⑤回想5 魔王の魔核
外套を脱ぎ捨て、ルティアは血の滲みこんだターバンを頭にきつく巻く。
「みんな、いくぞ――‼︎」
「おうっ‼︎」
「負けないわよっ‼︎」
魔獣の大群はルティア達に的を定めたようだ。
二本足の巨躯を持つ魔獣に、羽根を持つ魔獣、地べたを這う魔獣もいる。膝頭までしかない小さな魔獣でも注意が必要だ。どんな攻撃をしてくるか分からない。
強烈な殺気。魔獣の群れが一斉に襲いかかってくる。
「うおおおおぉぉ――――!」
まず先陣をきるのはフレッド。
叫びと共に手の甲から生みだした焔を、キーノスの風の助けを得ながら巨大化させると、魔獣の群れに向かって力強く放った。
――業火はまるで大きく口を開けた鳥のよう。
次から次へと魔獣をのみこみながら道をつくっていく。
この時、ルティアは既に動き出していた。
フレッドの攻撃でひらかれた道を駆け抜けながら、魔獣を斬り伏せていく。
ザシュッ、ヒュッ……、ザシュッ……
一閃しては、その反動を活かして身体を捻り、背後にいる魔獣を狙って一閃。
斬った瞬間にはもう次の攻撃に移っている。
どうしても力では勝てないルティアが培ってきた戦い方だ。
「フレッドー! もういっちょ行けー!」
「よしっ、キーノス! こいっ!」
キーノスが風を生みだして送る。
それを受けたとったフレッドが、ふたたび「業火の鳥」を放った。
『シルフェ、導きの風を――』
キーノスが風の精霊に請う。
さきほどと違い「業火の鳥」は意志を得たように、魔獣のいる方向へと舵をきり攻撃をしていく。
「だいぶ、目の前がすっきりしたわね」
ルティアが二人のもとへ戻ってきた。
離れすぎてしまえば、いざという時に、お互いに手を差し伸べることができなくなる。これは最初から決めていたことだった。
そして三人の近くにはリュードがいる。
怪我をした時に、すぐに処置ができるようにだ。
「ルティア、怪我は?」
「大丈夫よフレッド、かすり傷ひとつ無いわ!」
「さっすが~……って、おい! 魔獣がまたやってくるぜっ!」
ルティアの頬がひくりと攣る。
(さっき、あんなに倒したのに……!)
ひらけていたはずの視界は、いつの間にか黒い殺気で埋め尽くされている。
「キリが無いわね――」
「うじゃうじゃと……、ったく、どっから出てくるんだよ」
「魔王の魔核から生み出されているはずだ」
「そういえば、そうだったわね」
忘れていたわけではないが、とにかく目の前の敵を倒せばいいと思っていたルティアは、魔王討伐隊の作戦会議の内容も注意深く聞いていなかった。
「魔王の魔核はでっかいんだってな……」
「ああ……そしてその魔核から生まれた最強の魔獣が……「魔王」……」
「え⁉ だんだん意味が分からなくなってきたわ!」
「簡単に言うと、魔核と魔王は別々だけど繋がってるってこと。この地に魔核があるから魔王はずっと此処に留まり続けている……」
「じゃあ、その魔核はどこにあるのかしら?」
「多分……アレだと思う……」
フレッドの視線の先をルティアは追う。
魔獣の群れが邪魔しているが、目を凝らした先で、確かにそれは見えた。
――高くそびえる、切り出した黒水晶のような柱。
今までルティアが見てきた魔核は、せいぜい自分の手のひらの乗るくらいの大きさのものだった。
(こんなに大きな魔核なんて、見たことない……)
それに、ゆらりと魔核が動いたかと思えば、そこからボコりと魔獣が生み落とされていく。
ルティアの背中を冷たい汗が伝い落ちていった。
「――これくらいは……覚悟してたわ。私のやることは変わらない!」
ルティアは力強く剣を構える。
「フレッド、オレも攻撃に加わるぜ。シルフェと同調するから時間をくれっ」
「早すぎないか? 同調すれば消耗が激しいだろ?」
「大丈夫だって! ぶっ倒れたって、その時はウチの祈祷師さまが、どーにかしてくれんだろ!」
キーノスが背後で見守っているリュードをちらりと見る。
するとリュードが、こくりと頷いた。
――何があっても守ります。
そう言ってくれているようだった。
「わかった……だけど、苦しくなったらすぐに退くんだぞ!」
「おう!」
「ルティア! キーノスに魔獣を近づけさせるなっ!」
「まかせて! 私が前に出るから、フレッドは後ろを頼むわ!」
ルティアは飛び出して、地に足をつけた魔獣の群れに突っ込んでいく。
弧を描くように、水平に剣を走らせて魔獣の身体を裂いていく。
フレッドは自身の剣に焔を纏わせた。
そして羽根をもつ魔獣に向かって剣を振るっていく。
『――シルフェ。おいで。一つになろう』
キーノスは深い集中に入る。
渦をまく風が、キーノスの身体に少しずつ絡んでいく。
――同調。
それは精霊使いのなかでも、ごく一部の精霊に信頼され、愛された者にしか与えられない力だ。
エルフの血を継ぐものは、精霊と意志をかわし請い願うことで奇跡のような現象を起こせる。
キーノスも普段はシルフェに言葉をかけることで、望みのままに「風」を操っている。
けれど「同調」はそれとまた違う。
『オレはシルフェだ――、シルフェは、オレだ――』
キーノスが右手をひらりと振ると、風が舞った。
左腕を振り下ろせば、今度は疾風が空気を割っていく。
精霊とひとつになる――
「同調」すれば言葉は要らない。齟齬も生じない。
これこそが完璧な使役。
キーノスの翡翠色の瞳が輝きを増す。肉体という感覚すら今は淡い。
彼自身が精霊という存在に近づいたためだ。
「待たせたな――」
同調を果たしたキーノスは走り出す。
その姿はまるで風が大地を駆け巡るように早い。
魔獣の隙間をキーノスが抜ける。
それだけで、鋭利な風が魔獣の銅や足を裂いていく。
「キーノス……無敵状態になったわねっ」
剣を振るいながら、ルティアは仲間の姿を頼もしく思う。
でも「同調」は、肉体の概念をこえてキーノスが動いているから、いずれ限界はくる。
いつまでも頼っていはいられない。
(早めに片付けてしまいたいわね……)
ルティアも戦いに集中する。
キーノスのおかげで、ずいぶん相手にする魔獣の数が減った。
自分よりも二回り以上も大きな魔獣には、両手で剣を持ち、渾身の力で斬りかかる。
だんだん呼吸が苦しくなってきた……。
手も腕にも痺れが出てきた。
(鍛え方がまだまだ足りなかったかも)
ルティアがそう苦く思った時、曇天の空に紫電が走った。
お読み頂き有難うございます。
この章、長くなりそうですが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
更新頻度、また緩やかになりそうですが、よろしくお願いします。




