66 JOKER投入
66 JOKER投入
漆は次から次へ体の各所にしまっていたナイフを取り出して動揺している鬼達へ次々に放つ。その速度に反応できない鬼はもはやただの的。彼女は当たり前のように一撃必殺を决めていく。
もしも殺しの技を競う大会があったら漆は世界一。オリンピックにナイフ投げの種目なんかがあったら間違いなく金メダル。
俺とレイナの一般人が何の仕事もしないまま、気がつけば鬼の数は10にまで減っていた。いや、今また1人死んだから9・・・8人になった。
「漆、大丈夫か?」
漆「この勢いのまま殺らないとダメ。鬼に少しでも反撃をさせたら、数的不利の私たちは殺される」
この暗殺者はナイフを投げる際、一度その場でジャンプをして空中で投擲を行う。
ちょうどバレーボールのスパイクを打つような動作。ただでさえその動きを途切れず行うのが大変なのにここは砂浜。足が沈むこの場でその動作を繰り返す漆の体力と筋肉は限界に近いかもしれない。
だが、それすら俺に悟られまいと漆は殺すのを楽しんでいるかのように笑う。
漆「ふ〜。やっと最後の1体ね」
ばたりばたりとまるで雑魚キャラクターのように倒れていった鬼達。今まで俺たちの仲間を処刑してきたこいつらは今、何を思うのだろう。
レイナ「最後くらい私と彼で殺します」
漆「ダメ。3人で殺ろう」
残された鬼だけを見てナイフを手に持った漆が、足を引きずって向かっていく。放心状態だ。殺すということだけに意識を囚われている。
だがそんな恐ろしい殺し屋を止めることはできない。止める方法があるとするのならそれは、俺が先にあの鬼を殺すのみ!
「うああああ!!!」
──あ、俺って馬鹿だ。ナイフ握りしめて突っ込むなんて。相手の赤鬼は棍棒を持っていたのを忘れていた漆の殺人ショーを見ていてすっかり自分でも殺せると思ってしまった。
鬼が棍棒を振り上げる。そこに突っ込んでいく俺。足を、止められない。怖いのに砂を蹴って前に進んでしまう。
レイナ「鬼さんこっちですよ!」
耳の横をナイフが通過した。矢のように真っ直ぐ飛んだそれは鬼の腹に向かう。反応した鬼はそれを振り下ろした棍棒でその場に叩きつけた。だがそれが鬼のミス。懐に入った俺はナイフを鬼の顎に突き刺す!
刺して、押して、抉る!
抜いて、刺して、抉る!
抜いて、刺して、抉──
漆「もう、死んでるよその鬼」
無我夢中で動かしていた右手を冷えた手に止められて我に返る。血まみれの温い手と顔が崩れた鬼を見て、自分が何をしていたのか理解するのに数秒かかった。
漆「そのまま殺人鬼から戻れなくなっちまうところだったよ」
レイナ「大丈夫ですか?」
「・・・うん。ありがとう。大丈夫だよ」
漆「あーれ?向こうにまだ1体残ってんな。ノリタクお前数え間違えたろ」
「いや、そんなはずは・・・」
漆が指をさす方向を見ると確かに1体の鬼が少し離れた砂浜からこちらに歩いて向かってくる。暗いがそのシルエットは確かに鬼。棍棒を担いでいる。
レイナ「あの鬼、上陸するところを間違えたんですかね?」
漆「さあ、怖くて逃げたんじゃないの?」
「どうだろうな。分かんないけど・・・」
近くに来たその鬼を見て声が止まった。今までの鬼とは違う見たことのない鬼。体の色は赤だが、死んでいった赤鬼とは全体的に大きさが違う。
つい、見上げてしまうほどのその体高。そしてガッチリとした胸や腕周り。飾りではなくもはや武器と呼べるほどの太い角と牙。・・・ひょっとして本物の鬼か? いや、まさかな。
漆「下がって」
彼女は俺たちの前に出た瞬間、その場で跳んだ。空中でナイフを投擲。なんども見た必殺のナイフ投げ。槍のごとく放たれたナイフは鬼の頭へ一直線。
〝グシュ〟という果実が潰れた音と共に鬼の頭にヒットした。だが、おかしい。血が吹き出ない。そして鬼はこの程度かと言わんばかりに、ナイフが刺さったままの頭で向かってくる。




