57 殺害宣言
57 殺害宣言
────朝。起きて、着替えて、顔を洗って、学校に──いいや、砂浜に向かう。この決まった動作の途中、俺は一言も声に出さない。レイナはまだ寝ていたと思う。
彼女のことはあまり見ないようにした。それだけ漆との決闘に集中したかったんだ。
今日、もしかしたら自分が死ぬ──殺されるかもしれないというのに全く何も感じない。これは緊張感が足りないのか?
いやでも無理だよ。そんな非現実的なことを受け入れろなんて。自分の番になると全く現実味がない。俺は明日も生きてる。そう思って砂浜へ荷物を取りに行くんだから。
この島に連れて来られて何日経ったのか分からないが、こうして砂浜に届いた荷物箱を慣れた手つきで開けて、朝食をいただいている俺はもはや立派な島民だ。
この島での暮らしは何不自由なかったかもしれない。必要な物、欲しい物は全てタマゴが揃えてくれる。一見楽園だ。
でもそれは俺たちのためではなく〝殺し合いコンテストを運営するための〟サポート。そう、だから包丁だって朝一番で届けてくれる。
しかも、用途を知っているのかご丁寧に鞘付き──
漆「おはようノリト翼。早いわね」
声をかけられるよりも数秒前、ジャージの擦れる音がした時に俺は包丁を胸の中に隠した。
「おはよう漆幸香」
俺たちはこれから殺し合う。なのに挨拶をするなんて変だと思ったよ。
でもあっちがしてきたんだ。しょうがないだろう。全くどんな神経しているんだか。
まあ、武士とかが映画などで戦う前に名前を名乗っている場面があるしな。殺す前の礼儀といえば礼儀なのかもしれない。
漆「これあげるわ」
彼女は手の平を俺に差し出した。何か小さな物が乗っているが確認は出来ない。日光を反射しているけど・・・なんだ?
「ちょっと待て、今俺がそれを受け取りに行ったら、急に殺すとかしないよな」
漆「だとしたら挨拶なんてしないって。それに今日まであんたを生かしはしない」
「どうもありがとう」
初対面でもないのに、初対面のような雰囲気。それでも更に身構えて、漆が渡してきたものを受け取った。それは、凶器だった。
「なんで俺にナイフを?」
漆「昨夜タマゴにお願いした。ほら、あんた素人でしょ?」
「・・・確かに俺はお前のようなプロではない。でもな漆、俺だって人を殺したことはあるんだ」
漆「何人殺したの?」
「まあ軽く、二桁はやったよ。だから俺はその事に関してはな、童貞じゃないんだよ」
もちろん嘘だ。いや、嘘じゃない。思い込め!俺は殺人鬼。凶悪な殺人鬼。誰だって、何人だって殺せる。日本中に世界にその名を轟かせるんだ!
──うん。殺せるよ。簡単なことだ。ただナイフを漆に刺すだけ。
肉や野菜に出来ることが、どうして人間になったら出来ないって言うんだか。小学生にだって出来ることだぞ。
漆「そう、慣れているのね。それなら私も気が楽。あんたを悪人として殺せるわ」
彼女はパンツに手を突っ込むと、隠していたナイフを秘密道具のように取り出した。やっぱりあいつも持っていた。きっと他にも何かを持っている。
だけど俺だってまだ見せていない凶器──包丁を持っている。
漆「それじゃあ」
「殺ろうか」
砂浜で互いに距離を取りそれぞれが構える。お互い準備が整った。身も心も問題ない。それなのに震えが止まらない。
ギンターがいないから?違う。シドウの声援がないから?違う。俺は、戦いが怖いよ。
ああ、やっぱりこれはいわゆる殺害じゃなくて決闘なんだ。持っているのはナイフだけど気分は西部劇の銃士。
どちらかがどちらかの命を奪う。命を奪った方が勝つ。そういう戦い。なんで平成にうまれた俺がこんなことをしなきゃ──違う。やらないといけないんだ。そうだ、殺らなきゃいけないんだ。
漆「あんたを」
「おまえを」
ノリト・漆「殺す!」
合図の銃声は鳴らない。それ以上のもの──俺と漆の魂の叫びがぶつかった。




