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婚約破棄された聖女(近接物理タイプ)  作者: 笛吹 香
盗賊団とよくばり聖女
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1. 事件 その1

第2章は1日1話更新予定です。


「あーあ、コルンに付き合ってたらすっかり遅くなっちゃった」


「何だよ。

 だったらついてこなきゃ良かっただろ」


「ば、馬っ鹿ねー。

 あんたみたいなの一人で行かせたら、終わる仕事だって終わんないんだから」


二人は、この王国では珍しくない孤児院の子ども達で、日雇いの仕事の帰りだった。


魔物達との戦いの日々では、当然失われる命も多くあり、後に残される者達もまた多い。


そういう者達は、大抵は同じ隊の者であったり、上官にあたる者であったりが世話をするか、それが難しい場合でも、何らかの形で後見につくのが普通であり、どうにかして周りの者達が見守っていくのが普通であった。


そのため、この国では孤児となっても、極端に孤立してしまったり困窮するという例は非常に少ない。


それが、家族を残して戦線に立つ者達へのある種の社会保障として機能しているのである。


この二人についてもその例に漏れず、縁のある者達から色々な仕事を習うような形で手伝いながらコツコツと給金を稼ぎ、充実した日々を過ごしていた。


「それに最近は()()()のせいで、子供一人で外で歩いちゃダメなのよ。

 今朝も院長先生がそう言ってたでしょ」


「一人でうろついてた子供が消えちゃう、ってヤツだろ。

 あんなの俺達を大人しくさせようっていうでまかせに決まってるさ」


「何言ってんのよ。

 実際にいなくなっちゃった子がもう何人もいるって言うわよ」


「だったら犯人は()()()()だぜ!」


「え、あんた犯人に心当たりでもあるわけ?」


「《盗賊団(バンディッツ)》の連中さ!

 あいつらが子供を攫って売り飛ばしてるに決まってる!」


「ちょっとあんた!

 仮にも騎士の人達に向かってなんてこと言うの!

 人を見た目で判断しちゃいけないんだから!」


この国の騎士階級というのは、『魔力持ちの戦闘要員のうち、貴族になれるほど魔力が大きくない者達』の事だ。


なので、千差万別玉石混淆、ピンからキリまで色々な者達がいる。


「俺が言う前に見た目って言っちゃてんじゃん!

 実際いかにもゴロツキ、って感じのやべー目つきの奴ばっかりだしさぁ!」


「だからって決めつけちゃいけないって院長先、せい……が……」


「ん?何だよ急に」


「ぁ……ぁ……」


少女の方が突然、何かを見て、声と体を震わせ始めた。


「おい、エリシ……あ……」


遅れて、少年も同じものに気付き、震えだす。



人影。



「はーい、どうも。

 いかにもゴロツキの《盗賊団(バンディッツ)》でーす」


「ヒャヒャヒャヒャ」


男が二人。


凶暴そうな顔つきに、下卑たにやけ笑いを浮かべている。


「あ、ああ……」


少年と少女は無意識に体を寄せ合い、じりじりと後ずさっていく。


しかし、それを遮るように後ろからも、低く野太い声がした。


「まあそう逃げなさんな。

 ちょっとお兄さん達とそこらでお話しようや」


「ひ……!」


「別にとって食いやしねえよ。

 ちーっとばかり付き合ってくれりゃいいんだって」


そう言う間にも、男三人で絶妙に子ども達を囲い込んでしまう。


とても不意をついて逃げるなど出来そうになかった。


「お、おねが……!」


「おう、なんだい、言ってみなよ」


「こっ、ころ、さ……!」


「ヒャヒャヒャ!

 そんな事しねえって!


 もっと楽しいことさ!

 ヒャーヒャヒャヒャヒャ!」


「さあ、こっちについて来な……」


逆らえば多分殺されてしまう。


助けを呼びたいのに、恐怖で声が出ない。


お互いの手を白くなるほど固く握りあったまま、少年と少女は男達とともに闇に消えていった。





 *****





「リアお姉様が誘拐事件の調査、ですか?」


「ええ、陛下直々のご要望なのです」


《聖女》マグノリア・グレイウィルムと、自称《聖女》親衛隊隊長、しかしてその実態は今のところただの友人Aであるアプリコット・ロングは、グレイウィルム公爵家の庭園兼訓練場で、お茶を飲んでいる最中だった。


アプリコットとしてはただのお茶会で良かったのだが、実際は予想以上に本格的な鍛錬メニューを二人仲良くこなし、いい汗をかかされてしまった後の休憩中だ。



「それは……一体何を企んでいるんですかね……」


マグノリアは魔術を使えないので、規格外の戦闘能力に対して、情報収集だとかそういった方面の()()()に関しては()()()()である。


そんなマグノリアに敢えて直接そのような指令を行う、という事は何か異なる意図があるのだろう。


「陛下のお考えはわかりませんが、出来るだけのことは精一杯やってみようかと思います。


 ……ご存知の通り、私は魔術が使えないのでこういった任は不得手なのです。

 なので、大変厚かましいお願いなのだけど、リコにも手伝っていただきたいな、と……」


「大船に乗ったつもりでどーんとお任せください!」


マグノリアの手を鷲掴みにしたアプリコットが鼻息荒く答える。


「良かった……。

 それで、早速なのですが、陛下から『この任にあたって現地の騎士団の協力を仰ぐように』との指示を受けているので、お会いしたいと思うのですが」


「えーと、その地域を管轄している騎士団は……げっ」


全く令嬢らしからぬ声を上げて眉をしかめるアプリコットを見て、マグノリアが首を傾げる。


「何かご存知なのですか」


「うーん、彼らはちょっと()()でして……悪い意味で」


「まあ」


「言ってしまいますと、すっごく()()()()()そうです。


 それで付いた呼び名が《盗賊団(バンディッツ)》です」


「物盗りの方達なのですか?」


「流石にそういう犯罪行為を実際にしているわけではないようですが、素行が悪すぎてそのように揶揄されているようですね」


「その方達は、私の話を聞いてくれるのでしょうか」


「……陛下がまた色々画策してるんだろうな、ということしかわかりません……」



「――()()、俺も同行するからな」


「げ、殿下。

 何しに来たんですか」


「お前それ本当に不敬なやつだからな!?


 ……婚約者のご機嫌伺いに訪れるのは何もおかしくないだろう」


「殿下が来たのでご機嫌斜めですー」


「お前の機嫌など誰も聞いていない。

 マグノリア、その調査に同行させてもらうぞ」


「殿下のお手を煩わせるわけには……」


「いや、俺の方でもその件に関しては動く必要があってな。

 それに、こういう時ぐらいは役に立ってみせないと、婚約者としての面目が保てそうにない」


「そんな、面目だなんて……。

 でも、ご一緒できるのであれば、嬉しいです」


「あ、ああ、よろしく頼む……」


少し赤くなりながらもじもじする二人。


アプリコットはその後しばらく犬のように唸っていた。


次回は明日の12時頃投稿予定です。


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