42 4番(三)ジェームズ・マルス
42 4番(三)ジェームズ・マルス
タマゴ《それじゃあボンバーバッティングのルールを説明するよ》
モニターの映像がタマゴから甲板の様子に再度切り替わる。その映像はまるで野球中継そのもの。
金属バットを持ったギンターと、マウンドらしき場所に立つ赤鬼。両者は睨み合っている。
画面右下にはストライクやボールのカウントを示す表示まである。
パッと見は野球だがその場にいるのは2人だけで、キャッチャーを含めて他の守備はいない。だが、この映像だけなら今までのミニゲームで一番ゲームらしい。
しかしそうはいかないのがタマゴの考えるゲーム。ボンバーとかもうあからさまじゃないか。
タマゴ《投手の赤鬼が手榴弾を打者のギンターに投げます。その手榴弾を海の彼方へ打ち返したらヒットとなってギンターの勝ち》
タマゴ《逆にストライクカウントが3つになったらギンターの負け。どう? シンプルでしょ?》
ギヨウ「あら、普通の野球と同じルールってこと?」
「野球というよりはバッティングセンターの方が近いですね」
サイセ「どっちにしろバッターのギンターはあれを打てない」
チカイ「球が手榴弾ですもんね・・・」
もしもあれが手榴弾以外の何か別の物ならギンターはバットで打ち返すことが出来た。けれどあれは爆弾。何か衝撃が伝われば爆発する。
スイングしたバットが当たったその瞬間、金属バットごとギンターは粉々になるかもしれない。
「ずるいぞタマゴ。手榴弾なんてヒットどころか投げられた時点で終わりだ」
タマゴ《みんな早とちりだな〜。僕がそんな公平じゃないゲームを楽しむと思う?》
タマゴ《この手榴弾は栓を抜かなければ爆発しない仕組みになっているんだ。だから思う存分フルスイングしてくれて構わないよ》
一方的に殴り勝つゲームが好きそうなくせに。どの口が言ってんだよ。
ギンター《タマゴよ。俺も手榴弾の仕組みはよく知っているつもりだ》
ギンター《だが流石に命がかかると不安になる。試しに鬼たちでこれをデモプレイしてくれないか?》
タマゴはそれにOKと即答。打者を別の赤鬼に交代してボンバーバッティングをやらせた。
投手の鬼はキャッチボールをする程度の速さで手榴弾を投げ、バッターの鬼はバットを軽々とスイング。快音と共に打たれた手榴弾は甲板に落ちたが爆発はしなかった。
爆発を身構えた俺たちはコントのようにずっこけそうになった。どうやら手榴弾は簡単には爆発しないらしい。
そんなデモプレイを3回繰り返した後、納得した様子で打席にギンターが立った。
タマゴ《それじゃあプレイボール!》
初球。ギンターがスイングしたバットは遅い手榴弾を確実にバットの芯で捉えた。カキーンと、甲子園を連想させる快音が響く。
「ホームランだ! 海なんて余裕で届く!」
野球を見るのと同じテンションで俺はモニターに食いついた。
野球ファンなら誰もが興奮するヒットの音。しかし結果的に手榴弾は投手の赤鬼の背後に落ちた。
キケツ「へ〜。音の割に意外と飛ばないもんだね」
ギヨウ「そんなことより爆発しないかヒヤヒヤするわ」
ギンターのスイングはとても速かった。もしも彼が実際のバッターボックスに立っていたら、今のは当然スタンドまで届いたはず。
それなのにどうしてか、今のは海に届かなかった。
打席から海まではそう遠くない。打席から手榴弾を投げても海には届きそうな距離。
おそらくだが、普通の野球で言うとちょうどショートとセカンドを超えたあたりが海になる。つまりセンター前ヒットくらいの当たりで海に届くと思うんだが。
漆「あれ? 今ので黄色のカウントが1つ点灯したけど?」
「ストライクカウントだ。あれが3つ点灯したらギンターの負けになる」
漆「でも今打ったじゃん? 空ぶってなくない?」
チカイ「海に届かない打球は全て、ストライク扱いになるんだと思います」
サイセ「それ知ってる。ファールってルールでしょ?」
漆「はあ? 何それズルくね? せっかく打ったのに?」
タマゴ《でもね、普通の野球と同じようにストライクカウント2からは、ファールでもストライク扱いにならないから安心してファールで粘ってね〜》
サイセ「ボールゾーンに投げたのを空振りしたらアウトになるの?」
タマゴ《そうそう。そこも野球と一緒!》
ひょっとして、あの手榴弾は海にまで届かないようにタマゴによって調整されているんじゃないか?
──余裕を浮かべるタマゴの声を聞いて俺はそう感じた。だとしたらこのゲームでも死人が出る。
タマゴ《さぁ! エース赤鬼じゃんじゃん投げてこう!》
2球目も快音が響いたがまたしても手榴弾は甲板に落下。それも先ほどとほぼ同じような落下位置。またファール。
これでストライクカウントは2つ点灯。もしも次の手榴弾を打てずにギンターが空振りをしたら三振。ギンターは負けて処刑され──
〝弾〟〝弾〟
バットの快音でも手榴弾の爆発音でもない音が響く。何事かとモニターを確認すると打席のギンターは金属バットを捨てて、ハンドガンを手に構えていた。




