⑨幕間 二人の行き先
――秋の終わり。
日ごとに夜の時間が長くなっていく。
夜の冷たい空気に、そろそろ野宿も億劫さを感じる季節……。
ひと月遅れで、ルティアのあとを追って旅に出たフレッドとキーノス。
その二人は現在、途方に暮れていた。
「この村にもルティアは来てないっぽいな」
「うん、そうだね……」
残念……とフレッドは眉尻を下げ、キーノスもがくりと肩を落とす。
途中までは本当に順調な旅だったのだ。
ルティアの足跡を辿り「ラスダ」に着くなり、すぐに情報を得ることができた。
それもルティアに命を救われたという男に出会った。そして守護救命団の者とともに、ルティアは一足先にラスダを出立したと教えてもらった。
――向かう先はガーリア帝国。
フレッドとキーノスは、すぐにラスダを出るとガーリア帝国の国境を目指す。
途中で立ち寄った集落でも、ルティアの噂を聞くことができた。
案外、早く追いつけるかもしれない……。
そう期待していたが、ガーリア帝国に入ったとたん、ルティアの足取りは掴めなくなってしまった。
地図を見ながら、手当たり次第に街や村をまわってみるが、一向に手掛かりになるような話はきけなかった。
「あいつ、今頃どこにいんのかな」
「さあ、守護救命団と一緒にいるってことは、地図にものってないような辺境の集落をまわってる可能性もあるし」
「う〜ん……」
「完全に見失っちゃったな」
村を出て、曲がりくねった狭い山道をとぼとぼ歩く二人。
キーノスの身体の周りを、巡るように風が舞い踊っている。まるで「元気を出せ」と風の精霊が励ましの言葉をかけているようでもあった。
歩きながらキーノスは空を見つめている。
フレッドはそんなキーノスの透き通る翡翠のような瞳のかすかな動きを観察していた。
――キーノスは今、別の世界を視ている……。
それは精霊達の姿。
そして普通の人間には見えない「風」の動き。
幼い頃、風はどのように視えるのか訊くと、キーノスは「色のついた帯のよう」と言った。
だからフレッドは、自分なりにキーノスの視ている世界を想像する。
「……雨が降るみたいだ」
落ちてくる雨粒のように、ぽつりとキーノスが言った。
「こんなに晴れてるのに?」
「ああ……もうすぐ風が雲を連れてやってくるから」
「そうか。じゃあ雨宿りできる場所を探さないとな」
山道を足早に進みながら、雨宿りできそうな場所を二人は探す。
赤や黄色、褐色に色づく山林のなかで、ひときわ大きな胡桃の木。その下には丁度よく腰掛けられそうな石が並んでいた。
ひとまずここで雨が過ぎ去るのを待つことにする。
先ほどまで木々の間から漏れていた陽射しは無くなり、かわりにポツポツと隙間から雫が落ちてきた。
二人は外套の帽子をしっかりと被り、肌が濡れるのを防ぐ。
この時期、雨が降ると気温は一段と低くなる。
「長雨にならないといいな……」
「それは大丈夫そうだぜ」
「じゃあ良かった」
「なあ、フレッド……」
「なに?」
「もし次の村でもルティアの足取りが掴めなかったら……どうする?」
「うーん」
唸りながらフレッドは少し逡巡する。
闇雲に動き回るには、そろそろ限界だとキーノスは言いたいのだろう。
何故なら、もうすぐ冬がやってくる。
旅人には厳しい季節だ……。
フレッドは少し前から考えていたことがあった。
だから、それを口にする。
「帝都に行こうかと……思ってる……」
「オレも、それが良いと思ってた」
「うん。帝都に行けば大きな冒険者組合もあるし、国外からも人が集まってくる場所だからルティアの情報……もしくはリュードの居場所だって掴めるかもしれない」
「フレッドがいいならオレはそれでいい。――けど帝都に行って大丈夫か?」
翡翠色の瞳が、窺うようにフレッドを見ている。
キーノスは心配しているのだ。
帝都に行けば、魔王と戦ったときのことを嫌でも思い出してしまうから。それによってフレッドの心の傷口がまた開いてしまうかもしれないから。
「ごめんね。心配ばかりかけて」
「謝んな」
「うん。俺……もう二度と戦えないと思ってたけど、戦えるようになっただろ? もう言葉が出ないと思ってたのに、こうして話せるようになっただろ? また情けない姿を晒すかもしれないけど、でもきっとまた……立ち上がるから大丈夫!」
「そうか。……わかった!」
フレッドが笑顔を見せると、キーノスも笑顔で答える。
それから二人は同時に立ち上がった。
雨はまだ降っている。
「――シルフェ」
キーノスの求めに応じるように、鋭い風が、枯葉を巻き上げながら踊っていく。
フレッドは剣を引き抜くと、火神の焔を剣身に纏わせる。
二人の目の前に現れた黒い影。
――魔獣だ。
交わす言葉は必要ない。
フレッドとキーノスは呼吸を合わせ、魔獣に攻撃を開始した。
読んで頂き有難うございます!
これで第三章終了です。
次からは第四章です。魔王との戦いを書きます。
宜しくお願いします!




