52 刀の記憶
52 刀の記憶
────影武者のタマゴがアスカに殺される数時間前。キケツがギヨウを殺害し、ノリトとチカイが現場から去った後。
キケツは絶命したギヨウを鉈で殴り続けていた。肉と血が飛び散るその様子をすっかり見慣れてしまったアスカは大木の裏から出てゆっくりとその獣に近づく。
アスカ「それじゃあハンバーグになる前にジュースになるわよ」
キケツ「誰だ!?──って、何だ君か。驚かさないでくれ」
アスカ「約束は覚えているわね?」
キケツ「ああ、もちろんさ。もう暫くすると迎えの青鬼が来るはずだよ」
アスカ「それを殺して着ぐるみを剥ぐのよね。私の準備はバッチリよ」
彼女はジャージ脱ぐと、魅力的に膨らむ胸の中から脇差を取り出した。鞘から抜いた鋒を目の前の真っ赤な男に向ける。
キケツ「それにしても今時そんなものをよく持ち歩いているね」
アスカ「家宝だから。常に持ってるの」
キケツ「島に来た時から?よくバレなかったね」
アスカ「いつだったかノリト君に見られそうだったけど、あの連中はみんなバカだから平気よ。ずっとこの時のために寝袋に隠していたわ」
キケツ「ギンターも銃を持っていられたくらいだもんね」
キケツ「最初の身体チェックは君やギンターのためにあえて行ったとしか思えないよ」
アスカ「あなたも何か持っているんじゃないの?」
キケツ「私はフォークさ」
男はポケットから銀のフォークを取り出した。彼の満面の笑みに女は少し後退りする。
アスカ「……ナイフはないの?」
キケツ「訳あってギンターにくれてやったのさ」
そう言った男だったがその顔は言葉通りではなく、明らかに別のことを意味している顔。女もそれを理解しそれ以上は聞くのをやめた。
アスカ「私ね、この島に来る前の記憶があるんだけど、部屋に案内されてアンケートに答えた記憶はないかしら?」
キケツ「そもそも島に来る前の記憶はないよ?島に来る数日前の記憶ならあるけど」
アスカ「その顔は言葉通りの意味ね。だとすると私の記憶違いって可能性もあるけど、」
アスカ「確かその時に〝無人島に1つ持って行くなら何?〟っていうアンケートがあった気がするの」
キケツ「・・・それでなんて書いたんだい?」
アスカ「朱烏丸──この刀の名前を書いたの」
キケツ「もしそれが事実ならツエヘシ君がライターを持っていたことも納得できる」
アスカ「そして多分、彼を殺害したマイジは酒って書いたんだと思う」
キケツ「なるほどね。この殺人コンテストも、君のように何か裏があるのは確からしい」
アスカ「あなたはフォークとナイフって書いたはずよ。2つだから反則な気もするけれど、覚えていないの?」
キケツ「うーん。食器って書いたのかもしれないな〜」
アスカ「結局反則じゃないの」
男と女が笑っているそこへ、身の丈より大きな箱を背負った青鬼がやって来た。山菜採りのために
偶然ここに来たわけではないだろう。
到着するなり青鬼は2人に礼をして肉片になったギヨウをその箱の中に詰め始める。
骨と肉。ドロドロとした何かを抵抗もなく触り慣れた様子で箱に入れていく。そればかりはさすがのキケツも冷静にならざるを得なかった。
数分でそれらを詰め終わり箱の蓋を閉めた時、青鬼の頭が地面に落ちる。血を噴出して倒れた鬼の背後には鉈を持った男が立っていた。
キケツ「鉈でも首を斬れるもんだね〜」
首を斬ったばかりのそれで残った青鬼の胴体をキケツが解体し始める。
アスカ「ちょっと!青鬼は私が殺す作戦じゃないの」
キケツ「私は、他人の殺人を見たくはないんだ」
男は近寄り難い声を放ち彼女を遠ざけた。彼から離れようと大木の横を通った時、アスカはその中にあった少女の遺体を見た。
アスカ「・・・そういえば、サイセありやがまだ残っているけど?」
キケツ「死体に興味はないよ。誰かに殺されたサイセなんて価値がない。適当に埋葬しておくれ」
キケツ「私は着ぐるみを剥いだら、少しやることがあるから丁寧にお葬式をやっても良いよ?」
彼女はそれを了承すると大木から少女の死体を出して近くの地面を掘り始めた。
こうしてそれぞれの作業が終わるとアスカは青鬼の着ぐるみを被り、肉片が入っている大きな箱を背負った。彼らは青鬼が来た道──ノリト達がいる砂浜とは反対側へと向かう。
アスカ「そういえば青鬼の中身はなんだったの?」
キケツ「鬼は鬼さ」
うっすら赤い口元で男が答えるとそれ以降2人は何も話すことなく、ただただ歩き続けた。




