⑩回想5 祈祷師の力
ブクマくださった方、有難うございました!!
ルティアは抱えられたリュードの腕のなかで血を吐いた。
激しい痛みに何度も意識が飛びそうになる。
次第に霞んでいく視界……。
「ルティア! 気をしっかり――!」
愛しい人の声がする。
ルティアの名を呼び続け、魂が肉体から離れてしまわないように、必死で繋ぎとめようとしてくれている。
もうリュードの顔は見えない。ルティアの瞳は光を失っていた。
(生きて……か……)
魔王の剣が抜かれるときに、内臓も一緒に引っ張られるのが分かった。
腕や足の刺し傷ならまだしも、内臓に傷を負った者は助からない……それが常識だった。
出血も酷い。
この状態を見たら、誰しもが諦念し、なるべく安らかな最期を願うだろう。
だけどリュードは「守る」と約束してくれた。
そして奇跡は起きる――
ルティアの硬直した背骨が、突如じわりと熱を持つ。
咽て喉の奥に溜まった血を吐き出すと、呼吸の通りが良くなり、脳に酸素が行き渡る。
背骨を起点に生まれた熱が、まるで芽吹きの瞬間のように膨れ上がったあと、徐々に末端に向かって広がっていく。
弱々しかった心臓が、力強く、拍を打ちはじめた。
(痛みが……引いていく……)
腹に流れ込んだ熱が、傷ついた箇所を包み、癒していく。
強張りが解け、霞んでいた意識が明瞭になる。
「もう……心配要りませんね……」
ルティアの瞳に光が戻ってきた。
目の前にはリュードがいる。
額に汗を浮かべ、憔悴と安堵が入り混じった表情でこちらを見ている。
リュードの掌はルティアの背骨にあてられていた。
温かい熱はここから生まれていたのだ。
(これは……リュードさんの……鼓動……)
ルティアは二つの鼓動を同時に感じていた。
ひとつは自分のもの。
もうひとつはリュードのものだ。
まるで力を分け与えるように、力強くルティアのなかで響きわたっている。
全身がリュードの生命力で満たされていく。
――なんて尊い奇跡……。
ルティアの瞳から自然と涙が溢れた。
掌を離したリュードが、その流れ落ちる涙と、口元にこびりついた血を拭って綺麗にする。
「ありがとう……ございます……」
「完全に回復するまで、動けないと思います」
「……どれくらい掛かりますか?」
「個人差があります……」
「早く、戦いに戻らないと……」
「貴女のかわりに、わたしが戦います」
「――!」
驚くルティア。
それは駄目だと起き上がろうとするが、身体が言うことを利かない。
(だって、リュードさんの顔色が悪い……)
そう……リュードの顔色は明らかに疲労を含んでいる。
昨日から一睡もしていないのだ。
それにフレッドとキーノス、ルティアを死の淵から救い出した。
癒しの御業による消耗が影響しているのだろう。
(そんな状態で、魔王との戦いは危険すぎる……)
何よりリュードに傷付いて欲しくない。
不安を示すと、リュードは「大丈夫ですよ」と微笑を浮かべた。
「――わたしには女神の加護がついていますから」
戦いに赴くリュードを、ルティアは見送ることしかできなかった。
「ルティアさん……、大丈夫ですか?」
揺すぶられてルティアは覚醒する。
あれから意識が混濁し、そのまま眠りに落ちてしまったようだ。
ずいぶん陽が高くなっていることに慌てて身体起こす。
完全に傷は癒えたようだ。
「みんなはっ――⁉︎」
「なんとか立っている……という状況ですね」
起き上がるルティアの背を支えながら、レーヌは視線を滑らせる。
その先には、仲間達がいた。
レーヌの言った通りだ……。
怪我をしたのか片足を引きずっているフレッド。
キーノスの同調はとっくの昔の解けているだろうし、参戦したリュードも肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。
「ルティアさんも、酷い怪我をしたのですね……」
裂けて、血で変色した衣を見て、痛ましそうに眉を寄せるレーヌ。
「リュードさんがいなかったら、間違いなく死んでたわ……」
「癒しの女神最高位の御業…… 命の源泉に触れて、治癒力を最大限に高めることで、どんな傷でも治してしまう……」
「不思議な感覚で……。私は自分のなかにリュードさんの生命力を感じた……」
「祈祷師の命を注ぐことで、女神の加護を直接与えることができるのです」
レーヌは首肯しながら起き上がったルティアに水筒を渡す。なかみは聖水だ。
「ルティアさん、すぐに戦えますか?」
「もちろん、そのつもりです!」
もうどこにも痛みはないし身体も動く。
――やっと戦える!
いつの間にか愛剣も傍らに置かれている。
「ではルティアさん、わたしと共に戦いましょう――!」
「レーヌさんも⁉︎」
「はい。リュードも、冒険者のおふたりも、そろそろ休息が必要ですから」
レーヌが左腕を、すっと水平に持ち上げる。真っ直ぐに伸ばした腕の先……ほっそりとした人差し指が魔王に向けられる。
戦う者の目をしていると、ルティアは思った。
「……わたしは処女三神のなかでも、とりわけ守護の女神【アルーミス】の加護を強く戴いているのです」
左腕をなぞるように右手を滑らせる仕草。
(まるで……矢を射るかのような)
ルティアがそう思ったとき、何も無い空間に光が生まれ凝集していく。光は変化しレーヌの右手のなかで一束の「矢」となる。
「そして……アルーミスは守護神であると同時に【戦女神】でもあるのです――!」
レーヌが光の矢を放った。
一束の矢は、空中で四つにわかたれ、それぞれが意思を持ったように弧をえがき、魔王の首に命中する。
閃光が魔王の首を焼き、頭ごと、ごろりと千切れて落ちる。
「す、すごい……!」
ルティアは瞠目する。
「祈祷師さまって、すごい……」
まさかレーヌが、戦いを得意とする祈祷師だったとは……。
リュードも戦いはするが、癒しの業のほうが得意だと言っていた気もする。
「愛する者は、自分の手で守らなくては――」
そう言って、レーヌは次の攻撃の準備に移っている。
愛剣を握り、ルティアもふたたび魔王の元へ駆け出した。
お読み頂き有難うございます!
一番の難産回でした…
何度直したか…
もしやスランプかと、ハラハラしています。次回も宜しくお願い致します!




