銀色の旅 【月夜譚No.113】
映画館独特の空気、匂い、高揚感――それ等が上映される作品の期待値を上げる。時間になるまでロビーで待つこの感覚が、堪らなく好きだった。
たった二時間という短い時間の中に閉じ込められた作品は、小さな箱の中で観客を魅了する。視界一杯のスクリーンと大音量のBGMで、作品の世界に没頭させる。それはまるで自身が旅に出たような感覚にも似て、濃厚な時間を過ごすことができる。時間も空間も大きくはないのに、無限に世界が広がるような気さえする。
そんな体験が、これから自分を待っているのだ。そう思うだけでワクワクして、映画の世界に思いを馳せた心が躍る。
周囲を見渡せば、自分と同じ旅に出かける者が何人も笑顔でそれを待ち、違う所へ行く者もドリンクを片手に瞳を輝かせる。
そうしている内に女性の声で放送が入り、自分を含めた数人が一斉に動き出す。チケットの半券を握り締めて向かうのは、暗く密閉された箱の中。
さあ、出かけよう。短くも長い、その旅路へ。




