50 ころじてやる
50 ころじてやる
座るタマゴの背中側。そこに見える小さな日本刀が背もたれごと、タマゴを刺していたのだ。
タマゴ《……アスカ妃美子。日本の超極秘組織──桜宮の一員にして国の裏切り者。そして暗殺されるはずだった》
タマゴ《だからこそ!罪菌の中で一番気をつけないといけない奴だと、僕は、僕は知っていたのにっ!》
アスカ《警備が甘いのよ。中にいた鬼も消させてもらったわ。でも1体だけ手強い鬼がいたせいで少し残ってしまったけどね》
刀に刺されたままのタマゴは抵抗しない。自身の黒い制服は流れ出る血がドス黒く染めていく。
アスカはその様子をずっとカメラに撮り続け俺たちに見せ続けた。
にしても今タマゴが言ったことは信じられない。というか受け入れられなかった。おうぐう?なんだよそれ。
日本のスパイか何かだろうけど初めて聞いた。けど、そんな組織の人間だからこそあそこにアスカ妃美子が立っているとも言える。でなければ、一般人では無理だろう。
タマゴ《……それで?ぼくをどうする。このままころす?》
アスカ《あなたはこの最悪な殺人事件の黒幕。当然そうするわ》
「待ってくれアスカさん! タマゴを殺して本当に全部終わるのか!? 他に何か隠されていることはないのか?」
アスカ《例えあったとしても、それをこいつが言うとは思えないけどね》
彼女はタマゴの背中に刺さっている刀をさらに深く押し込む。それに応えるようにタマゴは口から血を吐き出した。
血と共に彼の声にならない叫びがモニターから流れ出る。いくらタマゴとはいえ子供が血を吐いて悲鳴をあげる姿は見ていられない。
漆「こうして見るとあの女の方が悪に見えてくるね」
レイナ「タマゴを今すぐ殺さなくても良いと思います!拘束して、日本に帰った時に警察に突き出せば──」
アスカ《今ここでタマゴの首を刎ねるわ。正直私だって捕まえたいわよ。でもね、私は怖い!今殺されるんじゃないかって怖い!》
アスカ《安全な場所で私を見ているあなた達には分からない恐怖がここにはあるのよ!》
彼女の言うことはよく分かる。いつミサイルを打たれるか、いつ鬼に捕まるか。それらを考えたらタマゴを生かしておくのはありえない。
どっちにしろ砂浜にいる俺たちじゃどうしようもない。船にいるアスカにタマゴの処分を任せるしかない。
アスカ《タマゴ。最後に言い残すことはあるかしら?》
タマゴ《──ぷっぱか! ぷっぱか! ぷっぱかプー♪》
血が流れるその口で、奴は最後にお気に入りの詩を歌った。
アスカ《最後までふざけた奴ね》
カメラを置いたアスカはまず、タマゴの背中から容赦なくその刀を引き抜く。タマゴは自由になったが白目をむいてその痛みを堪えることしか出来ない。
女忍者は逃げられないタマゴの背後で刀を構え、彼の首の真横に刀を当てる。一呼吸置くと刀を握るその腕をゆっくりと持ち上げた。
〝死ね!〟
勇ましく吠えたアスカは刀を振り下ろす。刀は空を斬り、タマゴの首を断った。
ゴトンと、物が転がり落ちる音。アスカの一振りは俺が目を閉じるよりも速かった。
気のせいかアスカが吠えるより前に〝助けて〟と言う子供の声が聞こえた。だがもう奴はいない。モニターには刀を拭く彼女だけが映っている。
漆「なんだかあっけなかったわね。正体も普通に人間で、簡単に死ぬんだもん。血も赤かったし」
「アスカさん。その船に俺たちを乗せてくれるのか?」
アスカ《もちろんよ。私はそのために船に潜入してタマゴを殺した》
漆「その潜入ってのはどうやったんだよ」
アスカ《それは──》
???《それは僕が教えようかな〜》
レイナ「タマゴの声!?」
アスカ《・・・嘘よ!! だって今ここに首が転がっているのよ!?》
アスカはカメラにタマゴの死体を映した。つい見てしまったが、確かにタマゴは首と胴体が離れて死んでいる。でも今その死者の元気な声が聞こえた。
漆「・・・シドウの時の謎が解けたよ」
「どういうことだ!?」
漆「あいつが今切ったのはさ、影武者なんじゃないの?」
タマゴ《ぷっぱか! ぷっぱか! ぷっぱかプー♪ は、復活の呪文なのだ〜》
やはりそれは紛れもなくタマゴの声。今までとなんら変わらないタマゴの歌声。しかし奴の姿はまだ、どこにも見当たらない。




