『ドラッグ・オブ・ドラゴン』
薬物濫用ダメ。ゼッタイ。
マスメディアやネットでは、異世界転移以来世紀の新発見として持て囃された。
『夢の新薬』
この世界には竜の血を浴びると不老不死になるという伝承があるが、実際にそれで不老不死となった人は居ない。
だが、実際に竜や竜人は寿命が長く、病気にならず、怪我になっても治りが早い。
伝承と関係があるのではないか。そうして進められた研究の集大成。
竜人の細胞から合成した化学物質を使った新薬が、このほど臨床試験を終えて認可されたのだ。
有害な細菌やウィルスは勿論、癌細胞も纏めてピンポイントで排除してしまう。
同時に自然治癒力を高め、ホルモンなど生体物質の分泌を安定させる作用もある。
当初はその強烈な効果に重篤な副作用が懸念されていたが、臨床試験ではむしろ従来の薬品より副作用が少なく、程度も軽いものだったという。
一般的な怪我や病気は勿論、肥満や高血圧、認知症やうつ病、アルコール依存症の改善、心筋梗塞や脳梗塞の予防にも驚くほどの効果が認められている。
『万能薬』というものが現実になった。
竜人たちからも「血を求めて理不尽に殺される必要が無くなった」と歓迎気味だ。
医療関係者は諸手を挙げて大歓迎かと思いきや、開発に参加した製薬会社すら予想外の成果に困惑気味だ。
今までは症状を悪化させないだけで精一杯だった患者を完治、寛解の状態に持って行けると期待する声と同時に、『万能薬』によって利便性を得る代償に医療の発展を失ってしまうのではないか。そんな戸惑いの声が漏れ聞こえる。
――この薬があれば、医師は不要と思われてしまうのではないか。
そんな声と同時に、あらゆる病気にこの薬を処方する無責任な医師、あらゆる体調不良をこの薬に頼ってしまう患者の濫用の危険性も指摘する。
少ないとは言え副作用は存在するし、化学物質である点は従来の薬と変わらない。
どんな薬も毒であるのは変わらないし、この薬でも治せない、防げない疾患は存在する。
この薬があるからタバコを吸っても大丈夫。
この薬があるから食事や睡眠を疎かにしても大丈夫。
この薬があるから――。
そんな安易な逃げ道にならないよう、患者、医療関係者共々、肝に銘じたいものだ。