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⑨旅路の果てに、告白

 冷たい風に揺れる青みがかった黒い髪。

 沈んでいく夕陽にぼんやりと浮かび上がる懐かしい輪郭。

 凛とした佇まいも、最後に見た時と、なにひとつ変わっていなかった。


「リュードさん……、リュードさんっ!!」


 堪らずルティアは叫ぶ。

 すると、ぎゅっと雪を踏みしだく音が止まり、リュードの視線がまっすぐこちらに向けられる。


「ル……ティア……?」


 リュードもどうやら驚いたようだ。双眸(そうぼう)を大きく見開く。

 まるで月の光をそのまま写し取ったかのような澄んだ銀色の瞳……。

 だがそれは次の瞬間、愛しいものを見つめるように柔らかく(すが)められた。


「……っ!」


 ルティアの胸は喜びに震えた。

 すでに溢れだしていた涙が吐息を湿らせていく。


(本当は……嫌われたんじゃないかって不安だった……!)


 突然姿を消してしまったリュード。

 もしかしたら知らないうちに、リュードに何か嫌なことしてしまったんじゃないかと、ルティアは不安だった。

 しかし、今、リュードの瞳を見て、不安のすべては消し飛んだ。

 衝動に身を任せ、ルティアは駆け出した。


「リュードさん、ずっと会いたかった!」


 そのままリュードの胸に縋りつくように飛び込む。

 受け止めるように、ルティアの震える肩を大きな(てのひら)がそっと包んでくれる。

 ――不意に思い出す、リュードの鼓動……。

 それは魔王との戦いのとき。

 まるでお互いがひとつのものであるかのように、ルティアとリュードの鼓動は重なっていた。

 ――確かめたい。もう一度……。

 リュードの胸に頬を擦りよせ、右耳をぴたりとくっつける。

 やがて伝わってくる温もりと、心音……。


(リュードさんは、ちゃんと、此処にいる……)


 そしてルティアは、一度は秘めようとした想いを言葉にする。


「私、リュードさんのことが好き! だから……ずっと探していたんです……!」

「ルティア?」

「お願い……リュードさんのそばに、いさせて……っ!」

「…………」


 しかし振り絞るように紡いだ想いに、リュードの返事はなかった。


(もしかして、困らせてしまった……?)


 不安に押し潰されそうになって、ルティアはぎゅっと瞳を閉じる、

 さらに、追い打ちをかけるように、別な声がした。


「リュード、集落の方たちは無事のようです……って、あら?」

「! レーヌさんっ……!?」

「えっ、ルティアさんなのですか? 驚きました……!」


 驚いたのはルティアだって同じだ。


(もしかしてレーヌさんは、ずっとリュードさんと一緒にいた……?)


 かつて共に魔王と立ち向かった強くて可憐な祈祷師……レーヌ。

 彼女が幼い頃から一緒にいたリュードに恋心のような感情を持っているのは、なんとなく察していた。

 その二人が、こうして共にいるということは……。

 リュードの手の平が離れていく。

 同時にルティアの心も、すっと冷たくなっていく。

 レーヌが近づいてきて、リュードの右側に添うように立つと、幸せそうに微笑んだ。

 ――ああ、だからか……。

 ルティアは理解に至る。


(リュードさんは……レーヌさんのそばにいたかったから……だから……)


 だからリュードは去っていったのか。

 消えていく温もりとともに、ルティアの心は哀しみに沈む。

 日暮れの冷たくなった空気が、今は痛く感じられた。


(たとえ想ってもらえなくても良いって……そばにいれたら幸せだって、思っていたれけど……)


 けれどそれはリュードに想い人がいなかったらの話だ。

 ――馬鹿だ、私は……。

 想い合う二人の間に、「好きだから一緒にいさせて」なんて言えない。

 ルティアの心だって、おかしくなってしまう。

 滲んでいく視界の先で、リュードと目が合った。

 銀色の双眸は、どこか申し訳無さそうに揺れていて、ルティアは居たたまれなくなる。


「……さっきの話しは……忘れてっ!」


 俯いて言い放ち、ルティアは小屋に向かって走った。

 泣き顔で戻ってきたルティアを見て、ユタが目を丸くする。


「どうしたのっ⁉︎ 何かあったルティア⁉︎」

「……大丈夫よ。……リュードさんに、会えただけだから……」

「リュードって、ルティアが会いたがってた、あのリュード⁉︎」


 そうよ、と頷くと、ユタが気遣わしげに見つめてくる。


(駄目……このままじゃ私……)


 平静を保っていられそうになかった。

 リュードは守護(ガーディアン)救命団(セイバーズ)として、(やまい)のことを聞いて駆けつけたに違いない。

 だとしたら、しばらくはこの集落に留まるはずだ。

 これからどんな顔をして会えば良いのか……。


(今は、気持ちを整理したい……)


 ルティアは外套を纏い、立て掛けていた愛剣をとる。

 一緒に置いていた銀雪草(ぎんせつそう)の押し花が目に入った。

 枯れてもなお、輝きを放つ美しさに、痛んだ心がほんの少し和らいだ気がした。


「ちょっと、そんなんで何処(どこ)に行くのさ!」

「一人になりたいの。ちゃんと戻ってくるから……」

「駄目だって! これから夜なんだよ! リュードに会いたくないって言うなら、オレが追い返してやるからさ!」


 ユタが必死で引き止めようとするが、ルティアは小屋を出た。

 外にはリュード達がいるだろう。

 けれどもうルティアは見なかった。

 俯いて急ぎ足で歩き、集落のそばの山道を登り始めた。

 

読んで頂き有難うございます!


続きは来週になりそうです。

宜しくお願いします。

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