表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/58

⑩回想5 祈祷師の力

ブクマくださった方、有難うございました!!

 ルティアは抱えられたリュードの腕のなかで血を吐いた。

 激しい痛みに何度も意識が飛びそうになる。

 次第に(かす)んでいく視界……。


「ルティア! 気をしっかり――!」


 愛しい人の声がする。

 ルティアの名を呼び続け、魂が肉体から離れてしまわないように、必死で繋ぎとめようとしてくれている。

 もうリュードの顔は見えない。ルティアの瞳は光を失っていた。


(生きて……か……)


 魔王の剣が抜かれるときに、内臓も一緒に引っ張られるのが分かった。

 腕や足の刺し傷ならまだしも、内臓に傷を負った者は助からない……それが常識だった。

 出血も酷い。

 この状態を見たら、誰しもが諦念し、なるべく安らかな最期を願うだろう。

 だけどリュードは「守る」と約束してくれた。


 そして奇跡は起きる――


 ルティアの硬直した背骨が、突如じわりと熱を持つ。

 (むせ)て喉の奥に溜まった血を吐き出すと、呼吸の通りが良くなり、脳に酸素が行き渡る。

 背骨を起点に生まれた熱が、まるで芽吹きの瞬間のように膨れ上がったあと、徐々に末端に向かって広がっていく。

 弱々しかった心臓が、力強く、(はく)を打ちはじめた。


(痛みが……引いていく……)


 腹に流れ込んだ熱が、傷ついた箇所を包み、癒していく。

 強張りが解け、霞んでいた意識が明瞭になる。


「もう……心配要りませんね……」


 ルティアの瞳に光が戻ってきた。

 目の前にはリュードがいる。

 額に汗を浮かべ、憔悴と安堵が入り混じった表情でこちらを見ている。

 リュードの(てのひら)はルティアの背骨にあてられていた。

 温かい熱はここから生まれていたのだ。


(これは……リュードさんの……鼓動……)


 ルティアは二つの鼓動を同時に感じていた。

 ひとつは自分のもの。

 もうひとつはリュードのものだ。

 まるで力を分け与えるように、力強くルティアのなかで響きわたっている。

 全身がリュードの生命力で満たされていく。

 ――なんて尊い奇跡……。

 ルティアの瞳から自然と涙が溢れた。

 (てのひら)を離したリュードが、その流れ落ちる涙と、口元にこびりついた血を拭って綺麗にする。


「ありがとう……ございます……」

「完全に回復するまで、動けないと思います」

「……どれくらい掛かりますか?」

「個人差があります……」

「早く、戦いに戻らないと……」

「貴女のかわりに、わたしが戦います」

「――!」


 驚くルティア。

 それは駄目だと起き上がろうとするが、身体が言うことを利かない。


(だって、リュードさんの顔色が悪い……)


 そう……リュードの顔色は明らかに疲労を含んでいる。

 昨日から一睡もしていないのだ。

 それにフレッドとキーノス、ルティアを死の淵から救い出した。

 癒しの御業による消耗が影響しているのだろう。


(そんな状態で、魔王との戦いは危険すぎる……)


 何よりリュードに傷付いて欲しくない。

 不安を示すと、リュードは「大丈夫ですよ」と微笑を浮かべた。


「――わたしには女神の加護がついていますから」


 戦いに赴くリュードを、ルティアは見送ることしかできなかった。



「ルティアさん……、大丈夫ですか?」


 揺すぶられてルティアは覚醒する。

 あれから意識が混濁し、そのまま眠りに落ちてしまったようだ。

 ずいぶん陽が高くなっていることに慌てて身体起こす。

 完全に傷は癒えたようだ。


「みんなはっ――⁉︎」

「なんとか立っている……という状況ですね」


 起き上がるルティアの背を支えながら、レーヌは視線を滑らせる。

 その先には、仲間達がいた。

 レーヌの言った通りだ……。

 怪我をしたのか片足を引きずっているフレッド。

 キーノスの同調はとっくの昔の解けているだろうし、参戦したリュードも肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。


「ルティアさんも、酷い怪我をしたのですね……」


 裂けて、血で変色した衣を見て、痛ましそうに眉を寄せるレーヌ。


「リュードさんがいなかったら、間違いなく死んでたわ……」

癒しの女神(エイオス)最高位の御業…… 命の源泉に触れて、治癒力を最大限に高めることで、どんな傷でも治してしまう……」

「不思議な感覚で……。私は自分のなかにリュードさんの生命力(いのち)を感じた……」

「祈祷師の命を注ぐことで、女神の加護を直接与えることができるのです」


 レーヌは首肯しながら起き上がったルティアに水筒を渡す。なかみは聖水だ。


「ルティアさん、すぐに戦えますか?」

「もちろん、そのつもりです!」


 もうどこにも痛みはないし身体も動く。

 ――やっと戦える!

 いつの間にか愛剣も傍らに置かれている。


「ではルティアさん、わたしと共に戦いましょう――!」

「レーヌさんも⁉︎」

「はい。リュードも、冒険者のおふたりも、そろそろ休息が必要ですから」


 レーヌが左腕を、すっと水平に持ち上げる。真っ直ぐに伸ばした腕の先……ほっそりとした人差し指が魔王に向けられる。

 戦う者の目をしていると、ルティアは思った。


「……わたしは処女三神のなかでも、とりわけ守護の女神【アルーミス】の加護を強く戴いているのです」


 左腕をなぞるように右手を滑らせる仕草。


(まるで……矢を射るかのような)


 ルティアがそう思ったとき、何も無い空間に光が生まれ凝集していく。光は変化しレーヌの右手のなかで一束(いっそく)の「矢」となる。


「そして……アルーミスは守護神であると同時に【戦女神】でもあるのです――!」


 レーヌが光の矢を放った。

 一束の矢は、空中で四つにわかたれ、それぞれが意思を持ったように弧をえがき、魔王の首に命中する。

 閃光が魔王の首を焼き、頭ごと、ごろりと千切れて落ちる。


「す、すごい……!」


 ルティアは瞠目する。


「祈祷師さまって、すごい……」


 まさかレーヌが、戦いを得意とする祈祷師だったとは……。

 リュードも戦いはするが、癒しの業のほうが得意だと言っていた気もする。


「愛する者は、自分の手で守らなくては――」


 そう言って、レーヌは次の攻撃の準備に移っている。

 愛剣を握り、ルティアもふたたび魔王の元へ駆け出した。


お読み頂き有難うございます!


一番の難産回でした…

何度直したか…

もしやスランプかと、ハラハラしています。次回も宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ