25 幻想夢
25 幻想夢
マイジ博和:──あれは、私が教師をしていた31歳の時の夏。例年より少し涼しい夏の年。
帰りの電車の中で私は女子高校生の体に触れてしまった。別に悪気はなかった。無意識だったんだ。
こう言っては失礼だがその女子高校生が魅力的だったわけでもない。完全に無意識だった。気が付いたら触れていたんだ。
だが世間は私の説明を聞いてはくれない。
言い訳ではなく純粋な真実なのに世間はそれを何度も言い訳と決めつけた。
男性教師による女子高校生に対する痴漢行為。ワイドショーの好物だ。当時確かわいせつ教師と呼ばれていた。
あの頭の悪い生徒たちが言ったのだろう。やってもいない盗撮までしたことにされた。そしてあろうことか過去に何度も痴漢をしていたことにもされた。
本当にやっていないのに誰かが作った嘘の証拠で私の真実の発言はまたしても、言い訳になった。私が嘘になった。
嘘になった私は社会的に死んだ。もちろん教員に復帰することも出来ない。あの女達だ。あの女達に私の人生を壊された。
だが、服役中は思ったよりも退屈ではなかった。何十年ぶりかに物事をゆっくり考える良い機会だったからだ。
仕方なく国語の教師になったこと。そもそも私自身、勉強ができなかったこと。もともと絵を描くのが好きで美大に行きたかったこと。車が好きだったこと。
それらを私は思い出したのだ。
33歳になった私が外に出た頃、マイジ博和というわいせつ教師を知っている人間はもう世間にいなかった。
こうして生まれ変わった私はサラリーマンとして第二の人生を歩みだした。
しかしサラリーマンとしての仕事は酷なもの──いわゆるブラック企業だった。ストレスに精神と肉体が潰されそうになる。
朝起きて会社に行って夜に帰って食べて寝る。次の日もまたその次の日もその繰り返し。
自分が何のために生きているのか分からない。どうせ独りの身、死のうかと思ったが度胸がなかった。
そんな日々から私を救ったのがそう、お酒だ。
それまでは付き合いで飲んでいた程度だったが幻想夢という日本酒に出会ってから、毎日のように酒を飲んだ。
幻想夢と酒たちが私の人生を再生した。人生は酒なんだ。酒あっての人生なんだ。酒があればそれだけで良い。
私はそう信じて生きていた。




