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ふたりぼっちの恋  作者: さけ茶漬け
日直なんてやるもんじゃない
3/17

ぼっちが嫌いな授業

 遅刻をしてしまった詩織は担任がいる職員室に訪れていた。慌ただしく次の授業の準備をする先生にのんびりとコーヒーを飲む先生の姿も見えた。


「波湊・・・・・・・・黙っていたら何も分からないぞ」

「・・・・・・・・」


 その中でも目立っていたのやはり担任の武宮先生の横でずっと無言で立ち俯いている詩織だった。職員室に訪れてから既に5分が経過していたが詩織は遅刻した理由を話そうとはせず、武宮先生は頭を悩ませていた。

 武宮先生は入学から1ヶ月、詩織のことを見て来て誰かとコミュニケーションを取ることが出来ていないことを知っている。

 決して嫌われてる訳でもいじめらてる訳でもない。ただ純粋に人と接することが極端に苦手なのだ。

 武宮先生はハァと短くため息を吐く。


「厳しいことを言うようだけど、そんなんじゃあ社会に出てからやってけないよ。あんたのことだからそれなりの理由があるんだろうけど、言わない言えないじゃぁ困るよ」

「・・・・・・・・はぃ」

「今日はもういいから次から気を付けなよ」

「はぃ、失礼しました」


 詩織は近くにいた武宮先生にしか聞こえないような小さな声でそう言って頭を下げ職員室を後にした。


「ハァ・・・・・・・・」


 職員室を出た詩織は武宮先生と同じようなため息を吐き出し、教室の方へと歩き出す。その姿と表情は高校生活に期待や希望に心を踊ろらせてる女子高校生ではなかった。

 どちらかと言えば不安と不満でいっぱいの状態だった。

 先生に説明しようと思えばできた。しかし、説明しようとする言葉が文章が頭の中にあるのにそれが声にして発することができない。


「先生の言う通りこのままじゃあダメだよね・・・・・・・・」


 今日は荷物を持ったおばあさんが大変そうだったのでそれを手助けしようとしたが「このままでは遅刻する」や「でも、おばあちゃん困ってるし」等々、似たような考えが繰り返し繰り返し巡って結局サラリーマンの男性がそのおばあさんを手助けをして問題は解決した。

 しかし、詩織自身はおばあさんを助けることはできず、学校には遅刻すると何一つして良いことはなかった。

 結局、遅刻した理由を説明できず、先生には困ったように怒られた。


「・・・・・・・・あれ?」


 詩織が教室に入ると残っていたのは女子生徒数人それも体操着だった。1限目が体育だということを察して思い出した。

 このままでは授業に遅れてしまう、と慌てて体操着に着替え始める。

 スカートを脱ぎ短パンと穿いて、上のYシャツのボタンを外してさっと脱いで机の上に置いてあるシャツに手を伸ばした瞬間だった。


「忘れ物した」


 教室の前、黒板側の入り口から一人の男子生徒が入ってきた。

 詩織は固まり、そして男子生徒と視線があった。その男子生徒は今週一緒に日直することになった武中 友哉だった。

 友哉は不意にも硬直してしまった。桃色の下着に男とは圧倒的に違う白い肌、アイドルや女優のような抜群のスタイル。


「・・・・・・・悪い!!!」


 冷静に詩織のこと評価していた望んだぼっち友哉は顔を真っ赤にして謝罪をして廊下に出た。バックンバックンと激しく心臓が波打つ。

 不可抗力、という言葉が浮かぶ。教室のドアが開いていれば誰もいないと思って不思議ではない。落ち度は相手にある。

 と思考するもがっつり下着姿を見てしまった。後で罵られたり、変態扱いされてもおかしくはない状況だ。

 元々ぼっちである友哉にはある意味好都合な状況ではあるが、流石に三年間変態扱いされるのは精神的に辛い。


「・・・・・・あっ」

「えっと・・・・・・」


 互いに短く言葉を吐き、その後が言葉にならない。詩織がバッと頭を下げて走って体育館に向かっていった。

 その後ろ姿を見送ってから念のために教室を恐る恐る覗いてから体育館シューズを持って彼女の後を追うように走っていった。



 友哉、詩織も授業には間に合った。二人して遅刻したらクラスメイトにあらぬ誤解を生ませてしまう可能性があり、それを二人は望んではいない。




挨拶を終え、準備運動を全員でしてから今日の授業内容とチームが発表された。

今日は体育館の2つのコートで男子と女子に別れてバスケットをするようだ。


「あまりのチームは点数をやってくれ! 審判は女子の方は先生がやるから男子はバスケの経験者がやるように! では、準備ができしだいゲームを始めろ!」


先生のかけ声ともに生徒たちが動き始める。準備するものはビブス、タイマー、得点板だけで多くはない。

そのため、クラスの半分の人数で準備ができた。


( ・・・・・・体育は本当に嫌な授業だな。高確率で誰かと関わる必要があるからな)


  憂鬱と言わんばかりに人目を気にせずため息を付く。友哉にとって体育は地獄のような時間だ。

どれだけ人と関わらずに授業を受けるか毎回考えている。


「誰か得点やってくれ!」


 友哉が思考しているとクラスのバスケ部の男子が大きな声で呼び掛けた。バスケ部の彼は審判をする必要があり、得点を残りの誰かがやることになる。

 友哉は残りのチームメンバーを遠くから見るとお互いに仕事を擦り付けるように無言で顔を見合わせている。

 そして、チラチラとチームメンバーは友哉の方を見てきた。


(お前が行けって言いたいんだろ? やなこった・・・・・・誰がそんな面倒な・・・・・・ん? 待てよ)


 友哉は一度考えを改める。


(得点って一人でやるんだよな、確か・・・・・それならやった方がいいよな?)


 得点の仕事の内容を思い出し、友哉はチームメンバーの了承も獲ず、得点板に駆け足で向かった。

 チラッとチームメンバーを見るとあいつが行ってくれたぞ、みたいな表情で友哉を見ていた。


(お前らが行くのを渋っててくれてありがたかった)


 嫌味を込めた感謝を心からした友哉は得点板の横に立った。そして、ゲームが開始された。




『ありがとうございました!』


 元気の良い挨拶と共に地獄の体育の時間が終わった友哉は前の集団からは離れて更衣室に向かう。誰一人として友哉に駆け寄る姿はない。本人がそれを望んでいるとはいえ、端から見ればとても憐れだ。


普通(・・)の人から見れば俺は異常なんだろうな)


 友哉は心の中で自分を貶す。自分が周囲とは明らかに違う考えで行動取っている自覚がしっかりある。

 とはいえ、自分の考えを改めるつもりは毛頭ない。これはくだらない意地(プライド)だ。


(そう・・・・・・これはただの意地。けど、あんなこと(・・・・・)になるくらいならこの意地を貫き通す)


 そう自分に言い聞かせ更衣室の扉を開ける。およその生徒が着替えを終えて教室に帰る途中であった。友哉にとってはその方が好都合ではある。

 他人の楽しい会話は友哉にはただの雑音だ。聞こえてくる会話を片っ端から心の中で全部否定、批判をするからだ。


(・・・・・・会話って何が楽しいんだか)


 聞こえてくる会話が今回は少なかった為か、友哉へのストレスもあまりなかった。

 着替えを終えた友哉は最後の一人だったため、更衣室の鍵を閉めて職員室に返してから教室に向かう。


「ぁ、ぁの!」


 4階まで上りきった時だった。友哉は誰かに呼び止められ、声のする方を振り向くとそこにはクラスの女子が立っていた。


「波端、さん?」


 そこには今週一緒に日直をやることなり、授業前に着替えを覗いてしまった波湊 詩織だった。

 いつもの友哉ならここは冷たく問い手短に済ませることなのだが、彼女に友哉がやってしまったことは簡単には許してもらえるものではない。

少なくとも友哉はそう思っている。


(そりゃ、そうだよな。自分の下着姿を見られたんだもんな・・・・・・ここは怒られ、罵られても仕方ないよな)


 詩織を前に友哉は自分がやってしまったことを重く受け止め、覚悟を決め、言葉を待つ。


「ぇっと、その・・・・・・ぁのですね。・・・・・・すみません、でした。私が、ち、遅刻した、せいで・・・・・・ぇっと、見たくない、ものを、見せて、しまって・・・・・・」

「はぁ?」


 予想外の言葉に友哉は不覚にもドスの効いた声が出てしまった。当然、目の前にいる彼女に聞こえ一瞬で涙目になり、ひぃ、と悲鳴を上げ、頭を勢いよく下げて、


「ご、ごごご、ご、ごめんなさい!」

「あっ・・・・・・しまった」


 不意にも出てしまった言葉とはいえ、今のは流石に自分でも酷いことをしたと感じた。

そう感じるのはかなり久しぶりのことで若干複雑な感情を抱いていた。


(人と関わることを拒んでいる俺が、自分の行いを反省して自分から人に関わることになるなんてな・・・・・・全くなんて皮肉なもんだ)


 友哉は大きなため息を吐き出し、放課後詩織に謝ることを決めたのであった。



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