それだけ伝えました。


ルーチェ様はほっとしたようでした。


「鱗を見せてもらってもいいですか?」


私が聞くとルーチェ様は少し頬を赤らめて照れたような仕草をした。

獣人の方に対して何か失礼なことを言ってしまったかもしれないと思った。


「何か失礼なことをっ……」


私が言うと「いえ、そういう常識がある訳ではないですよ」と優しくルーチェ様は言った。


ルーチェ様がそれから腕まくりをするとひじの近くの一部が黒いウロコに覆われていた。

竜という言葉で想像するものは何となくごつごつしていたけれどルーチェ様の鱗はさらさらとしている様に見えました。

少しキラキラしているそれを見て、私は「綺麗です……」と思わず言ってしまいました。






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