②約束
ブクマくださった方、有難うございます!
今のアナイナにとって、ここ帝都は、故郷であると同時に敵地でもある。
ひとり残していくことをルティアは心苦しく思いながらも、辺境の地へ赴く意向を伝えた。
「コウジュ様と、ユタの身が心配ですわね……」
遠い地にいるニ人の身を案じるアナイナ。
その気持ちはルティアも同じだった。
――二人が病に罹り苦しんでいるかもしれない。
だとしたら、一刻でも早く助けの手を差し伸べなければ……。
はっきりとした状況が分からないことが、余計に不安を掻き立てる。
アナイナに至っては、別な面でも憂いを感じずにはいられなかった。
「民の命を護るために、慈善の守護救命団に頼るしかないなんて……これは帝国の課題ですわ……」
「ただでさえガーリア帝国は広いんだもの。仕方ないわよ」
悔しそうな様子のアナイナを、ルティアは慰める。
守護救命団は、都市や街から離れた医者のいない土地を巡り、持病の患者が必要とする薬の調合や治療を無償でしている。
つまり……国が支援できずに放置している穴を埋めてくれているのだ。
帝国の未来を背負っていくアナイナとしては見過ごせない問題だろう。
「ルティア様、わたくしからもお願いしますわ……。どうか二人を、そしてこの国の、大切な民のことを助けてあげてくださいませ!」
「私ひとりの力なんて大したことはないけれど、でも全力を尽くすと誓うわ」
「ありがとうございます、ルティア様」
「……ごめんね、アナイナ」
「はい?」
「そばで「貴女を守る」って、約束したのに……」
「いいえ。ヴィル様が生きているとわかって、わたくしは誰よりも強い心でいられます。それに冒険者の方に協力してもらえるのも、ルティア様がいて下さったお蔭ですわ」
「偶々よ……」
ヴィルヘルムが生きて神殿にいることが分かって、アナイナの不安のひとつが解消された。
これから本格的に王位簒奪向けて仲間を増やし、細かい算段を詰めていくことになる。
(私も、一緒に手伝えたら良かったのだけど)
「ルティア様……リュード様に会えるといいですわね」
「……うん」
ルティアの旅の目的はリュードに会うことだ。
それをアナイナは知っている。
愛する者に会いたくても会えない気持ちを、彼女は痛いほど理解していた。
「リュード様にお会いしたら、お気持ちを伝えるのでしょう?」
「ええ。あの頃は想うだけで満足だったけど、離れたくないと……一緒に生きていきたいと思ってしまったから……」
「わかりますわ、その気持ち……」
「アナイナ……私、すべて終わったら、必ず此処へ戻ってくるから!」
ルティアは、アナイナの小さな手を取る。
深く頷いたアナイナもまた、ルティアの両手を握り返して言った。
「待っていますわルティア様……! わたくしにはルティア様の力が必要なのです!」
「ええ、必ず……。約束するわ」
それからルティアは支度を始める。
冒険者組合にいることが幸いした。旅に必要なものや、足りないものも、此処ではすぐに手配できる。
それに馴染みのアビゲイルには口がききやすかった。
「急いで馬を二頭お願い。それから馬に括りつけられるくらいの遮光瓶と、あとは薬草を一揃い。準備ができたらすぐ出発するわ」
「おい……ちょっと待て」
「なに?」
「まさか、一人で行く気じゃねぇだろうなぁ」
「そのつもりよ?」
「幾らなんでも危険すぎんだろ、駄目だ」
きっぱりとアビゲイルは言った。
「――時期が時期だ。山奥には雪だって積もってんだろうし、いつ魔獣に襲われるかもしれん。ぶっ倒れて、雪に埋もれて凍死とか勘弁してくれ……」
「ああ、それなら平気よ」
ルティアは右腕を持ち上げる。
手の甲から肘の関節のあたりまで、革ベルトが二重で巻きつけてある。手投剣をしまうための装備だ。戦闘時には盾の役割も兼ねている。
ルティアは手の甲が見えるくらいまで革ベルトを解いた。
「見て、これよ」
「お前、それ【火神】の紋様じゃねぇかっ!」
「そう……フレッドがくれたの。だから雪だって溶かせるし、凍え死ぬ心配もないのよ?」
「……はぁ、なんてこった」
アビゲイルが盛大に溜め息をつく。
「凄腕の剣士で、祈祷師の資格持ちで、火神の加護までついてるって……最強すぎるだろ。そんな冒険者、オレは今まで見たことねえぜ」
「フフ……それはちょっと大袈裟すぎよ。でも、これで一人でも平気だって分かってくれたでしょ?」
「……ぐ、ぬぅ」
説き伏せることに成功したルティア。
ふたたび、話しを続ける。
手配したものは他にもあった。
「もう一つお願いがあるの。私の名を使って骨のある冒険者を集めて。そして日持ちする食糧と薬草をありったけ集めて、辺境の集落まで届けて欲しいの」
「物資だな。冒険者集めには、ちと時間が掛かるな……」
「なるべく急いで。お金ならいくらだって払うわ」
「分かってる。ルティア・ロードナイトの依頼なら飛びつく奴も多いだろうしな」
魔王を倒した女剣士の名は、帝都で知らぬ者はいないだろう。
冒険者の数は減っている。
けれど、元冒険者のアビゲイルの顔の広さがあれば、ある程度の人数は確保できるに違いない。
(要請の内容は、治療のできる者と、物資……。これで物資はなんとかなる。あとはリュードさんや、他の守護救命団が来てくれれば心強いのだけど……)
各地に散らばって活動している守護救命団に報せが届いていたとしても、実際に足を向けることができる者はどれくらい居るだろう。
それぞれ置かれている状況によるのだから……。
祈るしかなかった。
休む間も惜しみ、準備が整うとルティアは出発する。
アナイナとの道程は、約一月の時間を要した。
旅慣れているルティアなら、それよりも早く進めるだろう。
「良い風が吹いてくれればいいのだけど……」
外套の上から「風の守り石」にそっと触れた。
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