表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

絶世美女が僕の妻

作者: セクシーダイナマイト

 私は35歳会社員の男。仕事はもう慣れてしまった。そろそろ、昇進しなければと思うのだが、それはそういう年回りだから。別に私はこのままで良いと思っている。何一つ困ったことはない。プライベートに関しては、聞かれるのが恥ずかしいが、まあ、5名くらいお付き合いをさせてもらった。学生時代のなんて恥ずかしいが、そこそこモテたのかもしれない。中学生の時から今の会社に就職するまでで、5名くらいの方とはお付き合いさせてもらいました。部下にもしっかりしていると、割りと評判がいい。上司と飲んだってどうせい昇進の話だから、出来れば避けたい。私には今、お付き合いしている女性がいて、お互い仕事も順調で、問題なし。今日は定時に上がり、これから彼女とちょっと良いレストランへ。その後は、大人ならわかりなさい。あえて私は言わない。今、私は待ち合わせの駅に着き、彼女を待っている。周りを見渡すと、困った奴らがいるものだ。駅なんかで永遠の愛を語り合いながら、抱きついちゃって。学生ならまだしも、良い大人同士がさ。社会人として恥を知れ、と心では呟く。さて、今夜はこれで完璧だろう。しかしながら、彼女が来ない。時間通り来ない女性なんて、当たり前だ。レディファーストが当然だろう。しかし、彼女は来ない。メールが来た。仕事が立て込んだって。レストランにはキャンセルの電話をいれて、今日は居酒屋にしようか。時間も遅いし、その方がいい。では、今夜は最高の夜を、おっといけない、そういうことは言わないのが大人というものだ。

 時は過ぎ、終電で帰る私。フラれたということだ。家の最寄りの駅に無事到着。コンタクトレンズを探す女性を発見。街灯も懐中電灯も持っていないのに、コンタクトレンズなんて、見つかる筈はない。しかし、綺麗な女性だ。こんなに暗いのに、何故か綺麗な女性だとわかる。美しい。「コンタクトですか。僕も探すの手伝いますよ。」。フラれた腹いせなのか、女性の美しさに魅せられたからなのか、こんなことをしたのは学生の時以来だ。私は心に懐かしい潤いを感じた。見つかる筈もないコンタクトレンズ。あった。「ありましたよ。傷つけないように。」「ありがとうございます。」しかし、虚しい。でも、家が近所であることは間違いない。何を変な妄想をしている。僕は思わず声をかけてしまった。「あの、もしよろしければ、お茶でもどうですか?」顔が真っ赤になった。「もしよろしければ、家にもどうですか?」女性から誘われた。こんなのはじめてだ。でも、学生の時、思いきってアタックしたら、こんな転回あったっけ。そうだ。途中で駄目になって、恥ずかしくなったから、僕は辞めたんだ。でも、違う。傷つくかもしれないけれど、間違いなく僕の心には潤いを感じる。これこそが、僕の望んでいた道なんだ。ここは行かなければ、もう僕に青春はないかもしれない。明日は休みだ。羽目外せ。自分にそう言い聞かせた。彼女と手を繋いだ。ヤバい。汗が止まらない。夏の虫の鳴き声が、僕たちの青春に音楽を奏でてくれているようで、そんなことにも凄く感動してしまった。手を繋いだだけで、こんなにもドキドキするなんて、もう無いと思った。だって、僕は、いや、私は、もう良い大人だよ。こんなこと、とっくの昔の話だと思っていた。歩いて手を繋ぐだけ。彼女をもっと知りたい。服の下まで知りたい。僕はこれからどうなっていくのだ。さっきまで、そんなこと、何でもない筈だったのに。彼女の服の下まで知りたい。汗ばむ、その彼女の身体を独り占めしたい。でも、自分の汗ばんだ汗臭い身体だけは、見せたくない。だって、自分のなんて気持ちが悪い。やはり、シャワーは必要か。いや、そんなどうでも良いことを考えている。でも、僕は彼女の肛門にだって、座られたい。どうしよう、手を繋いだだけなのに。そう、オドオドしているうちに、彼女の家についた。玄関の電気をつけると、今まで横で歩いてくれていた彼女は、絶世美女だった。

 電気をつけると絶世美女だった。絶世美女が僕に頭を寄せて、キスしてくれた。僕の汗臭い額に躊躇もなく。恥ずかしいのは僕の方だった。こんなにも汗ばんだ僕の額に。彼女のいい匂い。そう、香水の匂いとか、化粧の匂いとか、そういうことではないんだ。美しい女性の香りだった。小さな2階建てアパート。玄関は綺麗だった。リビングも綺麗。こんな僕はこれでいいのだろうか。とりあえず、汗ばんだ自分がこの部屋を汚してはいけない。そう思った。絶世美女はベットに座るようにいった。いや、僕は化粧机の椅子の方が良いと思ったが、そうして欲しいとのこと。ベットからは絶世美女の香りがする。こういうものは、洗濯をしてもとれないものだ。僕の汗臭さとか、そういうのはとれるが、その人の匂いそのものまではとれないものだ。冷たいお茶を出してくれた。水出しの日本茶。茶葉は良いものだ。僕はお茶はわからないが、良いものだということはわかる。洒落たお盆。ガラスのグラス。涼しげな雰囲気の演出は抜群。そして、絶世美女は僕を押し倒した。「僕、汗臭いから。」思わず言ってしまった。「こうしないと、あなたの思ってたようにはならないんだから。」絶世美女は笑いながら言った。こうして、自然の神秘的な夜に僕たちは身を委ねるのであった。

 しばらく、口づけを交わし、エアコンの冷房が効いてきた。ペッティング、シックスナイン、恥じらいをも忘れて、どんどんと進んでいく。全てが神秘的で、何かに包まれたような気持ちになった。ふと、絶世美女の動きが止まった。それはそうだ。何も用意なんてしていない。「ごめんなさい。今日はここまで。」「いや、いいんだ。」「あるんでしょ。」「でも。」「今日はこれでよそう。」「うん。」静かなピロトーク。でも、何故か神秘的な雰囲気は消えなかった。2人で朝まで眠り、朝寝坊をし、とても穏やかな時間を過ごした。











 今日は絶世美女と過ごす。シャワーを浴び、来客用の歯ブラシで歯を磨き、髪を適当にセットし、朝食まで出してもらって。朝食はトースト、バター、マーマレード、バターの効いたスクランブルエッグ、ベーコンとトマトの入ったシーザーサラダ、メードイン・アメリカのココア。最高だ。何もかも最高だ。このまま2人でゆっくりいたい。こんなことあるのか。夢にも思わなかった、新婚生活のような朝。こんなにもたくさん頂いたのだ。何かお礼がしたい。絶世美女が切り出した。「今日、お買い物についてきて頂けます。」「わかりました。」息ピッタリの会話。「僕が車、出しますよ。ちょっと、待っていて下さい。」「じゃあ、今日はあなたの行きつけで。」「いいんですか。」「今日はちょっと食材を。いつもの違うものいいものですね。」「ありがとうございます。僕も楽しみです。」早足で家に戻り、私服へ着替えを済まし、車を出して、待ち合わせ場所の絶世美女の近くのコンビニエンスストアへ。車に絶世美女を乗せ絶世美女が切り出す「マニュアル車乗られるのですね。」「こだわっちゃって。運転するのが楽しくて。」「奥さん出来たら、怒られちゃいますね。」「今だけですよ。」「結婚されるのですか。」「そのつもりだった。」「じゃあ、ずっと乗れますね。」「なんですか、それ。」痴話喧嘩のような他愛ない会話が楽しかった。お買い物デートの筈が、これでは新婚生活そのものだ。お買い物の後、車を走らせ、デートのような、新婚生活のような、そんな時間が続いた。

 いつもの日々に戻る。絶世美女とのちょっとしたメールのやり取りが、仕事の休憩時間の凄く贅沢なイベントになった。でも、何か足りない気がする。日常はいつもと変わらないままだ。僕は何をすべきなのだろうか。いつもは進まない上司の飲み会についていってみるか。今日は僕の方から頼んで、飲みに連れていってもらう。どうしようも出来ないこの気持ちが、僕にそうさせた。「すみません。今日、私もご一緒させてもらってよろしいでしょうか。」「いいけど、またなんで。俺は構わないけど、良いのか。もしかして、フラれたのか。お前らしくないな。フラれたくらいで。何があった。話してみろ。いつものところで良いな。」仕事を今日は部下にお願いして、今日は上司と飲みにいくことにした。

 「何を気にしているんだ。お前、立場というものをわかってないな。雑用はとても大事よ。だけど、それもそつなくこなせるお前がやったら、部下の仕事がなくなるだろ。その心遣いは素晴らしいが、早くお前も出世を考えなさいな。俺らだって、偉そうにしているけどな、昔は雑用をやったものだよ。それは基礎みたいなものだから。別に無くなる訳ではない。むしろ、それが今の俺を支えているんだ。お前は若いやつの仕事をとっているだけだぞ。そろそろ、出世して、楽をしなさい。そのかわり、上には上の仕事があんだからな。楽だけど別の意味で大変だ。若いやつに雑用やらせたって、どうせ出来ねーだから、時間あるときにコソッリやってやればいいの。あとは、仕事の内容が違うんだから、普段は楽をしとけ。」「ですから、あのー。」「だから、お前は駄目なんだ。出世すりゃ、給料も上がるだろ。お前、車が好きだったな。もっと良いの買えや。これから、結婚すんだったら、もっと稼がんとな。それで、もっと良いところに引っ越せや。結婚生活でお前の部屋じゃあ、狭すぎる。新婚の時はずっと一緒にいたいなんて思うが、そんな風になれる夫婦なんて稀だ。それは確かに理想的だか、今のお前の部屋はアカン。ちゃんと稼いで、立派にやらんと。逆に言えばだな、今の若い奴も、雑用が出来るようになったら、出世なんだ。雑用が出来ない奴が雑用をずっとやっているものなんだよ。だって、それしかないんだろ、やることが。」「出世すると何が大変なんですか。」「お前なあ、頭デッカチなっては困る。言ったってどうせわからぬ話だ。通った奴しかわからない。『重圧』っていうんだよ。お前に言ったって、なんもわからんだろう。なんもな。良いからお前は出世すりゃいいの。そうすりゃ、女房の本当の有り難みもわかるものさ。『恋』なんつうもんは、甘いけど、甘いんだ。もっと、人として、誰かを支えたい、支え合いたいという気持ちがなかったら、通用せんのだ。他の企業との付き合いだって同じさ。ライバル同士だって、本当は支えあっているんだ。夫婦だっておんなじだろ。俺にはそう思えるがな。とにかく、お前は出世だ。今度までに考えときなさい。」

 飲み会を後にした。自宅についた。身体にぐっと重たい鉛のようなものが閉じ込められ、とっても苦しい。昇進は決まったようなものだ。お酒なんてちっとも飲めやしない。家に帰って寝込んだ。明日は休もう。

 次の日、絶世美女にメールを打った。仕事は休んだ。とんでもなく寂しくて。「今日、仕事休んでしまいました。仮病ははじめてです。今日、会えませんか。」すぐに返事が帰ってきた「会いませんよ。仮病でしょ。家でゆっくりしていなさい。」がっかりした。でも、僕も絶世美女をがっかりさせたのがわかった。余計にがっかりして、2人で共倒れ。きっとそうだろう。絶世美女からメールが来た「ごめんなさい。今から、行きます。」妻からメールだった。ちょっと、甘い気持ちになった。その気持ちだけでも共有できるなんて、とても美しい出来事なのだと思う。

 今日は「ちゃんと用意もある。」まだまだ、甘いな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ