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ふたりぼっちの恋  作者: さけ茶漬け
日直なんてやるもんじゃない
9/17

自称先輩

 友哉は登校途中に出会った自称先輩の言葉が脳内で反芻した状態で教室の中へ入室した。教室内には何人かクラスメイトがいたが当然友哉は挨拶をせず、自分の席に荷物を机の横にあるフックに掛ける。

 そして、すぐには席には着席せず日誌を職員室に取りに行こうと教室を出る。


「やぁ! おはよう!」

「......!?」

「なにさ、そんなに驚くことないだろ」

「な、なんで」


 教室の前で待ち伏せしていたのではないかと思うくらいのタイミングでの登場に友哉は驚きを隠せずにいた。

 その友哉の反応に心外だと言わんばかりに腰に手を当てて自称先輩はしかめっ面をした。


「あの時は人の目もあったから仕方なし諦めたけど、私は君にひ......むぐっ!?」


 朝と同じことを言おうとした自称先輩の口を咄嗟に押えて、首を左右に激しく振って『一目惚れ』という言葉を阻止した。

 こんなところで大胆にも言われた瞬く間に噂の中心となり、人と関わる機会が増加してしまう。


「むうぅ!!」

「あっ、すみません」

「ぷはぁ! 全く......口を押えるのはいいけどもっと優しくしてしてくれよ」

「......すみません」


 申し訳なさそうに自称先輩の口から手を離すが、友哉は嫌そうに自称先輩を見た。その視線に気が付いた自称先輩は。


「全く君は私に対する嫌悪感を隠すことはできないのかな? 能天気に見えるけど繊細なんだよ」

「はあ......」

「それより、どこかに行くのかい?」

「職員し......(しまった)」


 友哉が気が付いた時には遅かった。警戒していた筈のなのに自称先輩の質問に素直に答えてしまった。

 後悔してももう遅い。途中で止めたが目的を完全に言ったようなものだ。自称先輩は嬉しそうにニコッと笑って友哉が予想し恐れていた一言を放つ。


「どうせ私は暇だ、君に付いていくよ」

「いえ、結構です。失礼します」


 恐れていた一言を真っ向から一刀両断し、頭を下げて1人職員室に向かって歩き出した。

 しかし、予想通りと言うべきか自称先輩は後ろから付いてきた。


「............」

「分かっていたとは思うけど、私は『付いて』行くだけだからね」

(あれだけ、冷たくしたのに......なんで)


 これまでの会話、友哉は1度も楽しそうに会話をしなかった。むしろ、関わるな、話すことなんてない、そんな態度で自称先輩とやり取りをしていた。

 だが、自称先輩はそれを全く気にすること、いや、気にはしているがそんな事は関係ないと言わんばかりの積極性だった。


(こんな俺に一目惚れ......?)


 自虐ではなく、心の底からそう思った。自分のことは自分自身よく分かっている。

 誰かと関わることを嫌い、人に冷たく接する。そんなクソみたいな奴に一目惚れなんてどうかしている。チラッと後ろ振り向く。やはり、自称先輩は真後ろを付いてきていた。


「後輩くん、名前を教えてくれよ! 私は君の名前を知らないんだよ!」

(マジか......名前も知らない奴に一目惚れしたのか、この人......)


 アホというか天然というか良く分からない人だと友哉は思いながらも名前だけならと小さい声で名前を教える。


「武中友哉......です」

「ゆーや君か! 私は2年の宮元貴理華! よろしくな!」

「......はい」


 自称先輩、もとい宮元貴理華は満面の笑みで友哉は嫌々、少し遅めの自己紹介を交わす。

 名前を教えてもらえた貴理華は嬉しさのあまりくるりと1回転する。見る人が思わず笑ってしまうくらいにニコニコしていた。


「じゃあ、ゆーや君。私は教室に戻るね! バイバイ!」

「......」


 通りかかった階段の前で元気に手を振って貴理華は階段を上って行った。その時にスカートが少し捲れ、下着が見えてしまったことは頬を赤くして忘れた友哉だった。




 ――――――――その数分後


「武中、今日は早いな。何かいいことでもあったか?」

「いえ、別に......(その逆だ)」

「......そうか、まぁいい。これが日誌だ、波端と協力してやれよ」

「はい」


 友哉は日誌を担任から受け取り、職員室を出ると今週のパートナーとばったりと合う。反射的に「悪い」と声が出る。そのパートナー、詩織も首を横に振り『自分も悪かった』と表現する。


「あ、ありがとう......」

「......あぁ」

「「......」」


 会話が途切れてしまう。友哉にとっては良いことだが詩織にとっては良くない状態だ。ここで話せなければ昨日頑張って踏み出した一歩が無駄になってしまう。

 グッと心で気合いを入れて一言を放つ。


「教室に戻ろう!」

「......?そのつもりだが?」

「だ、だよね......あははー」


 どうして当たり前のことを聞いてるんだと言わんばかりの友哉の返事が精神的にダメージを与えた。

 詩織は方向転換をして顔を赤くして歩き出す。その後ろ友哉がだいぶ遅れて追ってきた。その姿を見た詩織は1つの確信を得た。


(やっぱり、武中君は私のこと嫌いなんだ......)


 自分から明らかに距離を置いている。それは端から見てもすぐに分かることだ。

 昨日のことも考えると『嫌い』という答えしか出てこない。そうでなければ、一緒に帰るのを断ったりはしない。


(でも、私は武中君と友達になるって決めたんだ! 諦めないよ!)


 友哉の前でそう決意する詩織の後ろ姿を友哉は朝の自称先輩、貴理華と重ねていた。


(あの先輩とこいつって何処か似てる......性格は明らかに違うのに何処が似てるんだ? わからん)


 妙に詩織と貴理華が似ているように感じるがそれが何かなのか友哉に解らなかった。


(どっちにしても面倒なことには変わりはねぇけどな)



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