侯爵夫人・後
あれからも旦那様の愛人は増え、今では十数人いるそうです。ですが、愛人用の屋敷も裏庭の隅に完成し、回りを高い塀で囲んであるので中の様子はよくわかりません。
子供達の世話でそれどころではなくなり、人選も全てお義父様にお願いしてしまっている状態です。
子供が大きくなったと思ったらまたすぐ次の子が来て、気付けば20年も経っていました。長男は既に結婚し、次男は騎士になりました。
私が小さい子の世話にかまけている間に、お義父様に「お前は侯爵家の息子と言っても平民の娘が生んだ子だ。自分の道は自分で探せ。」と言われ続けていたようで、10歳の頃急に騎士になると言い出して驚きました。
お義父様に抗議に行っても、何が悪いんだと相手にして貰えませんでした。私にもっと力があれば守ってあげられたのに……結局13歳で全寮制の騎士学校に入り、そのまま騎士になり騎士宿舎に入りほとんど帰ってくることも無くなりました。
あの子だけは母親の代わりに必ず幸せにすると誓ったのに、自分が情けなくて仕方無かったです。
ですが、ある日結婚すると言って平民の女性を連れて来ました。彼女とは、小さい頃母親である少女の実家へ差し入れを持ってお使いに出した時に出会ったそうです。
それからも何度か会い、彼女と結婚するために爵位は断り騎士となったそうです。彼女と結婚するには爵位は邪魔だったからと……あの頃は恥ずかしくて言えなかったんだと教えてくれました。
結婚後は前庭にある離れに住むことになったので、また会えるようになって嬉しいです。
娘達も年頃になれば、侯爵家の愛人の娘として相応しい家に嫁ぎました。まだ数人残っているので、まだまだこれからです。
三男も婿養子に入る事が決まりました。お義父も亡くなり、気付けば侯爵夫人になりました。
旦那様は相変わらずでしたが、4男を最後に愛人達には避妊薬を飲ませるようにしたそうです。
4男が生まれてすぐ初孫が生まれたので、何か思うところがあったのかもしれませんね……
それから16年が経ちました。最後の子である4男も18歳になりました。もう家に残っている子供は4男だけです。
娘達も皆嫁ぎ、先日は侯爵令嬢である長男の娘が幼い頃より婚約していた侯爵家へと嫁いで行きました。
2人は幼い頃より相思相愛だったので、私のようにはならないことでしょう……
姪も結婚したと言うのに、4男は何処か冷めているようで初恋すらしたこと無いようです。
女の子でしたら嫁ぎ先も色々あるのですが、侯爵家の息子と言っても4男でしかも愛人の子と言うことで婚約も中々難しく、無理に決めなくても本人がいつか次男のように連れてくるかもと言う期待もあって決めなかったのも良くなかったのかもしれません。
女なんて皆同じだ。誰でも良いといつも言っています。
皆は4男の事を気難しくて堅物だと思っていますが、実際は私を気にして家に残ってくれている様な優しい子です。
5年ほど前だったでしょうか?旦那様が子爵家から買い取ったとアマーリアの肖像画を持って帰ってきました。
普通に家族の肖像画が並ぶ部屋に、一緒に飾られました。肖像画の中の彼女は、確かにあの頃の凛とした美しいアマーリアでした。
複雑な心境で眺めていると、4男が気を使って話しかけてきてくれました。ただ黙って話を聞いてくれただけですが、ついつい優しさに甘えて昔の話をしてしまいました。
辛かったんだね、それでも自分達をこんな立派に育ててくれて、本当にありがとうと言ってくれて、涙が止まりませんでした。
この子がいつか本当の愛を知る日が来ればいいなと、心からそう思います……
ある日、旦那様が久しぶりに新しい愛人を連れてくると言い出しました。最近の愛人邸では旦那様が使用人にも飽きた愛人達を貸し出すようになって色々と荒れているようで、先日お気に入りの子が階段から落ちて事故死なのかどうなのかと言う不穏な状況なのに……と思っていると、なんと相手はアマーリアの姪で、最近噂の毒婦だそうです。
慰謝料の支払いで家が潰れそうになっているので助けたいみたいです。お茶会で見かけたことがありますが、髪の色も瞳の色もアマーリアとは全く違って、男性に媚びる様な性格の子でした。
旦那様がどういうつもりなのかはよく分かりませんが、あの子なら愛人邸でもやっていけそうな気がします。
数日後の朝、昨晩毒婦が来たことと、4男の結婚を知りました。毒婦が来たと聞き付けて駆けつけた長男と執事長とメイド長と一緒に話を聞くと、毒婦は相当な毒婦だと言うことがわかりました。
侍らせていた男性達はもちろん、使用人に実の兄とも体の関係があったようです。
そしてなんと4男の妻になった女性は、その毒婦の姉だそうです。姉がいたことも知りませんでしたが、それよりもそんな女の姉で大丈夫なんでしょうか?
実の兄ともと言うことは、姉の方も関係があったんじゃないでしょうか?幸せになって欲しかったのに……
その時突然4男が部屋に入ってきました。いつもの無表情と違い、見るからに明るく嬉しそうな表情です!
そして自慢するかのように処女の証を皆に見せました。私以外の皆は、姉が処女であったことにほっとしたようですが、私からしたらそんな事はどうでも良いことに思えました。
酷く痛がらせてしまったんで、どうしてあげたらいいのかと相談する姿は、彼女が愛しくて仕方無いと全身で訴えて見えましたから。
4男は彼女に恋をしたようです。偶然にも愛する女性を見つけてくれて、心から喜ばしかったです。
彼女とは、すぐに会うことが出来ました。アマーリアに似ていると聞いていましたが、私から見たらアマーリアと言うよりも次男の母である平民の少女に重なりました。
家族に疎まれ、妹の影で虐げられていたようで、とても愛に飢えた子でした。
全てを妹に奪われてきたようで、持ち物は粗末なドレス数点のみでした。とても子爵令嬢の彼女が着るようなドレスでは無く、平民が着るようなドレスでしたので、思わず引き裂いてすぐに仕立て屋を呼びました。
仕上がるのに時間がかかるので、娘達が置いて行った流行り廃りの無いシンプルなお古のドレスをとりあえず渡すと、これを頂いても良いんですか?とキラキラした目で言われました。
ほんの少しの愛や優しさも全部拾い上げ、数十倍の喜びを返してくれるので、可愛くて可愛くて毎日のように離れに通ってしまいました。
娘達でさえ嫌がるでしょうに、愛に飢えた彼女は喜び、まともな令嬢教育も受けていなかったからと私に教えを乞う姿は、娘達以上の可愛さでした。
妊娠出産の知識も皆無で、11人育てたお義母様がいれば安心ですねなんて可愛いことも言ってくれました。
聞かれるままに教えると、元々の頭は良かったようでぐんぐん知識を吸収して、今ではすっかり立派な子爵夫人へとなりました。
彼女によく似た可愛い女の子を出産すると、旦那様がアマーリアと言って抱いたまま泣いてしまったので、赤ちゃんの名前はアマーリアに決まりました。
色々と複雑な心境ではありますが、まぁ4男と彼女がそれで良いのなら仕方ありません。
なんと旦那様は、それから毎日のようにアマーリアに会いに離れへ来るようになりました。
4男が結婚したら引退するといっていた通り、長男に全てを譲り仕事を引退してしまいました。
アマーリアが生まれて一月も経たないうちに愛人邸は閉鎖されることになり、帰れる者は帰し、残った者は使用人専用の娼婦となるそうです。
旦那様はまた夫婦の寝室で寝ることになりましたが、もう年も年なので求められることも無く、穏やかに夜を過ごせていました。
ある晩、さすがに我慢出来なくなったのか久しぶりに求められました。最近では心も満たされていたので受け入れると、驚いたことにエミリアと私の名前を呼んで、とても優しい行為でした。
行為中に、今までずっとすまなかった。ずっと側にいてくれてありがとうと言われ、初めて心の底から満たされることが出来ました。
愛人邸を閉鎖したことで子供達が頻繁に孫達を連れて遊びに来るようになり、本宅はとても明る所になりました。長男もついに離れから本宅へと引っ越して来ました。
もう残り少ない人生ですが、今が人生で1番幸せです。




