73 初めまして
73 初めまして
4階に着くと例の如くドアが時間をつかって開いていく。その隙間の奥をギンターの後ろから、眼球を少しでも伸ばして覗き込む。
???「ぷっぱか♪ ぷっぱか♪ ぷっぱかプー♪」
それは、初めて聞いたあいつの生の声。公園から聞こえてきそうな可愛らしい子供の声。だがその声の主──タマゴの姿はまだドアの隙間から見えてこない。
??ゴ「ぷっぱか! ぷっぱか! ぷっぱかプー!」
奴はずっとそれを歌う。自身の登場曲として。
?マゴ「ぷっぱかぷっぱかぷっぱかプー♪」
やっと腕が通るくらい開いたドア。それでもまだ姿は見えない。
可愛いと思った歌声だが、そのリズムとちょうどシンクロして動くドアに焦燥感が募る。姿は見えないけど、どうせそこにいるんだ。怒鳴りつけてやろうか──そう思った瞬間。
パカーンと襖の如く勢いよくドアが開き、一瞬で知りたかった光景の全てが目に飛び込んできた。
思ったよりもせまい部屋。偉い人が座るであろう高級感溢れる黒い椅子と机。壁には四角い窓が部屋を囲むように並び、外の景色が部屋のどこからでも見える。
船長室と社長室が合わさったような空間に、黄色い髪の子供が1人立っていた。
初めてモニターで見た時と変わらない私立小学校に通うような制服を着た子供。その子供が水色の瞳を俺たちに向けてにっこりと迎える。
タマゴ「ようこそ。僕の部屋へ。まあ立ち話も何だからそこへ座りなよ」
高級そうな黒い机の前にはどこにでもあるパイプ椅子が4つ並んでいた。タマゴはその机を挟んで自分専用の社長椅子に座る。
「面接でもする気か?」
タマゴ「ノリト翼くん。君は何であのエレベーターのドアが急に開いたか分かる?」
その椅子に座る前に勝手に面接は始まった。念のためパイプ椅子には座らず、立ったままこの面接を受ける。にしてもこいつの余裕はどこから来ている。1対4だぞ?鬼だっていないのになぜ座っていられる。
タマゴ「ねえ、どうしてだと思う?」
「どうせそういう仕組みなんだろ」
タマゴ「僕が操っていたんだよ。君たちが普段仕組みだと思っているそれらは、実は誰かに操られているんだよ?」
ギンター「・・・何が言いたい?」
タマゴ「何も〜?ただそんなセリフを言ってみたかっただけ〜」
漆「死ぬ前のセリフはそれで終わり?ああ、あいつ風に言ってやるわ」
漆「言い残したことはあるかしら?」
漆にそう言われた瞬間、直前まで笑っていたタマゴが目の前の机を蹴り倒した。子供の力とは思えないほどの威力で蹴られた机は目の前のパイプ椅子を下敷きにし、俺たちの足元まで吹っ飛んだ。やはり立ったままで正解だった。
タマゴ「──僕、最初に言ったよね。君達は全員! 生きている価値のない犯罪者なんだって! ゴミクズ以下の存在!罪菌だって」
タマゴ「そんな君たちがなに? 正義のヒーロー気取り? 笑わせるなよ?正義は僕だ。犯罪者を裁く僕が正しいんだよ?」
タマゴは立ち上がり訴える。聴衆を引き込み、思考をリードするそんな演説。
彼は子供だが中身は子供ではない。もう大人だ。自分の考えを持っていて、自分の言葉で相手に想いを伝える事が出来る。
そんな強敵相手にレイナも舌戦で応える。
レイナ「例え!例え私たちがあなたの言うザイキンだとしても、こんな風に殺しあわせて良い訳がないんです!」
レイナ「罪を犯した人間は法律で裁かれて罰を受ける。それが本当の裁きです!個人のルールで勝手に人を罰するあなたも正義ではありません」
タマゴ「──もしも、君の大切な人が殺されても、その殺したザイキンに同じ事言えるの?」
タマゴはそう言いながら急に俺を指差した。
タマゴ「OK ビッグ烏骨鶏。ノリト翼の腕を撃って」
《 了解しました 》
漆「ドイツ語!?」
機械の声が返事をすると天井から銃が降りてきた。銃口は俺を見たまま音を破裂音を一度鳴らす。直後、俺の体は投げられたように飛ばされて、右腕から血が吹き出る。何かが俺の腕を貫通した。
「あぁぁぁああああ!! 痛い痛い痛い! 腕が腕が腕が!」
ギンター「落ち着け大丈夫だ! その程度では死にはしない! 漆!止血を」
死にはしないだと!? 嘘を言うな!
死ぬほど痛いんだ! 人生で一番出血しているんだぞ!
もがき苦しみ暴れる俺をギンターが抑える。漆は自分の衣類をナイフで切ると腕に当てて骨折しそうなほど強く巻きつけた。巻かれるたびに感覚がなくなっていく。
タマゴ「わ〜。すごいね! 僕こういうの初めて生で見たよ」
タマゴ「今まではモニター越しだったから映画とかアニメと変わらなかったけど、生で見るとすごいや」
レイナ「・・・殺してやる! あなたを八つ裂きにしてやる!」
タマゴ「あれれ〜?おっかしいなー。法律でなんとかって言ってたのにね〜」
「ダメだレイナ。そいつに……挑発に乗ったらダメだ」
漆「チカイはこいつの看病をしていなさい。相手は私とギンターでする」
タマゴが余裕をこいていた理由が分かった。このビッグ烏骨鶏は船そのものがタマゴの言うことを聞く兵士なんだ。
今のように奴の声に反応して出来ることは何でもするはず。こうなってはタマゴには手を出せない。でも俺がまた囮にでもなれば。
レイナ「タスクくん立ったらダメです!」
「タマゴ! 撃つなら腕じゃなくて、足を撃つべきだったな!」
寝かせようとするレイナの手を握り起き上がる。撃たれた方の腕は痺れていて何も感覚がない。それでも力を入れたら血が吹き出るのは直感が警告する。
タマゴ「どうせ君たち全員殺すから平気だよ。だって君たちは全員がザイキン! 殺されて当然! 悲しむ人なんかこの世にいやしない!」
ギンター「お前のその異常な恨み様。大切な人──家族でも殺されたか?」
誰もが察していたその一言をギンターは言ってみせた。それを言ったらタマゴの怒りを買って殺されるかもしれない。
そう分かっていた俺たちはギンターを見守ったが、タマゴは椅子に座り俯いた。そのまま何も話そうとしない。やはり、図星か──
タマゴ「──僕はただ、人を殺しても生きている犯罪者が憎いだけだよ」
タマゴ「そう思っている人は世界中にたくさんいる。人を殺したんだから死刑になって当然とみんなが思っている。だから僕はそれを実行してあげているんだ。僕は何も悪くない。むしろ正しいんだ」
俺には彼が自分を騙しているように見えた。作り物の正義を演じて自分を保っているような雰囲気が、そのたどたどしい口調にはあった。
漆「確かにそうかもしれないね。実際ノリトが撃たれた後のチカイはあんたと同じだった」
漆「でもそれじゃあ、あんたも結局ザイキンじゃん! てかこの島で何人も殺したよね?」
タマゴ「僕がザイキン?なんの冗談だよ。僕は誰も殺していない。裏切ったギンターだってこうして生かしている。今はね」
ギンター「貴様の味方になった覚えなどない」
「タマゴ。お前は犯罪者なら誰でも──」
タマゴ「もうその名前で僕を呼ぶな。僕をクマのマスコットキャラ如きと勘違いするなよ? ナメるな!僕にも名前がある。人間の僕には名前があるんだ!」
怒りを冷静に変えた冷たい声は刀となり俺の声を断つ。どう見ても小学生の雰囲気ではないタマゴの態度に、徐々に押され萎縮してしまう。
タマゴ「僕の名前は──ティモ・ミドライグル。ティモ様と呼べこのザイキン! 人殺しどもが!」
姿から分かってはいたが日本語を流暢に話す彼は、海の向こうの人間だった。




