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元気になれ

 俺の竹刀は立花唯の面をしなやかに打ち鳴らした。 

 勝負の結果に審判の井上、立花、観客全員静まり返る、皆何が起こったのかわからないといった顔だ。


「ククク、グハハハハハハハハハハハハ、俺の勝ちだぁ!ざまあみろぉ!」


 面を取り、嬉しさのあまり大人気なくガッツポーズを取る。力を失ってもなお勝ったのだ、嬉しくないわけがない。

 俺の使った示現流の強さは気迫と初撃にある。雄叫びは自分の恐怖を麻痺させ、そこから来る気迫は相手を怯ませる。そこから打たれる攻撃はまさに一撃必殺と呼ぶにふさわしい威力だ。

 立花唯君は強い、次やればもう付け焼き刃の示現流は通じなかっただろう。

 俺が喜んでいると横目に目を赤くし泣きそうになっている立花が見える。


「胴に打って来ると思ったのに・・・」


 やはり俺の判断は間違っていなかったようだ、しかし流石に泣かれると心が痛い、彼女が泣くのも仕方ない全勝無敗の彼女に初めての黒星をついたのだ。俺は慰めようと近寄り、話しかける。


「負けた理由知りたいか」



「・・・何」



「耳かせ」




 彼女の耳に顔を寄せる。






「フ〜〜〜〜」





 ボコォッッッ






「死ね!」




 顔面にフルスイングパンチを受け思わず倒れる。彼女は、駆け足でどこかに走り去ってしまった、俺はただ耳に息をふきかけただけなのに。

 それを見ていた井上が駆け寄って来る。


「すごかったね」


「ああ、すごいパンチだった、まだひりひりするぜ」


「・・いや試合の方だよ」


 井上は嬉しいような悲しいようなそんな複雑な顔をしている、彼女が泣いていたことが気がかりのようだ。


「やっぱり放っておけない」


 そう言って走り去った立花の方に向かって行った。彼は正義感の強い人間のようだ。俺のイメージする生徒会の人間って感じだ。そうこうしているうちにだんだん結果を受け止められずに放心していた道場の門下たちも現状を飲み込み話し始めた。


「お嬢様が負けたのか?嘘だろ?」


「このインチキ野郎!シックを使ってもう一度勝負しろ!」


 様々なヤジが飛んでくる。門下生達は何処の馬の骨とも分からない俺に立花が負けたのが相当悔しいようだ。

カスどもめが、勝ったのはこの俺様だ!


「黙れ小童共!!」


 試合を遠くから見守っていた卜伝の一喝で、時が止まったように道場内が静まりかえる。


「叫び程度で心揺れ動くとは唯もまだまだよのう。しかしおぬしが見せてくれた薩摩の古流剣術示現流、猿叫し全力で猛進、相手の心をゆさぶりそのすきを全身全霊の一ノ太刀にて屠る、江戸ではその一撃は簡単に敵の防御を貫き脳天を割ったというまさに一撃必殺の技、当時江戸最強の近藤勇をもってしても「薩摩の初太刀は避けよ」と言わしめるほどの剣術、見事な太刀筋じゃった、ちなみに名前でうすうす気づいているかもしれぬが、ワシらの次元流も元は示現流の系譜じゃ」


卜伝は自慢のように淡々と話す。


「お主名前は?ぜひ我が門下とならぬか?君ならいい剣士になれる」


「真田勇気と言います・・お誘いは遠慮しておきます、ハハ」


「それにしても・・・」


 卜伝は俺に顔を近づけうーんと何やら考え込んでいる。目の前に殺すべき相手がいることに緊張で、冷や汗が垂れ、心臓の鼓動が早くなる。


「真田くん、どこかで合わなかったかのう」


「まさか、初めてですよ、会えて光栄です」


 何とか平静を装って答えるが、心臓の音が漏れそうなほど鳴っている。もしここで俺の存在がバレたらここの門下生全員を相手にしつつ、卜伝を殺さなきゃ行けない、そんなのは不可能だ。もういっそここで先手を打って首をかききってやろうか。俺は今次の卜伝の発する言葉に心臓を握られている。


「勘違いじゃったか、申し訳ないのじゃが真田くんお願いを聞いて欲しい」


 よかった気づいていないようだ。なんとかホッと胸を撫で下ろす。俺を地獄に追い詰めた男の願いなんて聞きたくないが、今は仕方ない。


「構いませんがなんでしょう」


「孫を慰めてやってはくれんか、ああ見えて意外と繊細な子なんじゃ」


「・・任せてください」


 笑顔で受け答えをする。言われなくても行く気だったよ糞爺。




 ~~道場中庭~~




「うるさい!統也に何がわかんの?!」


「僕は君のことを考えて・・・」


 人気のない裏庭近くの通路を歩いていると感情的な大きな声が聞こえる、そのおかげで簡単に見つけ出すことができた。励ましに行った井上が撃沈している、なかなか彼女の傷は深そうだ。


「私のこと考えてくれるなら放っておいて」


「わかったよ・・」


 悲しそうに帰る井上とすれ違い耳打ちする。


「任せろよ俺が立ち直らせてやる」


「・・・任せたよ」


 彼女は昔の俺に似ている。重ねれば気持ちは簡単に割り出せる。


「さっきは悪かったな、スキンシップのつもりだったんだが……」


 立花は俯いて顔を見せないように背を向けている。返答もしてくれない。仕方ないので前々から考えてた仮説で鎌をかけてみることにした。


「お前もういやなんだろ、祭り上げられて縛られるの」


 それを聞いた立花の肩が動く。やっぱり俺の仮説通りのようだ。


「お前は冷静沈着、品行方正、才色兼備などと言われ皆の手本にならなきゃいけないって脅迫観念に追われている。学園でもかなりお姫様として扱われているそうだな、でもお前は鳥籠に囚われたまま。本当は自由にやりたいんだろ」


「今日会ったばっかのあんたに何が」


 彼女を黙らせるように言葉を遮る。


「わかる!俺も最強だった時期があった。あんなことをいったが実際今俺は強くない、シックありならお前にボロ負けしてただろうし、今回勝てたのもたまたまだ。昔は俺も強さには責任が伴い弱者を救わなきゃ行けないと思っていた時があった。だが俺は気づいた、そんなものはついでにやれば良いと!」


「檻の中で生きていく覚悟ならもうとっくにできてる!口を出さないでよ」


「だったら俺がその檻を破る白馬の王子様だ、俺ならお前を助けてやれる」


俺はうつむく彼女に手を差し伸べる。


「これはあんた一人で解決できる問題じゃない‼︎…もうどっか言って…」


 苦しそうで泣きそうなか細い声。


「はぁ、わかったよ、最後だからよく聞いてくれ、俺との勝負の約束覚えているか?」


 頭に手をやって軽くかく。


「・・・」


「俺からの願い事は『元気になれ』だ」


彼女に無理やり強制させるやり方もあるが嫌々やらせても限定的になる、彼女の心の底から手伝ってもらうことこそミッション達成といえるだろう。


「なんで私にそこまで・・・」


「お前が昔の俺に似てて止めてやりたくなっただけだよ、それじゃな」


 彼女と昔の俺は似ている、しかし彼女が当時の俺のような傲慢さがないのは、親の差だろう、俺の親は彼女の親族のような、誇りや武士道のようなもののかけらもない人間だった。

 彼女は何も返してくれない。だがこれで彼女の心に残ることは出来ただろう。さぁここからがお楽しみの時間だ。




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