⑦病の原因
回復したと思われたコウジュだったが、数日のうちにまた体調を崩してしまった。
コウジュだけじゃない。
ルティアは集落の床に伏せている人々に聖水を飲ませ、浄化の御業を施してきた。
そしてほぼ全員が快方に向かっていたが、コウジュ同様、また体調の悪さを訴えてきたのだ。
これでは完全に逆戻りだ。
不思議なのは、やはりユタだけは元気に動き回っていることだ。
そして女神の加護のあるルティアも、身体に異常は見られない。
「ユタ……あなたには何か特別な血でも流れてるのかしら」
「……んなわけないじゃん」
オレだって知りたいよ、そう付けくわえたユタは、幼い少女に薬湯を飲ませている。
少女の名前は「ルネ」と言って、ユタのことを「お兄ちゃん」と呼び慕っている。それもあってか、ルネのぶんの薬湯を作って飲ませるのは、ユタの役目となっていた。
(そういえば、ルネも元気なのよね……)
ルティアが最初に会った時には、ルネの具合も良くなかった。
ただ一度快方に向かってからは他の者と違い元気だ。顔色も良いし、立って歩くこともできている。
(若いから……かしら……)
いや、若いと言っても、ルネはまだ五歳くらいで体力には乏しいものがある。
――じゃあ何故?
そればかりをずっと考えていると、だんだん頭がぐるぐるしてきて、ルティアは無性に叫び出したくなる。
「あぁもう! 考えても分からないから、とりあえず鍛錬してくるわ!」
ルティアは剣を手に取り立ち上がった。
こう言う時は身体を動かして一度頭の中を空っぽにしたほうが良い。
それにルティアの場合、剣を振るっている時の方が頭も冴えるのだ。
「じゃあオレも、今のうちに――」
ユタも盥を手にした。
薬湯を作るための水を汲みにいくのだ。
もっともユタはそんなに離れていないのに、渓流ではなく降り積もった雪を飲用のために集めている。
昨夜も、また雪は降ったらしい。
外は純白に覆われていて、太陽の光が反射して星屑のようにキラキラと輝いている。
「――はっ! はあっ!」
ルティアは剣を薙ぐ。
どんなに忙しくても疲れていても鍛錬だけは欠かさない。
これをする事によって、わずかな身体の変化にも気づくことが出来る。筋肉の強張りや、体重の変化……全てが剣筋にかかわってくるため、鍛錬で確かめるのだ。
ユタは近くで雪を掻き集めている。
別な小屋からコウジュが盥を片手に出てくる。水汲みだろう。真っ直ぐ渓流に向かって歩いていく。
(コウジュさんだって具合が悪いのに……)
守護救命団として真面目に働いている。
けれど無理だけはして欲しくない……そうルティアが思った時だった。
コウジュが急に駆け出す。
おかしいと感じたルティアは剣を振るうのを止め、目を凝らした。
「――馬がっ……!」
渓流のそばで、ルティアが一緒に連れてきた馬がぐったりと倒れている。
その異変にコウジュは気付いたのだ。
「どうして⁉︎ 馬まで病に罹るっていうの――⁉︎」
ルティアが駆け出すと、近くにいたユタも後を追ってくる。
険しい顔をしたコウジュが叫んだ。
「――渓流だ! 間違いねぇ! 渓流の「水」が病の原因だ!」
「渓流の水が……⁉︎」
「それしか考えられねぇ!」
確かにルティア連れてきた馬はここで水を飲んでいた。
そして集落の人々は、この渓流の水で生活をしている。
――ああ、そうか……!
薬湯にも渓流の水が使われていた。
けれどユタだけは雪解け水を使っていたのだ。
ユタの薬湯を飲んでいたルネが元気なのも、渓流の水を飲用していなかったから……。
これですべて納得がいく。
「くそっ……俺は急いで水を飲むなと、皆に伝えてくる!」
「分かったわ!」
「オレも行く!」
ルティアは穏やかな渓流の流れを見つめて、背筋を震わせる。
(一体、何が起こってるの……)
もし本当にこの渓流が使い物にならなくなったら、集落の人たちは住処を追われることになるだろう。
怖いのはそれだけじゃない。
地続きである以上、この被害は近隣まで浸透していくはずだ。
「だから帝都の役人は視察にきた……?」
滅多なことでは山奥に来るはずのない役人のことが、ルティアはずっと引っかかっていた。
結びつけるにはまだ情報が足りないが……。
(それよりも今は、この渓流をどうにかしないと)
ルティアは透き通る水の流れを見つめる。とくに異変は感じられないが、人間に害を及ぼす「何か」があるのだ。
さらに視線をずらし、上流のほうを見遣る。
「浄化するなら、もっと上のほうに行ったほうが良いわよね」
ルティアは上流を目指し、歩き始めた。
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