33 オムライスには何かける?
33 オムライスには何かける?
昼食後、合唱に入る前にシドウ達と俺は再度確認をとった。
緊張しているのは表情から伝わる。俺も今、こいつみたいな変な顔をしているんだろうか
シドウ「ノリト……いよいよ殺るんだよな?」
ギンター「本当にいいんだな?」
「ああ、殺るさ。けれど、恐怖で体が動かなかったら大丈夫だ」
シドウ「柔軟ならしっかりしたぜ!」
「ぷっ。そういう問題かよ」
シドウは心より体の問題か。まさに心強い。
ギンター「俺も覚悟は決めてある」
アスカ「多分この機会を逃せばもう脱出は出来ない」
漆「そんでもしも失敗したら、私たち全員が殺される」
「頼んだぞシドウ」
俺は彼の高い肩に手を置いた。彼が震えているのが置いた手からも伝わる。
それでも絶対にやってみせるという気持ちを、彼のグッドポーズが示していた。
シドウ「おう。任せとけ」
前に言っていたけれど、こいつが柔道で黒帯っていう話は本当なのかもしれない。
そんな雰囲気をその一瞬だけ感じた。ここまで真剣な彼は初めて見る。
さて、いよいよ──タマゴを殺す。殺すといっても具体的にどうするのかそれが問題だった。
包丁などの刃物はない。金属バットのような鈍器もない。頼む方法もあったが万が一殺人がおこらないとも保証できないので注文はしなかった。
だから島の木々からそれらを作ろうとしたが青鬼という監視、どこから見てるか分からないタマゴの存在が気になる。
八方塞がり。ならばもうこの肉体しかない。まさにこの手で殺すんだ。けれど殴って殺すなんてことはしたくない。
そこで採用されたのが窒息。
まず、自称柔道黒帯のシドウがタマゴを背後から拘束。そして隙を入れずにギンターがタマゴの息を止める。他のみんなはタマゴを押さえるフォロー役。
相手は小学生1人。大人が2人もいれば簡単に押さえらえるだろう。
なのに不安が拭えない。物理的には簡単なはずなのに、精神的に余裕がない。罪悪感とかじゃない。
こんなにも簡単に、順調にいって良いのか──そんな不安が頭から消えない。
タマゴ「おーい! シドウくん達どうしたの〜? 君達も一緒に歌おうよ!」
シドウ「ごめんごめん! 今いくよ!」
タマゴの子守をしていたチカイさん達は白い砂浜の上で、青い海に背を向けて横一列に並んでいる。みんな歌う気満々だな。
タマゴは彼らの前に立っているが、奴は指揮者をするつもりだろうか?というかあの歌に合唱もくそもないだろう。
──けど、それで良い。それこそが奴の隙になる。
シドウ「俺センターで歌っても良い?」
タマゴ「良いよ。シドウくんにはピッタリだもん!」
シドウ「良いよねセンター! 俺やっぱ目立つところ好きだ」
列の真ん中は指揮者のタマゴの目の前──つまりタマゴに最も近い特等席。
シドウなら3歩で奴に手が届く距離。そんなベストポジションに自然と入り込む。しかもギンターを隣に誘いながらだ。
後はとうとうタマゴに手をかけるだけ。
別に俺が直接殺るわけじゃないのに足が震え、手の平に汗をかいていた。
シドウとギンター今、どんな心境なんだろう。俺だったら願わくばその瞬間がこないで欲しいと強く願う。
タマゴ「みんな歌詞は大丈夫?」
サイセ「ぷっぱかぷっぱかぷっぱかプー。でしょ?」
キケツ「何回も聞いているからね。大丈夫だよ」
ほんと、おかげさまで歌詞とメロディーが頭と耳にこびりついているよ。
そもそも歌なのかどうかも怪しいくらいのこの短いフレーズ。誰でも覚えられる。
タマゴ「よーし! じゃあぶっつけ本番でいくよ!?」
ギヨウ「タマゴさんは歌わないの?」
タマゴ「僕は指揮者がやりたいんだ! かっこいいじゃん指揮者って! 偉そうだし!」
アスカ「指揮者は演奏を開始する前にお客さんにお辞儀するものよ」
タマゴ「でも、お客さんなんていないよ?」
漆「あの海でいいんじゃない?海の向こうには誰かいんだろ」
タマゴ「そうだね! じゃあノリトくんが5つカウントしたら始めるね!」
「い、良いけど、なんで俺なんだ?こういうのはシドウの方が向いているぞ」
タマゴ「だって──ノリトくんずっと喋っていないんだもん」
小学生は俺を見て無邪気に笑う。にっこりとする奴の瞳に俺は寒気を感じた。
もしかしてバレている?
でも、だったら奴は何故ここに来た? 何か対抗策がある?だとしても相手は小学生1人。俺たち10人に力で敵うわけがない。
それにもう、ここまできたらやるしかない。たとえ罠が待っていようと誘われていてもタマゴを殺すんだ。
「わ、わかった。カウントダウンをやるから海の方を向きなよ」
タマゴ「大きな声でお願いね!」
きっと最後になるであろう奴の願いに俺は両手の親指を立てて返事をしてやった。
良いだろう。その注文受けてやるよ。大きな声でお前の死へのカウントダウンを唱えてやる!
「5! 4!」
3!──とカウントする寸前でシドウとギンターに視線を向けてタマゴを指差す。
このタイミングで殺ることを察していた2人に迷いはない。
2人は頷くと、狙いを定めたタマゴにタックルをする勢いで走り出す。
「3! 2!」
──そしてシドウはジャンプをするとタマゴの背中に膝を入れた。背骨が逝っただろう。即死であってくれ。
だがそこで手は抜かない。シドウは砂浜に倒れたタマゴに馬乗りになると、そのまま顔を砂浜に押さえつける。
このまま窒息──あれ? こんな殺し方だったけ?
ギンター「シドウ! やり方が話と違うぞ!」
シドウ「良いんだ俺がやる!」
確かに事前の作戦とは異なる展開。だがこれでも問題はない。むしろこっちの方がタマゴの顔を見なくて済むから良い。
奴には申し訳ないが俺たちだって命がけなんだ。大人のくせに卑怯だとかそんなのは知ったこっちゃない。
俺たちの人生がかかっている。だから押さえつけられているお前を見ても止めようとする人間はここにはいない。
可哀想だ──と思う人はいるだろうが、そんな顔をしている人はいないよ。みんな真顔さ。真剣なんだ。ふつうの暮らしがしたいんだ!
漆「いいぞシドウ! そのまま顔を押さえろ!」
シドウ「やってるよ!!」
・・・すごい。すごいぞ! 本当にタマゴを殺せるぞ!
アスカ「ちょっと! 立ってないであなたも手を押さえなさいよ!」
「あっ! ああ!」
即座にタマゴの細い両手をギンターと押さえる。アスカと漆は両足を押さえていた。
例えタマゴが何か道具を持っていてもこれで何も使えまい!後少し耐えれば──
シドウ「こいつ! 何か動いてやがる!」
漆「そら抵抗するでしょ! タマゴだって必死なんだよ!」
シドウ「違うんだ! タマゴが何か言おうと──」
《!!!!!!ピピピピピピピピピピピピ!!!!!!》
突如として耳を塞ぎたくなる超高音の金属音が島中に響く。ガラスがあったら何枚も割れているだろう。まるで超音波。
サイセ「なにこれうるさい!!」
ウラハ「もしかして警報音じゃないの!?」
ギヨウ「・・・この音、どこかで聞いたことあるわ!」
チカイ「これ、防犯ブザーの音ですよ!」
防犯ブザー。そう聞いて誰もが察した。このまま続けるのは危ないと。
きっと保護者来るということだろ?そしてその何かは既に、みんなの視界に入っていた。
キケツ「あれって、赤鬼じゃないかい?」
タマゴが乗ってきた黒い機体から赤鬼が出てきた。しかもその手には野球バットくらいの棍棒が握られている。
赤鬼はそれをかかげて、俺たちを睨んでいる。そうか俺たちは今、亀さんをいじめている側なのか。




