④誓約は結ばれる
ルティアの姿を見て駆け寄ってくる女性がいた。
アナイナだ。
「来てくださったのですね! ルティア様!」
「無事で良かったわ、アナイナ!」
「ルティア様のおかげですわ」
お互いの無事と再会を喜び、抱きしめ合う。
そして……ルティアには報告しなければいけないことがあった。
「アナイナ、紹介するわ……」
ルティアが、背後に目配せした人物。
察しの良いアナイナは息をのんで、そこにいる青年を見つめた。
「ルティア様……もしかして……」
「そう。私がずっと会いたくて探していた……リュードさんよ」
「会えたのですね。……良かった、本当に良かったですわ!」
まるで自分のことのように、アナイナは涙を浮かべ祝福してくれた。
「ご足労感謝します。ーー冒険者組合総支配人」
「ヴィルヘルム殿下、我は腹を決めた……」
少し距離を置き対峙するヴィルヘルムと総支配人。
アナイナが「実は、総支配人は、わたくしの父の友人なのですわ」と囁くので、ルティアは吃驚した。
確かアナイナは「父の親友で国の内情を知る人物」への手紙を、アビゲイルに託していたが、縁とは、こうも繋がるものなのか……。
「我のすべてで貴殿を支援をする。未来を望む冒険者の志と、亡き冒険者の魂の弔いのために」
「ご英断、感謝します。ならば……約束しましょう。王座についたその時には、帝国の闇を明るみに……そして魔王との戦いで散った冒険者のために喪に服し、その家族には最大限の保障をするとーー」
「うむ。其方が良き王で在り続けることを、我々は望む」
ヴィルヘルムが、一枚の書状を手にする。
誓約書だ。
ナイフを取り出し、刃先を親指の腹に押し当てる。そして滲み出した血を使い誓約書に印をつける。
ヴィルヘルムが終わると、総支配人も同じように血判を押す。
これにより両者の誓約は交わされた。
「帝国の軍が動き始めたぞーー!」
飛び込んできた、アビゲイルが一声。
さっきの将軍の様子を見ていれば、こうなることは想定済み。
戦いを免れることはできない。
ーーいや……むしろ今こそ好機!
この流れで一気に王位簒奪を押し進めるべきた。
「私達も、応戦しながら城に行くわよ!」
ルティアの呼び掛けに、そこにいる全員が意志をかためた。
「我の冒険者達よ、道を切り拓け! ーー次代の王に勝利を!!」
総支配人が腰に備えている剣を抜き、掲げた。
ーーついに帝国との戦いが始まる。
向こうは精鋭揃いの軍で攻めてくるだろう。
(だけど私達は負けない!)
「俺とキーノスが先陣をきる! ルティアとリュードは殿下を守るんだ!」
「わかったわ! ……あ、そうだわフレッド!」
ルティアがフレッドに駆け寄る。
そして紋様が刻まれている右手を差し出した。
「やっぱり返すわ、フレッド……」
ルティアの持つ火神の加護は、もともとフレッドから譲られたものだ。
お陰で、旅の間は、ずいぶんと助かった。
けれどフレッドが戦えるようになった今、半分に分けてしまった加護は返したほうが良いだろう。
「返さなくてもいいのに……」
「私のことなら平気。心配しなくて大丈夫よ」
「でも……」
「大丈夫ですフレッド。ルティアには傷のひとつも付けさせませんーー」
「リュード……そこまで言うなら」
フレッドが名残惜しそうにルティアの手に触れる。
そっと大切なものを持ち上げるように、掬いあげて、そして甲に唇を落とした。
(フ、フレッド!?)
伝わってきた柔らかい感触に、ルティアは頰を赤くする。
次第に、火神の紋様が薄れていく。
「ルティア、俺の大好きな女剣士。離れていても、俺の想いが君を護ってくれますように……」
「……ありがとうフレッド」
「 うん。さあ行こう!」
ルティア達は外に出る。
「行くぞキーノス!」
「おお! ーー風の精霊、こい!」
キーノスが常にそばにいる風の精霊と、同調を始める。
時間的な制限はあるものの、同調することでキーノスは、人間でありながら誰よりも精霊に近く、誰よりも強い力を発揮できる。
一方、フレッドは炎を生み出す。
大きく……人よりも何倍も大きく膨張した炎は、やがて火神【ローギ】の眷属と云われる四本足の獣の形を取り始めた。
まるで独自の意志を持つように、獣が猛々しく咆哮を上げると、辺りには熱風が吹いた。
フレッドが獣の背に飛び乗る。
火神の加護を持つ者は、自ら生み出した炎に焼かれることはない。
「王城までの道をつくる! 俺の後ろに続け!」
そう言って先陣をきるフレッドの隣には、キーノスがいた。
風の精霊と同調した彼は、風のように素早く走ることができる。
炎の獣に跨ったフレッドと併走し、王城までの道を駆ける。
向かってくる帝国の兵士たちは、炎の獣に怯んだ。
戦いを挑んできた者は、熱風で火傷を置い、さらに鋭い風に吹き飛ばされる。
なかには武器を手にしたまま、立ち尽くすだけの兵士もいた。
ーーあれは……魔王と戦った冒険者達だ!
いまだ記憶に新しい……。
魔王討伐隊として出兵した者達は、あの戦いの熾烈さを知っている。
魔核から生み出された魔獣と戦い、冒険者に命を救われた者もいる。
ーー命の恩人を相手に、どうして刃を向けることができようか!
良心に苛まれ、戦いを止める兵達……。
「そうだ! 怪我したくなかったら離れてなっ!!」
キーノスが竜巻を起こす。
火の粉が舞う。
二人の後ろには冒険者組合で最強の力と権力を持つ総支配人が、水神の魔法を発動させていた。
巨大な水蛇が、石畳を抉りながら疾走する。
兵士達の足を縛り、道を開けろと、飲み込んでは弾き飛ばす。
「絶対に、私達から離れないでーー!」
ルティアは、ヴィルヘルムとアナイナを護衛しながら拓けた道を往く。
離れた場所から幾つもの矢が飛んでくる。
そこでリュードが女神の力で光の盾をつくり、ヴィルヘルム達を守る。
「ルティア、後ろからきます!」
「わかったわっ!」
今度は背後から騎馬兵がやってくる。
馬上から槍を振り回し攻撃してくるが、ルティアは軽やかに身を翻し、馬の脚に刃をあてて引く。
激痛に暴れた馬が兵士を振り落とす。
ーーそして、天空に稲妻が走る。
数瞬あとに轟音が空気を震わせ、気付けば、騎馬兵のすべては地面に伏していた。
「アビゲイルさん!」
「まだまだ! 片腕がなくたってオレは戦えるぜーー!」
「頼もしいわ!」
アビゲイルと拳を突き合わせ、微笑むルティア。
さらに、ギルドで見物していた冒険者達が、応援に駆けつける。
それぞれの武器を手に向かってくる帝国の兵士達と応戦しはじめた。
「みんな……」
「どんなに帝国軍が強くとも冒険者達の力には及ばないでしょう。彼らは自らの意志で戦っている……」
「そうですね。……私達は自分自身の手で、未来をつくるんだわ!」
「ーー行きましょう、ルティア」
「はい! リュードさん」
そしてついに、冒険者達は、ガーリア帝国の王城にたどりつく。
読んで頂き有難うございます!
残すところ、あと2回。
頑張ります!




