表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話『険と翼と救済者』


通り魔事件以来、香美市絵里と協力して戦う事になった神谷遠時。ある日、香美市が跳ばしたボールを探している遠時は不思議な女性に出会う。

夢を叶える戦い―ゲットバトルドリーム―の新たな幕が開く!!

夕焼けが照らすグラウンドに俺

「神谷遠時」は立っていた。

少し前まではどこにでもいる普通の高校生であった。しかし、あることをきっかけに転校生に殺されそうになったり、時を止めることができるようになったり、犯罪者と殺し合いをすることになったりとさんざん日々をすごすことになってしまった。


「ちょっと、なにぼさっとしてんの。いくわよ」

少し茶色の混じったロングヘアーの彼女

「香美市絵里」である。

遠時をカッターで殺そうとした張本人である。今は和解し、仲良く野球をする仲である。なぜ野球をするかは不明。

香美市はボールの持った手を大きく振りかぶった。そして、遠時に向けてものすごい速さで投げつけた。

ビューン

ブン!

見事な空振りだった。

ボールは遠時の背後にボトボトと転がり後ろの壁にぶつかった。

「三振! 交代よ。まったくやる気あるの?」

砂ぼこりを蹴り上げながらバッターボックスに歩いてきた。

「二人なら普通、キャッチボールだろ?」

バットを地面に放り投げて遠時はピッチャーマウンドに歩いていった。


「キャッチボールしても野球をしたとは言わないわ」

「意味がわからん! お前は野球がしたいのか?」

「違うわよ!これは戦いの時に必要な運動能力を鍛えてるのよ」

香美市は顔を少し赤めながら否定した。

(なんかこいつ前よりわかりやすくなったな)

初めてあった時とは大違いな態度に笑みがでる遠時であった。

「ほら、さっさと投げなさい!」

香美市はバットをブンブンと素振りしている。

遠時は落ちているグローブとボールを持った。


あの戦いから俺と香美市の仲は良くなり、夢を叶える戦いゲットバトルドリームに二人で協力して参加している。

(香美市と協力してけっこう参加者を倒してきたけど、最後の日は何時なんだろな)

「は! や! く!投げろって言ってんの!」

絵里の素振りが空中から地面に変わって土をえぐっていた。

「わかったわかったほらいくぞ」

ボールをしっかり握りとりあえず全力で投げてみた。

カキーン!!

(あぁ、いい音がしたな)ボールは遠時の頭を通りこし、校舎の方に飛んでいった。



「やっぱり俺が捕りに行くのかよ」

ボールが在るであろう所で捜索している人物が一名。ピッチャーの遠時である。

バッターの人物は打たれる方が悪いなどと、まったくもって意味のわからん屁理屈をこね、一緒に探すという合理的な選択は、彼女の頭の中では存在せず、打った張本人は影で自販機のジュース(これも俺が無理矢理おごらされた)を飲みながら優雅に休養をとっているのである。


「あれー?確かこの辺のはずなんだけどな」

あたりを見回しながらボールを探す遠時。

なかなか見つからないため香美市が怒ってそうだな、っと考えていると後から車輪の回る音がした。


「探しているのわ、これ〜?」

振り向くと車椅子に乗った短髪の女性がいた。

彼女の手には香美市が飛ばしたであろうボールが握られていた。

「えっと、あの、そのボールなんですけど…」

「このボールが当たって脚がこんななったわ」

「えぇー!!??」

(嘘だよね?嘘でしょ?嘘であって下さい。お願いします!)

「どう責任とってもらおかな」

車椅子の女性は腕を組みながら維持の悪い笑みをうかべた。

「えっと〜その〜すいませんでした?」

「なんで疑問文!」

「すいませんでした!!」

大声で叫ぶ遠時。

車椅子の女性はクスクスと笑いながら

「冗談や。本気にしんといて〜や」

「やっぱり遊ばれてましたか!」

遠時も自然に笑っていた。

初対面とは思えないほど彼女とは馬があっていた。

「君、おもしろいなぁ。私、三年の音羽みゆき。君は?」

「俺は二年の神谷遠時です。先輩だったんですね」

頭をかきながら言った。

「そうやで。ちゃんと敬まいや」

苦笑いをしつつ

「ハイ」と答える遠時であった。

「で、なんでボールが飛んできたん?その姿は野球部じゃないやろ?」

「ハイ。友達と野球してたらそいつ無茶苦茶に打ちやがったのに俺が捕りにいくことになったんですよ」


(ハハハ。マジで笑えね~)

「フフフ。おもしろい友達やな」

みゆきはニコニコしながら

「気を付けなあかんで」

と言ってボールを遠時の手に渡した。

「ありがとうございます。あの、音羽さんは―

「音羽じゃなく、名前で呼んで」

話の途中で素早く訂正させられた。

(出会って五分でそこまでの仲!?)


「じゃあ遠慮なくみゆきさん」

戸惑いながらもさん付けで呼んでみる

「うん。で、なんやったけ?」

「こんなところで何してたんですか?」

ここは校舎からけっこう離れており、近くには運動部の部室ぐらいしかない。

車椅子の彼女が何をしていたか気になって当たり前だった。

「あぁ、そんなこと」

みゆきは車椅子を手でまわした。

「私は弓道部の部長やねん」

「弓道部?」


遠時はみゆきの車椅子を後から押した。

「そうやで。もしかして遠慮君、弓道部あること知らんかったん?」

みゆきの驚きの声に先ほどと同じように苦笑いしつつ

「ハイ」と答えた。

「なんで知らんにゃー!けっこう表彰とかされてたやん」

「イヤ、表彰式は何時も寝てましたから」

表彰式以外でも、朝礼、集会、ホームルームですら遠時は爆睡している。

「なんか今の一言、ものすごくイラっときたわ」

「ごめんなさい」

車椅子を押しながら頭を下げる遠時。

「じゃあ罰として弓道部の見学に来ること」

みゆきが人差し指を立てて言うが

「あのー、弓道部ってどこで活動しているんですか?」

ズル!

車椅子から脚をすべらしかけるみゆき。

「ハァー。ここまで知られてへんとは、ガックリや」

ため息を吐いて肩を落とす。

(やべー!マジでガッカリしてる)

慰めの言葉を探す。

「あっ、そーだ。俺前から弓道やりたかったんですよ」

「なんか嘘臭いな」

「そんなことないですよ」

(ハ~イ。大嘘でーす)

もう誰か助けて!と願っていると願いが通じたのか、

「じゃあ見学来てな」っとみゆきの機嫌は直っていた。

「弓道場は運動部の部室裏にあって、剣道場の横やで」

「へぇー。そんな所にあったんですね」

「ちゃんと来てや。あっここで止めて」

止めたのは校舎の中の下駄箱付近だった。

「私これから病院やからここでお別れや。車椅子、押してくれてありがとう。友達またしたらあかんしもう行き」

みゆきは器用に靴を履き替えながら手をふった。

「バイバイ遠時君。見学来てや」と言って車椅子を押して校門前のおそらくは自家用車であろう車に向かっていった。

「なんとも不思議な人だねぇ」

遠時はボールを指の先で回しながら、かなり遅くなってしまって怒っているはずの香美市への言い訳を考えながらグラウンドに向かった。




「おかえり遠時。今日は遅かったな」

10対3のあまりにも白熱しない試合を終え、香美市の高々な勝利演説を無視し、家に帰ると母がおらず姉が台所に立っていた。

「もしかして姉貴、料理と言うものをしていますか?」

「仕方ないだろ。母さん仕事で朝まで帰らないんだから」

姉はニンジンをでこぼこに切って鍋の中に入れた。

本人はカレーを作るらしいのだが、こちらから見ればサリンでも作っているんじゃないかと疑問のあがる臭いが鍋からただよってきた。

「出前をとることに一票!」

「私の料理を食べることに十票」

「選挙権は一人一票では!?」絵里にも勝る横暴が現れた一瞬だった。

(まずいぞ~まずい。非常にまずい。姉貴が料理するのはいろんな意味で不味い)

姉が台所で料理している姿を後から眺めながら最大のピンチにおちいっていた。

姉の料理は不味い!、どんなことよりも立証できる真実だった。

(こうなったらデスティニーチョイスで姉貴の時間を止めて…駄目だ一秒止めただけで十日も無くなるんだぞ。こんなとこでつかえねーつうの。あっでもここで死んだら終わりか。あーどうすればいいんだー!!)

数々の考えが遠時の頭の中を駆け巡っていた。

「ほら、できたぞ」


テーブルの上に妖しい湯気をたてる物体が置かれた。

「せっかく作ったんだから食えよ」

姉の一睨み。

何も言えない遠時はかんねんしてイスに腰かけた。

「いただきます」

「痛だ来ます」

「お前私にケンカ売ってんのか?」

姉の言葉を聞かず無言でスプーンを取る。姉もあきれたのかスプーンを取って食べ始めた。

スプーンですくって口にはこぶ……ゴフゥー!

(口の中が熔けとる!?)

「ホントに失礼だよな、お前」

姉はパクパクとカレーもどきを食べながら嫌な目をしてこちらを見た。

「ちゃんと食えよ。残したら殺すから」

(食っても死ぬから。それよりなんで姉貴は大丈夫なの?)

姉はなんともない様子でもうほとんど食べていた。


(蛇の毒は蛇にきかないってことか)

遠時は覚悟を決め毒物(自称)を口にはこんだ。


次の日、俺こと神谷遠時は腹痛で学校を休むことになった。その腹痛があまりにも激痛なため、遠時は病院に足を運んでいた。

病院には平日なのにけっこう人がおり、待っている間、雑誌をパラパラと見ていると前から声をかけられた。

「やっぱり遠時君やん。今日はどうしたん?」

私服を着て車椅子に乗った優里さんとその後ろに黒髪でポニーテールの遠時と同じ制服を着た女性が立っていた。

「いや~昨日食べたものが悪くてお腹壊したんですよ」

少し違うがだいたいはあっていると思った。でも、それが姉の作ったものとは言えなかった。

「それはお大事に」

みゆきは気の毒そうな目をして言った。

「いえいえ。けっこう大丈夫ですから。それより後ろの人は?」

「ああ、この子は私と同級生の雫緑さんやで」

「初めまして。雫緑です」

「神谷遠時です。あの、二人はどんな仲なんですか?」

「緑とは小さい頃から友達やったんよ」

みゆきは笑顔で言った。

「まぁ、いわゆる幼なじみですね」

緑が続けて言った。

「緑は剣道部の主将なんやで」

「えっ、そーなんですか。弓道部部長と剣道部主将の組み合わせですか」

「そやで~すごいやろ」

みゆきは胸を張り緑は照れていた。


「神谷遠時さん。奥の部屋にどうぞ」

ナースの女性にカウンターから呼ばれた。

「じゃあ俺いってきます」

遠時はイスから腰をあげる。

「うん、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

みゆきは手を振り、緑は頭を軽く下げた。


検査の結果、食中毒である事が判明した。

かなりの毒性で医者に

「いったい何を食べたんですか!?」とせまられ、嘘を並べるのに苦労した遠時だった。今は回復しており薬を飲んで今日は安静にしておけば明日には学校に行けるそうだ。

待合室に戻ると雫緑が一人で座っていた。

「お疲れ様です。どうでしたか?」

「なんともなかったです。今日、安静にしとけばいいらしいですから」

「それはなによりです」

緑はにこやかにこちらを見る。


大人の女性だ!…遠時の感想。

「あれ、みゆきさんはどこに?」

周りを見てもどこにもいなかった。

「みゆきならあっちの部屋で脚のリハビリです。彼女、毎週一回この病院でリハビリしているんです」

「へぇーそうだったんですか。みゆきさん脚はどんなかんじなんですか?」

その質問に緑は少し深刻な顔をして言った。

「彼女の病気は急なもので治らないわけではないんですが、リハビリにかなりの苦労をする必要があって苦痛かと」

緑は自分のことのように悔しそうだった。


(それなのにあんなに明るくできるのか。辛いはずなのに)

遠時は校舎であった時のことを思い出した。

「ところで、緑さんは学校行かなくていいんですか?」

今まで聞くのを忘れていた。同じ学校なら今日は普通に授業がある日だ。

「あぁ、それなら心配いりません。私は今日、特別に休むことを許可されています」

「なぜ?」

そんな裏技みたいなのがこの世にあるのか。

「今日はみゆきの家の親がどおしても一緒に病院へいけなくて、代わりに私についていってほしいと頼まれたので、そのことを学校に話すと特別に許可がてました」

「なるほど。学校もなかなか優しいな」

遠時は学校に連絡すらいれてないので欠席扱いである。

「二人の家は近いのか?」

「ハイ。歩いて五分もかかりません。遠時さんの家はどの辺りなんですか?」

「えっと、俺の家は―

場所を言う。

「まったく逆の方向ですね」

聞いてすぐさま言った緑の言葉に少しガッカリする。

家はかなりきつい坂の上にあるのであまり人は住んでいない気がする。て言うか俺もあの家はけっこう嫌いだ。コンビニに行くためにいちいち坂下りて、帰りの坂登りきった後は汗だくだくだし、なにぶん不便である。

「俺はもう帰ります」

病人であるし腹痛もまだする。

「そうですか。お大事に」

そう言ってわざわざイスから立ち上がって頭を下げてきた。

(律義な人だな)

勝手に遠時の頭も下がっていた。



遠時は目を覚ました。

「寝過ぎたな。今何時だ?」

ベットから身体を起こして時計を見る。

「げっ、夜中の二時かよ。それよりも腹減った」

家に帰ってからずっと寝ていたため昼ごはんも晩御飯も食べていなかった。

「なんか冷蔵庫にあるかな」

遠時がベットから立ちあがったその時、

ドゴーン!!

轟音と同時にトラックがつこっんできたように遠時のベットごと部屋が吹っ飛んだ。

「??!!」

あのまま寝ていたらこの世にはいなかっただろう。

「くそったれ!俺の家族を殺す気かよ」

遠時は穴のあいた部屋から辺りを見回した。そして坂道ではなく駅に続く裏の道に人影を見つけた。

「逃がすか」

勢いよく部屋の扉をあけ靴を履き駅に駆け出した。

(電車で逃げるきか?)

遠時は踏み切りを渡ろうとする脚を止めた。

この暑い夜中にコートを着て頭をかくしている人物がそこにはいた。

考えれば解ることだった。終電の時間はとっくに過ぎている。それなのにここまで奴が逃げた理由―

「はめられたな」

苦笑しながら遠時はつぶやいた。

この近くにはあまり人が住んでおらず、終点の駅とあればなおさらだった。

「俺を殺すには絶好の場所ってか?」

コートの人物はなにも言わず、ただ立っていた。

「無視かよ。て言うか来るならこいよ。早くしないと誰か来るかもしれないぜ?」

遠時が両手を挙げて挑発した瞬間、頭に強い衝撃を感じたと思うとそのまま身体ごと吹っ飛んだ。

「グゥーッ!」地面にぶつかりながらも体制をととのえ前を見る。

(何が起こったんだよ)

コートの人物は遠時がいた場所に立っていた。

「今、俺に何したんだよ?」

コートが身を縮めたと思うとロケットのように迫ってきた。

目の前で止まる。

(蹴りが来る!)

とっさに守った手にコートの蹴りが当たる。

ギギー!

腕に鈍い音がなる。

後から来る激痛!

遠時は痛みをこらえながら左手で拳を作り振り抜く。

当たった!と思った瞬間、胸に痛みがはしる。

(先に膝蹴りを当てられた?)

コートは身体を回し、左脚で蹴りを放つ。左アバラに直撃!

そしてコートは脚で強く地面を蹴り、そのスピードのまま右膝を遠時の顎に当てた。コンクリートの地面を何度も転がり壁にぶつかり止まる。

壁にもたれたままコートを見る。

(相手の目を見なかったら止められない)

すでに鼻や口から血がでておりアバラも右腕もヒビははいっているはずだ。

(やばい!)

顎をやられたせいた頭がクラクラしてまともに相手も見れない。

「時間を止められるから勝てる」そんな自信があったのかもしれない。しかし、現実はこのざまだ。

「見えなきゃ意味ないよな」

声を絞りだして言う。

ゆっくりと近ずいてくる。

―もう、終わりか―

コートの動きが突然止まった。

「ずいぶんと情けないカッコね、遠時」

上からの声に見上げると香美市絵里が壁の上で腕を組んでこちらを見ていた。

「私のパートナーたるあなたがそんなんでどうするのよ」

「黙れ。パンツみえてるぞ」

「変態」と言って壁から下りてきて横に立った。


「なぜお得意のデスティニーチョイスを発動しないの?ああ、目が合わないから使えないのね。役に立たないわ」

手を振りヤレヤレとポーズする。

「よくしゃべる奴だな。お前こそ何でここにいるんだよ」

「簡単よ。私は夜型で眠れないからこうやって町を徘徊してるの」

「それらしい理由に聞こえるけど、ほんとはただの不健康な女子高生じゃねーかよ」

「うるさいわね。さっさと死になさい!」

「何しに来たのお前!?」

その時、爆音と共に土を蹴りあげ、コートが高速で近ずいてくる。

「やっと来たわね」

香美市もコートに向かって走り始める。

「香美市そいつはむちゃくちゃ強いぞ」

コートが脚を振り抜こうとする。それに合わせて香美市も脚を振り抜く。

二人の脚が当たる。

続けて遠時の時と同様の膝蹴り!

香美市はあの速さを見切りカウンターでコートの右胸に蹴りをいれる。

コートは予想外の攻撃に動揺したのか、後ろに大きく跳んだ。

「お前、そんなに強かったのか?」

ただいつも威張っているだけではなかったようだ。

「当たり前よ。あなたのような変態撃退のためにテコンドーを習っていたのよ」

「俺は変態じゃねー!!」

「大きい声をださないでよ。近所迷惑よ」

香美市は冷たい目でこちらを見る。

本当に口と行動が一致しないやつだ。

「さてと、そろそろ終わらせましょうか」

絵里は指をならしてコートを睨む。

コートは香美市に向かって来るわけでもなく、背を向けて去っていった。

「ふん!根性ない奴ね」

鼻を鳴らして腕を組んだ。

「助かった~。痛っうー!」

気を抜いた瞬間、身体中に痛みが走った。

「大丈夫よ。視たところ骨は右腕しかヒビは入ってないし、後はほぼ内出血よ」

「ぜんぜん大丈夫じゃない!」

「あぁもうー!うるさいわね。私は帰って寝る」香美市は後ろを向き大股で帰ろうとする。

「えぇー?俺このままおいてけぼり?ちょっと香美市さん~!」

一人の怪我人の声が夜の駅に響いた。



目覚ましの音でベットから目を覚ます。

昨日、部屋が破壊された言い訳を考えながら家に帰っていると、完璧に直っている我が家とこの戦いの主催者である黒フードの男が家の前に立っており、

「一般人に知られるわけにはいかない」と言い残して歪みの中に消えていったのであった。

(まぁ、家が直って家族にもバレずによかったけどな)

遠時は右腕を包帯で固定していた。

ほんとは休みたい所だが、

「また一人の時に狙われたら困るでしょ」と香美市に言われたので泣く泣く学校に行くしかないのである。


学校につくとクラスメートの勝岡が話しかけてきた。

「遠時~どうしたんやその腕?」

「ノーコメント!!」

勝岡の質問を一蹴する。

「何でや!ブーブー」と勝岡が言っている時にクラスの扉から香美市絵里が入ってきた。

思わず目が合う。

「ふん!」

昨日と同じように鼻を鳴らして自分の席に着いた。

(心配ぐらいしろよ)

自分のパートナーに悪態を心の中で呟く遠時であった。



授業が終わり、下校の時間になった。

「遠時、今日どうするの?」

彼女の手にはバドミントンのラケットが二本握られていた。

ここで何もないと答えるとバドミントン確定だったので急遽、みゆきに誘われていた弓道部の見学に行くことにした。

そのことを話すと包帯を巻いている右腕にラケットでスマッシュされた。

ハッハッハ!もう痛みを感じない……あれ?おかしいな涙がでてきた。

涙をこらえて弓道場に脚をはこんだ。

弓道場につくとそこにはみゆきの姿がなかった。

(あれー?部活来てないのかな?)

遠時は弓道場をうろうろと往復していた。

「あっ遠時さん?」

後ろからの声に振り向くと雫緑が剣道具を着けて立っていた。

「優里さんに部活の見学に来いと言われまして」

「そう。みゆきは今日お休みなのよ」

「えっ、どうしてですか?」

昨日はあんなに元気だったから信じられない。


「くわしくは知らないけど今日、みゆきの家に行ったら熱がでてるから行けないってみゆきのお母さんが言ったの」

「へぇー。昨日、リハビリ頑張っていましたからね」

「みゆきは頑張り過ぎなのよ。いつも無茶するんですよ」

珍しくむきになる緑。いつものクールさはなかった。

「みゆきの脚は大会の決勝前日にいきなり発症してね、その大会も部長が抜けたせいでみんな集中できなくて負けちゃったの」

「そんなことがあったんですか」

緑は頷き弓道場の方を向いた。

「あの子も責任感じちゃってるみたいで、無茶してるみたいなの」

(あの笑顔の下にはそんな苦悩があったのか…)

遠時は弓道場に少しだけ顔をだすことにした。

弓道部員の温かい歓迎を感じた気がした。

弓道部員と少しの時間話して遠時は帰路についた。


帰り道のコンビニには思わぬ人がいた。

「よぉ少年。怪我は大丈夫か?」

自称『神』と名乗る黒フードの男がいた。

「こんなとこで何してるんだよ?」

「イヤ~財布落としちゃて、おごってくれない?」

「フッフッフッ!俺は学校には財布を持っていかないことにしたんだよ!!」

主に盗難防止と香美市に無駄金を使わせさせないためである。

「ケチが!地獄に堕ちろ!!」

「お前が言うとホントに堕ちそうだからやめて」

ふん!と鼻を鳴らして「使えねー!」とブツブツ言う自称『神』。

「用がないなら俺は帰るぞ」

自転車のペダルを踏む力を強くした。

「まぁ、ちょっと待てよ」

「何なんだよ!用件は何?」


「敵が誰かわかっているのになぜ殺しに行かない?」

黒フードはゆっくりとはっきりと見透かすように言った。

「何の事かさっぱりだな」

「とぼけるなよ。いつもみたいに殺しに行けよ。自分の夢を叶えるために」

「黙れ」

静かに言い放つ遠時。

「それとも今までさんざん人をキズつけておいて知り合いは殺せません、か?」

「黙れって言ってんだよ!!」

今度は激しく怒りをこめて黒フードに右拳を振り抜く。が、意図も簡単に止められる。

「怒るなって、悪かったよ」

黒フードの男は謝りながら自分の後ろに歪みを作っていく。

「お前みたいな甘い奴にサービスで教えてやる。カードを今持ってるか?」

遠時は拳をおさめて質問に答える。

「持ってるけどなんだよ?」

「そのカードが自分の手元に無ければ能力は発動しない」

「な!?」今までなんとなく自分が持ってる方が安全かな~と思ってそうしてたけど―

「そんな大事なことは先に言え!」

まったくである。

「それともう一つ」

男は歪みの中に消えながら言う。

「お前の能力は時を止める事じゃないぞ」

またしても大事なことを今更言う。

今度は突っ込むヒマがなかった。



次の日

「遠時~」

「せいやー!」

「ぐぼぉー!」

学校に行くと勝岡が飛びかかってきたので回し蹴りで応戦した。

「なにすんにゃ~」

「えっいや…ごめん条件反射で」

目付きの悪い奴がいきなり襲ってきたら誰でも蹴るだろ。

「そんなことより。遠時、今日俺の代わりに文化委員の集まり行ってく―

「やだ、無理、拒否」

「人の話は最後まで聞こうよ。今日どうしても早く帰らなあかんねん。お願いします~」

頭を下げて頼む勝岡。

用事は得にないが、めんどくさかった。

「遠時、今日はヒマなの?」

勝岡の後ろから絵里が話してきた。その手にはバスケットボールがおかれていた。


さぁ読者のみなさん選ぶ選択肢はもちろん―

「勝岡!その頼み引き受けたぜ!!」

「ホンマ~!?遠時大好きや~」

「どりゃー!」

「ギャース」

またもや飛びかかってきた勝岡に条件反射が発動した遠時であった。

「そう言うことで今日は用事があるんだよ香美市」

「死ねー!」

バスケットボールがみぞに直撃!



放課後、遠時は文化教室に向かった。

もともと委員会に入ってない遠時にとって専用教室は初めてだった。

教室に入ると車椅子に乗ったみゆきがいた。

「みゆきさん。文化委員だったんですか?」

「うん、そうやで。遠時君は文化委員とちゃうやろ?」

みゆきは笑顔で答えた。

元気そうには見えた。

「友達の代理できたんですよ。それよりも熱は下がったんですか?」

「うん、心配かけてごめんね。もうぜんぜん平気やし」

両手を挙げてアピールする。

そのすぐ後に三年生の委員長が来て委員会が始まった。

委員会の内容は今度の文化祭のプログラムを明日までにクラス分作ることであった。

プログラム用紙が配られ委員会が終了して、みゆきの方を向いてみると困っている顔をしているようだった。


お人好しの出番である。

「みゆきさんどうかしました?」

さりげなく聞いてみる。

「明日、リハビリで学校来ないから今日中にクラス分のプログラム一人で作らなあかんねん」

みゆきはかなり困った様子だった。

「それなら俺手伝いますよ。俺、代理なんで明日文化委員の奴に渡したらいいだけですから」

委員会に代理で出席してやっても勝岡のためにそこまでしてやる義務はない。

それに、時計は4時半を指している。一人でやれば何時間かかるかわからない。

「ほんま~?助かるわ~。緑が部活でいないからどうしよと思っててん」

みゆきの心からの笑顔が遠時は正直には受けれなかった。


開始から二時間半が過ぎ時計の針が7時になっていた。

「想像以上に時間がかかりましたね」

みゆき一人でやっていたら何時間かかったことだろう。

「うん。手伝ってくれてありがとうなぁ~」

帰り支度をしながら笑顔で言った。

作業中は時々話すぐらいで黙々と作業をしていたため久しぶりに話した気がした。

「あっ、私部室にノート忘れてきたわ」

「明日来ないんだったら、取りに行った方が良いですね」

「一緒に行ってくれる?」

「もちろんですよ」

遠時はみゆきの車椅子を押した。



夜の弓道場は暗く静かだった。

「校内だってのにここはまるで別空間だな」

遠時は弓道場の的を見ながらつぶやいた。

みゆきが更衣室にノートを取りにいっている間、弓道場で待っている遠時。

(きっと俺の考えは間違っているはずだ)

そうあって欲しいと思った。

「おまたせ~。ノート見つけたよ」

更衣室から車椅子を押しながらみゆきは出てきた。

「そうですか。じゃあそろそろ帰りましょうか」

時刻は8時を過ぎていた。生徒はすでに帰っている時間で教師も帰りだしている時間である。

「それよりさ、遠時君」

みゆきは的が置いてある芝生に車椅子を進めながら言った。

「なんですか?」

「どう、この弓道場。すごいやろ?」

両手を大きく広げる。

「そうですね、俺は弓道場なんて初めて見ましたよ」

簡単に答える遠時。

みゆきは先程よりも、もっと先に車椅子を進める。

「やろ~。ここの弓道場は高校でもすごい方なんやで」

車椅子を止めるみゆき。

話の内容がまったくわからない遠時。

(いったい何が言いたいんだ?)

「こんなすごい所で弓道できてよかったわ。でも、なんでこんなことになってしまったんやろなぁ」

みゆきは自分の脚をさすりながら言う。

ここからではみゆきの表情が見えない。

「ねぇ、遠時君」

今まで聞いた声の中で一番静かな声で言う。

遠時は言葉を返すだけだった。

「なんですか?」


静かな風が吹く―


「なんで死なへんかったん?」


みゆきのノート中からゲットバトルドリームの参加書が取り出された。

「これ何か分かるやろ」

車椅子ごと振り向くみゆき。その顔は笑ってはいなかった。

「さぁ?なんかの会員証ですか?」

とぼけてみる。

「そうやね。夢を叶える会の会員証かな」

笑って言うみゆき。目はまったく笑っていない。

「気付いてたんやろ?今日、私に対する態度おかしかったもん」

車椅子を近ずける。

「正直に言ってよ。遠時君は何時から気付いてたの?」

みゆきの目がこちらを睨む。もう、逃げられない。

「初めからですかね」

遠時はみゆきの目を見て言う。

「へぇー。どうして?」

「まず、俺の家が狙われたってことです。俺の家はけっこうわかりにくくて知ってる人少ないんですよ」

「それで?」っとみゆき。

「俺は病院で会った日、緑さんに家の場所を言いました。その夜に敵が来るなんておかしいでしょ?」

「確かにそうやな」

うんうんと首を振るみゆき。

「でも、それやったら疑うのは私じゃなくて緑じゃないの?」

正論を言う。

「そうです。でも、俺の部屋が吹っ飛ぶ時、一気になくなるて言うよりも一直線に貫通する感じだったんですよ。- まるで弓矢みたいに」

事件の現場を知る本人が言う。

みゆきは静かに笑っていた。

「それともう一つ緑さんはこの戦いに参加する理由がない」

「それは確証なん?」

「いえ、勘ですよ」

お人好しのね

遠時の話が終わる。

みゆきはゆっくりと上を向き、意を決した様に車椅子から立ち上がろうとする。

「ちょっと、みゆきさん!?」

驚いてみゆきのもとに駆け寄ろうとしたその時、


みゆきは何の苦悩も何の痛みも感じる事なく、普通に地に足をつけ立っていた。否、浮いていた!?


その背中からは羽が― 美しい翼が現れた。

「『エンジェルコンタクト』」

みゆきは静かに告げる。

「発動中、自らを天使もどきにできる能力や」

みゆきは言う。そんな嘘のような馬鹿げたことを―

「天使ですか。あんまり信じられないですね。神様はいるって思ってないんで」

「この戦いの主催者が神様やのにか?」

にっこりと笑って言う。

「確かにそうなんですけどね」


(だから信じてないんだよ)


みゆきの頭の上にはマンガなどでもよくでている天使の輪が浮いていた。

その姿は少なからずも天使に見えた。

車椅子の後ろの部分から弓を取り出す。

そして、自分の羽を一枚ちぎる。その羽は矢の形に姿を変えていく。

「遠時君、あなたがこの戦いをやめると言うなら私にカードを渡して。そしたら危害をくわえないと約束する」

弓を引き狙いを定めるみゆき。

ここで言う通りにすれば何もないだろう。しかし、遠時にはそれはできないことだった。

「すいませんみゆきさん。俺は無理です」

少し後ろに下がりながら距離をとる。

「やっぱりか」

言いみゆきは矢から手を放した。

ビューン!!

風を切る鋭い音と共に矢は遠時に向かう。

大きく横に跳び矢をかわす遠時だが、矢は遠時の右脇をかすめ血をあげる。

(デスティニーチョイスでみゆきさんを止めてカードを奪うしかねぇ!)

覚悟を心の中で叫び前を見る。その瞬間― 二本目の矢が遠時の右足をえぐっていた。

「ぐぅー!」

うめき声をあげるも休む暇なく矢が放ち続けられる。

一本目避ければ二本目が来る。二本目を避ければ三本目が来る。

みゆきの目を見るどころか矢を避けるだけでも精一杯であった。

「くそ! 死んでたまるか!!」

弓道場の柱に跳び、矢を避ける遠時。

何本かの矢は柱に刺さる。

自分の能力もそれなりに卑怯だが、矢の数に制限がなくて空飛べるのは反則だ。

「あっ、そや遠時君。言い忘れてたことがあった」

雨のような矢を射ち続けながら言う。

「なんですか?天使のお言葉、ありがたく頂戴します」

半場やけくそ気味で挑発する。

「遠時君の推理、確かに当たってる。でもな、一つだけ間違ってるよ」

みゆきの放った矢が柱を貫通して遠時の顔の横に刺さる。

「へ、へぇー。どんな間違いですか?」

裏返った声で聞く。

「簡単なことや。遠時君を襲ったコートの人物は― 」その瞬間、矢の雨が止まる。

「脚が地面に附いてた?」


あのコートの人物は確かに脚が地面に附いていた。しかし、みゆきの脚は浮いている。天使のように浮いている。


頭に強い衝撃を感じた。


世界が回る。

身体が痛む。

必死で前を向く。


そこには一本の木刀を持った雫緑がいた。


「不意打ち失礼します。神谷遠時さん」

緑は何時もと変わらぬ顔でこちらを見ていた。


初めにみゆきの能力を見たときにきずくべきだった。襲われた時、脚が地面に附いていたならあれはみゆきじゃない。あの日遠時の家の場所を知っているもう一人の人物。雫緑だ。


「遠時さん。今すぐカードを渡してください。貴方を傷つけたくありませんから」

緑はゆっくりと遠時の目を見て言う。

その目には一つの迷いもなかった。

「悪いんですけど無理ですってば」

遠時は脚に力をいれ立つ。

「どうして?貴方の願いはないはずよ。今、貴方が戦っている理由は香美市絵里のためなの?」

緑の質問。

けっこうしゃべるな、このひと。

「始めはそうでした。ところでみゆきさん。あなたの願いは何ですか?」

遠時の質問に少し戸惑うもはっきりと言う。

「決まってるやん。脚を治して欲しい」

「その病気は治ると聞きました。人を傷つけて叶える願いじゃない」

(香美市の願いもな…)


「うるさい!そんなん解ってる。でも地道に治してたら大会に間に合わへん」

「確かに大会も大事かも知れませんが、それで治ったとしてみゆきさんは前見たいに弓道ができるんですか?」

遠時の叫び声にひるむみゆき。

「でも、でも、早治さな…早く治さへんかったらまた部員のみんなに迷惑がかかる。気をつかわせてしまう。邪魔になってしまう」

呼吸を上げながら必死に訴えるみゆき。

「迷惑なんてかかってないですよ。俺、みゆきさんが休んでる時に弓道部に来ていろいろ話したんですけどみんな始めにみゆきさんのことを誇らしげに話してましたよ。部長はすごい。かっこいいって」

「ほんまかそれ?」

目を見開くみゆき。

「本当です。誰もあなたを邪魔だと思っていません。だからこんなことやめてください」

「でも、あの、その」

「夢は自分の手で叶えるものです」

みゆきは混乱している。今までしてきた事すべてが間違いだときずいてしまった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!???」

頭を押さえて抱え込むみゆき。

「みゆきさん!!」

駆け寄ろうとする遠時を一本の木刀が遮った。

「なんのつもりですか?緑さん!」

睨み付ける遠時。

「みゆきをこれ以上苦しめないで」

緑の木刀が横に振られる。

右手を上に挙げガードをする。

激痛に耐えながら緑の目を見る。

しかし、緑の目線とは合うことはなかった。

(能力が知られている!?)

「もう少し考えて戦うことですね。貴方逹の戦いは何度も見さしてもらいましたよ」

遠時と香美市は何度もこの戦いの参加者と戦っている。

(見られてたとは思わなかったな)

遠時の後悔もつかの間に緑はすでに後ろにまわっていた。

ブーン!!

女子高生とは思えないほどの速さで振り抜かれた木刀が遠時の右頬をかする。

「痛っうー!」

頬からは赤い血が流れていた。

「私の能力は『ユーセイバー』」

遠時の目の前に現れる。

「その力は― 」

何度も振り下ろされ、振り抜かれる木刀!!

遠時はただ防御を繰り返す。

「高速移動です」

後ろからの声と共に首を切断されたような痛みが走る。

遠時は体を引きずりながら距離をとる。

(くそ!目が霞む)

ボロボロの身体で立ち上がる。


「立たないでください。もう貴方を斬りたくありません」


緑の勝ち誇った目を向ける。

その目が、どうしてもその目が許せなかった。

「みゆき!!早く弓を放ちなさい!」

緑の激しい叫び声。

みゆきはビクッと身体を震わす。

「でも、でも私の理由で人を傷つけたらあかんて― 」

「敵の言ったことです。気にする必要はありません!貴女には叶える夢があるんでしょ」

みゆきの言葉を制する緑。その顔は普段では考えられないほど乱れていた。

「えっ、あ、そうだ。そうだよ敵の言うことなんて聞かなきゃいいんだ!!」

翼のはえたみゆきは弓を構え放つ!!

放った矢は空を切り遠時の左足に直撃した。

「がっ! ぎぁーーー!!」

足の肉がひき千切られる音が聴こえる。

矢は遠時の足を勢いを止めないまま貫通していく。

多量の血が足から溢れだす。必死で涙をこらえることも今では不可能になっている。

「え、遠時君?だだ大丈夫よね緑」

みゆきの視線は血が溢れだす足に向けられ、動揺を隠せない様子だった。

「ええ。大丈夫私が次で終わらせるわ。遠時さん次に会うのは病院のベットです」

言い放ち高速で向かって来る緑。

遠時のボヤけた目でもはっきりと見えた。

(まだだ!まだ終われない。みゆきさんにはまだ言いたいことがある。緑さんにもちゃんと話がしたい。それに、ここで死んだら香美市にカッコつけられない。

俺はこんなことで- 終われない!!)

その瞬間、白と黒の世界が押し寄せた。


緑の殺気のある目、みゆきの焦りの表情、振り下ろされる木刀すべてがコマ送りのようにスローモーションで見える。

遠時は木刀の攻撃を難なく避ける。

緑は驚きの顔を見せ、後ろに下がろうとする。しかし、それすらもスローだった。

遠時の拳は緑の腹に刃のごとく突き刺さっり、吹き飛ばした!!

「がはっ!?」

緑は理解ができなかった。瀕死の状態の男に自分の最大のスピードから打ち込んだ一太刀を意とも容易く避けるだけでなく、反撃を受けたことだった。

(どうゆうこと?彼は動ける身体じゃないはずなのに)

緑は脚でステップを踏みスピードを上げ遠時の周りを高速移動する。

遠時の目はしっかりとそのスピードを追っていた。

緑のフェイントをいれてからの攻撃を遠時は軽く避け相手の顎に向けて拳を振り上げた!!

「ぐあっ!」

苦痛の声をあげながら緑は地面に倒れた。

倒れた緑を見下ろす遠時。

緑は顔だけをゆっくりとあげ遠時を見る。

「卑怯ね。まだ何か隠していたなんて」

笑顔を作りながら言う。

「隠してませんよ。ただあの瞬間に自分の力の本質がわかっただけですよ」

「力の本質?」

「俺の力は時を止める事じゃなくて時を外す事だったんですよ」

黒フードの男に言われた言葉を考えた結果だった。

「時を外すって意味がよくわからないわ?」

「簡単に言えば何時も俺達が生きてる世界軸から少しだけ指定した物を外すんです」

「私よりズルい能力ですね」

緑が不貞腐れて言う。

「そんなことないですよ」

みゆきの方を見ながら返事をする。

みゆきは呆然とコチラを見いる。

「遠時さん」

緑が木刀を杖がわりにして起き上がりながら言う。

「なんですか?」

「私達のカードは貴方に差し上げます。だから、もうこれ以上みゆきに何も言わないでください」

木刀を支えにして何とか頭を下げる。

「すいません。それは無理です」

言い放ち、みゆきの方に足を進める。

みゆきは後ろに下がりながら弓を構える。

「来ないで!!それ以上来たら射つで」

みゆきの最大限の威嚇を無視し直進する遠時。

「う、うわー!!!!!」

放たれる無数の矢。

だが、自分自身を世界軸から外した遠時にとって一秒は一分に思えるほどゆっくりと世界は動いていた。

無数の矢が遠時を避けるかのように通りすぎていく。

徐々に距離を縮まっていく。

「来るなって言ってるやん!!」

放たれる矢が遠時を囲むように降り注ぐ。

だが、遠時の足は止まらなかった。優里に一つの言葉を伝えるために-

矢は時に肩や膝にかするが直進を続ける遠時。みゆきは矢を射つのを止めていた。

目からはいくつもの涙がこぼれていた。

「みゆきさん。もう一人で全部背負わないでください」

遠時は静かに言う。

涙で溢れた目が向けられる。今まで誰にも弱さや辛さを話さなかったボロボロの目が向けられる。

「あなたは一人じゃないんです。俺や緑さん、弓道部員が側にいます。だから-」

言葉を切って優里を優しく抱きしめる。

天使の翼が消えた優里から伝わる涙。


「もっと俺達を頼ってください」

何にも頼らず自分の力で戦い続けた少女の戦いは終わりを告げた。



後日談

みゆきさんはゲットバトルドリームから辞める事にはならなかった。これまで傷つけた人の罪滅ぼしのために戦いをせずに最後の日を待つと言っていた。

緑さんも同じようなことを言っていたような気がする。

なぜこんな曖昧かと言うとみゆきさんの話を聞いた後すぐに倒れたらしい。

病院に運ばれ全治三週間と言う素晴らしい結果だった。

医者には階段から落ちたで突き通して、家族からの心配の言葉はもちろんなかった。


今は個室のベットの上で退屈な土曜日をすごしているところだった。

するとドアのノックもなく香美市絵里が入って来た。

「車に退かれたの?」

「階段から落ちたんだよ」

医者に言った通りの嘘をつく。

「へぇー。よかったじゃない」

勝手に緑さんからの見舞いの林檎を剥きだす香美市。

お前は何も持ってこなかったのかよ!!

「何がよかったんだ?」

不機嫌に言い返す。


「自分の力の本質がわかって」

ニヤーと笑う香美市。

こいつ初めから見てやがったのか!!

「てめえ見てたなら助けやがれ!」

「そんなに叫ぶとキズ開くわよ」

剥けた林檎を皿にのせていく香美市。

「今回の戦いは私が手をだすべきじゃないと思ったのよ」

確かにそうである。今回の戦いは俺一人が勝手に始めたものである。香美市はみゆきさんや緑さんの顔すらも知らなかったのだ。

「そうだな。悪かったよ。怒鳴ったりしてさ」

「じゃあ死んでちょうだい」

「俺はそんなにひどい事をしたのか!?」

クスクスと笑う香美市。しだいに自分も笑ってしまう。

「遠時。私決めたことがあるの」

真面目な顔をする香美市。

「なんだよ」と答える。

「私、願いを叶えるの諦める」

真剣な眼差しをむけてくる。

「どうしてだ。俺がこんなふうになったからか?」

「違う。あなたがみゆきさんに言ったこと、私も考えたの」

なるほどその事か。

「母さんが病気になったのは私のせいなのだから、自分の出来ることをしたいと思ったの」

「そうか」と短く返事をする。

詳しくは聞かない、深くは訪ねない。それが一番とわかっているから。

こいつは絶対に話さないだろう。自分と母親の話を…

それでもよかった。香美市がきずいてくれて、それが嬉しかった。

「そういえば、あなたの願いは何なの?」

林檎を食べながら聞いてくる。

「そうだな~俺の願いは―」

少しだけ考える。目をつむり上を向く。

「こんなくだらねぇ戦いを二度と起こらないようにすることかな」

香美市を見る。彼女は見事な笑顔でこちらをみていた。

「じゃあ私もその夢を叶えるの手伝うわ」

香美市は言う。当たり前のようにその言葉を言う。

遠時は笑いながら言った。

自分の一番の親友に言った。

「ああ。じゃあまた頼むよ香美市」

「任せなさい。私が協力するからには絶対に叶えるわよ」

香美市の雄叫び、遠時の笑い声。



土曜日の個室の病室では二人の賑やかな笑い声が響いていた…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ