39 水炊きも好き
39 水炊きも好き
──朝。まだ誰も起きていない時間に珍しく起きた。自然と目が覚めて心地がいい。
早起きは気持ち良いという東京では理解できないそれの良さが今なら分かる。
誰もいない洗面場で顔を洗い歯を磨くこの快感。すぐに洞窟に戻れば良いのに、霧がかかって先が見えない太古のようなジャングルについ見とれていた。
しかし冷静になると静かすぎるこの森が不気味に感じる。
誰もいないし深呼吸でもするか。吸って、吐いて。 吸って吐いて。 吸って、吐いて。
この森の空気は吸うと気持ちが良くなる。
あのうるさいやつがいたらこんな朝もないのかなって思ったり・・・。
ギンター「ん?ノリトじゃないか。早起きだな」
「おはようギンター。今日はなんでか目が覚めてさ」
砂浜の方へ続く道からギンターがやってきた。彼は例の作戦のため漆と共に〝鍋〟の見張りを砂浜でしている。
「砂浜で寝るのは慣れたか?」
ギンター「あの女のいびきが無ければ心地いんだがな」
その不満をぶつけるようにギンターは歯を激しくブラッシングする。
ギンター「ほうだホヒト。ほれ、今日殺るよ」
歯を磨きながらギンターはそう言った。
「やるって? な、何を?」
そんなの決まっている。今日ギンターがキケツを殺すんだ。
けどそれを、なんでもないようなことのように言うなよ。しかも歯を磨きながら。朝からほんとびっくりするっつーの。
ギンター「吸血鬼の鍋を作るんだよ」
「……俺に何か出来ることはあるか?」
ギンター「いや特別はない。昨日のように過ごしてくれ」
「キケツを誘い出さなくても良いのか?」
ギンター「逆に、お願い出来るのか?」
「言うだけなら簡単だよ。どうする? 砂浜でギンターが呼んでるとかで良いかな?」
ギンター「それじゃあまるで宣戦布告だろう。サイセが呼んでいるって伝えてくれ」
「構わないけど、どうしてサイセなんだ?」
ギンターは俺を笑っていたが、俺は何故彼に笑われたのか分からなかった。
ギンター「もしも俺が食人殺人鬼だとしてこの場にいる人間を食べるとしたら、サイセを選ぶんじゃないかって思ったんだよ」
「あ〜。なんとなく分かるよ」
正直分かっていない。けれど女性の方が肉が柔らかそうなのはイメージがつく。
それにサイセはまだ中学生だし俺たちよりも肌とか綺麗だ。あれだな、ラム肉とマトンの違い的な。
「ギンターは怖くないのか?」
ギンター「それは人を殺すことがか? それとも殺されるかもしれない事がか?」
「どっちもだよ。俺は怖い。だからどっちも出来ない」
ギンター「ノリトはそれでいい。人を殺すことは、どんな場合でも正当化されてはいけないからな」
俺のような一般人ではなく元軍人であるギンターが言うと改めて考えるものがある。だけど俺たちの為に彼は自分のその価値観に嘘をつかなければいけない。
そんな男の背中に俺のようなズルい人間が何を言えただろうか。何を言うことを許されただろうか。
俺がやることは言われた通り今日の夜にキケツを砂浜に呼び出すこと。
きっと明日には結果が出ている。さあ、不自然のないように今日を過ごそう。
────次の日の朝
タマゴ《ぷっぱかぷっぱかぷっぱかプー! 第2回殺人コンテストの作品が完成したよー!》
予想していた通り例のアナウンスが島に流れた。それを聞き慣れたアラーム音と同じく聞き流す。
奴のテンションが高かったのはやはり鍋が完成したからだろう。今回は誰が誰を殺したとかは俺にとってはどうでも良い。
「じゃあ、先に行ってるよ」
洞窟から逃げ出すように俺は砂浜へと1人で向かった。




