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プロローグ/エピローグ

 魔法世界の回復役、一周年記念です。





















 「愛してたよ、ずっと。」




 暗い、夜も憚る暗闇の中で、その声は聞こえた。



 それは酷く不意を突いたもので、自分が何へ向けて剣を向けているのかすらも上手く感じられなくなる。



 ただ、剣の先すらも目に映らない無明の世界で、どうする事も出来ずに『愛』だけが囁かれていた。




 「ずっと、ずっと追いかけて、待ち続けてさ。疲れちまったぜ、本当に。」




 自分の足音と、幾重にも響く声音だけの空間。



 今の瞬間に初めて聞いた筈の声が、心の奥底で、遠い昔に聞いた覚えがあったのだ。



 その正体は解らない。でも、声を聞く度、歩みを進める度に、深い記憶は膨れていく。




 「さあ、出会いを喜ぼう。再開を祝おう。──これからを語り合おう。」




 恍惚と、一人で話を続ける。世界の命も理も何もかもを得たかの声だった。



 気を張ると、その昂ぶる吐息すらも聞こえそうなものだ。




 「もっと、近くに来て、良く見せてくれよ。目を合わせて、手を合わせて、そして、それから──」




 謳う。



 その意味を、本能の底だけが知る真価を、気付けば悟性を以て理解していた。




 「ずっと、二人でいよう。」




 この男を、知っていた。



 面識ではない。魂の底が、『それ』を鮮明に記憶していた。




 「───愛し合おう。」




 『愛』を、謳う。



 謳い続ける。



 ずっと、ずっと永い間、ずっと。



 一人だけを、夢見てきた。




 「約束の、続き。俺とお前の、夢の続きを。」




 心が、爆発する。



 得体の知れぬ感情が、確かに自分のものへと変わっていく。



 声が、背中が、仕草が、表情が、全てが存在しない思い出に蓄積されていく。




 「この、世界の───魔法の、世界の。続きを見よう。魂が、果てるまで。」




 顔が、見える。



 何処までも、無限の暗がりが、その瞬間に褪せていく。



 頭の頂点から、足の先まで。その姿は全ての隔たりを引き裂いて、目の前にあった。



 霧の中だった記憶が、形となって語り掛けてくる。



 知らない筈の人生が、知る筈の人生を上塗りしていく。




 「それまで、ずっと。ずっと、二人でいよう。」




 自分が、呼吸を忘れていた事に気付く。



 それが何の為か、何の故かを知る術は無い。



 ただ、目の前には見知った顔があるだけだった。



 見知った顔、だったから。



 大切な人の顔を、していたから。



 一つの表情を取っても、忘れられる筈が無かったから。




 「今度は、二人で。魔法世界の、終わりを見るんだ。」




 それは、魔物の王だった。



 それは、死屍の神だった。















 それは、大切な人だった。






























 「私は、ボクじゃない。」
































 『愛』は、続いていく。






 謳わずとも、ずっと。











 ずっと。



















































 / / /


















































 「待ってたぜ、ずっと。」




 暗い、夜も憚る暗闇の中で、その声は───




 「そりゃ悪かった。900年も待たせちまってよ。」




 その、男の声と重なり木霊する。



 聞いた覚えのある、声だ。




 「初めまして、と言っておくか。」



 「久しぶり、と返しとくよ。」




 そして、対峙する相手の姿貌も、目に映らずとも知っていた。




 「運命的な出会いだ、祝いに祝って歌に踊りもしてやりたいとこだな。」



 「はは、最高だな。もうお別れの時間なのが残念でならねぇよ。」




 初めて相見えた二人は、旧友の様に言葉を交わす。



 気の合う、なんてものは当然の事だった。



 目前の男を、目前の男は誰よりも良く知っていたから。




 「お別れ──ああ、そうだな。」




 微笑、零したそれを贈り合う。



 小さな、喉の鳴る音は、暗い一室に霞み消えていった。




 「俺を、終わらせに来たんだろ?」



 「世界を、終わらせに来たんだよ。」



 「痛いなぁ、若い頃でも見てる気分だね。」



 「言われたくねぇな。鏡でも見てろよ。」




 舌が、次々に回る。



 自分が饒舌で口の減らない人間と理解しているつもりだが、嫌に今は御託が止まらない。




 「お前も、この道を選ぶんだな。後悔するだろうよ。」



 「何の事だか、ちっともだ。お前の言う道なんて知らねぇよ。」



 「俺はあの時、この世界を知らなかった。必死こいて追っかけた先が、これさ。ずっと、ずっとな。」



 「俺みたいになるな、ってか?」



 「俺みたいになる、って言ってんだ。」




 不思議と言葉は続いていた。



 これが、最後になると解っていて。感じていて。




 「お前みたいにはならない。断言してやらぁ。」



 「そうかよ。そりゃあ先が楽しみだな。」



 「先なんてねぇよ。ここで、終わりだ。」




 解っていたから。感じていたから。



 静かに、気分は高揚していた。




 「この世界が終わろうとも、終わらねぇよ。お前は、ずっと。ずっとだ。」



 「もっかい言ってやる。お前みたいにはならない。」



 「決めるのは、お前じゃない。とっくに運命は決まってんだよ。」



 「運命ねぇ。そりゃ、あの魔方陣で出来てんのか?」




 空間に満ちる闇が揺らぐのを感じる。




 「何、を──?」



 「最後だ。お前みたいには、ならない。」




 沈黙が、落ちる。




 静寂、或いは呆け、とも呼べた。






 二人は、言葉を繋げない。











 そこには、笑い声だけが響いていた。











 高く、遠く───
















 「は、はは─────」































 「俺は、お前じゃない。」































 「やって、やったぞ。あはは───!」
















 笑い声と共に、魔法世界は、消えていく。






 ずっと、ずっと。









































 始まりと、終わり。全ては、一人の青年に集約する。

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