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愛人の息子

私はとある侯爵の4番目の息子だ。と言っても本妻ではなく愛人の子供だ。

1番上と3番目の兄が本妻の子供で、あとの兄弟姉妹はみんな愛人達が生んだ子供だ。私が1番下で、姉は7人ほどいる。

11人全員侯爵家の子供として本宅で育てて貰った。本妻である母には頭が上がらない。

侯爵である父は、仕事は出来るし人格者でとても尊敬出来るのだが、女好きで有名だ。現に愛人を十数人囲っている。だが、世間で言われているような女好きとは、事実は少し違う。


父は、幼い頃から母と婚約していた。侯爵家の子息ならそれが当たり前だ。

ただ、父はアマーリアと言う子爵令嬢に恋をしていた。身分が低い為、結婚は出来ないが愛人に出来ればと思っていたようだ。だが、アマーリアは15歳という若さで亡くなってしまった。愛人の打診をするにも結婚してからしか出来ないため、父はとにかく結婚の準備を急いだらしい。

そのため、しばらくの間アマーリアには会えなかったようだ。その間に病気で亡くなったと聞いたが、真相はわからない。

それから父は心の何処かが壊れたらしい。愛人にするのは皆似たような女性ばかりだった。いつだったか、子爵家からアマーリアの肖像画を買い取って飾ってあるので、女性達にアマーリアを重ねて見ているのはまるわかりだ。

その頃、母が寝室では誰の事もアマーリアと呼んで抱いていると言っていた。もちろん母もそうだったようで、気が狂いそうだったから愛人を許したのだとか……


思えば、母も可哀想な人なんだと思う。幼い頃からの婚約者は自分では無く別の女性を愛し、結婚前から愛人にする事は決まっていたなんて……当時の母はどういう心境だったのだろうか?

まぁ母も元伯爵令嬢だ。政略結婚に愛は求めていなかったかもしれない。だが、他の女性の名前を呼ばれながら抱かれるのはさすがに辛かったのだろう……

それでも子供達を立派に育ててくれて、母は聖母か何かの生まれ変わりなんだと今でも思っている。


愛人である本当の母親には会ったことが無い。他の愛人も、愛人となるために愛人邸に入る時に見かけた事があるくらいで、実際は同じ敷地内と言っても広大な庭園の隅に塀で囲まれているため、別の家という感じだ。

それも裏庭の従業員宿舎よりさらに奥なのだから、迷い込むこともまず無い。本邸からも見えるのは高い塀と塀の中にも庭があるようで木が並び、小さい貴族の屋敷くらいの建物の屋根が見えるくらいだ。声も勿論聞こえない。

なので中の様子は使用人達の噂で聞く程度だから詳しい人数や名前などはわからない。

前庭には離れが3つ有り、それぞれ兄達が家族で住んでいる。1つは私が結婚したのち、住む予定だ。


1番上の兄はいずれ侯爵家を継ぐ予定で、父の仕事を手伝っている。2番目の兄は母親が平民のため、騎士になり結婚後離れに住み騎士団に通っている。

3番目の兄は本妻である母の息子なので、とある伯爵家に婿入りした。姉達もそれぞれ結婚し、家を出た。

残っているのは私だけだが、こんな家で育ったせいでどんな女性にも魅力を感じない。愛だの恋だのどうでもいいので、爵位を貰った時に父の言う女性と結婚することを了承した。

正直騎士になった兄以外もみんな政略結婚なので、何も変わらないように思う。

ただ、私は侯爵の息子と言っても、愛人であるしがない男爵令嬢の息子なので色々難しいようだ。

普通の貴族なら愛人の息子だからと避けられ、侯爵家に取り入りたい家はすり寄ってくる……女なんて皆同じだ。

武には2番目の兄ほど恵まれなかったが、頭の方は父の遺伝子を受け継いだようで自分で言うのもなんだが、幼い頃より優秀だったので王宮事務次官の職に就くことが出来た。

これでここを出ても自分だけで暮らしていけるだろう。だが、みんな家を出てしまって最近母が寂しそうにしているのが気になるので出るに出れずにいる。

兄達は離れに住んではいるが、子供の教育に悪いと思っているのか本宅には近付かない。姉達も同じだ。

これで私まで出てしまったら、母はどうなるのだろう?


ある日、不穏な噂が流れてきた。どうやら父の今1番のお気に入りの愛人が階段から落ちて亡くなったそうだ。

最近では飽きられた愛人は使用人達へ頻繁に貸し出されたりしているようで、愛人邸は空気が悪かったらしい。

貸し出し自体は私が生まれた後から行われていたので、父が私以降に生まれる子供は自分の子供とは認めないと言って皆に避妊薬を飲ませていたようだ。

以前はそう回数も多く無く、何かの褒美などに行われていたそうだが、最近の父は少しおかしくなったのか、飽きられた愛人達は娼婦のような扱いになっていたらしい。

父の寵愛を何としてでも取り戻そうと皆必死なのだとか……


父は1番お気に入りの愛人が死んでもあっけらかんとしていて、やはり何処か壊れているんだと思った。

数日後、何を考えているのかまた新しい愛人を買ったと言い出した。最近噂になっている毒婦だとか……何でも、何人もの男達を侍らせ貢がせ、婚約破棄に追いやったのだとか。

父がアマーリアに似た女性以外に興味を示すのも珍しい事だ。そんな毒婦なら、愛人邸でも逞しく生きていけるんじゃなかろうか?


数日後の夜、父に呼び出されてお前の結婚相手だと差し出された女性を見て驚いた。肖像画のアマーリアとそっくりだったからだ。ただ、肖像画のアマーリアと違って、凛とした強さが感じられなかった。

すべてを諦めているかのような、そんな雰囲気の女性だった。いきなりの結婚話にも驚いたが、まさか自分がこんなにもアマーリアそっくりの女性に一目惚れしてしまったことにも驚いた。

アマーリアが百合の花なら、彼女はガラス細工の鈴蘭のようだった。何処か壊れてしまいそうで、触れるのが怖かった。

だが、父が要らないなら自分が貰うと……あんな所に彼女を連れていったらすぐに壊れてしまうのはわかりきっているじゃないか!絶対守らなければと結婚を了承した。

彼女は自分の結婚の話をしていると言うのに、聞いているのかいないのか虚ろな目をしていた。彼女を絶対に幸せにしなければ!聞けば毒婦の姉でアマーリアの姪なんだとか。

アマーリアに似ているのも当然だろう。母には悪いが父と同じ屋根の下に彼女を置いておくのが嫌で、すぐに離れに移ることに決めた。

一刻も早く自分の物にしたくて、父には絶対に入る余地を残したくなくてその夜抱いた。初めてだったので痛がらせてしまったが、何故か心が満たされた。


すぐに寝てしまった彼女の股を白いハンカチでぬぐい、翌朝彼女の目が覚める前に処女の証明として、父と母、毒婦が昨晩来たと聞きつけてやって来ていた1番上の兄に執事長にメイド長が揃っていた場で見せると、何故か母が1番喜んでいた。

他のメンバーは何故かホッとしていたようだ。子爵令嬢なんだから処女で当たり前ではないのか?と思っていると、妹である毒婦は既に経験済だったと聞いて驚いた。

それも数人と関係を持っていたらしい……その中には兄もいたので、もしかしたら彼女もと思っていたようだ。

姉妹でこうも違うとは、いったいどんな育ちをしたんだろう?いつか落ち着いたら聞きたいものだ。


彼女との生活は落ち着いたものだった。彼女も私と同じできっちりした性格のようで、一緒にいて楽だった。

化粧をしていない彼女は、肖像画のアマーリアとはさほど似ていないようにも思えた。彼女の方が柔らかい印象だ。

意外なことに、彼女は母とも上手くやってくれた。実の親には恵まれなかったらしく、疎まれて育ったので何かと世話を焼いてくれる母が好きなんだそうだ。

そんな母も、妻のことが可愛くて仕方がないらしい。初めて会った時も化粧をしていなかったので、あまりアマーリアに似ていると言う印象は無いようだ。化粧品も持っていなかったのでしたことがないと言う彼女に化粧品を買い与え、身の回りの世話をするメイドをつけて、実家から持ってこさせたドレスも全部捨てて新しく作ってくれた。

彼女の粗末なドレスを見た時、鬼の形相で破り捨てた母は今でも忘れられない。

妊娠中も何も知らない彼女の世話をあれこれ焼き、子育ても慣れているからと色々助けてくれた。


驚いたのが父だ。彼女によく似た女の子が生まれると、アマーリアと名付けてそれはもう目に入れても痛くないくらい可愛がっている。

愛人邸も閉鎖して、使用人娼館へと姿を変えた。望む者はそれぞれの家へ返したそうだ。

帰る家が無かったり、実家の方から拒否られたりした者のみ残っているのだとか……毒婦である妹は残っているらしい。彼女の場合は慰謝料の支払いの肩代わりをしたので、他の愛人達とは立場が違うようだった。

妻には妹の事は何も話していない。妻も聞いてこないので、これで良いのだろう。


最初の頃の脆さがなくなり、今では妻はすっかりマーガレットへと進化したようだ。鈴蘭のような儚さはなくなり、誠実で明るく一緒にいると安らぎを与えてくれる……それが本来の彼女の性格だったようだ。

父も、今となってはアマーリアとは髪と瞳の色以外は似ても似つかないのに、なぜあの時はそう思ったのか不思議だな?と言っている。

愛人邸を閉鎖した父の元には兄達家族も時々顔を出すようになり、今では本邸は子供達の声で溢れて明るくなっている。

彼女がここに来たことで、侯爵家は良い方向へと随分変わった。

彼女こそ天使の生まれ変わりなんじゃないかと、今日も自分の妻を見つめながら思ってしまう……私が1番変わったのかもしれないな。

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