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第二話 村の少女レベッカ・ブラウアー

「カスパールくーん、いるならきてー!」

 玄関の方から、女の子の声が聞こえて来る。呼び鈴を鳴らし、カスパールの存在を確認していた。

「お、レベッカちゃんがうちに来るのは一週間ぶりだな。お昼まではまだずいぶん時間があるし、いい天気だから外で遊んでくるといい」

 カールの言葉を聞く前に、カスパールは玄関の方へとことこ走っていく。そこには黒髪短髪の女の子が立っており、そのすぐ横には(ほうき)が縦になったままわずかに浮いていた。

「レベッカ、そのほうき……。どうしたの?」


 レベッカの近くにある箒を見て、カスパールは目を丸くして質問する。カスパールの質問に、彼女はにこっとした表情で口を開いた。

「えへへ、あたし、おとといお母さんから自分のほうきを買ってもらったんだ! 昨日は朝から何時間も飛び回ってたから、お昼になったら魔力がなくなってへとへとになっちゃった」

 レベッカはこめかみの辺りを人差し指でかく。彼女の話を聞いたカスパールは、魔法で空を飛ぶことへの(あこが)れからか目を輝かせていた。


「でも、ぼくはすごいと思うよ。だって、十歳になってもほうきで空を飛べない人がたくさんいるのに、レベッカは六歳でできちゃうなんて」

 すごいでしょと言わんばかりに、レベッカは自信ありげな表情を浮かべる。

「今日は、せっかくだからほうきに乗れないカスパールくんを乗せてあげようかなって」


 カスパールは玄関の外に出て、レベッカの近くに立つ。箒は魔力で横を向き、レベッカがその上に(またが)った。

「後ろ、乗って」レベッカがカスパールを手(まね)きする。促されるままにカスパールが箒の後ろ側に跨ると、箒の高度が少しづつ上がっていった。

「わ、わわ、わわわああああああ!」

「危ないから、しっかり肩に(つか)まっててね」


 そのまま地表から十五メートルほどまで二人の乗る箒が上昇すると、レベッカはそのまま箒を前進させる。カスパールはそれからしばらくわああと叫んでいた。

 宙を浮く箒は自転車ほどの速さでリヒテンベルグ家の(へい)を飛び越える。二人の後ろには、白をベースとした大きな屋敷があった。

 一方二人が乗る箒が進む方には、のどかな田園風景が広がっていた。二人がいるエーヘルハウゼン村は主に農業を主体とした産業を営んでおり、土地の半分以上が農地になっている。

この村で何が起きるのか。……少なくともレベッカには、想像すらできていないだろう。


「どう? あたしけっこうほうきで空飛ぶの上手(うま)いでしょ?」

 しばらく空を飛んで少し落ち着いていたカスパールは、顔を後ろに向けたレベッカの質問に声を出さずに首を縦に振った。

「はー、結構飛ばしちゃった。あたし以外にあんたも乗ってるから、これくらいのスピードはちょっとしか出せないわね」

 箒に乗る重量が大きければ大きいほど、必要な魔力は増加する。まだ魔法に慣れておらず魔力もそこまで大きくないレベッカにとって、子供とはいえ人が二人乗っている状態でスピードを出し続けるのは難しいのだ。


 少しスピードを落とし、高度も地上五メートルほどまで下げる。それからまたしばらく箒で空を飛び、一軒の家の前で停止した。

「ほら、あたしの家の前までもう着いちゃった。お父さんもお母さんも今日はいないし、今日はあたしの魔法をもうちょっと見せてあげるわ」

 二人の乗る箒は少しづつ地上へと降りていき、二人の足が地に着く。

 そのまま箒から降り、レベッカは家の玄関前に自分の箒を立てかけた。

「ささ、入って入って! うちでいろいろ面白いものを見せてあげるわよ!」

 楽しそうに笑いながら、レベッカは家のドアを開けて中に入る。閉じようとするドアのノブを掴み、カスパールが続いてレベッカの家に入った。すでに何度も家に来たことがあるからか、カスパールの顔からは驚きなどの感情は感じられない。


 家の中は古びたインテリアがいくつもあった。カスパールの家とは違い電気が届いておらず、壁には蠟燭(ろうそく)を取り付ける金属製の留め具がついていた。

 廊下(ろうか)を少し直進し、開けっ放しのドアを通って大部屋に入る。大部屋の中には食卓とキッチンがあり、食卓には裏庭に出るためのドアが付けられていた。

「ねえ、最初はなんの魔法を見せてくれるの?」

「うーん……。何にしようかしら」


 レベッカは手を(あご)の下に置き、最初に披露(ひろう)する魔法を考える。彼女が使える魔法は(すで)にいくつも種類があるらしく、二十秒以上考え続けていた。

「あ、決めた。ちょっと食卓に座って待ってて。今、必要なものを持ってくるから」

 レベッカは満面の笑みを浮かべると、『必要なもの』を取ってくるためにキッチンへと向かう。カスパールは彼女の言う通り食卓の椅子に座り、魔法を使う準備ができるのを待っていた。

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