29 ザイキンうじゃうじゃ
29 ザイキンうじゃうじゃ
────砂浜
砂浜ではオレンジのジャージが1人と黄色のジャージの2人がこちらを見て待っている。漆とウラハとキケツだ。
隠れもせずこちらに姿を見せて仁王立ちをしている。あの様子を見ると罠のような物は特になさそうだ。
手には何も持っていないしポケットが小さいこのジャージじゃ何かを隠すのは難しい。それこそ下着の中にでも入れないと無理だろう。
凶器の心配はないが、どうも漆がおかしい。長い時間待っていたのか彼女は不機嫌そうなのだ。
可愛くない顔をしているから一応言葉だけでも謝っておこう。
「すまない。待たせてしまって申し訳ない」
漆「んなことはどーでもいい。私から1つお願いがある」
くそう。やっぱり謝らなきゃ良かった。
シドウ「へ〜。いつになく素直だな!」
「漆、そこのバカを気にせず話してくれ」
すると彼女は俺に向かって無言で歩き始めた。表情も一切変えない。
赤い髪を揺らしながら向かってくる漆を見て、ギンターが俺を守ろうと騎士のように駆け寄る。
「ありがとうギンター。でも大丈夫だ」
「いや、念のためだ」
ギンターは俺の背後に立つと俺と共に漆を待つ。目の前まで来た漆は息を整え──俺たちに頭を下げた。
漆「──タマゴを殺す。だから、協力して欲しい」
彼女のその小さな声は震えていた。当然だ。もしもこれがタマゴに聞こえていたら即処刑。彼女は体だけを冷静に保つので精一杯だろう。
ギンター「俺はお前をずる賢しこいだと思っていたが、どうやらそこのシドウと同じらしいな」
シドウ「漆と俺が同じ!? どこがだよ!」
キケツ「まあまあ、落ち着いて」
声を上げて漆に近づこうとしたシドウをキケツの細長い腕が制止する。
にゅるんと伸びたかのような腕は気味が悪い。腕力はないだろうがその腕に触れていけないのはシドウでも分かったようだ。
漆「ああ、自分でもバカだと思うよ。けど島から出るにはこれしかないじゃん」
タマゴを殺す・・・そんなこと無理だって漆が分からないはずがない。だってタマゴに逆らえばミサイルを発射されるんだぞ。
まず第一、どうやってあいつに近づくつもりだ。奴がいるであろうビッグ烏骨鶏は海の上。砂浜から泳いでいける距離じゃない。そもそも、タマゴが実在するのかすら謎。
でも漆もきっとこれらは考えたはず。考えた上で決断して俺たちに頭を下げた。だから尚更そんな漆に驚かされた。
キケツ「ちなみに私とウラハくんは賛成したし本気だよ」
ウラハ「あの対決ゲームは絶対プレイヤーが負けるように操作さているからね。こっちもまともにやっちゃダメだよ」
漆「今この場で返事を求めるつもりはない。でも、そっちのメンバーで協力してくれるやつがいるなら──」
「賛成だ。俺は協力する」
予想していた通り俺はその瞬間、周りからなんで協力するんだ? どう殺るんだ?と質問攻めにあう。
けれど俺もなんとなくの流れで賛成したわけじゃない。今この場で考えてこれはチャンス。
もちろんタマゴを殺すという方法はとても非現実的。だが、全員が団結して全員で島から出る──という状況を作るには最高。
これはその状況を作り出すチャンスなんだ。
「確かに俺たちは漆たちと殺して出るか、殺さないで出るかの考えで対立していた。けれど元々の志は同じだ」
「みんな島から出たいだろう? 俺は多くの人とこの島から脱出したい。それにこのふざけた殺人コンテストをもうやりたくない」
ギンター「気持ちは分かるがノリト、漆の作戦はあまりにもハードルが高すぎる」
「分かっている。だけどこれ以外に方法がないと思わないか?」
アスカ「正直島の調査はもう限界があると思っていたし、良いんじゃないかしら?」
チカイ「10人います! 力を合わせればやれますよ!」
シドウ「そうそう。三人寄ればもんじゃの知恵ってな!」
サイセ「知恵を焼いてどうするの? 食べて身につけるつもり?文殊の知恵でしょ」
ギヨウ「食べて身につくものならシドウくんに作ってあげたいわ」
笑いが起こりポジティブな雰囲気で漆を迎えた。だがまだ1人、俺の背後に立ったままの男がいる。
ギンター「どうやら俺以外は漆に協力するらしいな」
ギンターの経験と知識。そして単純なパワーはタマゴを殺す上で欠かせないだろう。彼が力を貸してくれなければ実行するのはとても難しく──
ギンター「そんな顔をするなノリト。本当なら関わりたくないとてもバカな作戦だ。だが──」
ギンター「俺もそのバカな作戦を考えたことはある。力になろう」
「ほ、ほんとうか? ありがとうギンター!」
漆「ふーん。まさか全員が協力してくれるとは思っていなかった。悔しいけど・・・ありがとう」
「なにが悔しいんだよ」
差し出された漆の手を俺はがっちりと握った。その時の彼女の笑顔はとても可愛くなっていた。




