③回想4 神殿(上)
回想はいります。
ブクマくださった方、有難うございます!
今からちょうど一年前。
魔王討伐隊に加わるため、ルティアは仲間達とともにガーリア帝国を目指した。
途中、貴族のセフィーヌと、ウェイの二人を護衛するという仕事を全うし、予定通りガーリア帝国の帝都にたどり着く。
「やっぱ冒険者多いな〜」
キーノスの言葉に、ルティアもちょうど同じ事を考えていたと頷く。
「きっと各地から集まってきてるんだわ。魔王討伐隊に志願するために……」
人通りが多い街路。
行き交う者のなかには冒険者が多い。武器を備えていたり、旅装束として欠かせない外套を身につけていたりするため一目で分かるのだ。
そしてルティア達も同じ目的を持っている。いわば同志だ。
――この帝都から東に進んだ先に「魔王」がいる。
「魔王」と最初に聞いた時、魔獣と何が違うのかと疑問を抱いた。魔核を持っているなら、どちらも同じ生態なはずだからだ。
(あくまで噂しか知らないけど、魔王の持つ魔核は巨大だとか……)
だとしたら、どのように戦うべきか。
大群でただ攻撃して、果たして敵う相手なのか……。
――いずれにせよ備えなければいけない。
勝つために。大切な人の未来を守るために……。
今出来ることは、少しでも「魔王」について情報を集めて戦法を練ることだ。
先導をいくフレッドがこちらを振り向いた。
「着いたばかりで骨休めしたいとこだけど、まずは冒険者組合に行って討伐隊の登録を済ませてこようか。……そのあとに宿探し……ええと組合の場所は……」
「組合ならこちらですよ。着いてきてください」
後方から返事をしたのはリュードだった。
ずっと一番後ろを付いて歩いていたリュードが、涼しい顔で仲間を追い抜き、先頭に立って歩いていく。
ルティア達は目を瞠る。
「もしかして、リュードさんは帝都にきたことがあるんですか?」
「言ってませんでしたか? わたしはずっと帝都で暮らしていたのです」
「ええっ! じゃあ……リュードさんがずっといた神殿って……」
「……あの神殿ですよ」
リュードが仰ぎ見た先には巨大な尖塔。途中で目にした王城にも負けないくらい立派な建造物。こんなに大きな神殿ははじめて見る。
(あそこにリュードさんは居たのね……)
共に旅を始めてまだ間もない頃、リュードが自分のことを少しだけ語ってくれたのを思い出す。
『わたしは捨て子だったんです』
『神殿の前に捨てられていたので、そのまま……わたしは神殿で過ごしてきたのです』
『神殿といっても、とても粗末な塔のなかで生活していました――』
それが、このガーリア帝国だったなんて……。
「ずいぶん立派な神殿だね」
「ということは、リュードのような祈祷師がたくさん居るんだろうな……」
感心しているフレッドとキーノスに、リュードは微笑をもらす。
それがどこか寂しげに、ルティアの目には映った。
「そうですね。多くの祈祷師を輩出している神殿です。有能な祈祷師は王族に召抱えられることもあります……。あとは、わたしのように冒険者に金品と交換で売りに出されたり、貸し出しされたりする場合が……あれ、皆さんどうしました?」
淡々と神殿について説明していたリュードは首を傾げる。
フレッドとキーノスが苦い薬湯をのみくだした後のように、眉を顰めて、なんともいえない表情をしていたからだ。
「なんつーか……さあ……」
「うん、キーノス、俺も言いたいことはきっと同じだ……」
「?」
ますます首を傾げるリュードと、うんうんと頷き合うフレッドとキーノスの様子に、ルティアは思わず笑ってしまう。
(私の仲間は、みんな優しいわ――)
きっとフレッドもキーノスも、リュードが微かに垣間見せた仄暗い表情を汲み取ったに違いない。
当たり前のように祈祷師は神殿を介して売買されているが、そもそも祈祷師だって一人の人間なのだ。
だから自由がなく商売道具として生きてきたリュードの気持ちを、フレッドもキーノスも慮っているのだろう。
ルティアは嬉しかった。
そんな心根の優しい仲間と共に戦えることがとても誇らしかった。
この仲間達と一緒なら、「魔王」にだって怯まず立ち向かっていけると思った。
「……リュードさん、貴方はもう「自由」な冒険者で、私達と貴方は同じ目的を持つ「仲間」なんですよ――」
「はい……、そうですが……?」
生真面目に頷くリュードは、よく分かっていないようで、また首を傾げた。
さすが帝都にある冒険者組合だ。
規模が大きい。
ルティアの住まいがある「東区」の冒険者組合は、一般庶民の家屋二つ分くらいの大きさで、冒険者登録、仕事の依頼と斡旋、報酬受け取りと、各種相談窓口が設けられていた。
しかし、ここ……帝都の冒険者組合は全ての面において、それを上回っていた。
まずは広大な敷地。
(王族の別荘と言われても、信じてしまいそうだわ)
建物自体の様式も荘厳で立派だし、何よりルティアが驚いたのは、敷地内に鍛錬場や、旅の冒険者が寝泊まりできる宿舎も完備されていることだ。
さらには一般人も利用できる武器屋や薬屋、大衆食堂まであり、冒険者であれば少し割安になるという特典付き。
(暇なら、ここで一日中過ごすのもいいかも……)
建物の中の壁には、冒険者向けの仕事依頼の広告が幾つも貼られているし、新人冒険者のための相談窓口も一つだけでな無いようだ。
ひときわ長い列をなしているのは「魔王討伐隊・窓口」だった。
「混んでるな……。俺が代表で登録してくるから、みんなはそこら辺で待っててくれるか」
フレッドはそう言って長い列の最後尾に並ぶ。
しかしすぐにその背中も、後からやってきた冒険者達で見えなくなってしまった。
一体どれくらいの冒険者が、魔王討伐のためにこの帝都に集まってきているのだろうか。
もしかしたら数百……は居るかもしれない……。
「さて、オレ達は邪魔にならないとこで待ってようぜ」
「そうね……」
「壁際のほうに移動しましょうか……ルティア」
「……?」
急にリュードに名前を呼ばれて、ルティアは問いかけるように澄んだ銀色の瞳を見上げる。
「何故か周りの冒険者達が、貴女に注目しているような気がするのですが……?」
「ああ、それは女の冒険者が珍しいからだよなぁ〜」
「そうね……でも、女だからって甘く見たら痛い目にあうんだからっ」
壁際にたどり着いたルティアは、自分に向けられる数々の視線を一瞥しながら、にやりと口角を上げる。
「まあな〜。剣だけなら、ルティアはフレッドより強いしな〜」
「そうなのですか?」
「ええ、魔法は使えないから総合的にはフレッドのほうが強いでしょうけど、そこら辺の剣士には負ける気はしないわね……」
もし百戦錬磨の剣士がいるなら、逆に手合わせしたいくらいだ。
自分より強い者と戦うことで、さらに技術を磨くことができる。
ルティアの剣技の基本は、すべて父から教わったものだ。
目を閉じればすぐに、風すらも切り裂くような鋭い父の剣先を思い出せる。父を超える剣士に、ルティアはまだ出会ったことは無かった。
リュードが周りを窺うように、視線を巡らす。
「やはり……じろじろ見られるのは良い気分ではありませんね」
「え、ちょ……リュードさんっ⁉︎」
ぽそりと呟いたリュードが、ルティアの首に後ろに腕を伸ばし外套についている頭巾を掴む。そのまま持ち上げて、ルティアの顔が見えないように、すっぽりと目の下まで覆うように被せた。
「ま、真っ暗で、何も見えないわっ!」
「少しの間、我慢してください」
「……あ、誰かこっち来たぞ?」
「誰⁉︎ もしかして剣士?」
「ええ。まるで大木の様な……剣士ですね」
「大木?」
フードの中で首を捻ったルティアだったが、直後、頭の上から野太い声が降ってくる。
「ククク。大木とはよく言ってくれる。気に入ったぜ坊主!」
「坊主……? まさかそれは……わたしの事ですか?」
「オレからしたら、お前ら三人とも坊主だぜ!」
「ちょっ――坊主は失礼なんじゃないっ⁉︎」
ルティアがフードを払いのけ声の主を睨めつける。
ざわりと周りから声が幾つか聞こえてきた。「見ろよ、轟音のアビゲイルだぜ」と――。
有名な冒険者なのかもしれない。
(確かに、大木だわ……)
リュードの表現は的確だ。
樹齢を重ねたどっしりとした幹のように、長太く鍛え抜かれた胴体。
歳は四十過ぎくらいか。灰色の短髪。歴戦の冒険者といった風格が漂っている。
ただその表情は、人懐っこい笑顔を浮かべていた。
「すまんすまん。女の冒険者が珍しくてつい、な……」
あっけらかんとした物言い。
「女だけどルティアの剣士としての腕前は本物なんだぜ、オッサンよ!」
横からキーノスが好戦的な態度で割り込んでくる。
しかしアビゲイルは「へえ〜」とただ笑って流すだけだ。
「実は、オレの仲間にも女がいるから声を掛けちまったんだ。極度の人見知りでな。ほら冒険者なんて男臭い奴ばっかだろ? 歳も近いし、話し相手にちょうどいいかなー……って思ってな」
「……なんだ。そういう事だったのね。その子はどこにいるの? もしかして剣士? 剣士だったら是非手合わせ願いたいわ!」
「残念だが……そいつは剣士じゃなくて、祈祷師なんだ」
「へ、祈祷師さま?」
「ああ、がっかりさせちまって悪いな」
残念がるルティアのそばで、リュードが「祈祷師」の存在に反応を示す。
「その方は、何という名前の祈祷師ですか?」
「ん? レーヌっていう名前の祈祷師だが」
「レーヌ……レーヌは知り合いです。共に神殿で過ごした仲間です」
「リュードさんの知り合いの……祈祷師さま?」
「はい。良かったらレーヌに会わせてもらえませんか?」
リュードが嬉しそうに顔を綻ばせた。
お読みいただき、有難うございます!
次回も回想続きます。
書いても書いても、上手くなった気がしないという不思議。
頑張ります!




