③幕間 ルティアを追って、帝都。
ぶるりと身体を震わせるフレッド。
それを気遣わしげに、キーノスは見ている。
「大丈夫か?」
「……うん、大丈夫だ」
このやり取りも、帝都に入ってから既に三度目になる。
ルティアの足取りを掴むため、キーノスとフレッドは、ガーリア帝国の帝都へとやってきた。
――魔王との戦いから一年……。
いまだ生乾きの心の傷口は、帝都の冷たい空気を受けてズキリと重たく痛む。
(思い出しちまうよな……色々。やっと立ち直ってきたのにな……)
帝都に入ってから明らかに顔色が悪い親友を、キーノスは心配していた。
キーノスの心だって平気なわけではない。魔王との戦いの記憶と感触は、全身のいたるところに生々しく染みついている。
けれど自分が受けた傷よりも、かつて自分の心を救ってくれた親友の苦しみのほうが、キーノスにとっては何倍も重くて大事なことだった。
(オレが、全部、変わってやれればいいのにな……)
見守るしか出来ないことも、ひどく、もどかしい気持ちになった。
荒く息を吐いて、とうとうフレッドの歩みが止まる。
「なあ、宿屋で少し休むか?」
「いや……このまま冒険者組合に行こう。俺は大丈夫だから」
「そうか……。辛くなったら言えよな」
いつか歩いた道を、二人はゆっくりと踏みしめながら進んだ。
やがて冒険者組合のが見えてくる。
初めてここに来た時、故郷のギルドより何倍も広大な敷地に、お城のように立派な門構えで吃驚したことを思い出す。
「懐かしいよな……」
「うん、一年振りだ……」
「ルティアの足取り掴めるといいな」
「うん。……さあ、行こうか」
さっそく建物の中に入る。
以前訪れた時よりも、冒険者の数も少なく静かで驚く。
(あの時は、魔王討伐で集まった冒険者達でいっぱいだったからな……)
「キーノス、アビゲイルがいた……」
「え? どこ」
フレッドの視線の先は、ギルドの幾つかある窓口のひとつ。
そこにアビゲイルがいる。
「オッサン……ギルドで働くことにしたんだな」
「そうみたいだね……」
アビゲイルは暇なのか、大きな口を開けて欠伸をしている。
「おーい、オッサン! 久しぶり!」
キーノスがそう言って手を振ると、二人に気付いたアビゲイルは口を開けたまま驚いている。
「お、まえらっ⁉︎ なんでここに⁉︎」
「ルティアを探してるんだ。何か知らないか?」
「おうっ……ルティアなら、つい五日ほど前に此処に来たぜ!」
「マジか! 良かったなフレッド!」
頷いたフレッドの顔が嬉しそうに綻ぶ。
帝都まで来た甲斐があったと、キーノスも安堵する。
「ルティアは元気そうだった?」
「あいつは元気だし相変わらずだったぜ。リュードを探しているらしいが……」
「そうか。まだ会えてないんだな……」
「んで、ルティアの行き先知ってんだろ? 教えてくれオッサン」
五日前までいたなら、今から追いかければ、そう時間を置かずに会うことが出来そうだ。
しかし、アビゲイルは思いも寄らないことを口にする。
「行き先は知ってる……が、ちょっと手伝ってくんねえか? 風の精霊使い」
「はあ?」
「ルティアの奴、ちと……厄介ごとに首を突っ込んでてな……」
「厄介ごと? ……まさか危険なことか?」
フレッドが眉を寄せる。
逆にキーノスは呆れてしまう。
(あいつ、一体、何やってんだよ……)
ただリュードを追い掛けているだけでは無かったのか。
心配の種がひとつ増えてしまったではないか……。
苦笑いをしたアビゲイルは、その後、別室に二人を誘った。
暖炉で温められた室内に、一人の淑女の姿があった。
アビゲイルの姿を見とめて微笑んだあと、見知らぬフレッドとキーノスに対して、優雅に挨拶をする。
「はじめまして。わたくしの事は「アナイナ」とお呼びくださいませ――」
事情もわからないまま、とりあえず挨拶をする二人。
「はじめまして。フレッドです」
「オレは、キーノスだ」
すると、アナイナは「まあ!」と驚きの声を上げた。
「ルティア様からお二人のことは聞いておりますわ! まさか実際にお会いできる日が来るなんて、光栄ですわっ……!」
どうやら彼女は縁あり、ルティアと旅をしていたのだと言う。
それからルティアが首を突っ込んでいる「厄介ごと」の真相を聞かされる。
現ガーリア帝国王の罪。
さらには、近くガーリア帝国は他国との戦争を始める予兆があること。
ルティアが幽閉されている王位継承権を持つ王太子の居場所を掴んだこと。
それから、アナイナがこれから起こす革命の計画……。アビゲイルからは、王太子を救いだすために、風の精霊使いであるキーノスの力を借して欲しいということ……。
「オレ達には関係ないこと……なんだけどな……」
キーノスが苦い顔をして呟く。
だが脳裏を掠めていくのは、魔王との戦いで散っていった冒険者達の無残な姿。
それは愚行とも言える、帝国軍の攻撃のせいだ。
――赦せない。
そんな思いを、ずっと心に抱えていた。
だからこそ、ルティアも手を貸す気になったのかもしれない。
「フレッド……」
隣にいるフレッドの顔色がまた悪くなっていく。
思い出してしまったのだろう。
(あまりフレッドを関わらせるのは良くないな……)
フレッドの心の傷を思えば、そっとしておきたい。
なにより今の優先事項はルティアのことだ。
その為に旅をしてきたのだから。
「俺は……もう、誰が傷つくのも、嫌だ……」
フレッドが呻くように言った。
「ルティアが傷つくのはとくに……だから……」
「おい大丈夫か、フレッド……無理しなくていいんだぜ」
「それに、戦争になったらまた、罪の無い人間の血が流れる……」
正義感の強いフレッドらしい考え方だと思った。
そんな彼だからこそ、キーノスもルティアも、リーダーとして認めていたのだ。
「わかった。オレ達が手を貸すのは王太子を助けるまでだ――」
決断する。
そして数日のうちに、無事に王太子を救出することに成功する。
キーノスとフレッドが帝都を出発したのは、ルティアに遅れること十日後だった。
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