45 ダブルチーズバーガーがいいな〜
45 ダブルチーズバーガーがいいな〜
アスカさんの話によるとサイセは逃げる時に転んで足を怪我してしまったらしい。
走れなくなった彼女は今、森の中で隠れているという。ギヨウさんも一緒らしいので何とかなるとは思うが一刻も早く彼女を助けないと。
「アスカさんも腕を怪我したんですか?」
前を案内する彼女は自分の右腕を左手で庇うように掴んでいた。
上半身のジャージの汚れ方からするになにかあったのだろう。
アスカ「私もさっき転んでしまって……情けないわ」
レイナ「足は平気ですか?」
アスカ「痛むけどこの状況で立ち止まったら死よ」
今頃キケツは俺たちをハンバーグにするために血眼になって狩りをしているだろう。
漆の動きも気になるがあいつはどっちなんだ?こんな状況ならあいつでも味方でいてくれる方が頼もしい。
レイナ「サイセちゃん達と合流したとして、その後はどうしますか?」
「生きるんだ。戦ってでも生きる。この島から出るまで戦うしかないよ」
アスカ「相手が5人もいればあの人食い吸血鬼も諦めるでしょ」
見慣れた森の中を迷わずに進むが森の木や枝が不気味に見える。
どこから吸血鬼が出てくるかそれを意識している俺たちは走らずゆっくり、音を消しながら進む。
頼むから来ないでくれ。他の所に行ってくれ。ずっとそう祈っていた。
アスカ「あそこの大木の中よ」
レイナ「凄い。こんな、人が中に入れる木があったんですね」
「まるで神様とか妖精が宿っていそうな木だな」
サイセとギヨウが隠れているという大木は幹の一部が腐っていた。その部分にちょうど人が入れるほどの穴が空いている。
だけどこんな湿っぽい場所、ずっとはいられ──
レイナ「いやぁぁぁ!!!」
幹に近づいたレイナの悲鳴が森中に響く。駆け寄って大木の中を見ると・・・白目を向き、口から泡を吹いているサイセが座っていた。
「・・・サイセ? おい、サイセありや?」
唾を飲み込み、恐る恐るそれに触れると力の入っていない少女の体は大木の中に倒れた。
首元には強く絞められた手の跡が生々しく残っている。
この手、俺より少し小さい?多分キケツではない。おそらく女性の誰か。
そしてサイセ自身もまだわずかな熱を持っている。殺されたのは少し前か?
アスカ「ギヨウ恵子はどこ!?」
「タマゴは殺人コンテストに使う道具を後から届けると言っていました。だからきっと犯人は道具を手に入れたら、またここに戻ってくるはずです」
「そうだったわね。ならここを離れないと・・・」
レイナ「サイセちゃんは置いていくしかないのかな?でもこのままじゃ……」
サイセの遺体はこのままじゃハンバーグになる。出来ればここではないどこかに埋葬してやりたい。
しかしそんな余裕はない。亡き彼女にしてあげられたのは瞳を閉じて、口元を綺麗にすることだけ。
ごめんよサイセ。やっぱりあの時みんなで一緒に逃げるべきだった。本当にごめん。ごめんなさい。
キケツ「おやおや? みんなで集まっていったいどこへ行くんだい?」
その声が聞こえた瞬間、体がフリーズする。寒くないのに寒気に包まれ手と足の震えが止まらない。
俺たちはこの島で最も出会ってはいけない鬼──北の吸血鬼に見つかってしまった。
どうにでもなれと、決死の覚悟で振り返ると、鉈を手に持ったキケツが立っていた。
ひょろい長身に感情のない笑顔。こいつはあの棍棒を持った鬼よりも恐ろしい。まさに殺人鬼。
キケツ「何をそんなにウサギのように怯えているんだい?」
「おお、お、俺たちを殺すつもりなんだろ!?」
キケツ「いや、私は君たちには興味はないよ。ところでサイセありやを知らないかい?」
レイナ「あなたがやったんじゃないんですか!?」
キケツ「・・・私はまだ誰も殺していな──まさか!?」
アスカ「残念ながら、サイセありやはギヨウ恵子に殺されたわよ」
その瞬間、冷めていた彼の顔に表情が宿った。大事に握りしめていた鉈は手の平から落ちて、彼は両手で頭を抱えた。
キケツ「──嘘だ。嘘だ。嘘だ嘘だ! 嘘だ! 嘘だあああああ!!!!!」
膝から泣き崩れた彼は再び手にした鉈で、土を抉り続けている。完全に壊れてしまった。
「今のうちに逃げましょう!」
3人で逃げようとしたその時、砂浜の方向から木の葉を散らし息を激しく切らしてドタドタと走ってくる音がした。
サイセの死体がある大木の裏に隠れ様子を見ていると、今度はギヨウ恵子がこの場所にやって来た。彼女の手はなんと、凶器であろうハンマーを持っている。
まさか、ギヨウは本当にサイセでハンバーグを作るつもりだったのか!?。
ギヨウ「な、なんでキケツがここに!? それにさっきの悲鳴は誰!」
キケツ「──良いところへ来たねギヨウ恵子。私は若い肉が好きだが今回は、食欲よりも恨みが勝った」
ギヨウ「一体なんのこと!?」
キケツ「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ?だから君をハンバーグにしてあげよう」
これからここで惨劇が起こることを俺たちは分かっていた。分かっていたから動けず、大木の後ろに隠れることしか出来ない。
とにかく自分の命が無事であれと、朽ちた樹木に祈り続けた。




