56 殺すしかない
56 殺すしかない
────アスカ妃美子の処刑から3日後
俺たちはなんともない普通の日々を送っていた。久しぶりに感じるあれ。思わず忘れそうになったが日常というやつだ。
殺しの〝こ〟の字もないような日常。そんな日をいつまでも送ることが出来れば良いのだが、俺たちを見て楽しんでいるアイツがそれを許すわけなかった。
奴は今日の朝、俺たちを砂浜に呼び出すとこの最後の殺人コンテストに新たなルールを加えた。
タマゴ《僕はガッカリだよ。とっくに2人くらい殺されている頃だと思っていたのにさ、誰もそれをしようとさえしない》
タマゴ《漆さんは何もしないし、チカイさんはせっかくあげた薬を使おうとしない」
タマゴ「だからね、僕は決めました!あと3日以内に殺人コンテストが終わらなかった場合、君たち3人を処刑します!》
当然3人で反対したが今まで通り俺たちの意見を聞くこともなく映像は消えた。それがつい数時間前のこと。
余命宣告をされた俺たちはどうするかをその後話し合った。だが現実的な答えは出ない。
結局俺たちは砂浜で横になって今も波の音を聞いている。波の音だけは初めて島に来た時から何も変わらない。
レイナ「やっぱり・・・殺すしかないですよね?」
それが最も現実的な方法なのは分かっていた。それは最初からそうだ。この島から、このふざけたゲームから脱出する唯一の方法は誰かを殺すこと。
でもそれは人の生きる道として間違っていると思ったからそれをしなかったんだ。
とはいえ俺はその方法を見て見ぬ振りをしていた。今だってレイナがそれを言うのを俺は待っていたにすぎない。
漆「私もそれが良いと思うよ。さっきノリタクが全員で仲良く自殺とか言ったけど、」
漆「私は自殺するくらいならまだ、あんたらのどっちかに殺してもらったほうが良い」
「お前たちもしかして、俺に殺してくれって言っているんじゃないだろうな!」
漆「私は違うよ?でも最悪の場合はってこと」
レイナ「私だって生きたいですよ。けど、人を殺してまで生きたくないです。もう二度と人を殺したくないんですよ!」
レイナは柔らかい砂を叩いた。空を見上げる彼女の顔に涙が流れていることを震える声から察した。
漆「私だって別に人を殺すのが好きなわけじゃない。殺人犯だからって人殺しが好きとか、人を殺したいとか思わない」
漆「けどま、自分が生き残るためなら私は人を殺せる。でもだからってチカイ零那、あんたの生きる意思が弱いとはもう言わない」
「・・・漆は俺を殺せるのか?」
漆「別に今までだって私はお前を殺せたよ。現に最初のコンテストでサイセを殺そうとしたしね」
漆「スイッチさえ入れば私は簡単に人を殺せる」
そう言って俺の首元を指差した漆の眼光は鋭かった。こいつにはこの平和な波の音が聞こえない。いや、関係ないんだ。それでも彼女の目は悪い目じゃない。
キケツのように快楽のために殺すような殺人鬼ではなく、自分のやるべきこととして殺人を行うようなプロの眼。そうか、これを世間では職人と呼ぶんだな。
「分かったよ。じゃあ俺もせいぜい抵抗させてもらうよ」
レイナ「どういうことですか!?」
「漆は俺を殺せる。だから俺はそれに精一杯抗う。そしてもしも出来たら──」
「俺が漆を殺す。問題ないよな?」
漆「──良いねえ。堂々とした殺人予告。というか、もうこれは決闘ね」
起き上がった俺は彼女に手を差し出す。素直にそれを握って彼女は起き上がり俺の目を見て決闘を了承した。
自分でもまだ人を殺す心の準備は出来ていないのに先に体がこうしてしまった。殺す覚悟どころか、殺される覚悟すら出来ていないのに。
レイナ「私はその、何をすれば」
「レイナはその薬で死ねるんだろ?ならさ、俺と漆の殺し合いが終わるまでは生きていれば良いじゃんか」
漆「観戦している分には何も問題ないよ。でも、私を殺そうとしたら容赦なく殺すから」
再び漆の声と眼光が鋭くなり。これが、彼女がさっき言ったスイッチというやつだろうか。
起き上がって早々にそんな殺気に睨まれたレイナだったが彼女も彼女で、堂々とそれを受け止める。
レイナ「──わかりました。2人の決闘、見届けさせてもらいますね」
俺と漆の命をかけた決闘は明日行われることになった。
ずいぶん急だがただでさえ時間がない。それにどうせやるならこの流れのまま殺ってしまいたい──という想いが俺たちの中にあったんだと思う。




