44 にげろにげろ〜
44 にげろにげろ〜
ギンターの配信映像が消えた後、口を開いたのは震えている彼女。
漆「あっのクソ野郎め・・・死ね! 死ね! 死ねよ」
ギンターへの怒りを込めた漆のかかと落としが死ねの数だけ砂浜に炸裂していく。
ギンターが助けに来る作戦のことを知らないアスカ達から見たら、漆の怒りは過大に見えるだろう。
でも実際クソ野郎だ。俺たちを騙してウラハを殺しておいて、1人だけ今も自分の家で楽しんでいるんだからな。
タマゴ《そんなに悔しがる必要ないよ漆さん。だって次の殺人コンテストで君が作品を出せば良いんだから》
キケツ「悪いけど次は私も参加させてもらうよ?」
「みんな落ち着けって!もう少し考え──」
キケツ「私はよく考えたよ。その上で次は誰かを殺そうと決めたんだ」
タマゴ《良いね〜。じゃあ早速第3回殺人コンテストのお題を発表しまーす!》
嘘だろ!? もうやるっていうのかよ!
お題が発表されたら道具が届く。とにかくそれを誰にも触らせちゃいけない。
特にキケツだ。でも俺があいつを・・・止められるか?シドウもギンターもこの島にはもういないのに。
タマゴ《お題はみんな大好き──ハンバーグ! 美味しいハンバーグを作ってね!》
焼き鳥は串刺し。鍋が溺死。ハンバーグは・・・考えたくもないな。今までで最悪のお題だ。
タマゴ《今回はお題に使う道具のハンマーと鉈は後ほどお届けしまーす! なのでそれまでに材料を確保しておいてね!》
それってつまり?
タマゴ《じゃあよーい》
もうこの瞬間から
タマゴ《スタート!》
殺し合いが始まってるってことかよ!
「みんな逃げろ。逃げるんだ! とりあえずお昼休憩の時間まで逃げろ!」
そう叫んで森へと逃げた。砂浜にいたギヨウ、サイセ、アスカの殺しをしないであろう3人にちゃんと届いていれば良いのだが。
彼女たちを気遣う余裕なんてない。真っ先に俺は逃げていた。
──でもなぜか、チカイ零那だけの手を引っ張った。無意識に彼女の手首を掴んでいたんだ。
とにかく誰か1人でも助けようと俺は思ったのかもしれない。そして選ばれたのが彼女だった。
チカイ「ノリトさん大丈夫ですよ。私走れますから」
「ごめん!な、なんか分かんないけど俺、チカイさんのことは──」
チカイ「今更〝チカイさん〟ですか?もうレイナで良いですって」
「分かった。とにかく一緒に逃げよう・・・レイナ!」
彼女は森を走っているこんな状況でも笑ってみせた。学校の教室や帰り道で話していて笑うときのような自然な笑顔。
俺が最初から彼女の見た目に惹かれていたのは事実。だから今も彼女を無意識に特別扱いしたんだ。
レイナ「皆さん大丈夫でしょうか」
「誰の声もしないね。夢中で走ったからどこまで来たのか分からないや」
気が付いた時には森の中にある草原に出ていた。
周りに樹木が無くて見通しが良く、誰かが近づいてきても草原の真ん中にいれば十分対処できるだろう。
2人で立ったままで背中を合わせて周囲を見張る。時折風が吹いて膝あたりまである草や森の葉が揺れる度に背筋が伸びる。
心臓がドクンと脈打つ。いつどこから自分を狙うハンターが来るか分からない。
全く、草食動物にはなりたくないな。この緊張感の中でどれだけ集中していられるだろうか。
レイナ「ノリトさんはハンバーグを私で作らないんですか?」
「・・・や、やめてくれよ! 冗談でもそんなこと言わないでくれ!」
レイナ「良かったです。ノリトさんもギンターさんのように、裏切るんじゃないかって思って」
「正直あのギンターの様子を見せられた時は俺も心が揺らいだよ」
「でもあれもタマゴの狙いなんじゃないかって考え直したんだ」
レイナ「タマゴの狙いですか?」
「タマゴはあの映像を見せることで、俺たちの〝島から出たい〟という想いを高めた」
「でも俺はね、タマゴの狙い通りになりたくないって気持ちの方が勝ったよ。それに──って、さっきからなんで笑ってるの?」
合わせた彼女の背中がヒクヒクと変なリズムで動いていた。顔は見えないが彼女に笑われているのは分かる。
レイナ「ごめんなさい。だってノリトさんが凄い頼り甲斐のある人になっているから」
「俺には今でも頼り甲斐なんてないよ。けれどもう、頼れる人はいない。頼ってもダメだと学んだ」
「だから、俺自身の力でタマゴと戦わないといけない」
レイナ「なら私も一緒に戦いますよ。良いですよね?タスクくん」
「も、もちろんだよ。レイナ」
なんだろう。久しぶりに生きている心地がした。次の瞬間に死ぬかもしれないのに、俺が本来送るべき生活を送っているようなそんな感じがした。
周りがジャングルではなく学校で着ている制服だったら完璧だった。
レイナ「とりあえず誰かを探しますか?」
「そうだね。でもその前に」
レイナ「その前に?」
深呼吸をした。背中を合わせていた彼女は振り返って俺のその様子を観察して笑った。
レイナ「なんですかそれ」
「何って深呼吸だよ。緊張する時とかやらない?」
レイナ「知ってますけど、まるで小学生みたいで可愛いですね」
「そ、そうかな。高校生とかでも普通にやると思うけど」
彼女の言葉を他の人に言われたらバカにされているように感じただろう。でも彼女にならバカにされても嫌な感じにならない。
レイナ「誰か来ます」
唐突に俺の口に彼女の生温い手が触れ──と思ったら俺は彼女に倒されて、草原の上で仰向けになっていた。あまりの早業に殺されるのかと心臓が縮む。
そしてなぜか、彼女は俺を倒した後も体を押さえ続けている。これは俺の人生史上No.1の異性との密着度。なんでこんな島で記録更新しなきゃいけないんだ。
そしてこの人色々と近くて、色々が見えて、色々と柔らかくて。ダメだこのままじゃ俺の心臓がバクバクして──
???「そこ、誰かいるの!?」
レイナ「アスカさん!」
アスカさんの声だと分かると彼女はすぐに俺から離れて立ち上がった。少し遅れて、何事もなかったかのように俺も起き上がる。
いや、実際何もなかったぞ。何も。
「アスカさん。俺たちと協力して──」
アスカ「助けて! サイセちゃんが怪我をして動けないの!」
常にクールだったアスカさんが血相を変えて、足や腕についた土を拭きもせず大きすぎる声でそう言った。




