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第四話『完璧を求めた虚像』


突如、現れた亜理子の攻撃により瀕死の状態となる彦一。


能力系統最強の製造型の力。

そして、新たな能力『固有スキル』

絶対的なピンチの中で神谷遠時の戦いが今始まる!!


赤かった。


ただ、赤かった。


胸に刺さる一つの刃物。


目の前で笑う少女。

崩れ落ちる自分の身体。


わからなかった。

理解ができなかった。

少年は少女に笑って欲しかった。あの時の涙から努力をずっと続けていた。

しかし、少女は一度たりとも少年には微笑まなかった。


その少女が、『神童亜理子』が満面の笑みでこちらを見ていた。



そうか、そう言うことだったか……



薄れゆく景色の中『神童彦一』は忘れかけていた少女の笑顔をじっくりと眺めながら意識を失った。




「彦一さん!?」

少しの間は何が起きたのかわからなかった。


目を離した瞬間声が聞こえたと思うと、胸のあたりを赤く染めて倒れる彦一と、返り血で自分の頬を汚しながらも笑っている「神童亜理子」がそこにはいた。



なんとか足だけの力で立ち上がり彦一のもとに寄ろうとする。


しかし、あと一歩のところで亜理子が立ち塞がった。


「何のつもりだ!」

「それはこっちのセリフですよ。邪魔しないでください」

笑顔ではなく、うっとうしそうな顔をして亜理子は言った。

「なにが邪魔だ!」

そう言って痛みにこらえながら携帯電話を取り出して番号を押す。


三回目のコールの後、繋がった。

「あっ、もしもし…重傷の人がいるんです。場所は-


スパッ!

「それが邪魔なんです」持っていた携帯電話がいきなり二つに切断された。

「次、邪魔したらそのボロ雑巾みたいな手を切断しますよ」

後ろを向いて倒れている彦一を観察するように見ながら言った。

「なに言ってる!?お前の兄貴が死んじまうんだぞ」

「いいから殺したんですよ。まぁ、ギリギリ避けて即死にはならなかったみたいですけどっ!!」

言い終わると同時に横向けに倒れている彦一の腹を踏みつけた。

反応はないが彦一の出血量の増加は真っ赤な地面を見れば嫌でも理解をしてしまう。


あのままじゃマズイ!!

亜理子は追い討ちをかけるようにもう一度踏みつけようとする。

「やめろ!」腹から声をだして叫ぶ。

ドグシャッ!

えぐるような音と共に血しぶきが上がる。

「アハッ!!」

亜理子は悦びの声をあげながら更に踏みつける。

「やめろって言ってんだろーー!」


遠時の身体は動きだした。

亜理子が例えゲットバトルドリームの参加者で、どれだけの能力を持っていたにしても、遠時には関係なかった。

どんな事があっても彦一を救う!!

強い気持ちがあった。


この事が起こるまでは…



遠時の左手が切断された。


「ーーーーーーっあーーーー!!!!!???」

強烈な痛み!!

バランスを崩して彦一と同じように倒れこむ。

油断はしてなかった。デスティニーチョイスを発動して、どんな攻撃がきてもかわせるつもりだった。

それなのに、亜理子を蹴り飛ばそうとした瞬間、左上の方が歪んだと思うとギロチンが降りてきて左手を切断した。


左手があった場所からは大量の血が流れだしている。目も霞んできた。

しかし、腕を握り潰された時の激しい痛みに比べ、腕を切られると言うのは、もはや痛みを通り越しているため、痛みよりも死を感じていた。


(切られたの手首よりもちょっと上ら辺か…。止血しねーとやばい)

痛みに耐えながら身体を起こして右手と口を器用に使って止血をする。

「手際がいいですね。もっと焦って泣き叫ぶと思ったんですけど、少し残念です」

亜理子は遠時を見下しながら言った。

「そいつは悪かったな」

止血は完了したが、大丈夫とは絶対に言えない状態。

「亜理子!これは冗談抜きでやばいんだ!!彦一さんは確かに母親を自殺に追い込んだかもしれない、でも彦一さんは自分の罪を改めて変わろうとしてたじゃないか!?一番近くにいたお前ならわかるだろ?」

「黙れ」

声を荒げるでもなく、ただ静かに言い放った。

「あなたが私の何が分かる?死にそうならさっさと病院に行けばいいじゃないですか。私はお兄ちゃんが死ぬまではここを動きません。また私の邪魔をしたら次は歩けなくしますよ」

遠時にむけられる殺気。それはまさしく彦一と同じものだった。

しかし、遠時は動いた。

貫かれるような殺気の中を全力で走った。

「歩けなくするんだったらやりやがれ!!何が起ころうとも俺は彦一さんを助ける!」

「本当にバカですね!」

亜理子が両手を左右に広げる。

(今しかない!)

遠時は亜理子に視線を合わす。

亜理子の瞳が遠時を映す。

「『デスティニーチョイス』発動!」

亜理子の時間を操る。

時が止まる。


「うおーーー!」

攻撃が届く距離まで三、二、一!!

右手を振り上げる。

「終りだ!」

振り抜く!!


ザクッ!


「がぁっーー!?」

両足に西洋風の短剣が突き刺さった。

「何でだよ!?時間は止めてたはずだぞ」

先程の自分を世界軸から外すのとは違い今の能力は止められている相手はなにもできないはずだ。

「残念」

ズガッ!

亜理子に頭を踏まれた。

「やっぱり遠時先輩は強いですね。まだ能力を隠してるなんて、さすがはお兄ちゃんが認めた人ですね。利用できてよかったです」

笑う亜理子。

その笑顔に遠時は恐怖を覚えた。

「待てよ、利用だと?」

「えぇ。あなたを利用したんですよ。おそらく私がお兄ちゃんに普通に戦ったら負けてしまいます。だから、私はずっと待ってたんです。お兄ちゃんが全力で戦える相手を」

踏みつける力が強くなる。

左手だけでなく両足からの出血でもはや遠時の意識はあるかないかの瀬戸際だった。しかし、遠時は質問をする。

「全力ね、あの人はぜんぜん本気じゃなかったぞ」

「実力の話じゃないですよ。お兄ちゃんの能力『アタラクシア』は人体のリミッターを外す、強化型タイプです」

倒れている彦一を見ながら言った。

「肉体強化型の能力はどれもバランスが良くて戦う時に非常に便利な反面、強化した肉体の負荷が尋常じゃないんです」

「肉体の負荷?」

「お兄ちゃんはリミッターを外すことで一時的に身体能力が高まりますが、一日に五回ほどしか身体がもたないんですよ」

なるほど、俺と彦一を戦かわして能力を使わし、肉体がボロボロの所を殺すか。

敵ながらアッパレな作戦だ。誰でも思いつきそうな作戦だけど、普通の人間は絶対にしない作戦だ。

だってそうだろ?

こいつは俺が勝っていたら、俺を殺して彦一に止めをさしたはずだ。

どう転んでも自分の兄が死ぬようになっている作戦だ。

「彦一さんが本気で戦える相手が出てくるまでどのくらい待ったんだ?」

「覚えていませんけど、お兄ちゃんを殺そうと思ったのは小学六年生の時ですよ」


神童家は血の気の多い奴ばっかなのかよ。


「さてと、お話はこれくらいにしましょう。私はやることがあるんで」

そう言い、頭から足を退け彦一の方にむかう。

遠時は地面を這いながら亜理子の後を追おうとする。

後ろを向いたまま亜理子は言った。

「遠時先輩。いい加減にしてください。あなたの能力と私の能力では相性が悪すぎてす」

「そんなことは関係ねーぞっとーー!」

右手でおもいっきり地面を押す!

その反動で体をなんとか立ち上がらせる。

両足からはシャレにならないくらいの血が流れだしている。

人間は血を2リットルぐらい流すと死ぬと言うがそれなら、もう少しで自分が当てはまりそうだと実感した。

亜理子は信じられない顔でこちらを見ていた。

「なんだ?そんなに見つめるなよ。照れるじゃないか」

頭に血が行っていないせいか、シリアスな状況なのにそれらしい言葉が一つも言えてない。

「どうしてそこまでするんですか?他人なのに」亜理子の眼には哀れみの色さえあった。

「さあな。ただ、俺は彦一さんにケンカで二回負けてるから、勝ち逃げされるのはごめんなんだよ」

両足、左手は出血しそのせいで目はほぼ見えずまともに歩くことすらもできない。

それでも遠時は立ち向かった。

「ケンカ…ボコボコでしたもんね」

亜理子は悲しい顔で笑顔を作り、右手を上に挙げる。

すると、次元が歪み中から槍と西洋剣が現れ空中に浮く。

「接戦だった」

遠時の訂正が入る。

シュバッー!

武器が空中から遠時の心臓に向けて放たれる。


遠時に避ける手段はない。


(また、俺の負けか)

遠時は静かに目を閉じた。

ズドッ!

一本のカッターナイフが遠時の目の前の地面に突き刺ささった瞬間-

ドゴーンーー!

轟音と共に槍と西洋剣をまきこんで公園の遊具の一つ、滑り台が遠時の目の前に現れた。

「なに諦めてんのよ?まだまだここからよ」

「すごい怪我やな。ちょっと待っときやすぐ病院連れて行くからな」

「ご無事でなによりです。少しの間休んでください」

三人の遠時の仲間がそこには立っていた。


「来てくれたんですか。ありがたいで…す」

身体に限界がきたのか、崩れ落ちそうになったところを左手に包帯を巻いた香美市に助けられた。

「しっかりしなさい。それぐらいの傷で倒れるんじゃないわよ!」

「このツンだけ女!!これは傷のレベルじゃねーよ!左手が無いのが見えないのかよ!?」

「あっ、ホントだ左手無いや」

「見えなかったの???」

香美市に肩を貸してもらいながら後ろに下がる。

「一回貸すので三百円よ」

「こんな時に商売をするな!」

「外すのと潰すのもあるわよ?どう?」

「しねーよ!どんな商売だよ!て言うかお前は彦一さんか!!」

叫ぶと傷に響いて痛みが走る。


「香美市さん、その怪我では戦えないでしょう。遠時さんと一緒に下がっておいてください」

緑が亜理子の方を見ながら言った。

「そうさせてもらうわ」と言って香美市は遠時を連れて下がった。

「さあ、みゆき。始めましょう」

「うん。そやね」

二人が前に出る。

亜理子はつまらなそうな顔をしている。

「なんで邪魔ばかりするんですか?それに、神谷先輩女の子に守られてかっこ悪いと思わないんですか?」

ごもっとも。

「私達は遠時さんを助けるために来たんではありません」

緑は木刀をとりだしかまえた。

「じゃあなんなんですか?」

亜理子が手を挙げ空間が歪みいくつもの武器が宙に浮かぶ。

「貴方のお兄さん、彦一さんに頼まれたんですよ。もし、自分が死んだら貴方をゲットバトルドリームから退場させるように」

「へぇ~。お兄ちゃんでも卑劣な事考えるんだ。自分の仲間に仇討ちさせるなんて」

亜理子は彦一に蔑む視線を送る。

「ホンマにアホやなこの子。彦一とは大違いやわ」

みゆきはため息をつきながら言った。

ブチッ!

「その言葉は私にとって禁句なんですよ!!」

浮かんでいた武器がみゆきに降りそそぐ。

「みゆきさーん!」

土ぼこりが上がり視界が曇る。

「だってそうやろ-

みゆきの声。

「あんたの為に彦一は頼んだんやから!!」


真っ白で美しい純白の翼がそこにはあった。

「『エンジェルコンタクト』発動」

みゆきの身体が空に上がる。

「私の為!?」

「そうや。彦一が生きてる時はあんたを守れるけど死んでしもたらあんたを守る人は誰もいなくなる。それが危険やからあんたをゲットバトルドリームから退場させるように頼んだんや!」

「馬鹿なこと言わないでください!お兄ちゃんは私の計画を全部知っていたって言うんですか?」

「少なくとも貴方に殺意を抱かれている事は知っていたと思います」

よろける亜理子。

「本当にバカですね。天才のくせにバカなんだから」声は震えていた。

「ええ。だから、遠時さんと気があったんでしょう」

「どう言う意味だそれはー!」

離れててもちゃんと聞こえてるわ!

「でも、私はやめません。私の憎しみは何があっても消えませんから」

「でしょうね。そうでなければこんなことはしませんから」

亜理子の周りにまた武器が現れる。

「私の願いは兄がいない人生のやり直し……間違っているとわかってるけどでも、私にはこれしかないの!」

緑は姿勢をかがめて飛び出す準備をする。

「では、始めましょうか!!」


ドスンッ!

鈍い音。

「始まりとちゃう。終りや」

みゆきの矢が亜理子の胸に突き刺さった。

「みゆき!!」

「大丈夫や。急所は外してる」

みゆきは地面に足をつけて言った。

「早く病院に電話しなあか-

「いきなりですか。容赦ないですね」

亜理子は身体を起き上がらせて言った。

「あんた…不死身か?」

「それはお兄ちゃんに言ってくださいよっと」

胸に突き刺さった矢を抜く。傷からは垂れるように血が流れだした。

「驚きました。あなたは強化型じゃなく製造型だったんですね」

「なんやそれ?」

首をかしげるみゆき。

「この戦いの主催者から聞いたんですよ。私達の能力にはタイプがあるんです」

自分の傷を確認しながら話す。

「タイプは三つ。強化型、操作型そして製造型」

「そうなんや。で、私が製造型やからなんなん?」

「製造型はこの三つの中で一番強い能力なんですよ。だから、あなたと戦うのは時間がかかりそうですね」

「心配ないで。すぐ終わるから」

弓を構えなおす。

「それが無理なんですよ。だって私も-


亜理子は両手を広げる。

「製造型ですから」

みゆきの矢が放たれる。

が、亜理子は軽くかわす。

「『ファンタジークリエイト』発動!」

その瞬間、亜理子の周りに包帯が現れたと思うと、傷を一気にふさいでいった。

「この能力は私の想いを現物にすることができます。この包帯は自動で傷を治しますよ」

にっこりといやらしい笑みをする。

「やれやれ。彦一といいこの子といい、能力が強すぎる」

緑は木刀を握りしめ直した。

「緑。時間を稼いで。『あれ』をやるから」

みゆきは睨みながら緑に言った。

「でも、あの技は貴女も亜理子にも危険すぎます」

「手加減はする。回復されるんやったら動けなくするぐらいがちょうどいいはずや。それにあまり時間を長引かせたらな-


みゆきの眼から殺意が溢れ出していた。


「彦一を殺した奴を私が殺してしまうかもしれへんやろ」


みゆきの持ってる弓が強く握られる。

「使うんですね?とっておきの『固有スキル』を」

「うん」

緑は亜理子に目線を合わせた。

「では、急いでくださいっね!」

能力を使い一歩で距離を縮める緑。

「無駄ですよ。強化型のあなたが私には勝てないですよ」

空間より武器をだす。

ブン!

木刀をなぎ浮かぶ槍を叩き落とす。

「えいっ!」

亜理子の周りの刀が緑に向けて投げられる。

「『ユーセイバー』!!」

高速移動で後ろにまわる。

「もらった」

「こんのー!!」

しゃがんで攻撃をかわし、後ろに飛び退く。

「『ファンタジークリエイト』発動!」

空間が歪む。

「想い欲するのは英雄の短剣。知識を残したまま姿をなせ!!」

光の集束と同じくして西洋型の短剣が空中に浮く。

「遅い!!」

もう一度亜理子の後ろをとる。

振り上げた木刀を力の限り降り下ろす。

ギイーン!


「なに!?」

宙に浮いていた短剣が勝手に緑の一撃を防ぐ。

それだけでなく自動で攻撃までしてきた。

「驚きました?これが製造型の力!実力の差など物質で補えばいいんですよ」

またも空間が歪み光が集束されていく。

「想い欲するのは絶対命中の弾。守を破壊し姿をなせ!!」

亜理子の右手にライフルの銃弾のようなものが握られる。

「当たれー!」

緑めがけて投げられた四つの弾丸。

「くっ!」

高速でその場から離れ公園の端まで移動する。

「ウフフフ。絶・対・命・中!」

投げられた銃弾は向きを変え緑のもとに進んでいく。

「チッ!弾き落とすしかありませんね」

銃弾と向かい合い一番前の弾丸を木刀で振り抜く。

バキッ!

弾丸が木刀を貫通する。

「なっにー!?」

三発が緑の身体に着弾し、一発は頬をかすめそのまま公園の外に出て消えた。

「言ったでしょ。絶対命中だって。無駄なんですよ私と戦うのは」

そう言ってまた右手に弾を握る。

「終わりです!!」

「うん。あんたがな」

低い声。

振り向く亜理子。

そこには空に浮いたまま弓をかまえるみゆきの姿。

その矢には恐ろしいほどの殺気がこもっているのがわかった。

(あれはマズイ!)

前方に手を突きだす亜理子。

「想い欲するのは守護の盾。傷をつけずに姿をなせ!!」

その瞬間、巨大な逆台形の形の盾が現れる。


みゆきは矢を強く引いた。

「固有スキル『善良の讃歌バルドル』!!」

矢から手を離す。

その瞬間に竜巻のような風が周りに吹き荒れる。

矢は風をまとったまま巨大な盾にぶつかる。

ゴシャーン!!

盾はまるでガラスのように亜理子の目の前で砕け散った。

「えっ?」

矢は先程刺さった箇所と同じところに刺さり地面にめり込みながら亜理子を公園の端まで吹き飛ばした。

「残念やったね」

笑うでもなく蔑むでもなくただ無表情でそう告げた。

「みゆき」

緑がこちらに戻って来る。

「大丈夫やったか?血いでてるで」

「なんとか無事です。それよりも貴女の身体は?」「うん。大丈夫やでまだまだいけるよ」

「もう終わりですよ」

緑は微笑んで言う。

「そやな」っとみゆきも微笑む。

シュビッ!

二人の間に槍が通りすぎる。

「まだ…ですよ」

目の前には何重にも包帯を巻いた亜理子がいた。

みゆきがつけた傷が治っていく。

「やられましたよ。まさか私の想いが破られるなんて。それがあなたの固有スキルですか?」

亜理子の息切れはすでに回復していた。

「そやで。よう知ってるな」

「確か自分の能力を極めた時に追加される個人独特の力、でしたっけ?」

亜理子は何本か包帯をほどいて言った。

「うん。私の場合は私以外の能力の消滅。まぁ発動するのは放った矢だけやけどな」「みゆき。敵に喋りすぎです」

「大丈夫やって。喋った所で止められへん」

もう一度矢を強く引き狙いをさます。

「次は手加減抜きや。死ぬかもしれへんし降参するんやったら今のうちやで?」

「ご冗談を。降参する必要はまったくありません。次は止めて見せます」


ギリギリギリ…

矢に殺気が集められる。

「そう」

さらに矢を引く。

身体を宙に浮かせ放つ準備をする。

「緑、離れて。射つで!!」

高速で移動する緑。

「『善良の讃歌バルドル』!!」

激しい突風と共に矢が一直線で亜理子にむかう。

亜理子はまたも手を前にだす。

しかし、次は違った。

「固有スキル『完璧を求めた虚像イージス』!」

「なんやて!?」

前方が大きく歪む。

そして、光が集まり、束となり真ん中に鏡のついた丸い盾が具現化した。

「無駄や!私のバルドルは能力を無効化する」

亜理子はニヤリと笑う。

「それは場合によりますよ」

竜巻をまとった矢は亜理子の作った盾に突き当たる。

ギギイーーーン!

高回転する矢が鏡を削り摂ろうとする。

「さぁ。ここからです!!」

鏡に矢が写る。

その瞬間に矢にヒビが入っていく。

「なんでや!?」

バキイーン!

みゆきの放った矢は粉々に砕けた。

「嘘でしょ?」

緑が言葉をもらす。

「危なかった。全ての攻撃をそのまま返すイージスがここまで壊されるなんて思いもしませんでした」

盾が消え、服についた土を払う亜理子。

「あんた…固有スキルが使えたんか?」

「使えませんなんて言ってませんけど?」

馬鹿にするように笑う。


「さてと、そろそろ終わらせましょう」





神谷遠時は感じとっていた。このまま行けば二人は殺られると。

「香美市、俺の左手と両足、右手の固定を頼めるか?」

香美市はかなり驚いた顔で「本気で言ってるの?」と言った。

「ああ。確かに今の俺はみゆきさん達を助けられないかもしれないけどこのままじゃ二人とも危ない気がする」

「私もそう思うわ」香美市は遠時の右手を気の棒で固定しながら言った。

「でも、どうするの?」

「とりあえず、俺が囮になるからその間に彦一さんを助けてくれ」

香美市は両足を布で強く結んだ。

「了解したわ」

「よし!作戦スタートだ」

遠時と香美市が動きだした。




「こんのー!」

木刀で投げられた全ての攻撃を叩き落とす。

「てりゃ!」

亜理子の投げたナイフが緑の肩をかする。

緑は気にせずに亜理子の懐に居続ける。

(自分の想いで製造するなら多少の時間はかかるはず。時間を与えずに一気に決めれば勝機はある)

超スピードで木刀の攻撃を繰り出す緑!

亜理子の周りにあった武器が徐々に消えていく。

「もう少し…」

さらに近ずく緑。

「くっ!」

緑に押され後退をしていく亜理子。

「いい加減どいてくださいよ!!」

残っていた周りの武器が一斉に攻撃をする。

だが、緑は紙一重で全てをかわす。

「勝負に焦りましたね」

ニッと笑う緑。

「くっそ!想い欲するのは-


製造を始める。

「甘い!!」

右足に力をためて一気に蹴りつける。

地面の爆発と一緒に緑の身体が一気に亜理子に近ずく。

「もらった!!」

横に持った木刀を今まさに振り抜く!

「なんてね」

亜理子の赤い舌が現れる。

「固有スキル『完璧を求めた虚像イージス』!!」

「なっ!?」

ガゴーンー!

緑の身体は肩から全てをそのまま返す盾にぶち当たった。

「あああーーー!」

倒れて肩を押さえ込む緑。

「すごいスピードでしたね。トラックに突っ込まれたみたいでしたよ」

盾を消し、上から覗き込む亜理子。

「その分のダメージはあなたが受けたんですけどね。アハッ!」

亜理子は無邪気な笑顔で微笑んだ。

「貴様ーー!」

みゆきが弓矢からいくつもの矢を射つ。

「『ファンタジークリエイト』!!」

空間よりでた武器が矢と当たり地面に落ちる。

「どうしたんですか?固有スキルを使ってくださいよ。イヤっ!使えませんよね?あれだけの能力ですから自身の負担も大きいはずです」

「ごちゃごちゃうるさいな。舌噛むで!」

矢が放たれる。

亜理子は西洋剣で弾き落とす。

「まぁ、私は違いますけど…」

亜理子から強い殺意が発せられる。

手のひらを地面につける。

「固有スキル『破戒をもたらす呪いのアンドヴァリナウト』」

その瞬間、飛んでいるみゆき下の地面からいくつもの鎖が現れ手や足、翼を覆いみゆきを地面に打ちつけた。

「グハッー!?」

鎖はみゆきの全身に絡まり身動きがとれない状況となった。

「どう言うことや?固有スキルが二つあるなんて」

上半身を無理矢理起こす。

「それだけ私がお兄ちゃんに対する憎しみが大きいって事ですよ」

空間から槍を取り出しながら言う。

「さてと、これでさよならです。ああ、言っておきますけどその鎖は私の力でしか壊せませんから」

槍は投げられた。

みゆきの心臓に向かって高速で!!

ガシッ!

「っとに危ねーな!」

神谷遠時は飛び出してボロボロの右手で槍を止めた。

「遠時くん!?」

「みゆきさん、逃げますよ。今、香美市が彦一さんと緑さんを助けてるんで俺達はこのまま逃げましょう」

香美市の方を確認する。

香美市はすでに彦一を背負い、緑の所に向かっていた。

「さぁ。速く!」

急かす遠時。

「遠時くんだけ逃げて。私はこの鎖でここから動けへんから」

みゆきは立ち上がろうとするが、鎖は一行に外れない。

「そんなことできません」

鎖を引っ張り外そうとする。

「私が隙を作るから速く逃げ!」

「何をコソコソ話しているの?誰も逃がしませんよ」その声と同時に地面からいくつもの鎖が現れる。

「くっ!『デスティニーチョイス』!!」

対象を自分にし、ギリギリ鎖をかわす。

「やりますね。でも、お仲間は違いますよ」

亜理子が指をさす方向には鎖によって自由を奪われた香美市がいた。

「ごめん。捕まった」

香美市は苦笑い。

遠時の苦笑。

「さぁ。後は神谷先輩だけですよ。どうします?」

「決まってんだろ!全員助ける!!」

遠時が亜理子のもとに走りだす。

「やっぱりそうですか…」

空間からの武器が遠時にむけて放たれる。

「うおーーー!」


ドガッ!


横からおもいっきり腹を蹴られた。

「ぐえーー!?」蹴飛ばした男は迫り来る剣、槍、斧、鎌などの全ての武器を拳一つで打ち破った。


亜理子の驚愕の顔。

否!!

周りにいた全ての者が驚きの声をもらした。


「いいね~。その人を化物みたいに見る眼」

男は静かに笑い言った。


「さぁ、終極だ亜理子!もちろん俺の勝ちでな!!」


「神童彦一」は高らかに宣言した。




小さい頃の自分は何一つできなかった。

勉強でも、スポーツでもどんなことも私は兄に負けていた。

家族には事あるたびに比較された。

「お兄ちゃんあんなに頑張っているんだから貴女も頑張りなさい」

「少しは兄さんを見習ったらどうだ?」

家族だけではない。

友達は私が兄の妹だからよって来る人はあとをたたない。

「あなたって彦一さんの妹なんですか?」

「すごいですよね~あなたのお兄さん」

「お兄さんの話をもっとしてください」

自分はまるでこの世界にいないようにすら思えた。

しかし、それでも自分の兄を憎めなかった。

才能溢れ誰からも信頼されている兄を自分の目標にしていた。

しかし、兄は変わってしまった。

私が中学に入る時兄の性格は急変した。

誰とも交わろうとせず、氷のように冷たい人になった。

周りの人間の目も変わり兄を異常に見るようになった。


そして事件は起こった。


母親がストレスからの自殺。信じられないことに葬式時の兄はまったく悲しみの顔をしていなかった。

私は頭が真っ白になった。

知らぬ間に台所の包丁で兄を刺そうとした。


それからの兄は全てを閉ざした。

その瞳には喜怒哀楽のどの色も映ってはいなかった。

それが許せなかった。

しかし、自分にはどうすることもできなかった。

そんなある日、この戦いを知った。

私は心がはち切れんばかりだった。

兄を殺して全てのやり直しができる。

その希望が現れた。

そして今日、一つの夢が叶ったはずだったのに……


「どうして生きてるの!?」

「さぁ。不死身だからじゃないの」

軽く言う彦一。

そして蹴飛ばした遠時のもとに近ずいていく。

「回復…できないんじゃ……ないんですか?」

もうろうとした意識で遠時は質問した。

「まぁ、それよりもっと!」

彦一が公園の外まで遠時の身体を蹴り上げた。

「のはー!?」

道に植えてある木にぶつかりながら落ちていく。

「ちょっと彦一?」

「何してくれてんのよ!」

彦一の行動にみゆきと香美市が突っ込む。

「よく見てみろ」

彦一が指を差す。

その遠時の姿は全ての傷が治っていた。

「どう言うことや?」

左手はちゃんとあり、両足の出血の傷もなかった。

「これがあいつの能力だよ」

にやける彦一が見る先の亜理子は強烈な殺意をだして睨み返してきた。

「製造型とか言ったな。確かにそのタイプの能力は強い。しかし、力が強ければ強いほど条件が出で来てしまうもんだろ」

彦一はにやにやして亜理子に近ずく。

亜理子は武器を製造して彦一に投げつける。

武器を全て叩き落としながら彦一は言う。

「お前の能力の条件はいくつかある。まず一つ目が能力を使える範囲」

「範囲やて?」

鎖から身体を外そうとしながらみゆきは尋ねた。

「緑が絶対命中の弾を喰らった時に一発だけ公園の外に出た弾はその場から消えた。さらに、みゆきの固有スキルで吹き飛ばされた時、まだ傷が治っていないのにもかかわらずこいつはすぐにに近ずいてきた」

二本の指を立てる彦一。

亜理子の頬から一筋の汗が流れた。

「この二つの事からこいつの能力の範囲はこの公園の一周分ぐらいだ、そして、この範囲から出れば傷は消えるし、亜理子が出ればこの能力は解除される。だから、すぐに公園の端から離れなきゃいけなかったんだろ?」

嫌味ったらしい顔で亜理子に問いかける。

「ウフフフ…。正解だよお兄ちゃん。さすがは天才だね」

「まだだろ?」

亜理子の言ったすぐに彦一は声を上げた。

「なにが?」


周りには先程よりも多くの武器が現れていた。

「どうして緑やみゆき、香美市の四肢を遠時の時のように切断しなかったんだ?」

「ッ!!」

亜理子が口ごもる。

「どうして自分の奥の手でもある固有スキルをわざわざ使ったんだ?勝てない勝負じなかったのに」

「それは-

「どうしてそんなに血を流せさそうとしないんだ?」

彦一からは殺気がでていた。それも、遠時にした時と同じように自分の妹へ。

「うるさいー!!」

亜理子は彦一ではなく鎖で動けない香美市と倒れている緑の方をむく。

「友達なんでしょ?だったら死ぬ気で守ったら!」

浮いていた武器が二人に向けて放たれる。

「こ…の……」

「緑さん!?」

緑はなんとか立ち上がり香美市の前方に立ち塞がる。

「緑さん。やめてください。速く逃げてください!」


「その通りだ。やめておけ。俺がなんとかする」

神童彦一は緑にも遅れをとらない高速速移動で目の前に現れる。

「「彦一さん」」

二人の声が被る。

「この量は多いな…。よし、緑!木刀を貸せ!!」

言われるがままに木刀を彦一に渡す。

彦一は右手に木刀を左手で拳をつくる。

「『アタラクシア』発動」

左手に力がこもる。

ビヒューーーン!

ガガガガギギギーー!

木刀で弾き落とし、左手で砕き壊す。

何百本とあった武器が欠片も後ろに飛ぶことなく彦一は全てを破壊した。

「な…そんな嘘でしょ」

亜理子が驚愕の声をあげる。

「お前のもう一つの条件、それは能力中に相手が流した出血量分お前の血も無くなっていく。だから、出血量の多い攻撃ができなかった。そうだろ?」

「くっ!それは-

「お前の能力は相手に敗けを認めさすか、殺すしかない。お前に人は殺せない、かといって敗けを認めさすには流す血の量が一緒なら相討ち覚悟で挑むしかない。二つともお前には不可能だ」

キッパリと言いきった彦一。

亜理子の顔に怒りが現れる。

「そんなことお兄ちゃんきわかるはずないでしょ!」

「わかるさ。お前は俺と違って優しすぎる。そんな奴が人と戦えるはずがない」

「うるさい!うるさい!!そうやって自分は全部知ってるみたいに言って!そこが-


亜理子は地面に手のひらをあてる。


「嫌いなのよ!!」

彦一の地面が揺れる。

「彦一さん、逃げてー!」

緑が叫ぶ。

「固有スキル『破壊をもたらす呪いのアンドヴァリナウト』!!」

いくつもの鎖が彦一を襲う!

「チッ!!」

舌打ちと同時にその場から大きく跳躍し離れる。

鎖は数を増し一気に押し寄せる。


「あの生徒会長でもこの鎖はマズイくない?」

香美市は必死に逃げる彦一を見ながら言う。

「おそらくですがこの鎖は彼女の精神力で出来ていると思います。遠時さんと同じ量の血を失っていてもあそこまでの鎖がだせるんです。彼女の精神力は尋常ではありません」

肩の怪我は酷いが、さっきのような攻撃を警戒して緑はその場から動けなかった。

「どうりでこれ切れないわけだわ。能力で移動さすこともできないし」

「あの鎖に捕まれば勝負が決まるかもしれませんね…」

その後は沈黙が続くだけだった。



ビュッ!ビュッ!ビュッ!

槍などを製造し、鎖をかわしている彦一に投擲する。

かすりながらも避け続ける彦一。

それを見てさらに怒る亜理子。

「それなら、これで!!」

狙われたのは緑と香美市ではなく反対側に居るみゆきだった。

「みゆきさん!危ない!!」

遠時がみゆきに呼びかける。

しかし、みゆきは鎖で動けない。

「クッソタレーーー!」

彦一が地面を蹴りつける。

大爆発を起こす大地!!


緑の高速移動を超える。


みゆきの周りに土煙が上がる。

彦一の血しぶきが上がる。


投擲された槍が右肩を貫く。

「彦一!」

彦一の動きが止まった瞬間にいくつもの鎖が身体を覆う。

「彦一さん!今行きます」

公園の中に走りだそうとする遠時。

「来るな!」

彦一の叫び声。

遠時の脚に急ブレーキがかかる。

「まだ能力を解除していませんから。中に入れば傷はもとに戻りますよ」

武器を製造しながら言う亜理子。

「大丈夫だ遠時。なんとかする」

彦一はたくましい笑みでこちらを向く。

「大丈夫じゃないよ。その鎖は絶対に切れないんだから」

製造した武器をいつでも発射できるようにする。

彦一は鎖の状態を確認するかのように観察し、「よし!」っと一言。

「『アタラクシア』発動!」

声と共に彦一の左手の筋肉が膨張を始める。

「無駄だって言っ-


ピキッ!

鎖にヒビが入る。

「そんな馬鹿な!?私の心が負けてるって言うの?」

ギギギギーーー!

「あぁぁぁぁーーーら!」

ブチィーン!

身体を覆っていた鎖が全て壊されていく。

「どうして?その能力は身体がもたないはずでしょ」

彦一は遠時と戦い、亜理子に刺されていても顔色一つ変えることなく能力を使っていた。

「俺の能力は確かに何度も使えるわけじゃない。だがな、それは能力の力全部を本気でやったらの話だ」

「なっ!?本気じゃなかったの」

彦一は肩の槍を抜き回復させる。

「使っていても遠時の時は40%ぐらいだったしな。まぁ、お前に刺されたのでかなり使っちまったけど」

傷は完璧に治り、彦一は何度か肩を回す。

「ふざけないでよ。これじゃ私の…私の作戦が台無しよ」

頭に手を押さえ込む亜理子。

「鎖を壊せるようになったのがいい証拠だ。今のお前は戦えない。おとなしく敗けを認めろ」

一歩近ずく彦一。

その動作だけで威圧感があった。


「敗け?敗け!?敗けー!!??私がまた劣るって言うの?自分には勝てないって言うの?嫌だ嫌だ嫌だー!!もう私は敗けたくない!!」絶叫する亜理子。

そして、彼女の周りの地面からは無数の鎖が彦一とみゆきを囲むようにして現れる。

「想い欲するのは大地を壊す砲弾。雷のごとき速さで姿をなせ!!」

亜理子の製造!

生み出されたのは銃弾。

それも五階建てのビルに匹敵するほどの大きさ。

亜理子の全ての憎しみがその銃弾にこめられた。

「潰れ死ねーー!」

超スピードで放たれる銃弾。

その姿は巨人が手を振り下ろすように思えた。

「彦一!逃げて」

みゆきが彦一に話す。

「みゆき!!絶対に動くなよ」

手を前に突きだす彦一。

そして口から一つの言葉を言う-


「『完璧を嫌悪した実像イージス』!」

その瞬間、亜理子の時と同様に光が集束し丸い盾が現れる。


ドガシャーン!

何十倍もある弾丸が一枚の盾によって砕け散った。

「なっ、なんやて!?」

眼を疑うみゆき。

そう、それはまさしく-


「彦一さんの固有スキル」

言葉が漏れる遠時。

「そのスキルは…どうして?」

眼を丸くして聞く亜理子。

「兄弟なんだ。似るのは当たり前だろ」

彦一は右拳を強く握る。

「さぁ、最後の勝負だ!!」

走りだす彦一。

亜理子は武器を投げつける。


多くの刃物が止まることなく発射される。

あらゆる攻撃を紙一重でかわし、突き進む。

その瞳は勝利を確信している輝きがあった。

亜理子は手を前に突きだす。

「固有スキル『完璧求めた虚像イージス』!!」

発動する技に最後の希望をこめて。


亜理子の前方に光の盾が発生する。

全ての攻撃を返す最強の盾。

しかし、彦一は一瞬も躊躇することなく拳を放った。

ベシャーーン!!


殴りつけた力、全てが右拳に跳ね返る。


それでも…

「あの人の拳は止まらない」

戦い誰よりも強さを知る遠時には勝利の結果は見えていた。


「『アタラクシア』最大解放!!」


彦一の右腕が爆発する!

吹き飛んだ腕の中から筋肉と骨だけの腕が攻撃を続けていた。


「筋肉の急速な活発化に周りの皮膚が耐えられなくなったのか!?」

血の滴る右腕を見ながら遠時は言った。


彦一は一歩に力をこめてただ前に突き進む。

ピギッ!

鏡の周りに亀裂が生じる。

「そんな!?全ての攻撃をそのまま返す盾なのよ。どうして防げないの?」


ピギッ!ピギギギーー!

一つの亀裂が盾全てに侵食していく。

自らの力に耐えられず崩壊していく状態のまま、その腕を振り抜いた!


盾が砕け散る。


彦一の右腕と同じく盾も攻撃を返せる限界をこえた。


呆然と立ちつくす亜理子。

能力が解除されたのか、みゆきと香美市を捕らえていた鎖が消える。


彦一はゆっくりと亜理子に向かって歩き始める。

「…殺してよ」

消えてしまいそうな声で亜理子は言った。

彦一の足が止まる。

「どうしたの?お兄ちゃんの勝ちよ。早くお兄ちゃんを殺そうとした犯人を殺せばいいわ」

今度は小声ではなく声を張り上げて言った。

「私はお兄ちゃんが憎かった。何でもできて、誰からも頼りにされて 、自分の兄だと思えないくらい完璧だった。それなのに…」

亜理子の言葉が詰まる。

彦一の右腕は剥がれていた皮膚がビデオの巻き戻しのように治っていく。


「どうしてあんな風になっちゃったの?どうして母さんを自殺まで追い込んだの?」

亜理子の瞳から大粒の涙が溢れだす。

「違うで亜理子ちゃん!あんたのお兄さんはのせいやない、悪いのは周りにいた-

「みゆき!!」

亜理子よりも声を張り上げてみゆきの言葉を消す。

「いいんだ」

その表情は怒りでも悲しみでもなく、満足げな笑顔だった。


「私はどうやってもお兄ちゃんを許せない。何度考え直してもさらに強い憎しみが生まれるだけなの」

涙が亜理子の顔を壊していく。

今まで見たことないほど感情が表に出ていた。


彦一は静かに目を閉じ、亜理子の目の前に立つ。



「亜理子」


何よりも透き通った声で彼女の名を呼ぶ。


「俺を許してくれとは言わない。むしろ許さないでくれ。それは俺の罪だ。償うことはできない。だからな-



亜理子の頭に手を置き優しく撫でる。


「俺を憎むことが生きる理由になるならその答えを俺は否定しない」


「えっ!?」

予想外の言葉に驚きを隠せない亜理子。


彦一は頭を撫で続ける。


「どんな理由でもいい。生きる答えがあるならお前はずっと笑っていてくれ。俺の目が見えている間は涙を流さないでくれ」



その笑顔は今まで一度たりとも見せることがなかった彦一の心が現れていた。

亜理子の涙が止まる。


「お兄ちゃんのたった一つのお願いだ」

「うん!!約束する。絶対に破らないよ」

その言葉と同時に亜理子は気を失った。

彦一は地面に倒れる前に亜理子を支え、背負って公園の出口まで歩き始める。


途中、回復した緑が呼び止める。

「彼女を戦いから外さないんですか?」

「俺が生きてるんだ。無理矢理やめさすことはない。全部はコイツに決めさせるよ」

そう言い残して出口に向かう。


出口には神谷遠時が立っていた。


「大丈夫なんですか?」

「大丈夫だろ。ただ血を無くしすぎただけだろうし」

亜理子を軽く背負いながら公園から出て行く。

「なぁ、遠時」

すれ違い様に呼ばれる。

「なんですか?」っと振り返って言う。

彦一は振り返らずに歩を進めて呟くように話した。

「もし、お前が自らの正義を語るのなら、もっと強くなれ」

「強く…」

「自分の正義を貫けば、その分自分の大事な物を失っていく。俺はその事が耐えられなかった。でもな、お前なら-


誰よりも正義を知る者は少年に言う。


「自分の正義を守れると信じている。だから、強くなれ!!戦えば自分も含めて全てが悪だ。しかしな、悪の中の正義を見つけろ。それが出来たなら俺のカードをくれてやる」


いずれ越えなければならない壁は大切な者を背負いながら消えていった。


「ありがとうございました」


遠時の声が大きく響き渡った。






「だからな、これをこうして-

「わかんねー!!」

「図書室では静かにしてください!」


あまりにも酷い自分の学力を直すためにみゆきと一緒に勉強をしている今日この頃。

進展がない自分の頭についにしびれを切らして叫んでしまった。

「神谷先輩!ここは図書室ですよ。勉強するなら静かにやってください」

隣で読者をしていた後輩の亜理子に注意を受ける先輩の遠時。

「遠時くん、どうやってこの高校入ったん?数学は壊滅状態やで」

「言わないでー!!」

「静かに!」


今日の図書室は大変賑わっている模様。

さらに、賑わいに油を注ぐように図書室の扉が緑にって強く開かれる。

「彦一さんと香美市さんが決闘をするらしいですよ!!」

「「「なにー!?」」」





急いでグラウンドに向かうと激しく息を切らしている香美市とかなり離れた所でバットを構えている彦一、そして呆然と立ちつくす野球部がいた。


「緑さん?」

「いや、私は決闘と聞いたので…」

「緑?」

「あの~、その~……」

「緑先輩?」

「どうもすみませんでした」

誰がどう見ても二人は野球をしていた。

それも一方的に彦一が優勢だった。

「これで0対48なんだがいい加減諦めてくれないか?」

「うるさいわね!!まだ一回の裏よ」

「逆に言えば、一回の裏でこの結果なのか。コールドは?」

「そんなもんないわよ!どっちかが自分に負けるまでよ!!」

言い終わると同時にボールを投げる。


卑怯だろ!


カキーン!!

見事なホームラン。

卑怯ではなかった。彦一にとっては…

「0対49ですね」

「彦一って確か小学校のころ野球してたんやろ」

「それより、自分に負けるってなんですか?ルールおかしくないですか?」

まず、野球部からグラウンドを奪っている時点でおかしいんだよ!!


仕方なく二人を止めに入る遠時。

「ハイッ!やめましょう二人とも。迷惑かかってますよ。主に野球部に」

「だから、俺はやめたいんだって」

ヤレヤレと首を振る彦一。

「止めないで遠時。今は黙って私の勝利を待つ時よ」

一生来ねーよ。

お前の勝利は…


「これ以上やっても絶対に一回の裏は終わらない気がするんだが」

「うん。私もそう思うわ」

マジ顔で言う香美市。


馬鹿か?


「とりあえず違う形で勝負をつけましょう」

緑がグラウンドの端から言う。

「じゃあジャイケンでよくないですか?」

続いて隣の亜理子が言う。

「ジャイケン?私の得意分野だわ。この勝負もらった」


馬鹿だ!


「ジャイケンだと?本気か?命を賭けるんだな?」


馬っ鹿!


この人ジャイケン勘違いしてない?


「じゃあ、野球部の為にも早くやろ~。せーのっ!!」


「最初はグー


掛け声が始まる。


二人の拳が前に出る。

「ちょっと待って-


「「ジャイケン!!」」


彦一の血が出るんじゃないかと思うぐらい強く握りしめた拳を

香美市のいつの間にか取り出したカッターを


「グー!!」

「チョキー!!」

「予想どうりー!!」

奇跡的に双方とも攻撃をかわす。

二人の間に入って止めようとする遠時。

「どけー!遠時。決闘の邪魔をするな!」

「うるせーよ!さっきまで嫌がっていたのになんで今ノリノリなんだよ!?て言うか誰か止めるの手伝ってー!」

危険すぎる二つの攻撃を止めるのは不可能だった。

しかし、助けを求めた相手達は-

「試合があるのです怪我はちょっと…」

「アッハハハハハハハ~!!」

「香美市先輩ー!チョキはハサミですよー!」

全部人任せだった。

「あっそうか」と言ってカッターをハサミに持ち変える香美市。

「だ~か~ら!やめろーーー!」


夢を叶える戦い -ゲットバトルドリーム -

この戦いでは自らの夢のために他の人間を傷つける。

仲間は一人もなく。

頼れるのは自分の力。

その戦いの中で彼らの楽しげな笑い声は少し長く続いていった…


すいません。また少し長くなりました。

今回の話は遠時よりも彦一の出番の方が多かったですね(笑)

自分でも彦一は気に入ってます。


では、まだ続きますのでこれからもよろしくお願いします。

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