第三話『正義と悪と生徒会長』
学校の放課後、補習で残された遠時と付き添いの香美市の教室にあらわれたみゆきを追って来た人物は最強の生徒会長!?
ゲットバトルドリームの三幕目がついに始まる!!
月夜の暗がりの道に男の目が鋭く光っいた。
男は一人の人物を追っていた。
「この辺りか」
地面には敵の男のものと思われる血が居場所を教えていた。
確かこの先は行き止まりのはずだ。
男は路地の角を曲がった。
想像通り敵は胸を押さえてしゃがみこんでいた。
息はかなり上がっている様子だった。
「ハァハァハァ……糞が!どうなってんだよ。てめえみたいなガキに」
死にかけの状態で吠える
なにも言わずに少しずつ近ずく。
しかし、敵まであと三歩とのところで地面に違和感を感じた。
地面が囲むように割れ、鋭く突き刺さるように迫って来る。
「馬鹿が死にさらせ!!」
敵の叫び声。
一歩下がり避けようとするが間に合わず、刀のように尖った土が胸に突き刺さった。
大量の血が地面に色をつける。
敵の歓喜の声があがる。
しかし、男はなに食わぬ顔で土の刀を抜き敵に近ずく。
「『アタラクシア』発動…」
静かな声と同時にキズは再生を始める。
「な、何!?」
その言葉を最後に敵の男はゲットバトルドリームから退席した。
男は敵の首から挿していた指を抜く。血は止まることを知らないように首から流れ続ける。
手を拭き、死体の懐からカードを奪い去っていく様子をビルの屋上から一人の参加者が視ていた。
夕日がまばゆい教室に俺、「神谷遠時」だれていた。
数学の補習をくらい、もらったプリントを出来るまで帰れないのであった。
「まだ~遠時。私、眠くなってきたわ」
少し茶色の混じったロングヘアーの女が前の机でうつ伏せになっている。
「香美市絵里」
いろんな騒動の中で夢を叶える戦い- ゲットバトルドリーム -の協力者である。
「そんなこと言うんだったら少しは手伝ったらどうだ」
「嫌よ。めんどくさい」
速答!!
この女は普段の生活では何故こんな冷たいのだろう。
三週間前の病室での優しさが懐かしく思えるぜ。
「お前、あれだろ。世間一般的に言うツンデレなんだからたまにはデレろよ」
「失礼な!!私はツンデレじゃないわよ」
机から跳ね起きて否定した。
「じゃあお前は何なんだよ?」
(ただのツンか)
「あれよ、あれ。何て言ったかな。あっ!!」
一拍あける
「ヤンデレよ。そう、私はきっとヤンデレなのよ」
「お前は違うから絶対にそうなるなよ」
屈託のない笑顔で言う香美市に警告をだす。
もしこいつがそうなったら何かの弾みでカッターが飛んできたそうな予感がする。
(マジでそれは怖いぜ)
そんなくだらない事を考えていると教室の扉が開く音がした。
「ヤッホー!元気か~遠時君」
ショートカットの活発そうな印象の女性 「音羽みゆき」がそこに『立っていた』。
以前は脚が悪く車椅子に乗っていたが弓道場での戦い後、原因は不明だが驚異的な回復を見せ、今ではほぼ完治に近い状態で普通に歩いている。
「う~ん?見たところ補習かな。上級生のみゆきさんが手伝ってあげようか?」
「必要ありません」
ニコニコして近ずいて来たみゆきに香美市が冷たい一言を放った。
なんでお前が答えてんの!?しかも断るのかよ!
「馬鹿!!お前なんて失礼なこと言うんだよ」
「馬鹿に馬鹿って言われたくないわ。この愚図!」
「すごく傷つくことを言われた!!」
やっぱりこいつはただのツンだ。間違いない。
「そんな嫌わんといて。別に取って食うわけやあらへんし」
そう言ってとなりの机の椅子にすわる。
「ふん!どうですかね」
かなり不愉快な様子である。て言うかなんでこんなに二人は仲悪いの!?
「疑り深いな~。あっ、遠時君そこ間違えてるで」
先程やった問題が訂正される。
自信あったのに…
「教えちゃダメですよ。遠時のためになりませんから」
どの口が言う!どの口が!!
「そうか?でも、見たところ正解してる問題は始めの一問と二問だけやで」
「えっ、マジですかそれ!?」
十五問中、二問しか合ってないってどうなってんだよ。
「待てよ。じゃあ香美市、お前始めから俺が間違ってる答え書いてるの知ってたってことか?」
「まぁ、そうね」
あっさり言いやがったぞこの女!!
「笑いをこらえるのってしんどいわね」
「お前、絶対に友達いないだろ」
今までの時間を返せ!
「まあまあ。私が教えてあげるしおちつき」
みゆきがおさめようとする。
「だから、教えちゃダメなんですってば!それより、なんで三年のあなたが二年の教室にいるんですか?」
確かにそれは疑問に思った。
「ああ。それわな―
ガラガラガラ
閉めきっていた教室の扉が開く。
「こんなとこにいたのか?」
扉の方を向くと黒髪の男いた。
「げっ!!彦一」
みゆきは椅子から飛び上がる勢いで男の名前を呼んだ。
「文化委員の仕事サボってなにやってるんだ?」
彦一と言う名の男は不機嫌そうにみゆきに質問をする。
「えっとな~。かわいいかわいい後輩を助けてたんや」
「そうだったんですか?」
こちらをむいて目で聞いてくる。
「あっ、はい。教えてもらったと思います」
「遊んでましたよ」
またこいつはいらんことを!!
「だって」
「イヤイヤ!違うよ。絵里ちゃん嘘ついたらあかん!!」
めずらしく焦ってる様子だった。
「みゆきさん。この人誰ですか?」
「「「えっ!!??」」」
全員が驚いた顔でこちらを見る。
「なに?俺なんか悪いこと言った?」
「悪いもなにも、あんた本当に知らないの?転校生の私でも知ってるわよ」
そんなこといわれても今日、初めてあったはずだ。
「遠時君はいつも集会は寝てるって言ってたしな~」
「いろんな意味で傷つくよ」
みゆきと彦一が冷たい目で睨む。
「すいませんでした?」
「なんで疑問文なんやー!」
「なんで疑問文なんだよ!」
(わ~すごい!二人とも息ぴったりだよ)
「まあいいや。今から知ってもらうか」
彦一はしぶしぶそう言った。
「俺の名前は神童彦一。この学校の生徒会長をしている」
「あっ、だからか」
「やけに反応が薄いな」
「あっ、DAKARAか」
「カッコよく言っても同じだ!!」
生徒会長か。どおりで知らないわけだ。俺は集会やホームルームなどでは爆睡してるからな。
「まぁ、とりあえずよろしくな。えっと…」
「神谷遠時です」
「そうか。よろしく神谷遠時」
右手が前にだされる。
差し出された手を強く握った。
……握り返された。
「痛い!痛い!痛いですってば」
手から異様な音が聞こえる。
「ハッハッハ。悪い悪い」
手がはなされ、彦一はみゆきの方を向く。
「さてと、みゆき。仕事だ仕事。文化祭のポスター貼りにいくぞー!」
「ハーイ!頑張ってな~」
「お前も来るんだよ!!」
言ってすぐにみゆきの襟首を掴みひきずりながら教室から出ていった。
「あいかわらず騒々しい生徒会長ね」
ボソッと呟く香美市。
確かにテンション高かったな。よく合うコンビだな、あの二人。
「なにやってるの?さっさとプリントやりなさいよ」
消しゴムでプリントの間違ってる答えを 消す香美市。
「だから、手伝えっての」
遠時は再び問題を解きはじめた。
すっかり暗くなった道を神谷遠時は自転車で自宅にむかっていた。
あれから香美市はまったくの無視で結局自力でするはめになった。
「ホントにたまには優しくなれっての」
文句を言いながらコンビニの前を通ろうとした時、遠時の自転車は止まった。
コンビニの前で女の子が何人かの男逹に絡まれてる。
お人好しとして見逃すわけにはいかなかった。
自転車から降り、近寄ったその時だった。
一台のバイクが目の前に止まった。
運転手はバイクから降り、遠時が向かおうとしていた所に進んで行く。
「あん!なんだよテメー!!」
不良の男逹は気ずき、睨んでいる。
運転手の男はヘルメットをはずす。
その後ろ姿は見覚えのある姿だった。
「なんか文句あんのか―! グベラャー!?」
一人の男が近寄った瞬間に右の拳で殴り飛ばされた。
チラリと見えた瞳は恐ろしいほどの殺意を放っていた。
それは間違いなく彦一だった。
「なんだよ!殺ろってんのか」
「ぶっ殺すぞ!!」
口々に言葉を話す不良逹。
彦一はなにも言わず男逹にむかって行く。
結果は一方的だった。
向かって来た不良逹はみな彦一の拳の一撃で地面に倒れている。
「強すぎだろ…」
言葉が漏れる。
彦一は少し息をきらしながらこちらを見てくる。
「神谷遠時」
とてつもなく低い声で呼ぶ。
「なんですか?」
「お前はこいつらの仲間か?」
……えー!?どんな勘違いしてんのこの人!!
「ぜんぜん関係ないですよ。むしろ助けようとしました」
「ほお、今になってそんなことがよく言えるもんだ」
殺気でてますよ!?マジで勘違いしてるのかよ。
彦一は距離を縮めてくる。先程、不良相手にやったように。
「お前には失望したっ よ!!」
一瞬にして間合いをつめ右のジャブをくりだす彦一。
「のはっと!」紙一重でかわす。耳元で空を切る音が聞こえる。
彦一はなおも距離を縮め逃げられないようにしてくる。
「ちょっと、彦一さん。誤解で―
後の言葉を言うよりも速く彦一の左拳が頬を殴った。
……痛い。
緑のように能力で強化したわけでもないが同様の痛みが走った。
彦一は聞く耳を持たない様子。拳は当たるとかなり痛い。それにくわえて反射で避けれるスピードじゃない。
ここは―
「仕方ないか…」
少し目つむり、カッと開く!目線の先には彦一。
『デスティニーチョイス』発動!!
その瞬間、彦一の時間が世界軸から外れる。本人はなにもわからない。
「すいません、彦一さん」
拳をつくり彦一の顎に振り抜く。
ドガッ!!
鈍い音がする。
彦一は後ろにのけぞる、その動作によって遠時の目線が外れる。
「ぐうー!?」世界軸が戻り、動けるようになった彦一は不思議そうに自分の殴られた箇所をおさえている。
「落ち着いてください。俺はあなたと同じように女の子を助けようとしただけです」
「お前、なかなか強いじゃないか」
嬉しそうに笑顔を作る。
あれ~?話しが噛み合ってなくない?
「俺を殴れた奴は久しぶりだよ。フフ、興奮するじゃないか」
ファイティングポーズをつくりまたも一瞬で間合いをつめてくる。
速い!!
突き出される右手の一撃。
先程よりも断然速い攻撃。避けることもギリギリだった。
「やるな!!さあ次だ」
満面の笑顔で言う彦一。
口調変わってますよ?
左足の蹴りを右手の手のひらで弾き、彦一の目を見る。
しかし、彦一はいなかった。
「何?どこに―
左胸に激痛が走る!
重い一撃が入る。
(マジかよ!?緑さん並のスピードだと!)
この人ただの生徒会長なのか?
「ボッとしてたら終わっちまうぜ!」
彦一の咆哮。
飛び蹴りを転がりながらかわす遠時。
(駄目だ。緑さんの時と一緒で速すぎて能力が使えない)
彦一のフェイントからの右のアッパー!
避けれずガードする。
腕から鈍い音が響く。
さらに、彦一は間合いをつめて踵落としを放つ。
遠時の右肩に直撃する。
「ぐぁーー!」
まずいこのままじゃ殺られる!!
(『デスティニーチョイス』発動!!対象は自分)
その瞬間、世界が白と黒に染まる。
全てのものがスローモーションに見える。
彦一のくりだす攻撃すら止まって見える。
(これなら何とかなる)
彦一の攻撃を避け、右の腕を掴み、後ろにまわす。いわゆる関節技をかける。
今の自分にとっては造作も無いことだった。
「がっ*&#て…:ッー…」
彦一の言葉もスローで聴こえてしまうのでまったく分からない。
(おっと、『デスティニーチョイス』解除)
同時に元の世界に戻って行く。
彦一は腕をまわされた状態のままうめいている。
(どうしたもんかな…)
この手をはなせば、また殴りかかってくるのは明確だけど、彦一さんを説得する方法もわからないな。
「あの~」
横からの声。
手を絞めながら向くと先程、男逹に絡まれていた女の子がいた。
そういえば忘れてたなこの子のこと。途中からぜんぜん関係ないことになってたし。
「あっ、ごめんね。もうちょっと待―
その時だった。
ゴキッ!!
「あああぁぁぁー!」
異様な音。
鳴り響く叫び声。
「おい、嘘だろ!?」
自分で間接をはずしたのか。
左の頭部に激痛が走る!!
後ろを向いた状態のまま蹴られた。
視野がぶれる。
まっすぐ前をみれない。
(やばい!!また、殺られる)
「くっそ!『デスティニーチョイス』発動!!」白と黒の世界が再度訪れる。
彦一は体制を立て直し、睨み付けてくる。
ダランとした右腕をかばいながら静かになにかを呟いた。
「『ア:$クシ*』発&@,;!」
信じられない光景が目に映った。
垂れ下がっていた右腕が動いたと思うと鈍い音と共に間接がはまっていった。
それだけじゃなかった。
一秒を一分と感じている自分と同様に彦一も動いていた。
「どうなってんだよ」
デスティニーチョイスは発動しているはずなのにどうしてこんな速く動けるんだよ!!
彦一の動きは先程のように高速でこちらに間合いをつめていた。
能力なしで戦うしかないのか。
覚悟を決めたその時。
助けられた女の子がゆっくり自分と彦一の間に入って来た。
すると、彦一は急にとまって女の子と話し始めた。
能力を解除する。
「もう!!お兄ちゃん勘違いしすぎ!」
「いや、違うんだよ亜理子」
えええーー!
この二人、兄弟だったのかよ!そりゃ兄貴助けるよな。
「ほら、あやまって。この人は私を助けようとしてくれたのよ」
彦一はしぶしぶといった表情で「悪かったな」と言った。
「ホントにごめんなさい。じゃあ、そろそろ帰ろ。晩御飯はオムライスでいい?」
「オッケー!!またな遠時」
二人はバイクに乗りいなくなってしまった。
て言うか俺の体の心配しろよ!
て言うか内の高校バイクの免許とるの禁止だろうが生徒会長!!
彦一に殴られた箇所を気にしながら帰路についた。
次の日、何時もどおり自転車で登校していると校門前で呼び止められた。
生徒会長様である。
「ハッハッハ!おはよう。遠時君」
「ああ…おはようございます」
テンション高!?
「ちょっと降りてきてくれないか?」
笑顔で手招きをする。
「なんですか」
自転車から降り、彦一のもとにむかう。
ガバッ!!
ヘッドロックをかけられた!?
「バイクのこと、話したら『殺す』!」
ボソっと告げられた一言。
恐え~!
なんだよ畜生。なんで俺だけ態度違うんだよ。
今日は暗い1日になりそうな予感がした。
残念ながらいきなり予感は的中した。
早朝からの香美市の毒舌をくらうことになった。
「遠時昨日、コンビニの前でケンカしてなかった」
「してねーよ」
泥棒の始まりである。
「遠時昨日、生徒会長にボコボコにされてなかった?」
「ボコボコじゃない。接戦だった!!」
すかさず訂正が入る。
ここは譲れない。男として。
「えっ、待てよ。なんで知ってんの?」
「見てたからに決まってるでしょ」
何なんだよこいつは!?俺のストーカーかお前!!
「えっ!その考え方キモい!!」
「思考を読まれた!?」
そういえばこいつは夜型で毎晩、町を徘徊してるんだったな。
「でも、お前の家まで送ったよな」
「家に誰もいなくて、暇だったしコンビニに行ったらあんたが生徒会長にボコボコにされてたの」
「ボコボコじゃない。二人、一歩も譲らない勝負だった」
すかさず訂正が入る。
ここは譲れない。プライドが許さない!
「えっ!その考え方うざ!!」
「だから、なんで俺の思考読めるんだよ!?」
お前の能力にそんなんあったか?
「あんたみたいな奴の思考は簡単に分かるわよ」
「じゃあ、今俺なに考えてる?」
頭では生徒会長がバイクの免許を持っている事を考えた。
大丈夫だよね。話してないし。
「マジで!?でも、私がそのこと知ってあんた大丈夫なの?」
伝わってしまった…
「香美市頼むから誰にも言わないでくれ」
「ええ…私のためにもそうしておくわ」
お互い気まずい空気になった所で授業のチャイムが鳴った。
今日の放課後には予定があった。
昨日、あまりにもひどい俺の学力を心配してみゆきさんが勉強を図書室で教えてくれるそうだ。
しかし、ルンルン気分で図書室にむかうと、みゆきさんはおらずメールで「遅れる」の一言だった。
待っている間、本を見ていると声をかけられた。
かけてきたのは生徒会長様の妹「神童亜理子」だった。
「昨日は本当にありがとうございました」
ツインテールの黒髪を揺らしながら頭を下げる亜理子。学年は一年生で後輩だった。
「いや、こちらこそお兄さん止めてくれてありがとう。あのままだったらけっこう危なかったし」
「ボコボコでしたもんね」
「接戦だったしな」
さりげなく訂正。
ここは譲れない。社会的に。
「でも、お兄ちゃんとケンカで怪我しないなんて、すごいです」
イヤイヤ!?してるよ。内出血とか!見えない所で怪我してるよ。
「でも、なんであんなに強いんだ?生徒会長だからか?」
「お兄ちゃんは中学時代は不良のトップでしたから」
「あ~なるほど。って、ええーー!!」
不良!?生徒会長様が不良!?
確かに強い理由にはなるけどまさか不良とはびっくりだ。
「やっぱり驚きました。でも、頭はよかったんですよ」
「何があったんですか?」
その質問になると亜理子は急に黙りだした。
「話したくないなら言わなくていいよ」
「いえ、お話しします」
少し間を開ける。
「お兄ちゃんは不良の中でもかなり悪かった方で、警察沙汰も何度かありました」
そりゃ、あのパンチは普通にくらったら病院送りだしな。
「それで、世間からも色々言われて母が耐えきれずに自殺を…」
「母親が!?大丈夫なのか?」
「お父さんがいましたから生活には困りませんでした。でも、それからお兄ちゃんは人が変わったみたいに問題を起こさず勉強をしてこの高校に入ったんです」
馬鹿な俺が言うのも何だがこの高校はかなり頭が良く、簡単に入れる高校ではない。
「よかったじゃないか」
亜理子は首を左右に振った。
「お兄ちゃんはこの高校に入ってから昨日まで本当に笑ったことはありませんでした」
「昨日まで?」
「遠時さんとケンカしている時のお兄ちゃんすごく楽しそうだったんです」
嬉しくねー!どんだけ悪かったんだよあの人。
「遠時さん!これからもお兄ちゃんと仲良くしてくださいね」
強く呼びかけられた。
「まぁ、頑張ります」
亜理子はニコッと笑ってから図書室から出ていった。
それと入れ違いにみゆきさんが入ってきた。
「今の子。彦一の妹やね」
「そうですね」
「彦一と言えば…」
嫌な予感。
「昨日、ボコボコにされたらしいなぁ~」
「そうですね…」
訂正はしない。
自分的に。
「香美市絵里」は一人の人物を追っていた。
息を殺しながら、きずかれないようにまっすぐ歩き続ける男の後ろを電柱に隠れて歩いていた。
いつもなら放課後は神谷遠時と一緒に遊ぶ時間なのだが、今日はどおしてもやらなければいけない使命があった。
香美市絵里はゲットバトルドリームで夢を叶えることは諦めているが、パートナーの遠時の願いである「ゲットバトルドリームの廃止」を協力する立場になっている。
その願いを叶えるために香美市絵里は放課後から一人の男の追跡を開始した。
男は何もない田舎道を早足で歩く。
ついていくために少し影から身をのり出したときだった。
「どこまでついてくるきだ?」
間一髪入れずに振り向かれ見つかってしまった。
「神童彦一」に見つかってしまった。
「たまたま、帰り道がこっちなだけですよ」
「ならお前はいつも電柱に隠れながら下校しているのか?」
「ええ。実は私電柱フェチなんです」
「君のイメージがどんどん悪くなっていくよ」
ため息を吐く彦一。
「で、何の用だ?」
するどい目でこちらを睨む。
「別に用って程じゃないんですけど。昨日のコンビニのことで」
彦一は「なるほど」と言い。
「確かにあれはすまなかった。ムキになったし俺の勘違いだった。遠時君を殴ったことは謝るよ」
そう言って頭を下げる。
「そのことじゃないんですよ」キョトンとした顔をする彦一。
「じゃあ何のことだい?」
「外された右腕の間接の治り方やその後の常人離れした動きです」
少しだけ彦一に近ずきながら言う。
「なるほど。そう言われば変な直し方だったかな。動きの方は覚えてないよ」
ニッコリ笑って話す彦一。警戒心はまったく無いように感じた。
「もういいかな?今から晩御飯の買い物に行かなきゃならないんだ」
振り返って帰ろうとする。
「あっ!じゃあ最後に一つだけいいですか?」
「いいよ」と彦一。
「『アタラクシア』とはあなたの力の名前ですか?」
その瞬間、笑顔が消える。
今で感じたことのないような殺気を放たれる。
まるで首を締め付けられるような息苦しさに襲われた。
この殺気を彦一がだしているのが信じられなかった。
「そうか…迂闊だったな。遠時以外の奴には聞こえたのか」
とても低い声で呟いた。
「やっぱり神童さんはゲットバトルドリームに参加しているんですか」恐る恐るきいてみる。声は震えていた。
「もう隠しても仕方ないな」
彦一は胸のポケットからカードを取り出した。
「ご名答。神童彦一は夢を叶える戦いに参加しているよ」
高らかに、先程と同じ笑顔で告げた。
縮めていた距離はいつの間にか一人分ほどになっていた。
「それなら、あなたはこの戦いに何を願っているんですか?」
「聞いてどうするんだい?」
「私や遠時はゲットバトルドリームを無くそうと思っています。だから、私達はこの戦いに勝たなければいけないんです。だから、最後の日に残るためにカードを集めているんです」
「ほお…」と腕を組ながら言い
「つまり、俺に願いを叶えるのを諦めてカードを渡せと言うことか」静かにうなずく。
「断ると言ったら?」
「言わないで下さい」
鞄を背中に掛け右手首の袖からカッターを、左手首の袖から短いナイフを取り出す。
「まいったな。自分の高校の奴とは戦かわないって決めてたんだけど…」彦一は鞄を地面にほうり投げて両手をかまえる。
「正当防衛ならしかたないな」
言い終わるよりも速く間合いをつめてくる。
ナイフを振りかぶって投げる!!
空を切りながら彦一へ一直線にむかう。
彦一は当たる寸前のところでカッターを掴む。
二人の距離は三歩ぐらい。香美市は一気に間合いをつめ、あいた右脇に蹴りをいれようとする。
しかし、左手の掌ではじかれる。
「やっぱり強い!」
後ろに跳び距離をとる。
香美市の蹴りは簡単に防げるほど軽くはない。それをはじく彦一も相当の強者である。
「でも、私にふれたわよね」
後ろに掛けた鞄に手を突っ込み中からコンパスや鉛筆、彫刻刀などの武器を右手で握る。
「『ムーブプレイス』発動!」
その瞬間右手の武器が消え彦一の左の掌に突き刺さる。
「グウァーー!?」
うめき声。左手は香美市が先程まで手にしていた武器で赤く染められていた。
「神童さん。これ以上の戦いは無理です。カードを渡して下さい」
血は予想以上に流れている。
「フフフ…ハッハッハ!!」
にもかかわらず不敵に笑いだす。
「何がおかしいんですか?」
「なに、お前が想像以上に愉快な奴だと思ってな」
流れだす血をものともせず笑顔で向かって来る。
「愉快?どう言う意味ですか?」
「お前は俺の能力を知っているのか?」
そう言って体勢を低くして高速で走り始める。
「『アタラクシア』発動!」
叫び声と同時に香美市のつけた傷がテレビの巻き戻しのように塞がっていく。
「くっそ!!」
向かって来る彦一に両手に持った武器を投げつける。
しかし、彦一は止まらず、顔を腕で守りながら突っ込んでくる。
投げられたカッターなどの刃物は彦一の腕や腹、脚などに突き刺さるが、それでも止まらず香美市の目の前に到着した。
「このー!!」
右手に持ったカッターを突きだす。
喉にむけられた一撃をかわし、彦一はその腕を左手で掴んだ。
「反射神経いいですね」
すると彦一は笑いながら「それだけじゃないさ」と一言。
グシャリ!!
ありえない音が辺りに響いた。
そう…ありえないことだった。まだ聞いたことのない人の手を握り潰した音だった。
「いっっああぁぁぁぁぁぁぁぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!????」
信じられない状態。
彦一に掴まれているところから後ろがダランと情けなく垂れていた。
彦一が手を離すと潰された腕を抱えながら膝をついた。
「痛い痛いイタイイタイイタイ……」
目からは涙がこぼれ落ち今までの感じたことのない激痛が走った。
「74ぐらいかな」
ボソッと呟く彦一。
「俺の握力」
「そ…それがどうしたのよ」
痛みに耐えながらも言う。
「俺の能力『アタラクシア』を使えば計測は不可能だ」
「なっ…なんですって!?」
確かにそれなら人の骨などは簡単に折れる。
「なら、何故あなたのケガは治ったの?」
香美市の質問を鼻で笑いながら言う。
「最後だから教えといてやるよ。『アタラクシア』の能力は人体のリミッターを外せるのさ」
「人体のリミッター?」
「人間は普段の生活では自分の本来の力の20%もだしていないんだ」
彦一は夕焼けに染まった空を見ながら言った。
「その本来の力を自分で制御できるようになるんだよ。だから受けた傷も体の治癒能力をあげて一瞬で治したんだ」
「そ、そんな能力があるなんて…」
勝てるはずがない。否、彦一がもし能力を持っていなくてもきっと勝てない。
どんな傷を治せても人は痛みから逃げようとする。
しかし、
神童彦一と言う人物には「死」の恐怖がない。
だから、自ら腕の間接を外せる。投げられた刃物を紙一重で掴める。いくつもの刃が突き刺さっても向かって来ることができる。
「神童彦一」に勝つことはできない。
香美市は心で感じてしまった。
「終わりだな。安心しろ。殺しはしない」そう言い右腕を香美市の頭上にあげる。
シュビッー!
風を斬る音が聞こえた。
それは彦一の攻撃の音。ではなく、一本の木刀の音だった。
「生徒会長が自分の生徒いじめてもいいの彦一?」
一本の木刀を背負った雫緑が立っていた。
「売られたケンカは買う主義なんだよ」
緑の一撃を避け、少しだけ間合いをとりながら言った。
「残念だけどまだこの子はゲットバトルドリームに参加してもらいます」
「お前が決めることじゃない」
「貴方が決めることでもありません」
緑が木刀をかまえ、彦一がファイティングポーズをとる。
「俺に勝てると思ってるのか部長さん?」
「まさか。勝てるはずないですよ生徒会長さん」
「やっぱりな」
緑の能力『ユーセイバー』の高速移動で後ろにまわり木刀を振り抜く。
「あまい!!」
身体をかがめ攻撃を避け、緑の腹に蹴りをいれる。
「ぐふぅー!」
口から血を流して蹴られた腹をおさえる。
「お前らしくないな。勝てない勝負はしないんじゃなかったのか?」
「最近は変わってきたんですよ。人間性がね」
まだ口から血を流しながら立ち上がる。
「無理するな。脚のリミッター外して蹴ったんだ。骨は折れてなくても続けられる状態じゃないよ」
「続ける?何をですか。私は貴方と戦う気はまったくないですよ」
そう言い木刀を振りかぶって彦一に投げつけた。
「無意味だ」あたる直前で木刀を掴み、握り潰して前を向く。
しかし、その場所に緑はいなかった。
「こちらですよ。生徒会長さん」
後の声の方に向くと香美市を抱えた緑が数百メートル先に立っていた。
「ここから私が本気で走ればついてこれないですよね?」
嫌味っぽく言う。
「本当に逃げるのか?つまんないな」
「大丈夫ですよ。もう貴方と次に戦う人物は決まりましたから」
「ああ。なるほどな」
うんうんと頷く彦一。
「じゃあ、楽しみにておいてください」
と言って高速でその場から消える。
「神谷遠時か…」
静かになった道で彦一は不敵に笑った。
「ちょっと緑さん!離してください。どこまで行くつもりですか?」抱えたまま高速で移動を続ける緑に耐えきれずに香美市は質問した。
「病院に決まってるじゃないですか。それ折れてると言うよりも潰れてますよ」
彦一に潰された腕を見て言う。
確かにかなり痛い。
「緑さん。一つ聞いていいですか?」
強く地面を蹴りつけながら「なんですか?」と言う。
「彦一さんと遠時を戦わせるきですか?」
「場合によりますね」
「絶対に駄目です!」
声を張り上げて言った。
「遠時は戦えば必ず傷だらけになります。私はそれが嫌だから彦一さんと戦ったんです。遠時を戦わしたら意味ないじゃないですか!」
「なら、貴方は傷ついてもいいと?」
ブレーキをかけながらするどい目で睨む。
「貴方が遠時さんの傷つくとこを見て悲しいように、彼も貴方が傷いてる姿を見るのも悲しいはずです」
「じゃあどうしろって言うんですか!!」
「さあ?私にはわかりませんよ。ただ-」
高速移動が止まるとそこは病院の前だった。
緑はポケットから携帯電話を取り出してなにかの操作をする。
「彼は自分の相棒がやられて黙ってる人とは思えませんけど?」
携帯電話には『神谷遠時』と『通話』の文字が表示されていた。
小さい頃の自分は何でもできた。
勉強では苦手な教科がなくどんなテストも満点だった。
スポーツも同じでどんな競技でも活躍できた。
周りの人間からは「天才」だと誉め称えられた。
しかし、それは小学校までだった。
中学生になると周りの目が変わり始めた。
何でもできる自分を信頼することが恐れや妬みに変わり始めた。
「なんであんなことできるの?」
「あいつ無理なことってないのかよ」
「いいよな~天才はなんにもしなくて」
ある日の事だった。
クラスの女子が他校の生徒に絡まれているところを助けた。
しかし、女子は礼を言うよりも先に叫びながら逃げていった。
その日から気ずきだした。
自分は陰で言われているんだ。「異常」だと。
そして自分が壊れ始めた。
信じた「正しさ」が理解されなくなった。
それからは気にくわない奴を男女関係なく殴り飛ばした。
周りの目はより恐れていた。
そんな目をしている奴らもぶっ飛ばした。
「善」を捨て「悪」になった。
「悪」になることで自分を解放できた。
その代償で母親は自殺した。
耐えられない周りからのストレスで自ら命を絶った。
葬式では包丁を持った妹に殺されそうになった。
「お前が殺した!!お前のせいだ!!!お前なんか死んじゃえ!!母さんを返せ!!」
親父や親戚に止められて泣きながら言われた。
自分にはもうわからない
自分に正直に生きれば傷つき、自分に嘘をついて生きれば傷つける。
自分には生きる理由がない。妹の言う通り死ぬべきなのか、と考え始めた頃にこの戦いのことを知った。
この戦いで勝てば『答え』がわかる。
そのためなら何でもする。例え「悪」になるとしても戦い続けると決めた。
今日もまた戦いに出かける。
一人の男を倒すために。
己の夢を叶えるために。
神童彦一はバイクにまたがりアクセルをかけた。
休日の昼下がりの誰もいない公園
「神谷遠時」はベンチに腰かけながらボーと空を眺めていた。
予定の時間よりも早く来てしまったため暇をもて余していた。
何をするか考えていると静けさを壊すバイクのマフラーの音が響いた。
「やあ、神谷遠時。いきなり呼び出して何の用だ?」
バイクを公園前に止め微笑む。
「俺の携帯電話の番号は誰から聞いたんだ?」
中央の階段を一段一段のぼりベンチに座る遠時に近ずいていった。
「どうした?なにか言えよ」
「芝居はやめてくださいよ」
階段をのぼりきり目の前にいる彦一を睨んだ。
「あんたがゲットバトルドリームに参加していることは知ってるんだ。昨日、香美市と戦ったこともな!」
言葉に力が入る。
「そうか…。聞いたのは多分緑だな。…香美市絵里は大丈夫だったか?」
「骨は完全に砕けて血管を突き破ってたけど治るそうです」
「また襲ってくるじゃないか。再起不能にしておくべきだったな」
なにくわぬ顔で平然と言いはった。
「ふざけんなよ!!」神谷遠時の心は怒りにあふれだした。
「何を怒っている?お前は俺が死ねばよかったのか?」
「そうじゃねー!でも、あんたは本当に夢を叶える気があるのかよ!」
敬語も忘れて叫んだ。
「なに?」と彦一は言う。
「だってそうだろ!あんたは不良だったけど心入れ換えて頭の良い高校に行って、生徒会長やって聞くところによると勉強は学年トップなんだってな!一年の時は剣道部で個人で全国行ったんだろ?おまけにケンカは強くてむちゃくちゃ可愛い妹もいる」
最後のは余計だった。
「そんなあんたなら気ずいてんだろ。自分の夢は人を傷つけてまで叶えるものじゃない。例え自分の母親を生き返らせることだとしても」
伝えたい言葉を全て彦一に言ったつもりだった。
彦一は驚いた顔でこちらを見ている。
すると、突然-
「フフフフ…ハッハッハハッハッハ!!」
今まで見たこともないような笑顔で大笑いした。
「なにがおかしいんですか?」
理解不能ないきなりの笑いに戸惑う。
「フフフ…話したのは亜理子だな。あのしゃべりめ、話すなといったのに。だが、神谷遠時。俺の願いは死んだ母親を蘇らすことじゃない」
「えっ!?」
「俺を自分のせいで母親が死んだ過去を生き返らせてなかったことにするようなクズな人間だと思うな!!」
全身に寒気が走るほどの強烈な殺意をむけられる。
「じゃ…じゃあ、なんなんですか。あなたの願いは?」
声は信じられないほど震えていた。
彦一は睨むのを止め先程、遠時がやっていたのと同じように空をじっと眺めてゆっくりと言った。
「生きる答えが欲しいんだ」
彼の姿は今にも消えそうなほど儚かった。
雫緑は自分の家の道場で剣をふるっていた。
出した額の汗が動くことによって周りに飛び散る。
雫緑の能力『ユーセイバー』は高速移動を行える代わりに異常なまでに体力を消費する。しかし、それを補う膨大な体力が雫緑にはあった。
高速移動で道場の端から端まで移動する。
「やっぱり速いな~。その能力」
腕組をした音羽みゆきが入口に立っていた。
「今は稽古中なので後にしてよ、みゆき」
「稽古よりも話や!」入口から中に足を進める。
「なんで遠時君に彦一のこと全部話したんや?」
「彼が聞きたがっていたからですよ」
シレっと答える。
「言うて良いことと悪いことがあるやろ!」
「あのままにしてたら香美市さんはまた戦いに行くと思ったからああするしかなかったんです」
そう言うとみゆきは「うっ…」と口ごもった。
「さてと、話もこれくらいにして行きましょうか」
緑は二本の木刀を袋にいれながら言った。
「えっ!行くって遠時君を助けに行くの?」
「違います」
素早く否定する。
「じゃあどこ?」
少しすねたように言うみゆき。
「やらなきゃいけない仕事があるんですよ」
口元に笑顔をうかべながら道場から出ていった。
「生きる答えが欲しいだと!?」
彦一を睨んだ。
「ぜんぜん意味がわからない!!どう言う意味か説明してください」
遠時は大声で叫んだ。
彦一はうっとおしそうに頭をかきながら「うるさい」と言いながら
「俺のことばかり質問するな。今度は俺が質問する」
「なんなんですか?」
「あの女から聞いたが、お前の願いはこの戦いをなくすことなのか?」
「そうです」
迷わずに速答する。
「ふんっ!俺はその願いのほうが意味がわからないな」
強い殺意の目をむけてくる。
「どう言うことですか!?人を傷つけ自分の願いを叶えていいと思っているんですか?」
「その考え方が間違ってるんだよ」
遠時と同じように速答する彦一。
「この戦いを参加することでそんなことは全員知っていることだ。知っているうえで、それでも夢を叶えたいから他の人を傷つても戦っているんだよ」
ゆっくりと一つ一つの言葉を話した。
殺意は先程よりも強く、鳥肌が立つほどだった。
しかし、遠時はひるまなかった。
「人を殺すことにもなるんですよ!!」
「正義を語るな!」
彦一は声を荒げた。
「お前は正しいことをしているつもりなのかは知らないが、お前のしていることは参加者に対する侮辱だ!!」
「なに!?」
「お前こそ願いもないのに人を殺す覚悟をした者達を倒すこの戦いの破壊者だ!」「てめえ!!言わせておけば-
気ずいたのは本能だった。
突然、彦一の拳が顔面に飛び込んできた。
ギリギリかわした遠時は彦一を見る。
彦一はその場から動かずじっとこちらを睨む。
「神谷遠時。俺はお前のことが大嫌いだ」
「気が合いますね。俺もです」
二人の戦いが始まった。
『デスティニーチョイス』の能力により全ての物をスローに感じる遠時から見て彦一の動きは止まっているに等しかった。
彦一の左側に回り込み右ストレートを放つ。が、彦一は軽く避け膝で腹を蹴ろうとする。しかし、その動きもスローに見える彦一にとって避けるのは簡単だった。
膝を避けてからの左手でのフック!
だが、またも軽く避けられる。彦一は右足で蹴り飛ばそうとする。
動きはゆっくりなのでかわせると遠時が思った時だった。
スピードが急激に速くなった。
ドギャーン!
三メートルほど宙に浮き地面を転がりながら公園の砂場にめり込んだ。
「うぅぅ…ごふっ!!」
吐血。
蹴られた部分は服が破け血がひどく出ている。
なぜあたったかが分からない。なぜ自分の攻撃が避けられたかも分からない。
前と同じようにデスティニーチョイスが発動しているのに彦一は普通に動いていた。
彦一は吹っ飛んだ遠時を動かずに見ている。
訂正
彦一はすでに遠時の真上にいた。
「うまく避けろよ!!」彦一の上空からの踵落とし!
砂場ごと地面がえぐれた。
遠時は吹き飛ばされる砂に埋もれながら体勢を立て直す。
辺りはまい上った砂により煙がたっていてまったく見えなかった。
「ゴホッ!っ…クソ、どこだよ」
吐血をしながら毒づいた。
「ここだよ!」
背後!?
左足の回し蹴りが一撃!!
今度は吹き飛ばされずに絶える。
「やるな」
彦一は笑って言った。
「これがあなたの能力ですか?」
「そうだ。『アタラクシア』…簡単に言えばリミッター外しだ。緑に聞いてないか?お前がどんな能力を使って攻撃をしてきても反射神経のリミッターを外した俺は、あとから攻撃してもお釣りがくる」「なるほどね。じゃあさっきの蹴りもそうなんですか」
「ああ。弱点をいえばこの能力は外せる箇所は一つずつが限界なんだ。だから、一気には攻撃できないんだよ」
敵に弱点を普通に教えやがった!?
それなら相手の時間を止めればいい。
遠時は彦一の目を見る。しかし、彦一は身体をかがめる。
「緑に聞いたぜ。目を合わせたら動きを止められるんだろ。誰が合わすかよっと!」
そからのアッパーカット!!
遠時の顎を捕らえて見事に打ち抜く。
「ガハッー!」
身体が二、三歩後退する。その瞬間に彦一は距離をつめてパンチのラッシュをくりだす。
ゆっくりに見えるパンチもあればまったく見えないパンチもあった。遠時も隙を見つけて拳を振る!
しかし、彦一はかすりながらも避け、右手で遠時の腕を掴んだ。そして、左の手で遠時の左の手を掴む。
「終りだ!!神谷遠時」
グシャーー!
掴んだ両方の手を握り潰した。そう、香美市絵里と同じように。
「ウッァーー!!!!」
遠時の悲鳴がこだまする。
「諦めろ。どうやってもお前は俺には勝てない。だが、よくやったほうだよ」
遠時は地面に丸まりながらうめいる。
「俺が答えが欲しい意味を聞きたがっていたな」
彦一は遠時を見下ろしながら言った。
「俺は小さい頃からなんでもできた。いわゆる天才だったんだ。俺は自分の力を使っていろんな手助けもした」淡々と一人で話しだす。
「しかし、徐々に周りの人間が思うようになってくる。あいつはおかしい、と」
どこか哀しそうな声をだしていた。
「笑えるだろ?本人は普通に生きているだけなのに異常と言われる。今までに何度も助けてやった奴にだ。俺はそれが許せなかった。だから-
「悪に…なったんですか?」
痛みに必死で耐えながら言う。
「ふん!」
彦一はダランと垂れた遠時の左手を踏みつけた。
「あああぁぁぁっ!!」
身体中に駆け巡る激痛。
「神谷遠時。この世に正義はない。人が自分の意思を持ちそれを違うと思う者が悪になる。逆もまた然りだ」
踏みつける力を強くする。
「普通に生ればけなされ、侮辱され、異常とされて、悪として生きれば他者を傷つける。なら、俺はどうやって生きればいいんだ?なんのために生きるんだよ!!」
「知るかよ!そんなこと」
踏みつける足を潰された右手で掴む。
そして、神谷遠時は神童彦一に殺意をむける。
「なんのために生きるだと!ふざけるのもいい加減にしろ!!そんなものは自分の力で人生の中から見つけだすもんだ。あんたはただ現実を見るのが怖いだけだ!!!」
遠時は潰された右手で彦一の足を握る!
「ッー!」
彦一は手を振り払い飛び退く。
遠時は震える膝を押さえながら立ち上がり彦一をめがけて走りだした。
「そんな奴に俺は絶対に負けない!!」
遠時の拳と彦一の拳が交差する。
クロスカウンター
遠時の拳は彦一の頬を捕らえていた。
だが、遠時の拳は異様な方向に曲がっていた。
「くっそ」
彦一の目の前で倒れる。
今でも信じられない目をしている彦一。
「俺の負けです。カードは右のポケットに入っています」
息を切らしながら観念して言う。
「この勝負、引き分けにしないか?」
驚愕の一言だった。
「どう言うつもりですか?」
「簡単なことだ。お前をここで消したくないと思っただけさ」
言葉には裏もなくただただ正直に言う。
「情けのつもりですか?」
「礼のつもりだよ。答えはまだ見つからないがお前の言葉は考えさせられるものがあったからな」
そう言って停めてあるバイクの所に向かおうとする。
「待ってください。勝ち逃げするきですか?」
彦一は振り向いて笑いながら
「再戦はいつでも受け付けるぞ!腕を磨いてくるんだな」
「期待しといてくださいよ」
彦一はニヤリと笑い、またバイクの所に向かおうとした時だった。
ドスッ!
長細い包丁が彦一の胸を貫いた。
「お疲れさま、お兄ちゃん。そしてさよなら」
神童亜理子は笑顔で微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます。
どうも、青春太郎です。
今回は更新が遅くてすみません。しかも、まだ少し続きます。
次は早めに更新しますのでこれからもぜひ読んでいってください。




