36 いじめっ子
36 いじめっ子
シドウ大誠:──まあ、マシな人生だったと思う。
最後がバットで殴られて終わるとは思わなかったけれど──
〝人に悪いことをしたらそれが自分に返ってくるのよ〟
って、母さんが昔よく言ってたし・・・母さんか。懐かしいな。親父は元気かな。親父、俺やっぱりダメ息子だったわ。
けどさ、仕方なくね?俺だって別にご立派な偉い親父が欲しかったわけじゃねえし!
あの親父のせいで誰もが俺に期待をしていた。
頼んだわけでもないのに〝いい学校〟に入れられる。何事も出来ないといけないから水泳だの柔道だのヴァイオリンだのもやらされた。やりたいなんて一言も言ってないのに。
でもそのおかげでその時の俺は優秀だったし良い人間だった。
だけどなんでだ?なんであの時──クラスのいじめっ子を殴った時に、俺は悪者にされた?
どうして誰も俺の正義を認めてくれなかった?俺は悪い奴を罰したんだ。そのために今までやりたくないことをやってきて力をつけたんだ。
あの正義の権化のような親父の息子らしいことをしたのに!母さん以外誰も俺の味方をしれくれなかった。
けどおかげで気がつけた。
親の言う通りでいたらダメなんだって。いつか親に裏切られて終わるんだって。
学校を辞めて〝溜まり場〟で出会った奴等の方が本当の家族でまさに友達って感じだった。
教室で出会う奴等とは違う。本音で言えて、刺激をくれて、心の底から笑えた。
特に昼間からのゲーセンは最高だった。たまに飲んだ酒とかタバコは高級ホテルの飯より満足できた。
それから。なんだっけあれ、吸ったら全てを忘れることが出来た魔法の粉。
けど、あれをやらなきゃ今頃俺は、違う道だったかもしれない。ま、別に良いよ。好きなだけ遊んで、女も抱いて・・・それだけか。
それだけ・・・だな。
ムカつくことを我慢して勉強して父さんが望む警察官になっていたら、あの島の砂浜にいる奴らを俺が捕まえていたのかな。
そうなれなかったからせめて、あいつらの役に立ちたかった。
なんでか分かんねえけど俺はあのノリト翼の為なら嫌なこともやれたんだ。だからこんな役も引き受けたし超ダリーけど空気を盛り上げたよ。
いったいどんな育ち方したらあいつみたいに、誰とでも仲良くできるいいやつになれるんだよ。
ま、バカは死ななきゃなおらないか。
──じゃあなノリタク。
母さん、今そっちに行くよ。
******
────砂浜
タマゴが赤鬼に合図を送ってからいったいどれくらいの時間が経っただろう。赤鬼たちは今も金属バットでシドウを殴り続けている。
俺はその光景を見届けなくていけない──そう思ったから今も目を開けている。
タマゴ《なんだっけ〜? 三人寄ればもんじゃの知恵だっけ?》
タマゴ《確かに彼はもんじゃになったね!》
鬼達が群がるそれはもはや、赤い何かにしか見えない。けどたまに鬼たちの隙間から見える、黒くて赤い人の体。
きっとあれがそうなんだろうなって、分かる。
分かるけど、やっぱりこの光景は現実なのか?と、思ってしまう。
目の前で人が殴られて潰れてやがて肉の塊へと変わっていくその様子は、あまりにも非現実的。
あれがシドウだなんて考えられない。だってもう彼の原型が見えないんだ。
タマゴ《3! 2! 1!》
急に始まったタマゴのカウントが0になった次の瞬間、見ていたもの全てが爆発した。
船首付近は黒煙に包まれて爆風が異臭と共にこちらへ漂って来る。今理解できたのはそれだけ。
タマゴ《ふ〜。もう見飽きちゃったから良いよね》
タマゴ《あーあー。ビッグ烏骨鶏を洗うのめんどくさいな〜》
タマゴと共にモニターが消えると黒船は海中へと潜り姿を消した。
「ハハッ…ハハハッ……全部消えたぞ!爆発で鬼は死んだ。あいつも死んだ。何もかも……俺のせいだ」
チカイ「・・・ノリトさん? ノリトさん大丈夫ですか!?」
誰かの顔が真上から俺を見ている。ああ、どうやら俺は砂浜に仰向けになって倒れているらしい。
差し出された手を握る気力もない。今日はもう何もしたくない。目を閉じたい。このまま寝てしまいたい。消えたい。
なのに空はなんて綺麗なオレンジだろう。ああ、夕陽は今、ちょうど見頃だ。




