第6話 武器を手にした日
これが魔道具。
形状は、前の世界の銃に似ている。いやきっと魔導銃か何かだろう。
「ちょっと使ってみてもいいですか」
「おう、いいぞ。そこの案山子に撃ってみな」
実際に握ってみるとかなり重い。木製の本体に、少し装飾が付いている程度のシンプルな物だがきっと中に何か詰まっているのだろう。
「じゃあ、撃ちますよ」
唾を飲み込み、引き金を引く。すると、銃口からは水が飛び出した。明らかに竹筒の水鉄砲より弱く。そして店内に笑い声が響く。失礼だ。しかも二回目である。流石に少し怒ってもいいのではないだろうか。
「兄ちゃん、貴族なんかか? 一回ギルドで適正テストしてもらってからまた来な」
「適正テスト?」
「おうよ、普通はめったに進めねえんだけどよ。兄ちゃんはここでいろいろ試すより早く済むと思うぜ」
「そうですか……」
「ま、まあアオバは他に凄い適性があるかもだし」
「そうか、うん。そういうことにしておくよ」
「じゃあ、兄ちゃん。またテスト終わったら戻ってきな」
まあギルドに行くのはいいとして、また戻らなくちゃいけないのか。二度手間だ。エレナまで付き合わせるのも悪いしどうせ結果見て笑うから置いていくか。
「エレナ、先に宿に戻っててくれるか」
「いいけど、一人で大丈夫? アオバ坊ちゃん。貴族様には難しいのでは」
「お前、見てろよ俺が本気出したら使えない武器なんかないからな」
「あ、でも魔道具似合ってたよ」
「水鉄砲だっただろ、あれのどこが魔道具だ。じゃあ俺は行ってくるから待っててくれよ」
「はいはい。早く帰ってきなさいよ」
「おう、できるだけ早く済ませるよ」
今来た道を戻って同じ場所に向かうという、間抜けた感じがどうも気に食わないが致し方ない。それよりも、どんな武器なら似合うだろうか。それよりも筋力が無いから重いのは無理だし、遠距離はもういるしどうにかならないだろうか。
この世界も思っていたより治安が良い。もっと街中でケンカが起きたり、モンスターの大群が街を襲いに来たりというのを想像していたからか結構安全に暮らせそうだ。
「よし、ギルド到着」
また視線に耐えなくてはいけないが、視線に耐えるのは慣れている。常に冷たい目で見らてきた俺だ。今度こそ、このチャンスを無駄にしてはいけない。よし、覚悟は決まったぞ。
扉は手をかけると簡単に開いた。同時に、冒険者達の視線が刺さる。だがこんなことに怯んでいる俺ではない。まっすぐにカウンターに向かい受付の人に話しかける。
「すいません、適正テストというのを受けたいんですけど」
「適正テストですか、わかりました。ギルドカードをお渡しください」
「は、はいどうぞ」
「それでは、血が必要ですのでこれを指に」
「え、そうなんですか」
「あ、終わったら治癒魔法をおかけしますから大丈夫ですよ」
「わかりました」
小さな刃物を手に取り反対の人差し指に向ける。
昔、彫刻刀で手を切った嫌な思い出があるが、自分で刃物を向けるとその時の痛みが蘇る。昔から不器用な俺だ。
怯んでいる間に一人の冒険者がギルドに入ってくるとカウンターに向かってきた。黒髪の男だ。顔がそこそこ整っていて、いかにも勇者という感じの装備を身に着けている。
「メグちん、クエストなんかいいのある?」
「もう、その呼び方は仕事中はダメって言ってるでしょ」
「今日も仕事終わったら待ってるからな」
「うん。あ、クエストはいつものやつが出てるから」
「お、じゃあ受けといて。それじゃあまた」
そうして一分程で出て行こうとしていた。ここまでは俺もいいと思う。だがこの男振り向いた瞬間に俺にぶつかったのだった。衝撃で指に思いっきり刺さる刃物。走る激痛。
「うおっ」
「あ、ごめん。血出ちゃった?」
「出ました……」
「ごめん。じゃあお詫びに治癒魔法かけてあげるよ」
「あ、ありがとうございます……」
「メグちん、紙渡してあげて」
「それでは、この紙に押し付けてください」
「こうですか?」
「はい、大丈夫です」
カウンターの上に置かれている魔法陣のようなものが描かれた紙の中心に指をつける。すると、魔法陣が燃えて紙全体に広がった。紙は真っ黒になったがそこで火が消え、破れるわけでも灰になるわけでもなく文字が浮かびあがってきた。
いかにも異世界の技術だ。面白い。
「じゃあ、俺が治癒魔法をかけてやろう」
「……」
「どうした? これで満足いかないならそうだな。何か困ったことがあったら、Bランクの冒険者で闇魔法の使い手、名前は……。まあ言わなくても珍しいからわかるだろう。それじゃあな下級冒険者くん」
「ああ、微妙にムカつく挨拶と魔法をありがとう」
それを聞くと勇者っぽい奴は外へ出て行った。ムカつく奴だ、二度と会いたくない。
「アオバ様、結果ですが」
「はい」
「珍しいものでしたよ、光魔法と刺突剣に適性があります」
「そうですか」
「光魔法は使える方が少ないので人に教わりながら上達していくということが難しいですが、完全に使え
るようになると、特殊治癒から攻撃まで万能だと文献に記されています」
「刺突剣の方は? 」
「はい、細身の剣で名前の通り刺突重視です。多くの方がもう片方の手に短剣を持って戦っています」
「なるほど、わかりました」
「はい、ご利用ありがとうございました。料金は初回なので無料ですが次回以降は有料です」
「ありがとうございました」
魔法はまあ、しばらく使えないだろうが刺突剣の方は帰りに買っていきたいな。とりあえず報告も兼ねて武器屋に行くか。
◇
わざわざ、街はずれまで行って指南してもらえるとは思わなかった。ほかの客は大丈夫なのだろうか。
「兄ちゃん。まず持ち方が違う、いくら刺突といっても押し切ったりはするんだから考えて持て」
「こうか?」
「ぎこちないけどまあ良し、次に体勢だ。まず腕を軽く曲げる」
「こ、こうか?」
「駄目だ、曲げすぎだ。いいか相手の喉、もしくは心臓を突くんだから、そんなに曲げてたら先にやられちまうぞ。貸してみろ、俺が手本を見してやる」
そういって、武器屋の主人は構えを見せてくれた。なるほど、確かに今すぐにでも相手を突き殺すような殺気が感じられる。
「ほら、兄ちゃんもやってみな」
「これでどうだ?」
「少しは様になったけど、しっかし似合わねえな」
「うるさい。よけなお世話だ」
「次は案山子をついてみな。まあ突くのは単純だから兄ちゃんにもできるだろう」
構えからフェンシングのように突きを繰り出す。刃を潰してある練習用とはいえ人に刺さったら最悪の場合怪我では済まないだろう。刃は真っ直ぐに案山子の喉に刺さった。貫通している。
「な、簡単だろ。だがここからが難しいんだよ。反対の手に短剣を持ってみな」
そういってこれまた練習用の刃を潰した短剣を渡された。
「相手の攻撃を受け流すのに使うんだ。俺が攻撃してみるから全力で流せよ」
「ちょ、それは何だよ?」
「これはバスタードソードだ。安心しろ刃は潰してある」
「当たったらどうなるんだよ」
「金属だから当たり所が悪いと危ねえな。ほら、行くぞ」
「うわっ」
適当に振った短剣がバスタードソードに当たり金属音が響いた。相当な力を感じる。しかし、こんなところで両利きを目指していた黒歴史が役に立つとは思わなかった。
次の動きが読めない。
一歩下がろうとしたその時、丁度背後から襲い掛かられた。防げないかもしれない。ならば逃げよう。前に足を踏み出す。そして振り向くとさっきまで自分がいたであろう位置に剣があった。
「兄ちゃん、フェイントかなかなかやるな」
「偶然だけどな」
話が終わった瞬間に、右足で踏み込まれた。右から来るのか、直感が働く。短剣を構えた瞬間衝撃が伝わった。それより、俺なんとなくだけど動けてないか。適正テスト恐るべし。
「兄ちゃん、次で終わりだ」
「お、おう」
「奥技!」
そういって主人が素早く踏み込んでくる。経路はさっきと同じだ。短剣を構える。だが剣に衝撃は走らない。直後背後に気配を感じた。
「実戦だったら、兄ちゃん死んでたな。まあ俺みたいな傭兵上がりを相手にすることなんてないだろうけどな」
「初耳だよ。もしかして前半手加減してたか」
「手加減も何も兄ちゃん。分かりやすいように動いてたぜ」
「どうりで俺でも防げたわけだ」
「いやいや、分かりやすくはしてたがそれでも初めて武器持った奴が防げるもんじゃねえぞ」
「流石、適正テストだな」
「兄ちゃん、次は攻撃に回ってみな」
そういうと、主人は地面に手を当て力をかけた。すると、何体かの土人形が出てきた。すごい不細工だ。それぞれ手には土の武器を持ってる
「ゴーレムだ。土魔法で作ったやつだから本物程強くはないが、うまく立ち回れよ」
「お、おう」
「じゃあ、兄ちゃんが先に攻撃したら向こうも動くからな」
「了解」
右足を前に踏み込み、ゴーレムの喉元を刺す。貫通はしたがまだ壊れていないようだ。剣を抜くとそのゴーレムも動き始めた。短剣を持っているゴーレムだ。リーチは短いが、攻撃範囲には入らないようにしたい。
次の突きを繰り出そうと構えるとゴーレムが短剣を振りかざしてきた。簡単に流せる。さっきの店主は手加減していたとはいえ強かったようだ。受け流して空いた隙に頭を突き刺す。これも綺麗に決まり人間だったら死んでいるであろう攻撃になった。ゴーレムは音を出さずに土に戻っていった。
次のゴーレムが一体動き始める。斧を持ったゴーレムだ。短剣で防ぐのは無理だろう。
いきなりゴーレムが襲い掛かってきた。一歩下がって避ける。もし達人とかならこの短い隙でゴーレムを倒せるだろうが、俺にはまだそこまでの技術はない。次の一手が打たれた。縦にフルスイング。俺が右に避けるとさっきの立ち位置に斧が埋まっていた。
今ならいける。真横から心臓の辺りを突く。あまり綺麗に決まらなかったが、押し切るとゴーレムが崩れていった。
後の二対は同時に動き出す。一体は長剣、もう一体は魔法だ。
土の球が飛んでくる中、長剣の相手をすることは難しいだろう。まずは魔法から倒そう。魔法のゴーレムに距離を詰めるが長剣がそれを許すはずがなかった。目の前に立ち塞がり動きを封じられた。長剣の攻撃を逸らしながらカウンターを狙う。ゲームやアニメで学んだ立ち回りもなかなか役に立つ。
大きな攻撃を逸らして、隙を作った。頭に突きを入れて短剣で首を狙う。しかし、ゴーレムは最後の力を振り絞り俺を投げ飛ばしてから土になった。
突然背中に、痛みが伝わった。
倒れたところを狙って、ゴーレムの作り出した土の塊が飛んできたのが目に映る。左側に回転して避けて体勢を立て直すために立ち上がろうとするが、ゴーレムは土球を大きくして立ち上がったところを狙おうとしているようだ。殺意に満ちている。
一か八か立ち上がることにしよう。ここまで来て負けるのは癪だしな。
「ゴーレム、これで終わりだ」
痛む背中を無視して前に突き進む、ゴーレムが土球を撃つ瞬間が見えた。躱せる。そう確信し、一気に距離を詰める。ここで土だ。右に軽くステップを踏んで後ろに回り喉元に突き刺す。深く強く。今までにないくらいの良い突きだろう。しかも、素人目にも分かるくらいのだ。
ゴーレムが土に戻るのを確認して、剣を収める。
そこで店主の拍手が聞こえた。長年のイメトレとゲームや漫画の知識、そして死ぬ気になれば人間ここまでやれるのだ。
「兄ちゃん、大分掴めたようだな。これで安心して売れるよ」
「あ、ありがとうございました」
「おう、それより兄ちゃん。あの女の子どうしたんだ? ケンカでもしたか」
「やっべ、忘れてた。剣は明日買うから一通り揃えてもらっても……」
「いいから、早く行ってやんな武器は待ってくれるが女は待ってれないからな」
急いで宿に向かう。辺りは少しづつ暗くなってきている。集中しすぎたようだ。今ならメロスの気持ちが少しわかるぞ。兎に角、怒れるだろうが早く帰った方が軽く済むだろう。
長らくお待たせいたしました。