⑪回想5 連携
レーヌの光の矢は的に定めたモノだけを射抜く。それはどんな障害物があったとしてもだ。
剣のみで戦うルティアは、周りとの呼吸や間合いを気にしているのが常だった。
それが、レーヌとの連携では、余計なことを考えずに済んでいた。
(戦いやすい……!)
魔王と対峙している時でも、レーヌの援護射撃があることで反撃される回数が減った。そしてその分、ルティアは手数を増やすことができていた。
(それでも……油断しては駄目!)
ルティアが致命傷を負ったのは、魔王に腕を掴まれ動けなくなったところを狙われたからだ。
だから攻撃した一瞬の交錯の隙にも、何が起こるか分からない。
魔王は深い闇を抱くその眼窩同様、底知れないのだ。
どんな攻撃を仕掛けてくるか用心すべきだろう。
――もっと早く! 鋭く!
己に言い聞かせ、ルティアは剣を振り下ろす。
ガキッ!
魔王はそれを左腕で受け止めた。
いつの間にか全身の棘は消え、かわりに鋼のような硬質な装甲を纏っている。とくに左腕は盾のように頑丈で、刃を通さない。
魔王は受けた左腕を押し戻すように力をこめつつ、右手の剣でルティアに斬りかかる。
(――同じ手にやられるものですかっ!)
ルティアはすぐさま後退して、魔王の攻撃を躱し、低い姿勢から膝の屈伸を活かし、勢いをつけて一閃。魔王の右腕を斬り落とす。さらにそこでレーヌの光の矢が魔王の左腕に命中した。鋼の装甲もろとも砕け散る。
「やるわね」
「ルティアさんこそ、お見事です」
お互いに視線を交わし頷きあう。
(レーヌさん、相当……戦い慣れてる……)
改めてルティアは感心する。
レーヌはルティアのことも魔王の動きもよく見ているのだろう。そうじゃなければ、こんなにタイミング良く攻撃が出来るはずがない。
つまり……戦いの経験値があるのだ。
アビゲイル達、冒険者と共に行動しているのも頷ける。
「ルティアさん! このまま日暮れまで、わたし達で乗り切りますよ!」
「わかったわ!」
魔王の失った両腕の回復が始まった。
切断された箇所が盛り上がり、蔓が伸びて絡まるように、新たな腕が形成されていく。
「そうはさせないわ!」
「ええ! すぐに回復なんてさせません!」
余力はまだ十分にある。
回復のために立ち尽くすだけの魔王に、ルティアは剣を突き立てた。両刃の剣だ。「突いて、ひく」の攻撃に適している。
さらにレーヌが、今度は天上に向かって弓を引いた。右の掌中に凝集した光の矢を、四度、蒼穹に向けて放つ。
「魔王。――女神の光で散るのです!」
天上に光が溢れる。
そしてレーヌが腕を振りかざした時、無数の光の矢が一斉に降り注いだ。
矢の一部は魔王の頭部を、それから別の矢は魔王の胴を……レーヌの意志のままに貫いていく。
光が消え去ったとき、魔王はもはや原型をとどめていなかった。
黒々とした肉塊のような破片が、光の残滓とともに飛び散っている。
レーヌは静かに息をついた。
(――まるで戦女神……)
守護の女神の化身のようだと、ルティアは思う。
それくらいレーヌは強かった。
そして言葉通り、二人の女戦士は日暮れにアビゲイルがやってくるまで、他の仲間の力も借りず戦い続けた。
「――オレの出番だぜ!」
夜の帳の気配が漂う時分、アビゲイルが戦場に立つ。
戦いが長引けば肉体だけでなく、精神的な消耗も激しくなる。
だがこうやって仲間達がいることで、長く続く戦いで擦り減るものはあっても、折れずに済んでいる。
(本当に、頼もしい戦士だわ)
アビゲイルは昨夜同様、雷神の加護を活かした攻撃をする。
厚い雲が星空を隠し、月光よりも強烈な閃光をよぶ。
雷神の雄叫びのような轟音が、夜の冷たい空気を揺らし続けていた。
しかし、まだ夜明けには遠い時分、アビゲイルの異変に気付く。
分厚い雲の切れ間から月明かりが射し込んだ。
それはアビゲイルの魔法が停止したことを示している。
ルティア達は固唾をのんで見守っていたが、ふたたび闇夜に紫電が走ったことで安堵する。
彼の身に何があっのたか……その理由は、夜明けを迎えたときに明らかになった。
――アビゲイルの片腕が失われていた。
そばにいたレーヌによって血止めはされていたが、左肩から伸びる腕が無くなっていた。
魔王にやられたのは間違いないだろう。
そこでルティアは戦慄を覚える。
魔王の形貌だ。変化している。
「あれは……翼?」
ルティアが愕然と呟く。
「っ……空も飛べるようになったのかよ……」
そう言ってキーノスは歯噛みをする。
「アビゲイルの攻撃を避けるために、変化したのか……」
険しい表情で魔王を見据えるフレッド。
横たわるアビゲイルは力を使い果たし、荒い呼吸を繰り返している。
――困難な戦いを強いられたのだろう。
翼を持った魔王は、アビゲイルの雷撃を躱し、さらに攻撃に及んだのだ。
一人きりで戦わせたことをルティアは悔やんだ。
「皆さん――、いったん戦いは中止です!」
突然、リュードが声をあげた。
何故? と仲間の視線を受けたリュードは、朝靄に紛れて上がる狼煙を指差した。
そこは帝国軍がいる場所だ。
「帝国軍の攻撃が始まるようです。巻き込まれないために引きましょう」
――今さらか!
魔王との戦いは三日目に入った。
今になって、やっと戦う気になったのか……!
怒りが、ルティアの腹を熱くさせた。
読んで頂き有難うございます!
魔王との戦いも佳境に入ってきました。
過去編長くてすみません。
頑張ります。




