7 罪菌(ザイキン)どもが!
7 罪菌どもが!
──赤髪の女の名前は漆幸香。犯した罪は殺人。
漆は親切にも砂浜に指で自分の名前をフルネーム、しかも漢字で書いた。カタカナでや平仮名でも良かったのだが漢字が好きとのこと。
にしても髪の毛は漆どころか真っ赤でこいつから幸せな香りがするとは思えない。どちらかと言えばそう、不幸の香り。
自分のチャラい見た目を自覚していて俺たちにナメられたくなかったのか彼女は年齢まで言った。なので漆の次からの自己紹介には年齢も加わった。
ちなみに彼女は27歳。態度からしてそんなに大人には見えないので嘘の可能性が大。
次、漆に指名されたのは気弱そうな男だった。
──彼の名前はツエヘシ隆。23歳。
罪は放火と殺人。放火なんて大胆なことをするようなやつには見えなかった。
周りからも意外だと驚かれていた。だが気弱そうなツエヘシだからこそ放火を選んだのかもしれない。
どうやら火そのものも本当に好きらしく火への愛を早口で語っていた。何を言っているのかほとんど聞き取れなかったし俺には理解できない。
口調も独特で少し変わっている。ツエヘシ隆──黙っていれば真面目な優等生に見えるんだがな。
──爽やか野郎の名前はシドウ大誠。
罪は人に怪我を負わせたとか薬を持っていたとかでハッキリとは言わなかった。とりあえず傷害罪としておく。
シドウの歳は19歳。残念なことにこいつは俺の1つ上。こんな奴が先輩だった。
見た目通り運動がとても得意らしい。証拠はないが今までのこいつを見ていればなんとなくそんな感じはする。
これはおそらく嘘だろうがヴァイオリンも習っていたそうだ。しかしシドウが奏でる音色がどんなものか聞けるものなら聞いてみたい。
──動機があれば殺せると言っていたおばさんの名前はギヨウ恵子。
罪は殺人。年齢は30歳だった。俺の予想だと45歳はいっていたのだが見た目より若かった。申し訳ない。
おばさんと声をかけても別に問題ない年齢かもしれないが、もしかしたらそれが俺を殺す動機になっていたかもしれない。特に絡まないでおいて良かった。
──スーツ姿の女はアスカ妃美子。罪は殺人。28歳。
第一印象から俺はこの人が少し苦手だ。口調や目つきがキツい。中学や高校の頃にいた気の強い女子を思い出す。
その見た目通り仕事も相当できるのだろう。体を見れば色気のある大人な女性という魅力もあるが、このオーラではナンパされることもないだろう。
それにしてもアスカさんのようにエリートっぽい人が人を殺したのか……。
──ドローンが出ると興奮していた太った男はウラハ輝陽。25歳。
罪は殺人。漆の時にも思ったが人の見た目は名前通りにはならない。
輝陽は人生を苦労してきたのが髪を見れば分か。十円ハゲと白髪がちらほら生えている。
でもドローンや黒船に投影された映像を見ている時は年相応の表情をしていた。
──同じくドローンに興味を持っていた眼鏡のおじさんはマイジ 博和。罪は飲酒運転。年齢は40歳。
おそらくこの場にいる犯罪者で犯した罪が最も軽いのがこのマイジさんだろう。
もちろんどれほどの被害を生んだのかは分からないし、そこまでは聞かない雰囲気。
それでも穏やかな表情とおっとりとした声のこの人が人を殺すとは思えない。
──グレーの制服を着ている小さな女の子はサイセありや。先ほど自分で言っていたが罪は殺人。
年は13歳。この幼い見た目で殺人。改めて衝撃的だ。
この中で一番若い──というよりまだ子供。背だって小さい。どうしてそんな子供がこんな場所に連れてこられたのだろう。
着ている制服はいいところの私立に見える。いわゆるお嬢様だ。
しかしそんな子が本当に両親を殺したんだろうか?サイセを見ると俺はそう疑ってしまう。
──外国人の男は流暢な日本語で自己紹介をした。
名前はギンター・アッシュ。罪は殺人。パワフルな見た目からは意外だったが44歳。
気になったので聞いたところ身長は194センチ。ちなみに二番目に背が大きいシドウは186センチあるそうな。
一体何を食べればそんなに大きくなれるのか……羨ましい。
確かギンターはアメリカ兵だと自分で言っていた。そんな彼の殺人という罪は気になってしまう。
その殺人は戦場で行ったものなのか、それともそれ以外なのか。そもそも戦場での殺人行為は罪になるのだろうか。
いやいやそんな哲学っぽいことは今はやめよう。44歳だともう現役の兵士ではないしな。最近犯した罪だったりするのかもしれない。
──俺が倒れた時に手を貸してくれた清楚そうな彼女はチカイ零那。
罪は殺人。16歳だから俺の2つ下。
その割には話し方や仕草などから大人な雰囲気を感じる。こんな彼女でも殺人をしただなんて信じられないな。
だって朝の誰もいない教室でピアノを演奏していたり、喫茶店の隅の席で読書をしているような大人しそうな彼女だぞ?
笑顔や言葉使いも控えめで清楚な彼女がそんなことをするわけないだろ?
──けど、ここにいるってことはそうなってしまう。
だけど何も理由なしに人を殺したりする人なんていない。きっと彼女も何か理由があって人を殺してしまったんだ。
これで全員の自己紹介が終わ──
ノッポの男性「じゃあ最後は私の番かな?」
そう言って若い男の人が一歩出る。黒髪と白髪が混ざった灰色の髪。少し猫背なのにシドウと同じくらいの背丈。
彼は独特な雰囲気を放っていた。まるで不老不死の妖怪。存在は認識していたのだが存在感がなさすぎて忘れていた。
細くて長身な体型のせいもあり森の木に簡単に溶け込んでしまう。そのくらい彼はさっきから存在感がない。
多分何も話していないと思う。いや、何か言っていた気はする。
ノッポの男性「自己紹介なんて何年ぶりだろう。緊張するよ」
意外と明るい声を発しほほえみながら話し始めた男。今さっきまで感じていた不気味なオーラが嘘のようだ。
ノッポの男性「それにしても殺人者が多いんだね〜。漆さんにツエヘシくん。ギヨウさんにアスカさん」
ノッポの男性「ウラハくんサイセさん。ギンターくんにチカイくん。ああそれと君もだねノリトくん」
この人はもう全員の名前と顔が一致している!?
誰が殺人をしていないかは覚えようとすれば覚えられる。だとしても把握されているのは気味が悪い。
ノッポの男性「けれど君たちは本当に殺人者なのかな?ああいや、私も殺人なんだけどさ」
シドウ「おい兄さん。早く名前だけでも言ってくれよ。他のやつらを忘れちまうよ。せっかく全員を覚えようとしてるんだからさ!」
砂浜に書かれたみんなの名前と立っているそれぞれの顔をシドウの目が何度も往復している。
そのシドウの隣にノッポの男性が立つとゆっくりしゃがむ。何をするかと思えば彼はシドウの顔をじっと見つめていた。
蛇のような男性の目つきはまるでシドウが彼に食べられるんじゃないかと思ってしまう。
ノッポの男性「シドウくん。人の名前は自然と覚えるものだよ。あと私の歳は46だ。一応、最年長になるね」
漆「は?流石に冗談きついっしょ。何も面白くもないし」
漆「で、あんた本当はいくつなの? どうせ25とかだろ?」
俺も思わず苦笑いした。だって46歳には見えない。
ギヨウさんが30歳に見えなかったこと以上に、彼が46歳だなんてあり得ない。漆が言った通り20代だろう。
ノッポの男性「漆さん君は──北の吸血鬼を知っているかい?」
シドウの顔を凝視するのをやめた彼は立ち上がると今度は漆を見つめる。
漆「あーだめだこいつ。変人だわ」
ノッポの男性「変人?確かに私は変わっていると思うよ。だって君たちと違って私は──」
ノッポの男性「食べるために人を殺してきたからね」




