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パーティーの始まり

「はぁ!」



ヒュンヒュンッッッ


三本の刃が宙を裂く。


どれも俺の体を狙っての攻撃だが当たらない、三本程度なら俺の動体視力でよけられる。


「だめだ、ぜんぜん当たらない・・・」


「肩に力が入りすぎだ!もう少しリラックスしろ」


唯は難しい顔をして刀を操り、俺にあてようとする。

唯との実戦訓練、唯はあの件のショックがまだ重く突き刺さっているようで完全に操れるのは三本にまで減ってしまったようだ、そしてあれからたまに唯のリハビリを手伝っている。


それも仕方ない、シックは精神と常にリンクしている、どれだけ表面でクールに装っても心の深いとこのブレがシックにも反映されている。

特に唯のような天才肌の直感タイプはこういう大きなショックに対して弱い、今まで感覚でやってきた分理屈で調整できないからだ。


「唯、今日はもう終わりにしよう」


「なんで?私は強くならなきゃいけないのに・・・!」


「今やっても無駄だ、自分でもわかったろ、今のお前はシックに焦りを感じ、さらに体と神経に力が入りシックがぶれている、不のスパイラル状態、そんなんじゃやっても変な癖がつくだけだ」


お前はまだ心の奥底ではまだ祖父を守れなかったことの後悔の念が払拭しきれていない、それに立花家のしがらみも、唯にはもう少し時間が必要だ。


「勇気が・・・いうなら・・・」


唯は悔しそうに唇をかみしめ、ぐっとこらえている。

言葉ではわかっているのだろうが心では理解しきれていないのがわかる。

唯はシックや勉学の能力は遥かに大人を凌ぐが、精神面ではまだ子供だ。


「強くなりたい気持ちはわかる、だが焦るなお前はその年代じゃ、ありえないくらい強い」


「・・・代わりにお願い聞いてよ」


「お願い?珍しいな、唯がお願いだなんて」


 唯は大体のことは自分で解決する。

 剣聖会次期当主としての教養、学力、身体能力、シック、まだ未熟な精神面以外弱点はない、この世のほとんどのことを自分で解決できるこいつがお願いだなんて・・・


 このお願いが後々の惨事につながるとはこの時の俺は知る由もなかった。





 ~~~




「こ、こういう華やかなとこ久しぶりだな」


「なんだ緊張してんのか、真田?まぁ、そうだな、まさか、こんなでかいパーティーに誘われるとは・・・」


 そう、なんと俺と真壁は次元流のパーティーに誘われた、名目は卜伝の死から立ち上がりこれからも頑張ろうというものだそうだ、各地域から次元流の幹部とその連れが集まっているとのこと。

 なかなか規模がでかいようでまさかのビルの高層階でいい眺めを楽しみながら飯が食えるという、情報収集も兼ね、これはいくしかないと思ってきたものの、いざきてみると少し不安になってきた。


「おいおい正装なんて久しぶりなんだがぁ、これであってるよな?真壁?」


 経費で落とした新品のタキシードだがどうも着なれない、そして何より素材が硬くて動きずらい、なんて戦いに向いてない服なんだ、そもそもそういう想定で作られてないってのはわかっているんだが。


「俺に聞くんじゃねえ、俺もわからん、というかお前震えすぎだぞ震えすぎて高振動の電マみたいになってんぞ」


「あばばばっばばば」


 俺たちが馬鹿な話をしながらエレベーター前に着くとその横にいる黒服の警備員らしい男が何やら訝しげな顔で話しかけてくる。


「すいませんが、武具や不審物などの持ち物は禁止されておりましてお持物をチェックをさせていただいてよろしいですか?」


「おい、お前が俺の事下品なもので例えるから疑われたじゃねえか!」


「はぁ?電マは下品な物じゃねぇだろ!電気マッサージ機のどこが下品なんだ!」


「とにかく、エレベーターで上がる以上はさせていただきます」


 俺たちのくだらない会話に腹を立てたのか警備員は無理やり探ろうと近づいてくる。

 ま、まずい、ポケットにはもしもの時の仮面とナックルダスターがぁ・・・どうする、どう切り抜ける・・・


「大丈夫です、その人達私の友人なので」


「あはは、相変わらずだね、二人は」


「お嬢様・・・申し訳ございません、御学友でしたか」


 警備員はその声を聞くとすぐに下がる。

 正に絶好のタイミングで俺を助けに現れた女神は唯、そしてその召使いのスーツの井上だ。

 どちらもしっかり正装しており、特に唯の来ている黒いドレスはとても優雅で美麗だ、髪も纏めて編んだ髪型になっており、その彼女からは艶やかさそして気品が滲み出ている。


「めっちゃ可愛いじゃねぇか、唯」


「そ、そう?ありがと・・・」


「ああ、唯にとっても似合ってるよ」


 俺がべた褒めすると唯は照れる顔を隠すように下に俯く。

 普段の俺じゃ絶対言わないような臭いセリフ、あまりに臭すぎて鼻が曲がりそうなほどだ。

 でもこれでいい、いま彼女が欲しいのは次期当主完全無欠の立花唯ではなく、彼女本人を褒めるセリフだ、次元流に縛られ続けの彼女にとってはこれが一番だろう。


「そういえば、なんで俺たちは呼ばれたんだ?」


「勇気達を呼んだのはね、お父様に紹介しようと思ったから」


「お父様って・・・現当主の立花雷雪さん?」


「そう、私に次元流の全てを教えた人」


 立花雷雪、あったことはないが次元流現当主であり恐るべき剣の使い手、そして何より厳格で自分や他人に厳しい性格と聞いている。唯の精神面が弱いのも何か関係している可能性が高いと俺は踏んでいる。


「光栄な限りだねぇ、唯ちゃんちなみに他に美人な子とかはいないのか?」


「それじゃあいこう勇気」


「おいおい、相変わらず俺にだけ愛想悪すぎだろ」


 唯への真壁の質問は露骨に無視される。

 未だにまだ真壁のことはあまり好きではなく信じ切れていない様子だ。


「ああ、是非案内してくれ」


 エレベーターを昇り、扉が開くと華やかなパーティー会場が俺たちを待っていた。

 煌めくシャンデリア、そして華やかな服装の男女、和服で渋めの顔立ちの人を多く散見する。

 さすが剣の道の人間といったところだろう、和を重んじることが彼らなりの流儀なのだろう。


「うまそうなもんばかり、あるぞ!しかも凛々しい美人もいっぱいいるじゃねえか!ほらあの子とかめっちゃ可愛くねぇか、真壁!」


「おいあんま大声で騒ぐなよ、浮いてるぞ俺たち・・・それで立花、俺らは待ってればいいか?」


「うん、今から探すから待ってて」


 そう言うと唯と井上はパーティー会場の奥の方へ速足で向かっていった。

 それにしても少し無防備すぎないだろうか、ここにいるのはほとんどが剣を主流とした戦いをする強者たちその剣はいかなる流派よりも実戦向きだと言う、しかしそれは同時に剣がなければ無力というのを表す、自分を守る一番の手段となる剣を預けていいのか?警備員もこれといった装備は持っていない。いやこれは俺が敏感すぎるだけなのかもしれない、そもそも次元流という無害な組織にわざわざ喧嘩を挑む奴らなどいるはずもない。

 俺がそんなことを考えながら歩いていると横から話しかけられる


「どうも、こんにちは真田勇気さん、僕のことは知ってますか?」


 話しかけてきたのは好青年、年は高校生で唯や真壁と同じくらいだろう。

 顔立ちはくっきりしており俺より背も高くすらっとしていてそれで程よく筋肉もついている、世にいうイケメンというやつだ、それも俳優にでもなれるほどレベルが高い、そしてよくみると既視感がある顔つき。


「君・・・なぜ僕の名を?」


「姉から聞いていますよ」


「姉?」


「僕の名前は立花茂(たちばなしげる)、立花唯の弟です」


「兄!?兄がいたのか!」


 確かに言われてみれば、目元や顔の形がそっくりだ、最初に感じた既視感はこれか、美形なのも納得がいく。


「姉がいつもお世話になってます、茂とお呼びください」


「ああ、こちらこそ、美人な人に頼られて俺も悪い気はしてないよ」


「それはよかった、それで頼みがあるのですが・・・」


「なんだい?」


「大切なスピーチがあるのですが準備が遅れていて、次元流以外のお客様もいるので退屈させていては主催側の我々としては忍びないのです・・・それで余興として私と剣で少しの間でいいので戦っていただけませんか?」


「僕と君で!?」


「はい、是非、シックなしとはいえ唯を倒したというその実力を僕も見たいもので」


 フフフ、褒められるのはどんな形であれ悪い気はしない。

 だが余計な目立ちは避けたい、ここは辞退させてもらおう。


「悪いけど、あまり体の調子が・・・」


「逃げるんですか?」


「は?」


 唐突にでた男からの挑発。

 その一言は俺の冷えた闘志に火をつけた。

 決めた、こいつは殺す、そのすかした顔面をぐちゃぐちゃにしてやる。


「・・・ああ、わかった、やってやろうじゃねぇの」


「ありがとうございます、では道着と竹刀は用意してあります、では10分後壇上で・・・」


 俺は立花弟の口車に乗り、つられるまま控室に向かう。


 控室の別れ際の立花弟の口角が上がっているように見えた。
























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