61 彼と彼女のcode
61 彼と彼女のcode
漆:──チカイ零那のことは最初から嫌いだった。気に食わなかった。まるで私が与えられてこなかったものを全て与えられて育ってきたようなそんな感じが、第一印象からしたんだ。
だからそんなぬるま湯育ちがこの島で最後まで生き残るとは思わなかった。今は少し見直してるよ。そしてさっき私にナイフを持って突っ込んできたこいつの姿を見て、この女でも私と同類なんだと感じた。
だからってなんでこうやってナイフを使った対人戦を教えているのかは自分でもよく分からない。仲間意識なんてクソ。人はいつか裏切る。そう信じて生きてきた。
もしかするとこのクソみたいな島で、クソみたいな生活をしてきて、私自身がクソになったのかな。
「休憩する?」
チカイ「いいえ。大丈夫です」
こいつ意外とガッツがある。
クラスで本を読んでいそうな大人しい少女、風に吹かれながらピアノを弾いていそうなヒロイン。みたいな印象のくせに中身は泥臭いアスリートなのかもしれない。思えばジャージ姿がこいつには案外似合う。ただその乳は余計で不快で不愉快。
「あんた無駄に腕に力を入れすぎ。力を入れるのは最後のトドメの時だけ」
「それ以外の攻撃は全部フェイントだと思ってやりなさいよ」
チカイ「分かりました。やってみます!」
そう答えて本当に分かるやつ、やれるやつはいない。いたとしても少しの時間がかかる。なのにこの女は次の瞬間から本当にそれが出来た。
天才肌か。それとも殺しの才能があるのか。もしくは既に持っていたこの女の力なのか。なんにせよ、好きになれないやつ。いっその事、この流れの中で殺してや──ナイフが顔の正面に!?
「っち!」
完全に油断した。想定よりも早いペースで成長している。あと2秒反応が遅れていたら、頭にナイフが刺さっていた・・・それでも頬を切られたけど。
チカイ「……あっ、ごめんなさい!」
「やっぱり痛いね、切られると」
チカイ「手当しないと!」
「落ち着けようるさい女だな。ちょっと森で薬草探してくるから」
チカイ「・・・けあむるう?」
大袈裟に心配する様子はこいつの演技か?だとしたらこいつは主演女優もんだわ。ナイフを持っていた時との切り替わりようがひどいひどい。普段はおとなしい可愛い少女が凶器を持ったらバーサーカーになるって感じ?ほんとイヤなやつ。
そしてこのタイミングでこの男に出会うのも最悪!
ノリト「ほっぺを押さえてどうした? 痛いのか?」
「あんたの女に〝もうタスク君に近づかないでください〟って怒られたんだよ」
ノリト「バカ! そういうのじゃねえよ!」
なんでこう、そういう時の反応が童貞臭いんだか。まあ、そこがこいつの可愛さか。
「例の件だけどチカイも入れたほうが良いと思う」
ノリト「あいつは、そういうことが出来る人間じゃない」
「この傷を見ても?」
私が隠していた頬を見せるとこいつは顕微鏡を覗くように、じっくりと見やがった。しかもその場からでも見れるのにわざわざ私に近づいて見やがる。
「いつまで見てんだクソ。そんなに私の顔が好きかよ」
ノリト「・・・」
「だっ、黙ってんだじゃねえ! 殺すぞ!」
ノリト「チカイ零那はお前を殺そうとしたのか?」
距離を変えないまま彼は小声になった。これはタマゴの監視を警戒しての行動。別にそうリードするためにわざと頬を見せたわけじゃないけど、こいつも意外と侮れない。
しかもそのまま薬草を取り出して治療を始めちゃうんだから怖い。プロのスパイかよって。でもおかげで森の中で男女が、イチャイチャしているように見えなくもない。まあ、こいつにはそんな感覚ないだろうけどね。
「お前と同じようにトレーニングをしてやっただけだよ。それでも殺気はあったけどね」
ノリト「明日で3日目。その次の日は処刑の朝がやってくる。俺とチカイが殺し屋になれる時間はあると思うか?」
「私レベルにはなれないだろうね。でも、鬼を殺せるようにはなるんじゃないの?というか今更後戻りは出来ない」
ノリト「今から3人でトレーニングしよう。この作戦について今から彼女にも話す」
「いいわ。じゃあ私はまた別行動して──」
チカイ「ちょっと! そこで何しているんですか!」
治療した傷口が痛む女の怒号。どうせ勘違いしているだろうけれど、これは私も悪いか。
チカイ「説明してください!!」
言われなくてもするだろうよ。
〝違うんだ。別にこれはイチャイチャとかじゃなくて!〟てな感じに誤解を解いた後に、3人で島から出る方法をね。




