75 僕とビッグ烏骨鶏
75 僕とビッグ烏骨鶏
お酒が入ったかのように興奮した彼の口はまだ閉じない。 先ほどまでの王族のような威光はなくなり、とにかく自分が喋りたくて喋りたくて堪らない──そんな酔っ払いに変わっていた。
ティモ「だってマイジ博和は女子高生を盗撮、痴漢──するだけじゃなく盗難車で飲酒運転して人を殺しまくったクズだし」
「な、なんの話しだ?」
ティモ「そのクズに殺されたツエヘシ隆は会社に馴染めず、そのストレスから放火をしまくった社会のゴミ。このザイキン達をあっさりと掃除できたのは快感に近かったよ」
奴の口から語られるその事実を受け入れることが出来ない。懐かしい名前だが俺にとっては昨日のように覚えている存在なんだ。そんな彼らが実はそんな、そんな人間だったなんて改めて思いたくない。
ティモ「次はウラハ輝陽か。あいつも社会に適応できなかったゴミで、自分より弱い動物を惨殺してそれを動画にした。で、最後は何の罪もない小学生を切り刻んだ」
ティモ「いや〜。僕もあいつは怖かったよ。だから殺してくれてありがとうねギンター・アッシュ──いいや、ジェームズ・マルスか」
ギンター「それ以上は今更言わなくても良いだろう」
漆「それ以上って・・・どういうこと?」
ティモ「こいつはね、母国のアメリカを裏切ったテロリストさ!数えきれない数の罪のない人を殺したんだよね〜。みんなそんなやつと仲良くして、あろうことか信頼してるんだよ? 怖くな〜い?」
「みんな落ち着け。ティモは俺たちを乱れさせようとしている」
ティモ「ん〜?乱れさせて僕に何の意味があるっていうのさ」
「さっきから思っていたが実はこの船、人工知能じゃないだろ。俺を撃ったあれは、高性能な機能ではなく、ただの仕掛けだろ?」
俺たちはてっきりこの船全体がティモの声のみに反応して言うことを聞くAIだと思ってしまった。なぜならあんな風に俺のことを撃ったからだ。
撃てと命令したら船が返事をして、天井から銃が出てきてその通りに撃ってしまう。もちろんAIっぽい仕掛けはあるだろう。
しかし少なくともこの船、この部屋全体がAIということはない。あの銃も予め仕込んでいたもの。もう、奴は何も仕込みがない。ネタ切れだ。だからこいつはずっと無駄話を切り出した。そして俺たちの自滅を狙った。
ティモ「ノリト君。君は本当死にたがりだよね。誰よりも死にたがりだ。どうしてそんなに──」
「俺を撃ってみろよ。なあ、撃ってみろ! ティモ・ミドライグル!」
レイナ「タスク君!?」
とっさに漆とギンターも俺の前に出て庇おうとする。漆がこんなことをするなんて、涙が出るよ。けれど涙を流すのはまだ早いな。3人には来るなと、手でストップをかけた。
漆「ノリタクてめえ、しょ、正気かよ・・・」
そのまま1対1でティモと睨み合う。何が起こる? 何がある?いや、何もないだろう。だから睨み合っている。俺たちを散々驚かしてきたあのタマゴがもう、それしか出来ないんだ。
ティモ「────そっか。僕の、負けだね」
けろっと笑顔を見せた。最後の最後でやっと奴は見た目通りの小学生に戻った。友達とにらめっこをして負けた、そんな無邪気な子供が俺たちの前にいた。
ティモ「ノリタクの言う通りだよ。さっきのは何て言うのかな、フェイク?このビッグ烏骨鶏がそういう船なんだぞって、見せかけるためのもの。ま、説明は良いか。どうせ僕は死ぬんだ」
漆「今死ななくても良いんじゃない?本当は殺してやりたいけど、あんたも罪を償えば良い」
ティモ「正義のためにと犯罪者を殺した僕も結局、罪の菌──ザイキンになってしまった」
ティモ「しかも何人殺したか分からない。どうせ死刑になるだろうね。だったらせめて──自分の手で死ぬよ」
「何をする気だ!!」
ギンターと漆がティモを捕らえようと走る。だが万が一の可能性があるので、触れることは出来ない。不気味に微笑むティモ。奴は胸ポケットから注射器を取り出した。
ティモ「注射器に見覚えある人いるかな?」
奴はそれをペンのように揺らして見せびらかす。中では黄色い液体が揺れている。俺はその注射器を初めて見た。
そりゃ人生の中で注射器は見たことあるが、今ティモが言っているのはそう言うことではないはず。この殺し合いの中で見たことあるかどうかと聞いているんだろう。
ティモ「無理に思い出さなくて良いよ。きっと見ていないから。でもね、実はこれ、既にみんなは打たれているんだよ?」
レイナ「い、いつの間に!?」
ティモ「君たちが島に来るまでどうやって運んだと思う?」
あぁ、そうか。俺はこいつにもっと前から会っていたんだ。ずっと前から。そうだ、あの時の。あの時こいつは俺に言っていた。
〝あー。早く起きちゃったの?君は薬が効きづらいんだね。でも、ちょうど着いたから出てきなよ〟
「──思い出した。俺はこれを打たれた記憶がある。確か初めて砂浜に立った時! この島にきた時だよ!」
ティモ「あったりー。と言っても君はなぜか薬に強くてね。2回も打ったのは君だけだよ。他の人はここに来る前に打たれて終わり」
ギンター「それで、その注射器が何だと言うんだ!」
ティモ「実は君たちの体にはその時に睡眠薬と同時に、特製のウイルスを打たせてもらいました。だからね?長くは生きられないってことだよ」
注射器を空中で少し押して中に入っている液体を一滴垂らす。床にそれが落ちるが何も起こらない。一体、何がしたいんだ。そんな話し信じられるか!
漆「ただでは死なないってことね」
ティモ「同じザイキン同士仲良く死のうよ?」
奴は注射器を振り上げるとあろうことか自分の腕に刺した。そのまま躊躇せず中に入っている液体を注入していく。
「ギンター! 漆!」
2人は既にティモを捉えていた。彼は何の抵抗もせずあっさり取り押さえられ、手足を漆のジャージで拘束された。
念のためにと口の中にもそれを突っ込む。一瞬でティモ・ミドライグルは生きたまま、俺たちに捕まった。今度はもう、防犯ブザーは鳴らない。




