60 彼女と彼女の残り2日
60 彼女と彼女の残り2日
目を覚ますと隣の彼はまだ寝ていた。私ですら昨日の疲れが取れていないからもっと疲れているんだろうな。
刃物を持って人と殺し合おうとしたんだもの。精神的にもかなり疲労しているはず。このまま寝かせておこう。
出来れば今日が終わるまで起きないで欲しい。それが私の願い。明日は、明日なんて来なければ良いのに。
着替えたらご飯取りに行かないと。
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砂浜へ向かう道で漆に出会うかもしれない。嫌だな。会いたくないな。そう不安になりながらもポケットに仕込んだナイフに手を当てていた。いつでもそれで刺せるように用意していた。
でも結局、彼女には会わなかった。もしあの赤い髪が見えたら私はどうしていただろう。あいつには殺されたくない。それに、私の死体を彼に見せたくない。
砂浜には既に3人分の荷物が投下されていた。荷物の箱が本人でなければ開かないルールは今も続いている。だから私は彼の分もと思って少し多めにご飯を貰えるように青鬼に頼んでおいた。
今日のお昼もサンドイッチ。それを両手で抱えていると「ずいぶん食べるのね」と後ろからゾッとする声。あの女だった。
漆「別にあんたを殺そうなんてしないから安心しな」
「早起きですね」
漆「そう?多分もう昼だけどね。それよりノリトは?」
「ノリト君は疲れて寝ています。多分今日は来ないと思いますよ」
漆「ふーん。じゃあ代わりにあんた、相手してあげようか?」
「それはつまり、あなたを殺しても良いってことですか?」
本気だった。でもそれが伝わるわけがない。冗談だと思われる。冗談だと思われるならそれが油断になる。そこに私の勝機が生まれるんじゃないか。そう考えたんだけど、この人は私を笑わなかった。あごに指を当てて考えるだけ。
漆「構わないけどあんたはどうする? 殺されたい? 殺されたくない?」
「私は、生きたいです。明日も、またその次の日も、ずっと! 生きたいです!」
漆「なら、頑張りなさい」
そう言うと彼女は私の足元にナイフを投げてきた。これはタスク君から貰ったナイフと同じ物。この人、一体いくつナイフを持っているの?
それを拾って元々私が仕込んでいたナイフを取り出した。2本のナイフを持った私を見ても漆は何も驚かない。やっぱり既に私がナイフを持っている事を知っていて、ナイフをくれたんだ。それか、私がナイフを隠しているところで問題ないってことかな。
漆「いきなり2本は初心者には危ないと思うよ?」
「初心者とか上級者とか、そんな事を言っている時間はないので!」
私は無心──いや、彼のことだけを想い浮かべて2本のナイフを漆に向けた。そしてそのまま牛のように突っ込む。
人は刺せば死ぬんだ。心臓を刺せばどんな人だって死ぬ。そこに技術とか経験なんてものは関係ない!難しいことは考えちゃダメ相手を意識してもダメ。ただシンプルに刺すのみ。そう、私はナイフ。
──突っ込んだ私の視界から漆が消えた。次の瞬間、背中をトントンとナイフの柄で突かれた。
漆「これじゃあ闘牛だよ。にしてもあんた意外と運動できるんだ」
「……体の動かし方は、本で読んだ事を真似しただけです」
漆「何それ天才じゃん。そんな天才を今すぐ殺すには惜しいから教えてあげるわ、ナイフの使い方」




