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宇佐美の罪悪

「ちなみに俺は上の口からしっかり前儀をして濡らしてからしっかりイくタイプだぜ、穴山よぉ」


 彼を見た穴山はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして現実を受け止め切れていない。


「あとから来た奴は全員俺がやっといた、あとは穴山だけだ」


「てめぇ、この前ボコしたやつじゃねーか!お前みたいなやつになんであいつらが・・・全くダメージも負わずにどうやったんだ!」


 穴山の言う通り真田くんの体には傷一つなく、ぴんぴんしている。


「近づいて一瞬で全員ぶん殴ってノックダウンさせただけ、大丈夫だぜ穴山、俺は手を出さないからお構いなくやってくれ」


 彼はさきほど穴山が上っていた場所にジャンプで乗る。


「あいつらはお前にやられるほどやわなやつらじゃねえ!嘘ついてんじゃねーぞ!」


「信じるも信じないもお前次第だ、俺はお前らの一対一を壊させないための見届け人、どうぞお気になさらず」


「相当の余裕があるようだが・・・絶対お前もぶっ殺してやるよ」


「おお怖~」


 彼はさっき穴山と同じように足を組み、観戦の姿勢に入っている。

 本当に手は出さない気だ、きっと私を試しているんだ、自分が育てた人間がどこまでいけるか。


「俺様が誰かわかってねえのか?俺はあの武田家幹部穴山様だぞ?この俺にそんな偉そうな態度とっていいわけがねえだろ!どっちも殺してやるよ・・・」


 穴山は血走る目で私を睨めつける。


「まずはお前だ【大風斬風車】!」


 穴山はさっきより大きく威力のでかい風車を4個放つ。


「なんども同じ手が通じると・・・」


「おう、要望に応えて見せてやるよ、俺の奥義」


 穴山は手を重ね、重ねた手の中に少しの穴を作り、その穴を私に向けている。

 手の中に風をためている、やばい、何かくる・・・!


「ノア、防御!最大出力!」


 ノアをできるだけ大きい範囲を守れるように形状を変化させる。






「無駄だ!奥義【風斬螺旋砲】!」





 穴山の手の中から斬撃のついたハリケーンのような突風が出現する。

 その突風は周りにある工業用機材を削りながらどんどん大きくなりつつこちらに飛んでくる。




 ブォォォォォォォ





 それはノアの隙間からも十分あたる広範囲の攻撃。


 ダメだ、今のノアができる守れる範囲を超えている。

 さらにはなるべく大きな範囲を守ろうとした結果ノアの耐久度が低くなりひびが入る。

 なんて威力・・・ノアが耐えられないなんて・・・


「逝っちまえよぉ!」


 穴山はさらに威力を高めノアを完全に破壊する。


 そして突風は私の全身をズタズタに切り裂き、吹き飛ばす。








「ううっ・・・」


 気づくと手足にたらたらと大量の血が肌を伝っていた。


「胸斬られて手足斬られてまだ意識あんのか、普通の奴なら出血多量で気絶してるのによ」


「お生憎、血はあやつれますので・・・」


 私は触れた血を操る能力、斬られたとこの血はすぐに個体化させ止血している、ただそれでも失った体力は戻らない。


 壁によりかかり何とか立ち上がろうとする。

 さなだくんも観てるんだ、こんな簡単に倒れるわけには・・・


「オラァ!」


 ドガァッッ


 穴山は私が弱っているのを見てここぞとばかりに距離を詰めて蹴りを入れる。 


「かはっ・・・」


 私を守っていたノアはもう破壊され防御には使えない。


「すぐに気を失うなよ?マグロだとこっちもつまんねえからよぉ」


 ボゴォッ


「努力して一発逆転!なんて夢見すぎだ、馬鹿が!」


 バギィッ


「人間は生まれたときから決まってんだ、勝ち組か負け組か、いくら努力しようがそれは覆らない、どうしようもない事実としてそいつの一生を決める!!」


 鈍い音と痛みが連続して響き続ける。


「つまりぃ!お前はどう努力しようが負け組なんだよ!」


 穴山はシックを使わず生身の体で攻撃し、笑顔で甚振る。

 この人は私に抵抗できる体力が残っていないのをわかってわざと使っていないのだろう。

 鼻からは血が垂れ体は切り傷と打撲痕だらけ、穴山の考え通り立ち上がる体力は残っていなかった。


「さんざん努力して俺に勝とうと必死になって、残念だったなぁ!無駄な努力お疲れ様、そこのお前も前みたいにこの女かばわなくていいのかよ?」


 そういうと穴山は標的を上から見下ろす人間に標的を変える。


「俺は善人でもヒーローでもない、一度助けて道を示したんだ、それ以降どうするかはそいつ次第、そこで死ぬなり助けを求めるなら所詮それまでだ」


「くく、ひでえなぁ」


 まずい、体力はもうない、足に力が入らない、視界もだんだんぼやけてきた、腕も足も胸も激痛が走っている。


 真田くんも見てくれているのに・・・だめだ、完全に力がもう・・・。


 諦めて目を閉じようとしたとき、私を変えた彼の言葉を思い出す。


「もっともっと怒れ!」


 そうだ、こんな時は思い出すんだ、怒りを・・・!


「結局、俺の勝ちは結局ゆるぎなかったみたいだがなぁ、次お前来いよボコボコにしてやる、それともこの女が犯されてるとこみてシコってるか?」


 殺された時のノアの痛みはこんなものじゃなかったはずだ。


「悪くない提案だな、俺も無理やりは嫌いじゃない」


 ノアの死体は異常なほど切り刻まれていた、いたぶっていたんだ、穴山は・・・!

 ノアのことを思い出せば思い出すほどに穴山に対する怒りが強くなっていく。


「でもそいつまだ倒し切れてないぜ?穴山」


「は?」





 胸の中のどす黒いものがどんどんたまっていく、その感覚が神経を支配する。




「おお、きたねえ【重症化】おめでとう!」





 真田くんはまるで新しいおもちゃをもらった時の子供のような無邪気な笑顔で私を見ている。




 私の瞳は赤く染まり、シックの力と体力がそこから上がってくるのがわかる。




 今ならやれる、あの穴山に鉄槌を下すことができる。





()()()()()()()





「ククク、敬語忘れてんぞ宇佐美ぃ」







 私の姿に真田君は笑い、穴山は自分の体に起きていることに恐怖している。


「おい、待て、嘘だろ・・・視界がぐらつく、俺の体に何をしたぁ宇佐美!」


 穴山は膝をつきよだれが口から垂れ、苦しそうに胸を抑えている。


「前の私は自分の血を操ることができるそれだけだった、でも今は違う」


「まさか・・・そんなことがぁ!逆流させたのかぁ!」


 そうだ、先ほどの覚醒のような何かは、私のシックに新たな力を生み出した。

 私は刀で触れた血の部分から穴山全身の全ての血を掌握した、触れた他人の血まで操作できるようになったのだ。

 人間は血が少しでも逆流すると、動悸、めまい、関節痛がするようになり、さらに逆流すると死ぬ、つまりもう穴山の命は私が握っている。


「そうだよ、今の強くなった私なら今お前を殺すことだってできる」


「ひっ・・・」


 穴山は今自分がどういう立場にいるか一瞬で理解すると恐怖の顔を浮かばせる。

 前はできなかった、できても少し気分をわるくするくらい、でも強くなった私には触れただけで相手の血を完璧に操作することができる。


「はぁはぁ、だれかぁ!助けてくれぇ!」


 穴山の声は深夜のこの広い工事現場では誰にもどかない。

 穴山は足を引きずりながら私を背に逃げ始めるが、すぐに倒れ這いずるようになった。

 無様に芋虫のように這いずる穴山の進路をふさぐように立つ。


「今までのこととを謝罪して、二度と私に近づかないなら殺さないで上げ・・・ます」


 だんだん目が赤色も落ちて、気持ちも落ち着いてきてどっと疲労が戻り始め口調も戻る。


「わ、わかった、今までいじめててすまなかった、もう二度と近づかない・・・」


「神に誓えますか?」


「ああ、誓う!誓うよ!」


 穴山は頭を地につけ、許しを請う。

 ようやくだ、ようやく終わったよノア・・・


「終わりました真田くん・・・」


 これで私はこの復讐心から解放される、これからは新しい私として生きていくんだ、そして・・・


「何言ってんだよ、宇佐美ぃ、まだ終わってないだろ?」


 真田くんは不満足そうに私の肩に手を置く。


「え?」


「最初に行ったよな、巌窟王もびっくりな復讐をするってさ」


 真田くんは口を抑え笑みを隠している。

 今の消耗しきった私には彼の言葉の意味が理解ができなかった。

 彼は何をしたいんだろうか・・・?


「巌窟王は復讐相手を散々もてあそんだあと殺したんだ、穴山は全然もてあそばれてねえだろうがよぉ!」


 バゴォッ


 彼は這いずる穴山に追い打ちをかけるように腹に蹴りを入れる。


「がは・・・お前・・・!」


「宇佐美は乗り気じゃないみたいだしな、今から俺がお前をもてあそんでやるよ」


 真田君は穴山に馬乗りになり、顔面をどんどん殴っていく、その時の真田くんの顔は狂気に染まっていた。

 いつもの奥にあったやさしさは全く感じ取れず、その狂気だけが彼を支配していた。


「お前俺のこと散々なぐったよなぁ!」


 ドガァッバギィッボゴォッ


 穴山の顔から鈍い音が鳴り続ける。


「やめ・・・てくれ・・・」


 穴山は掠れ声で許しを請う。


「お前が散々いじめてきた奴らもそう言ってきたと思うがお前はやめてやったか?」


「それは・・・」


「やめれないよなぁ!こんな楽しいこと!」


 彼は倒れた穴山に馬乗りになり嬉々として顔面を殴り続ける。


 殴り終わった後の穴山の顔は血だらけで、前穴山が真田くんを殴り倒したとき以上にひどくやられていた、鼻は折れ、顔全体も膨れ上がっている。

 彼の拳からはポタポタと返り血が落ちていく。


「あー気持ちよかった」

 

 満足気な彼の顔はまさに悪魔のようで、初めて私はそこで彼に恐怖を抱いた。


「どうするぅ、宇佐美殺すか、殺さないかお前に選ばせてやる」


 彼の声が私に向いたときぞくっと背筋が凍り、息が詰まる。


「この辺で許してあげても・・・」


 私が殺さない選択肢を選ぼうとするとき彼はそれを遮るように声を出した。


「ちなみにこいつはいろんな女をいじめては強姦しているらしい、そしてそのたび武田家の力を使ってもみ消している」


「そうなん・・・ですか・・・」


 この男、なんて最低なことを、確かにこの人ならやりかねない、でも、だとしても、殺しは・・・


「その女の子たちの恨みしっかり清算させてあげようとは思わないか?」


「そう・・・ですね」


 恐怖に包まれた私は相槌を打つことしかできなかった。


「しかも今なら出血大サービス死で償うことを許してやろう、死ぬのは一瞬だ、彼女らが生涯、苦しんでいるのに比べたら全然苦しくないな」


 穴山は泣き目になりながら逃げようと這いずる。


「もう、やらない!信じてくれ!」


 確かに穴山は最低なクズ人間だ、でも私の一存でその命を絶つことなんて・・・


「信じてあげても・・・」


「いいや、こいつはやる、俺にはわかる、こういうやつはこの場冴え凌げればあとはどうとでもなると思っていやがる、そして自由になった後また罪を犯す」


 彼は目を細め軽蔑するような眼で這いずる穴山を見下ろす。

 その言葉はまるで実体験があるように重みのある言葉だった。


「・・・私はどうすれば・・・」


「これは当然お前が決めることだ、俺が強制することはしない、ただ今まで俺を信じて失敗したことがあったか?」


「はぁ、はぁ」


 ゆだねられた判断の重さに耐えきれず過呼吸になり胸を抑える。

 しかし彼はそれでも私を逃がさない。


「人殺しなんて・・・私には・・・」


「お前こいつを殺さないことをやさしさと勘違いしてないか?それはただの臆病だ、しかもこいつは今逃したらほかの仲間を呼んで、お前を潰しに来る。それでもいいのか?こいつが約束を守る保証なんてどこにもねぇんだよ」


「うっ・・・」


 確かにそうだ、こいつがそういう人間だというのはやられてきた私は一番よくわかってるじゃないか、こいつが今こいつを殺すことが最善手なんだ。

 彼は私の腕を掴み、穴山の方に向ける。


「こいつは野放しにしたらお前に復讐にくるよ、お前がやったようにな、やられる前に、やれ」


 私と同じようにこの人も復讐に来るというのはもっともな理屈だ、それは復讐した私が一番わかっている。


「それに忘れたのか?こいつはお前の大好きなノアを殺した男だぞ?」


 言われた瞬間あのノアの痛ましい死体を見た時の光景が脳裏に浮かぶ。

 私だけでなくノアを散々苦しめておきながらのうのうとこいつは自分の人生を生きようとしている、許されるわけがない・・・!

 

「ノア⁈お前の飼っていた犬のことか?俺は何も、ウガッ⁈」


 穴山の口を塞ぐように穴山の口は彼の足に踏みつけられる。


「この期に及んで助かろうとまた嘘を吐く・・・どうしようもないな」


 助かろうと散々嘘を吐き人を騙し続け人生を壊しながら生きるのがこの男のやり方だ、穴山にはやはり生かす価値はありはしない。


「大丈夫、俺も共犯者だ」


 耳元での悪魔の甘美で優しいささやきは私の脳を完全に掌握する。

 そうだ、今まで彼のいうことに間違いはなかった、私は逃げないこいつを殺すことが私は変わったという証明だ。

 


「や、やめてくれ・・・!」




「死ね、クソ野郎」


 

 穴山が長く苦しむようにゆっくりと血液の循環を逆流させる。



「がぁっ・・・・」



 穴山は胸を押さえ苦痛の表情を浮かべる。



 次第に顔は青くなり白目を剥き倒れた。



 ドサッッ





 目の前の一人の人間が息絶える。

 初めて人を殺した、この感触は一生消えないのだろう、いくら憎んでいた人間とは言え人殺しの罪悪感は重く心にのしかかる。



「気分はどうだ、最高だろ?笑えよ!はははははははは」


 穴山に勝てたときの達成感からの殺したときの罪悪感への転落のストレスは許容限界をとっくに超えていた、頭がどうにかなりそうだ。


「ふふ、あはははははは!」


 彼の笑いが私にまで移ったのか、自然と笑ってしまう。

 自分でもなぜ笑っているかわからない、でもすごいいい気分だ、やったんだ、これでよかったんだ、こんなクズは死んだほうがましだ!

 彼の狂気に当てられ私まで伝染してしまったようだ。


「これで宇佐美、お前は自由だ!ククク、あははははははは!」


 彼と私の笑い声が工事現場に響き渡る。

 私の目の前には確かにヒーローではなく、悪魔の笑顔がそこにはあった。







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