ゲーム脳
「止まれ!撃つぞ!」
背中から、怒声が追ってくる。振り返ることもなく、タクヤは勢い良くガードレールを乗り越えていった。
「なっ…!?」
「馬鹿野郎…!」
ガードレールの向こう側は、時速100㎞を超える車が行き交う有料自走車道だ。途切れることなく続く金属の群れの流れの中を、タクヤは脇目もふらず駆け抜けていく。
彼を追っていた警官達がざわついた。あの若い窃盗犯は、自分をドラマの主人公か何かとでも思っているのだろうか。若い世代はゲームと現実の区別がついていないと聞くが、こんな無茶苦茶なことをしでかすなんて…。
辺りには、突然目の前に現れた歩行者に驚いた、急ブレーキとタイヤの軋む音が鳴り響いた。だが、道路を渡りきるまで6車線はある。およそ彼がまともな神経をしているとは思えなかった。
「あの馬鹿…何考えてんだ!?」
「正気かよ…」
ガードレールのこちら側で、制服姿の追手達が途方に暮れた。すると…一人が息を飲んだ瞬間、恐れていた事態は呆気なく訪れた。
「あ…!」
止まりきれなかった5車線目の10tトラックが、タクヤを巻き込んで駒のように回転した。まるでドラマか映画を見ているかのような目の前の大惨事に、誰もが言葉を失った。彼の生存など、最早確かめるまでもない。一瞬でゲームオーバーだ。
「何てこった…!」
「すみません…」
愕然とする警察官の背後から、申し訳なさそうにタクヤがやってきた。ぞろぞろと皆でスタート地点に戻りながら、彼らの愚痴がタクヤを恨めしそうに取り囲んだ。
「お前なあ…真面目に走って進むやつがあるか、現実じゃないんだから!」
「ちゃんとBジャンプして避けないと、ゲームにならないだろうが!」